怖いんだ、ねえ本当に怖いんだ…

分からない事だらけで…理解できない事だらけで…

なあ…どんな顔で、俺はお前に会ったらいい?

俺を愛している弟へ…

「ただいま……」
「あっ…おかえり、兄貴」
奥からひょっと顔を出して俺を出迎える弟。
「遅かったじゃん、兄貴…どうしたの?」
「うん……何でもない、ちょっと色々あってさ…ああ、待ってくれよ夕飯の用意するし」
「あっ…うん……」
ニコニコと笑って、そう告げると自分の部屋へと向かおうとする俺の背中にベタッと、くっ付く弟。

「何だよ?重いだろ…離れろって……」
後ろから抱きついてきた弟を剥がそうとする俺に対し、彼は回した腕に余計に力を込める。
「兄貴、目赤いぞ」
ボソッと、耳元でそう呟く彼の低い声に俺は心臓が止まるかと思った。


「えっ……」
「泣いてた?」
鋭くそう指摘する弟に、俺はすぐに否定する。
「…別に」
「何があったの?」
「何でもない」
邪魔だから退いてくれ、と腕を引き剥がそうとするも相手は離れてくれない。


「ねえ教えてよ、どうしたの兄貴?」
「耳元で話すなよ、くすぐったいだろ…」
止めてくれ、心臓に悪い。
今、俺の心臓の鼓動がどれくらい、早鐘打っているのがお前にも伝わるだろう。

「兄貴……」
それを知ってか知らずか、この双子の弟は俺の耳元でまだ俺の事を呼ぶ。
「離してくれよ…皺になるだろ?」
「……はーい」
しぶしぶといったように俺から離れると、しばらくその場に留まっていたが、その何かを見据えるような表情は俺が自分の部屋のドアを閉めると共に、見えなくなった。


「……はぁ」
溜息と共に、その場に崩れ落ちる。

言える訳ないだろ?お前に対して…こんな事。
お前の事で泣いていたんだって言ったら、どんな顔しただろう?
何で泣いていたのかも分からないのに、どんな風に説明したらいいんだ?


「ウォーリアさん、どうしたらいいんですか?」
バイトの先輩にそう尋ねてみるも、勿論答えてくれるわけがない。
彼の言葉が、今俺を彼に対して過剰な反応をさせている。


「好きなんじゃないのか?」


そんな訳ないと、そう否定した。
だって、そうじゃないか……そんな事ありえない。

でもそう俺は信じたいだけなのかもしれない、そうも思う。
同じ事をアイツだって考えただろう。
だから、ずっとずっとアイツも悩んでいた。


『兄貴、俺は……他の誰にも、兄貴を渡したくない』


真剣な顔で、そう俺に伝えたアイツの表情が網膜の裏に蘇る。
アイツは……本当に、本気で俺の事を…?

分からない。

俺が…勘違いしてる?
「そんなわけ……ない、よな?」
一度考えてしまうと…どうしても、どうしても意識してしまう。
「はぁ……どうしよ」
しかし、ここに居ても仕方ない…家事は全自分が担当する事になっているんだ、ここでこうやって蹲っているわけにはいかない。
荷物を置いて、制服を着替えるとエプロンを付けて部屋を出る。


「兄貴さ、今日やっぱり元気ないよな」
「そうか?そうでも、ないぞ…」
「ふーん……」
夕飯の支度をしながら、そんな会話を交わす。
リビングのソファに反対向きに座りこみ、背もたれにダラしなく座ったまま俺を真っ直ぐに見つめる。
格好こそダラしないが、その目は真っ直ぐ鋭い。
何なんだよ?今日はそんなに突っ込んできて。
「俺は兄貴が心配なの」
「俺はお前の方が心配だよ…」
「えっ…兄貴は俺の何、心配してくれんの?」
期待した目で俺にそう尋ねる弟に、俺は溜息を吐いて答える。

「ああ、お前がちゃんと卒業できるかどうか…とかな」
「オイオイ、ちゃんと授業には出席してるし、成績も底辺ってわけじゃないだろ?
まあ、全部兄貴のお陰だけどさ…」
「そんな風に、俺に感謝できるのなら…もう少し、俺の事労わってくれよ」
「うん、労わってあげるよ…後で体マッサージしてあげようか?」
ニヤニヤとイヤらしい笑顔を浮かべてそう言う弟に、俺はなんだか再び疲れが溜まった。

「…結構だ」
「何だよ、労わってあげるって言ってるのに」
ムッとしたようにそう言うが、勿論断られるって最初から分かっていたが故の冗談だったんだろう。
「その労わりからは、下心しか見えない…」
「うん、健康な青少年ですから」
へへへとフザケた笑い声を上げる弟に、脱力する俺。


「まったく、もうちょっとまともな事言ってくれ……」
「何だよ、俺はいつでもまともだけどね…兄貴の事となればさ」
「だから!…それがまともじゃないって言ってるんだ!!」
つい声を荒げてそう言ってしまう。

「……何だよ、急に…」
ビックリしたように、彼はキョトンとした表情で俺を見る。
俺…何してるんだろう?
「ごめん」
声を荒げた時とは打って変わって、自分でも驚くくらい小さな声で謝る。

「兄貴、今日やっぱり変だよ…ねえ、何があったの?」
「何でもない」
「嘘吐くなよ、兄貴」
彼の声が低く、不穏なものに変わる。

「…………ごめん」
「俺、謝ってほしいんじゃないんだけど」
「ごめん」
それでも謝罪の言葉を口にする俺に対し、彼は諦めたように大きな溜息を吐いた。


「はぁ……でもさ兄貴…俺、本当に兄貴の事好きだからね」
その言葉に、俺の肩が震える。
「まともじゃないとか言ったけど……俺、これだけは真面目に言うよ」
改まったようにそう言うと、ソファから下りて俺の方へと近づいてくる。
本当に真面目な顔で。
止めてくれよ、そんな表情…。
俺の背に、良く分からない恐怖が駈けのぼる。

良く分からないものへの、恐怖。


「兄貴の事、愛してるよ」
真っ直ぐ見詰めてそう言う彼の言葉に、ドクリと大きく心臓が高鳴る。


「!!ッ…イッタ」
「兄貴?」
急にそんな事、真面目な顔して言うから…包丁で指切った。

「もう、貸してみなよ」
「…っえ……」
そう言って、俺の指を取るとそのまま切った指を咥えた。

「ちょっ!!」
俺が止めろと言うのを無視して、彼は指に舌を這わせる。
「ぁっ…なぁ、止めろって…な……」
ペロペロと、舌を這わせる彼になんとか、それを止めさせようとするも、俺の言葉なんて彼は聞いてくれない。

指先を覆う、他人の熱。
ピチャ…という、小さな水音が耳の奥で卑猥な音として認識される。
「なぁ…本当に、本当に…止めて……って!なぁ!!」
「…ん」
ぺロリと最後に一舐めすると、やっと俺の指を離した。


「兄貴…顔真っ赤」
「煩い!誰の所為だと……」
熱の引かない頬を指摘されて、つい声が上がる。
「てかさ……兄貴」
「なん…だよ?」
切った指を確認する。
そんなに深く切っていなかったようで、血はもう大分止まっている。
だが、自分の脈がドクドクと強く波打ってる。
自分の体内の血が動いているのが、自分でもよく分かる。

「顔赤いし、目潤んでるし…今日の兄貴、なんかやけにエロいんだけど」
「はあ?何言って……」
「なーんかさ、やっぱ兄貴変だわ。普段ならさ、こういう時もっと普通に怒るか、呆れるか…そのどっちかでしょ?
なのにさ、今日はやけに過敏に反応してる。
バイト先で何あったの?」
鋭い指摘に心乱される。
「何でもないって…もう、いいだろ?俺…も、色々あるんだよ、だから…これ以上さ、頼むから……」

お願いだから、踏み込んでこないでくれ……。


「……そ、分かったよ」
俯く俺の元に、アイツのそんな簡素な言葉が届く。
そっと視線を上げてみると、反省したような顔で俺を見つめるアイツの顔。

「ゴメン兄貴…俺、ちょっとずうずうしかったな」
普段とは違う、どこか寂しそうな声に…悪い事をしたような気になってくる。
「でも、ほら…えっと……ああ…まあ、俺は兄貴と比べればそりゃ頼りないと思うけどさ。
力になりたいんだよ、偶には俺だって兄貴の役に立ちたいんだ……だからさ、まあ…もし俺でも力になれるなら、頼りにして」
な?と、俺に微笑みかける優しい笑顔に、俺は心のどこかが痛くなった。
「……うん、ありがとう」
そう言って力なく微笑むと、相手も満足したように頷き返した。


どうしよう……。

お前との距離の取り方が、急に分からなくなってきた…。


to be continude …

あとがき

アナザー×ノーマルフリオ現代パロ、ちょっとラブラブさせてみました。
新婚家庭なんかで見かけそうな風景。指舐めるのって、エロいと思うのです…お兄ちゃんもう真っ赤です。
アナザーフリオは兄貴の変化には過敏に反応します、毎日一緒に居ますから細かい変化にも気付けます。
だから急にどこかよそよそしくなった兄貴に、不安を感じてます。

しかし、アナザーフリオの名前…いい加減に名前で呼んであげたい。
人様の所によって違うのですが、ウチはもうシャドウでいきます!よし宣言しました!!
2009/10/13

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