ほんの一時でいい、隣で羽を休めてほしい…

ofee break

最近、俺達は連日周囲の探索にでかけていたりする。
コロシアムに行く者もいれば、鍛錬の為に出かけて行く者もいる。
そんな中、野営地に残る者も必要な訳で…それは、日替わりで大体二名が残る事になっているのだが…。

「スコール、お前明日、野営地に留守番なんだよな?」
野営地の片隅で武器の手入れをしていた俺の側に、仲間の盗賊の少年がやって来てそう尋ねる。
「ああ」
確かにその通りだったから、頷く。
「実はさ、オレも野営地に残る予定だったんだけど…どうしても欲しいアイテムがあるから、オレ明日コロシアムの方行ってくる」
「そうか」
「代わりの留守番、フリオニールに頼んだから」
「…………」
沈黙する俺に対し、ジタンは俺の肩を掴んでそっと顔を近づける。

「チャンスだぞスコール、この際だからフリオニールと仲良くなれよ!」
他の仲間に聞こえないように、小さな声で俺にそう言うジタン。
そっと顔を見ると、してやったりといった笑顔を俺に向けている。
「だが…」
急に仲良くなれと言われても困るのだ、大体、お前は一体どうして俺にこんな事を?そんな疑問が浮かび上がる。

「いいかスコール、お前この辺でもう少し行動した方がいいって!」
そっと、小声でそう言うジタン。
「フリオニールの事、好きなんだろ?」


…………何で俺が、アイツのことを好きなんだって知っているんだろうか?
そう考えてると。
「オレはね、自慢じゃないけど恋愛に関しての目利きは半端ないの!だから分かる」
と、妙に自信に満ちた表情で彼はそう言った。

…一体、何が分かるというんだ?

「お前以外にも、フリオニールを好きな奴は居るの…しかも、一人じゃない」
それは…俺だって、薄々感じていた事だ。

アイツは人に好かれ易い、なんていうのか…そういう人柄なんだと思う。
一緒に居ると落ち着くというか、なんだか安心できる。
心を許せる、側に居たいような相手…。
そんな彼の持つ人を安心させる“何か”は、ほぼ万人へ向けて常時開放されているので、それに心惹かれるのが自分だけじゃないだろう事は、最初から分かっている。
勝ち目がない事くらい、俺にだって……。

「馬鹿!そこで諦めるなよ!!好きな人と少しでも側に居たいって思うのは、普通の事だろ!?お前だって、本当はフリオニールの側に居たいって、思ってるんじゃないのか?」
「…………」
「オレが応援してやるからさ、アタックしてみろって!」
そう言ってウインクする盗賊に、俺は肩の力が抜けた気がした。

「…どうして俺なんだ?」
一人じゃない、という事は…応援できる相手は他にも居るって事だ。
それなのに、どうして一番望みが薄そうな俺の事を?

「あのなぁ…他の奴等は、俺が気回さなくっても自分から行動できるそんな奴等ばっかりだろ?ティーダなんか見てみろよ!いつだってフリオニールの隣りしっかりキープしてるじゃん!!」
確かに、あの二人は仲がいいな。
「なのに!お前は何時までも行動に移さない…このまま、本当に何もしないでいるつもりなのか?」
「俺は……アイツの側に居れるならそれでいい」
「それすらも、叶えられているようには見えないけどね…」
そう言われると、返す言葉がない。

組んでいたパーティーが違ったからな…アイツとの関わり合いは仲間の中でも、まぁ…かなり薄い方だろう。
だからって、一体俺にどうしろというんだ?
「だ・か・ら!少しは自分から行動しろって言ってんの!!何でもいいんだよ、今よりも少し仲良くなれるキッカケ作ってこいよ」
「だが……」
「言い訳は無用!!ちょっとは自分から話かけてみろって!」
「何について?」
「何でもいいだろ!最近の敵の事でもいいし、戦闘方法についてでもいいし…平和的なものだと、自分の趣味の話とか、元の世界の話とかさ…探せば色々出てくるだろ?」
いや、趣味とか言われても困るんだが…。
「とにかく!!明日は一日二人っきりなんだ!折角作ってやったチャンス、棒に振るなよ」
最後にバンと俺の背中を思いっきり叩くと、言いたい事は全て言いきったのか、仲間の盗賊は尻尾をひょこひょこ揺らしながら立ち去った。


そんな事で一夜明けて、俺は朝からフリオニールと二人で野営地の留守を守っているわけなんだが…。
正直、ジタンの心遣いも虚しく…どう彼と接するべきか考えあぐねて、重い腰を上げれていない。
当のフリオニールは天幕の間を行ったり来たりして、何か作業をしているようだ。
仲間の家事を全て請け負っているんだ、やっぱり忙しいんだろう。


仕方なく、昨日磨いたばかりの自分の愛用の武器を手入れする。
「スコールの武器って、変わってるよな」
背後からそんな声と共に俺の手元を覗き込む影に、一瞬…心臓が止まるかと思った。

「フリオニール…」
「あっ!悪いな邪魔だったか?」
申し訳なさそうにそう言う相手に、俺は無言で首を横に振る。
話しかけてみろ!!と、昨日俺に散々言った盗賊の顔がフラッシュバックし、意を決して言葉を口にしてみる。
「…興味があるなら、触ってみるか?」
「いいのか!?」
凄く嬉しそうに顔を輝かせて言う尋ね返すアイツに、俺は無言で首を縦に振り、磨くのに使っていた布を傍らに置くと相手にそっと自分の愛刀を差し出す。


「えっと…ここを持つんだっけ?」
「違う、ここに指を置いて、そして……」
そっと相手の手を取り、正しい位置に持ち変えさせる。
その手の持つ、自分とは違う体温に心臓が高鳴る。

「これでいいのか?」
俺の方をそっと伺ってそう尋ねる相手に、そっと頷く。
「ああ…何もない所に向けてくれよ」
興味深々に手にした武器を眺めるフリオニールに、そう注意しその横顔を観察する。
子供みたいに顔を輝かせる様は、普段の彼からすると少し珍しい…幼い表情だ。


可愛いな…と思うのは、年長者に対しては失礼だろうか?


「コレ…結構重いんだな……振るうの、難しいんじゃないか?」
「使い慣れれば、大した事はない」
「へぇ…ここを引いて、あの鋼球を撃つんだっけ?」
トリガーを差してそう尋ねる相手の顔がとても楽しそうで、俺は、ふと問いかける。

「やってみるか?」
「えっ…いいの?」
「構わない」
立ち上がって、相手にも同じように立つ事を促すと、野営地とは反対の何もない場所へ向かって刀身を向けさせる。

「しっかり柄を握っておけ、あと足に力入れて立たないと、撃った時の反動で後ろに引っくり返るぞ」
「わっ、分かった…」
そう返答するものの、少し不安そうな相手の背後に回り、そっと後ろから手を回す。
心臓の高鳴りを抑えて、フリオニールの指を取る。

「ここへ指を掛けて…そう、そしてそれを引く」
「こうか?」
カチという小さな音の後、直ぐに間近で響く銃声。
俺には慣れたものだが、初めてガンブレードを握った仲間には中々大き過ぎたようで…。
「うっわ!…わっ!!」
最初に注意したのに、反動に耐えられなかった体が後ろへ倒れそうになるのを、後ろに居た俺はしっかりと受け止める。


「……大丈夫、か?」
「あっ…ああ、悪いなスコール」
そっと後ろを振り返ってそう言うフリオニールに「構わない」と素っ気なく返答する。
頼むから、早く自分の足で立ってくれないだろうか?…心臓の脈動に限界が来そうだ。


「本当に済まない…でも、凄いなコレ」
そう言ってちゃんと体勢を立て直すと、俺にガンブレードを返す。
「威力が強いのは知ってたけど…その代わり、思った以上に反動が大きいな…よく扱っていられるよ」
「言っただろ?慣れたって。そういう風に訓練を受けてきたんだ」
だから平気なんだ、と言えば「スコールは凄いな」なんて、サラリと俺の事を褒めるから、どんな顔していいのか分からない。
多分、普段とそんなに表情は変わってないんだろうけど。

「…スコール、もしかして照れてる?」
そんな俺の表情の僅かな変化を、この男は正確に読み当ててそう尋ねる。
「!……何で?」
「いや、何でって言われても…人の感情って、本人が思っている以上に顔に出てるものなんだぞ」
それは普通の人間の場合だろう?
俺が無表情は折り紙付きだ、そうそう人に感情が分かってもらえるとは思えないんだが。

「そうでもないぞ、よく見れば誰だって変化に気付ける」
そんな風に言った奴、初めてなんだが……。
だが…そんな僅かな事にも気付いてくれる、そんなコイツの細やかな心がとても嬉しい。


「そうだ何か御礼しないとな…何がいい?」
「別に、そんな大した事はしてない」
「いいから、何かないか?」
そうやって無垢な表情で見つめられると、無碍に断るのも悪い気がしてくる。
じゃあ…どうしたらいいだろう……。

「…なら、コーヒー淹れてくれないか?」
「コーヒー?それでいいのか?」
「ああ」
「分かった、直ぐに用意するよ」
笑顔でそう言うと、彼は野営地の中心へ向かって歩き去った。


「スコールは、コーヒーはブラックなんだよな?」
そう言いながら、彼は真っ黒な液体の入ったカップを俺の目の前に置いた。
よく人の好みなんて覚えていられるなと思ったが、そんな気遣いが出来るところも、きっと彼の人の良さの表れなんだろう。
そんな彼に感謝しつつ、熱い湯気の立つコーヒーカップに口を付ける。
「美味い」
苦みのある液体が体の中にストンと落ちて、どこか気分が落ち着いた。

「よくそんな苦いもの平気で飲めるな…」
そう言うフリオニールは、カップの中に砂糖とミルクを入れて掻き混ぜていた。
どうやら味覚に関しては、まだ多少子供っぽさが残っているらしい。
「今、子供っぽいとか思っただろ?」
…この義士は、人の心を読めるような特技でもあるんじゃないのか?
そう疑いたくなるくらいに、的確に俺の心中を言い当てる相手に、俺は驚く。
「言っただろ、顔に現れるってさ…なんだかスコール、今少し笑ったような気がしたからさ…多分、そんな事思ったんだろうなって……」
本当だとは思ってなかったけどな、と彼は俺の顔を見ながら言う。
「一応、俺もまだ一般的には“子供”ってされる年齢なんだけど……」
そう言って苦笑いするフリオニール。
「俺よりは大人だ」
「確かにその通りだけどな……でもスコールは時々、本当は俺よりも年上なんじゃないかって、そう感じるくらい大人っぽいな」
ティーダも少しは見習ってほしいよ、と仲間の名を引きあいに出され、俺は少し複雑な気分になる。

自分が年相応に見られないのはよく知ってる。
特に、あの底抜けに明るい青年と比べられると、余計にそれが浮き彫りになるようで…少々、傷付く。
自分だって、あんな風に人に接する事ができればどんなにいいだろう…そう思う事はある。
だが、生来の性格というものはどうしても変え難い。

「別に、好きでこんな性格になったんじゃない」
「そりゃあそうだろう…人の性格なんて、自分の意思で変えられるものじゃないだろうからな。でも…俺はお前のそういう落ち着いた雰囲気、好きだな」
彼の言葉に、大きく心臓が跳ねた。

分かってる、俺が彼に抱く“好き”という概念と、彼が今サラっと口にした言葉の持つ意味は違う。
だけど、自分が相手に好まれている。
それが分かるだけで、胸の内が熱くなる。

「そう…か?」
「ああ、なんか一緒に居ると落ち着くんだ」
それはアンタの方だと思う。

一緒に居て人に安心感を与えられるのは、細かい心配りができる人間の方だと思うのだが…彼は「そうでもないさ」と俺の言葉を否定する。
「黙ってるのも気遣いの内だろう?スコールは特に、行動で示してくれる事も多いからよく分かる。
ぶっきら棒に見えるけど、本当は凄く優しいんだなって、さ」
穏やかに微笑んでそう言われると、此方としては言葉に詰まってしまう。
恥ずかしくて視線を逸らせば「照れてるだろう?」と、ちょっと笑った声が言う。

「顔、赤いぞスコール」
「……煩い」
そんな言葉も、結局は照れ隠しにしか使えず、微笑む彼は俺の心中なんて多分お見通しなのだろう。


「そういえば…スコールとこんなに一緒に長く居るのは初めてかもな」
今更ながらに、彼はそれに気付いたらしい。
「ああ」
「まあ、普段は俺もスコールも、なんか騒がしいのに掴まってるからな…」
「そうだな」
勝手に俺はジタンやバッツと、フリオニールはティーダ達と一緒…と、そんな風に成り行き上決まってしまっている。
別に、それが不服であるわけじゃないのだが…そうだな…………。
いや、時々それが歯痒く思えるのは、やっぱり不満があるからか?

「静かに過ごせる事なんて珍しいから、今日はなんかゆっくりできそうな気がする」
それが彼にとっての休息になるのだろうか?
「いつか、こうやって静かに過ごせる日が来たらいいな」
「そうだな」
そうやって穏やかに笑う彼に、短くそう返答する。
彼の望むような、そんな平和な世界は何時になったらできるのだろうか?


「また、その内に一緒にコーヒーでも飲もうか?」
「ああ、是非」
そう言ってニッコリ笑って頷く彼に、俺の心も穏やかになった。


「よーう、ただいまスコール」
金色の尻尾をゆらゆらと満足そうに揺らしながら、俺の方へと走り寄って来た仲間の盗賊がそう声をかける。

「で?どうだったんだ?何かあったわけ?」
ちょっと声を潜め、ニヤリとした人の悪い笑みを浮かべてそう尋ねるジタン。
「感謝する」
ただ短く、彼にそう礼を述べる。
「あっ、そう……えーと、どういたしまして?」
「ああ」
疑問符を浮かべつつそう言うジタンに、それだけ簡素に述べると、俺はその場から立ち去る。


「なーんかよく分からないけど、上手くいったの…かな?」

首を傾げながらそう言う盗賊は、普段よりもどこか満足そうな獅子の横顔を見たとか……。

あとがき

突如として書きたくなってしまった、スコ×フリオ。
11月1日に発売される、DFFインターナショナル版の情報が掲載された雑誌を後輩が見せてくれたのですが…前作でなかった映像とか追加されてる中に、スコールとフリオの共同戦線的なものがあったのに、発狂しかけたんですね。
危うく公共の場で「スコフリ、キターーーーー!!!!」て叫ぶところでした。(危ない人が居る)

大人なのか子供なのか、微妙なゾーンに居るそんな二人組…いいじゃないですか!!
ティーダとは違う大人びた雰囲気を持っていながら、なんか奥手なスコールさんが好きです。
そして、ジタンは味方につけたらきっと誰より心強いと思うのです。
2009/10/26

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