俺達の関係は、一体何なんだ?
俺はアイツの兄貴…アイツは俺の弟
それ以上の距離が、俺とアイツの間にはある
それは、一体どういうものなんだろう?
俺を愛している弟へ…
休日の日中、どうしようもなくて部屋に閉じこもったままの俺。
試験も近いから、勉強するって言って…そのまま。
だが、ノートも教科書も参考書も開けていても、その内容が中々頭に入って来ない。
俺の頭の中を占めているのは、もっと別の事。
「兄貴、俺バイト行って来る」
軽いノック音の後、ドア越しにそう言う自分と同じ声の弟。
「分かった、気を付けて」
「うん。兄貴も根詰め過ぎるなよ」
そう言うと、彼は玄関へ向かっていく足音が聞こえた。
ドアを開ける音と、「行ってきます」という挨拶。
小さく俺が呟いた「いってらっしゃい」が、果たしてアイツに聞こえたんだかどうなんだか…自分でも分からない。
「はぁ……何やってるんだか、なぁ…」
自分で自分に向かってそう呟くと、ようやく俺は水を飲みに立ち上がった。
気分が暗い時に、天気まで暗かったら余計に憂鬱になるものなのだが、今日は嬉しいくらいに洗濯日和だ。
乾いた洗濯物を取りえながら、深く深呼吸。
陽の光に当たって、気分まで乾けば文句はない…。
実際には、陽の光にそういう効果は中々期待できないんだけれど。
特に…今の俺には、一切通用しないらしい。
深く吸い込んだ空気が、憂鬱な溜息になって吐き出された。
「もう嫌だぁ…」
どうして、今まで普通に接してこれたのか…自分でも分からない。
何なんだ?今の俺は…。
「はぁ…」
そんな溜息と共に、居間のソファに倒れこむ。
誰も居ない家は、何時もよりも断然広く感じる。
その時、ぞわり…と、急に背筋に悪寒が走った。
「大丈夫…………何もない、何もない…」
大丈夫なんだと、そう自分に言い聞かせる。
今はそうでもない、だけど…昔は一人になるのが酷く怖かった。
そういう、時期もあった。
しかも、幼い頃ではなく…もっと、ごく最近の話だ。
両親が亡くなったあの日、自分だけが残されて…自分の事に気をかけてくれる人も、どこか遠くて…。
怖かったんだ。
怖かった。
なんだろう?世界から、自分が切り離された気分とでもいうんだろうか?
自分をこの世界に繋いでいた何かが、その瞬間にプツリと切断されたようで。
世界に漂流されたような気分。
一人っきりで、怖かった。
「兄貴!!」
だから、そんな声をかけてくれたその人物が、どんなに嬉しかったか…。
「兄貴、おい…兄貴?」
肩を掴んで自分の方を向かせる弟の顔に、酷く…酷く、安堵した。
「……っぅ…」
ボロボロと見た事のない位の涙が溢れて来た。
どうして、こんなに泣いたんだろう?
両親が死んで、悲しかったからなのか?
もっと、もっと複雑な感情が様々に折り重なったからなのか?
それは分からない。
だけど、その日俺が今までの中で一番生きてきた中で、一番泣いた。
それからだ……。
広い空間に一人で残されるのが、怖くてしょうがなくなった。
何か、よく分からないものに押し潰されそうな気がして。
だから、何時も人の温もりを求めた。
「兄貴……兄貴、落ち着いて」
側に居てくれる、アイツの温もりに縋りついて。
優しさに縋りついて…。
夜は特に怖い。
暗くて周囲が見えなくなるから、余計に取り残されたようなそんな気がして。
怖い、凄く怖い…。
「大丈夫だよ、兄貴…俺が側に居るから…」
優しくそう、声をかけてくれるアイツに、酷く安心した。
一緒に居なければ、眠れなかった。
「兄貴は一人じゃないんだよ、兄貴には俺が居るんだ…ね?」
「うん……」
優しいんだ、アイツは。
「兄貴、大丈夫だよ、俺が居るから」
「うん」
優しすぎるんだよ、アイツは俺に。
だから、俺もアイツの事放っておけなくなる。
「近過ぎるのかな…俺達?」
そう呟いてみるも、相手はここには居ない。
「はぁ…」
溜息だって、静かな空間に沈んでいく。
「ただいま……」
鍵は開いたままの家、足を踏み入れていたら無人なんじゃないかという位、とてつもなく静か。
「アレ?兄貴?」
おかしいな…兄貴、今日はバイト無いって言ってたのに…っていうか、鍵開いてるし。
兄貴に限って、出かける時に鍵を閉め忘れるなんて、そんな抜けた事は絶対にないだろう。
「……兄貴?…って、寝てるのか?」
ソファの上で寝そべっていた人物の顔を覗き込み、静かな寝息を立てる幼い寝顔を見て、ホッと安堵の溜息を吐く。
「可愛いな、兄貴」
健やかな寝顔を見て、小さくそう呟く。
バイトの疲れも吹き飛ばすくらいの、癒し空間だ。
部屋の隅に整えられた洗濯物に、きちんと洗われた食器類。
勉強の合間の家事で、疲れたのかな?
しかし、余りにも無防備な寝顔だ。
「あーあ、こんな風に無防備に可愛い所曝け出していると、悪戯したくなるんだけどなぁ」
サラサラと、相手の髪に指を差し入れる。
あー、柔らかいなぁ兄貴の髪、俺の髪よりもなんか柔らかくって気持ちいい。
何してやろうか?でも…起こしたら、ちょっと悪いし…それにもう少しこの寝顔を堪能したい。
そう思って、優しく優しくその髪を流す。
時々漏れ聞こえる「ぅ…ん……」という少し、悩ましげな吐息に心臓が大きく跳ねるものの、起きる気配はない。
「まったく、危機意識の薄い兄貴だよな…」
分かってるよな?自分が一緒に暮らしているのは、自分の事を性的対象として見れる男だって事…。
……ああ、そういえば…気になる事が一つ。
「ね、兄貴…昨日からどうしたの?」
静かな寝息を立てる相手の顔を観察しながら、そう尋ねる。
勿論、返ってくる答えなんてないんだけど。
「兄貴は、何が怖いの?」
俺に触れられる事を、酷く望んでいたのに…。
側に居ないと、息もできなかったのに…。
それが、今は怖い?
何が原因なのかって…思いつく事は一つだけ。
「俺の告白…今更になって、利いてきた?」
昨日、告白の現場に居合わせた兄貴。
「可哀想じゃないか」って、それは俺が振った相手に向かって言った言葉。
兄貴は優しいね。
周囲の人間、その全てに優しいのはよく知ってる…だけど、俺に対してはもっともっと優しい。
だけど…優しさは時々、凄く残酷なものになるんだ。
兄貴は、それを分かってない。
だから、俺に優しくできた。
昨日まで……。
「あの時、自分が取った行動が間違いだったんじゃないかって…今更ながら不安になってきたんでしょ?」
意識してんの、バレバレなんだよ…可愛いなぁ。
「悩んでくれてるのかな?俺の事について……まあ、兄貴の心の中占めれれば全然俺は嬉しいんだけどさ…。
兄貴、あんまり俺の事怖がるような反応してたら、その内、俺もキレるぞ…」
そっと、兄貴の髪を触っていた手を引っ込め、耳元でそう呟く。
「なんて、嘘だけどね…兄貴」
そう言って、兄貴の額にそっと自分の唇を落とす。
愛情を持って触れる、その温度に兄貴は少し身じろいだ。
起きたかな…と少し不安に思ったが、そんな事はなくまだまだ深い眠りの中に居るらしい目の前の想い人。
どうやら、よっぽど疲れているらしい、この人は。
「偶には、ゆっくり休みなよ。兄貴」
現実世界の悩みなんて、全部忘れて。
まあ、その原因が全て俺にある以上なんていうか、何も強く言えないんだけど……。
「ごめんね、兄貴」
でも、やっぱり俺は兄貴が好きだよ。
to be continude …
アナザー×ノーマルフリオ現代パロ、暗いのが続くと作者の気分が病むので、ちょっとだけ明るめを目指してみました。
不安に思いつつも、兄貴の事はお見通しな弟。
彼はどっちかっていうと黒くて意地悪な子です、好きな子を落とす為には何でもします。
実は、昨日の告白を利用して、兄貴の心揺さぶりにかかってます。
アナザーはどっちかと言うと学パロでは策略家希望、そんな弟にまんまと引っ掛かってるお兄ちゃん。
さてと…次回からは、またちょっと暗い雰囲気に戻りますよ。
背景を途中で変更して、文字色変更するのミスった馬鹿です、白背景に白文字…読めなかった方、申し訳ないです。
2009/10/14