ごめんな…こんな時ばっかり

俺は何時も、お前に助けを求めてしまうんだ…

俺を愛してる弟へ……

「あの…アンタ達、一体?」
「ぁあ?何言ってんだよ?」
俺を押さえつける男が、機嫌悪そうにそう言う。

こういう状況に陥ったのは、これが初めてなのだが…ええっと、とりあえず彼等が自分に対して、明らかに敵意を持っている事は分かった。
でも…一体何故?


「なぁコイツさ…もしかして、アイツの兄貴の方じゃね?」
「兄貴?アイツ兄弟なんていたのかよ?」
「知らないのか?シャドウには双子の兄貴がいるんだってよ、それで、またそのお兄ちゃんが良い子ちゃんらしいぜ」
「へぇ……」

成程…彼等の会話から、なんとなく分かってきた。
つまり、彼等は完全な人違いをした訳だ…まあ、双子で間違えられる事はよくある事なので、もう気にも止めていなかったのだが…この状況でも、気にせずにいられる程、俺の危機感も鈍くはない。


「なぁコイツさ…ヤッたら面白そうじゃねぇ?」

集団の中の一人が、そんな事を言う。
その言葉の意味する所が分からず、俺は呆然と成り行きを見守る。
分かる事は、その一言で彼等の中に流れる空気が、何か変わったという事。
人を痛め付けて楽しもうとしている、それだけは変わりようがないようだが……。

「えっ……でも、コイツ男だぜ?」
「でもさ、男のわりにはキレイな顔してんじゃん!弟と同じ顔なのにコッチは大人しそうだしさ、オレは結構楽しめると思うんだけど」
「いいんじゃねえの?面白そうだし」
そう言った男が、俺の前に進み出て、俺の服に手を掛ける。
ビリッという音を立て、着ていたシャツが引き千切られる。
「ちょっ!!何す…」
「何って?…へぇ、知らないんだ……じゃあ、俺達が優等生なお兄ちゃんにレクチャーしちゃう?実地の保健体育の授業」
そんな下卑た冗談の後、集団の中に笑いが起こる。
ただ、彼等のしようとしている事、それは分かった。
できれば、それも冗談であってほしいと思ったけれど…その願いは叶いそうにない。

「ちょっ!!止めろ!離せ!!」
俺を押さえつけようとする男達の腕から逃れようともがくも、数の多さには敵わず、何度か体を殴られ、暴行を加えられた後に無理にその体を押さえられる。
「暴れんなって、大人しくしてれば気持ちヨくさせてやるし」
「えー、嫌がってんの無理矢理犯す方が楽しくね?」
そう言った男が、俺の首筋から頬にかけてを舐め上げ、その感覚に身震いする。
「っう……っぁ!ひゃぁ!!」
「ハハ、女みたいな声」
胸の飾りを弄る相手を睨みつける。


気持ち悪い。
コイツ等の存在が、行動が、全部、全部気持ち悪い。
そこから逃れようと抵抗するも、俺の力だけではそれが叶わない。

ああ……誰か…。


「離せ!!コラ……止めろ!ヤ、ダ…って」
「威勢いいな!そういうの見てると、もっとイジメてみたくなるよな?」
嫌な笑みを浮かべて、男が自分のズボンのファスナーを下す。
そして、そこから取り出した醜い男根を、止めろと叫んだ俺の口へと無理矢理捩じ込む。
喉の奥まで付きそうな位、奥まで突っ込まれたもの咽るも、頭を押さえられて話す事も叶わない。
「ふぅ…ん、ん……」
自分の内側で質量を増すオスに、とてつもない恐怖を覚える。


嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。
気持ち悪い。


育っていく男の欲望が、咥内一杯に満ちて息が詰まる。
生理的なものと、様々な感情が混ざった涙が頬を伝い流れる。

「うっわ!エロい顔してやがんの」
「オイ、次変われよ」
「分かってるって」
人の笑顔が、こんなにも醜く歪んで見えた事はない。

自分の口に含まされた男根が一層大きく膨れる。 駄目だ、と思った時には、既に咥内へと白く濁った体液が放たれていた。
「ぐっ!!かはっ!っぁ…う……はぁ…はっ!」
放たれた青臭い体液を吐き出す俺を、相変わらずのイヤらしい笑みで見下す男達。
「オイオイ、ちゃんとあげたんだから飲み干せよ」
ガッと俺の口をその手で塞ぐと、無理に上を向かせる。
「んん!!」
その体勢に耐えきれず、口の中に残ったままの、飲みたくもない男の体液を嚥下する。
ゴクリと大きく喉が鳴り、自分の体内へとソレが落ちるのを感じ、俺は酷く吐き気がした。


抵抗しても、逃げられない。
助けを求めようにも、声が上手く上げられない。
「助けて……」 そう小さく呟く声は、寧ろ相手をただ煽るだけで……。


怖い、怖い、怖い…。
助けて、誰か…。


息の荒いままの俺の口の中へ、また別の男の欲望が捩じ込まれる。
その感覚に、再び咽る。

「なぁ、コイツ処女かな?」
「普通そうだろ?」
「分かんねえぜ、あの弟にヤラれまくってるかもよ」
そんな彼等の言葉の中に、今自分が最も助けを求めている相手の話が上がる。


結局、俺が助けを求める相手なんていうのは、この世に一人しかいない。
俺の半身である、弟。

自分の力ではどうしようもできないような、そんな力で抑え込まれた時に、助けを求めてしまうのは、何時もアイツ。
アイツしか居ないんだ、俺には……。


俺の体を這い回る男達指先が、遂に下半身へと伸び、全身の肌が粟立つ。
「んん!!っん!」
嫌だと、拒絶する声すらも上げられない。
もう…もう止めてくれ……。


ああ……せめて。

せめて、今俺の体を弄ぶ相手が、アイツだったなら…。


そう、恐怖に震える思考の隅で考えた時だった。


「何やってんだ?このクズ共」
男達の背後に、別の誰かが現れた。
静かな、それでいて巨大な怒りや何かを含んだ、恐ろしい声。
だけどその声は、俺が今最も求める相手の声で…。

ゴッという鈍い音を上げて、男の一人が壁へと激突する。
囲まれていた一角が空いて、その人物の姿が見えた。

「シャドウ…」
男達の誰がそう言ったのか、俺には分からなかったが、しかし名を呼ばれた弟の方はその男の方を向くと、何も言わずに一発その男の顔へ向けてその拳を叩きこむ。
「汚い手で、兄貴に触んじゃねぇ……」
別の男の腹へ向けて、今度は思いっきり膝蹴りを叩きこむ。
「オイ、やっちまえ!!」
リーダー格と思しき男がそう叫ぶも、直ぐに彼も地面へと叩き落とされた。
「お前等…一度…全員死ね!!」
殺気すらも感じられる弟は、俺を囲んでいた男達を次々に伸していく。
その姿を、ただただ呆然と見つめる。
今までに、コイツがこんなにも怒りを露わにした所なんて見た事がない。
「許さねえ…絶対に、お前等許さねえ…」
そう言いながら何度も何度も、男達に暴行を加え続ける彼。
目の前で倒れた男から、真っ赤な血が流れているのを見て、咄嗟に思った。


駄目だ……このままじゃ本当に…。


「シャドウ!シャドウ!もう止めろ!!」
暴行を続ける弟の腕を取って、そう訴える。
「止めるなよ兄貴、いくら兄貴が優しくてもさ…今回ばかりは、許しちゃおけない」
「もういい!充分だから!!それ以上やったら、ソイツ等本当に死ぬぞ」
いや、死ぬんじゃない。 このままじゃ、シャドウが本当にこの男達を殺してしまいそうで…。

「そんな事構うか!当然の報いだ!!」
「もういいって!!なぁ、止めてくれよシャドウ…」
そんな姿、俺は見たくない。
そう訴えれば、彼の激昂がふと収まった。


「逃げろ!!」
その隙に、男達は傷付いた体を引き摺ってどこかへと逃亡する。
その内の一人をシャドウは捕まえ、ガツンと路地の壁へと押し付ける。
「二度と、俺の兄貴に手出すんじゃねえぞ…二度とな……次やった時は、マジで殺してやる」
怒りの込められた声で相手にそう言うと、「ッヒ」と情けない声を上げて、男は解放されると同時に、一目散に逃げ去った。


「さてと……」
逃げて行く男達の背中を見送った後、そう小さく呟いて彼が俺の方へと向き直る。
どんな顔をして、彼を見ればいいか分からず、恐る恐る見上げる俺に、さっきまでの阿修羅のような表情とは一変して、彼は悲痛な面持ちで俺を見た。

「兄貴…怖かっただろ?」
静かな声でそう言うと、俺の頬へ彼の指先が触れた。
俺の頬を濡らしていた涙の後を拭き取り、口の周りに未だ残っていたままの、奴等の白濁の痕を拭った。
「こんな事されて……可哀想に、兄貴……ゴメンな」
震える指先が、ゆっくりと頬を撫でる。
「ゴメン、兄貴…俺が、兄貴の事見失ったりしなかったら、こんな事にならなかったのに」
ゴメン、と彼は繰り返し俺に謝る。

どうして?お前の責任じゃないのに。
どうしてお前が謝るんだよ?
そんな優しい声で、悲しそうに。

「本当にゴメン」
すっと伸びた腕が、俺の肩に落ちる。
強い力で抱きしめられ、ふと自分の心がようやく落ち着いたのを感じた。


「っぅ…あ……」
折角、拭いてくれたのに再び零れおちて行く涙。
抱きしめてくれるコイツにしがみ付いて、泣く俺の頭を、彼は片方の手で撫でる。
ああ、暖かい。
酷く落ち着く暖かさだ。


「ゴメン兄貴、俺の所為でこんな…」
耳元でそう呟く相手に、俺は首をゆるゆると振る。
「お前が、いなかったら…俺、どうなってたか……」
「俺の所為だよ、全部。でかけようなんて、言わなきゃ良かった」
酷く後悔したように、彼はそう言う。

お前は何も悪くなんてないのに。
何も、謝らなくってもいいのに。
なのに……。
どうしてそんなに、お前は俺を想って傷付いてくれるんだ?


「好きだから」なのかな?
本当に、本気で俺の事を……。


「その服、もう着れないな」
俺を少し離すと、そう言って彼は自分の着ていたパーカーを差し出す。
「でも……」
寒くないのか?と尋ねる俺に、彼は平気だと答える。
「着てよ、その格好じゃ帰れないでしょ?」
これ以上、彼の申し出を断れるような事もできないので、無言で頷いてその服を受け取る。

「ありがとう」
彼へ向けて礼を言う。
何に対する礼なのかは、自分でも色々と複雑でよく分かっていないけど…でも、俺は彼に感謝しないといけない、それだけは確かだった。


「帰ろう、兄貴」
立ち上がって俺へ向けて手を差し出す弟。
自分と同じ手なのに、この時はその手がとても大きく見えた。
おずおずと手を伸ばして彼の手に掴まれば、握り返してくるその手の力が、俺にとって今は何よりも嬉しかった。


to be continude …

あとがき

アナザー×ノーマルフリオ現代パロ。
まずはノマフリにごめんなさい、強姦ものって…ええ、流石に最後までヤラせるつもりはありませんでしたよ、いいタイミングで弟の殴り込みの方向で、と最初から考えてました。
結構苦しかったですね、裏はやっぱり苦手です。
さて、次回はノマフリの傷を癒すアナフリを書きたいです。
2009/11/10

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