どうして、お前は俺の事なんか好きになったんだ?
俺なんかの、どこがいいっていうんだ?
どんなにお前が俺を想っていたって…俺は……
俺を愛している弟へ…
「好きです!付き合って下さい!!」
我ながら…凄いタイミングの悪さに、これ程までに嫌気が差した事はない。
まあ、何て言うかほら…ここも学校だからさ、放課後だからさ…そういう学園ドラマめいた出来ごとがあったって構わないだろうけど、でも……。
この状況は不味い、本当に不味い…。
「兄貴さ、これから生徒会会議なんだろ?俺もさ、これから教師に呼び出されてるからさ…先に終ったら迎えに来てくれよ」
「どこまで?」
「うん、第一理科室」
ああ…理科といえば、生徒指導部長だな…また、コイツ何かやらかしたのか……なんていう風に思って、俺は快く了承した。
「じゃあ、俺の方が遅かったら先に帰ってていいから」
「何言ってんのさ、俺が兄貴置いて帰るわけないじゃん…ちゃんと待っとくって」
ベタっと俺にくっ付いてそう言う弟を、溜息交じりに引き剥がして、俺は教室を後にした。
生徒会会議は、十五分ほどで終了した…まあ、決算報告会みたいなものだからな…そんなに長引くわけないし。
俺どうせ学級委員長なだけだから、学校行事の取り決めなんかは大本の生徒会が全てやってくれるし…。
そういう訳で、先に終って教室に戻ってみると…案の上、弟の鞄はまだ自分の席に置いてあった。
小さく溜息をついて、その鞄を取り上げると、俺はアイツが言っていた通り理科室へと足を向けた…わけなんだが……。
何が先生に呼び出されてる、だ…全然違うんじゃないか……。
内心、そう相手に怒鳴りたい気持ちを抑えて俺は理科室のドアの横に立っている。
……多分、気付かれてない……よな?
「ずっと、ずっと貴方の事見てたの…」
そんなお決まりの台詞が、可愛い声で時々聞こえてくる。
ああ……居心地、ワル…。
今朝の番組でやってた星座占い…そういえば、自分は最下位だったっけ?
当たってるかもな…と思ったけど、よくよく考えれば、双子なんだから今告白を受けてる弟も、俺と同じように運勢が悪くなければオカシイわけで、この状況を考慮するに…弟の方はまあ、ツイているとしてもいいんだよな?
何だ、当たってないんじゃないか……。
溜息を吐きたい気持ちだが、あまりにも静かすぎる空間でそんな事もできない。
とりあえず、気配を消している俺に向こうも気付いてないと思うが…。
これは、早々に立ち去った方が人としては正しい行動…なんだよな?
そう思いつつ、野次馬根性とでもいうのか…そういうものが働いて、どうしてもその場から動けない。
しかし…アイツも本当にモテるよな…同じ顔なのに。
ああ、本当に何が違うんだろうな?
……早く、終ってくれないかな……。
人の恋路を見守るというのは…なんていうのか、第三者からしたらほとほと嫌気が差す事だと思う。
それが自分に関係しない人間の事であれば、本当に俺の伺い知らぬ所でやってくれ…と思うし。
自分に関係する人間であっても、できれば巻き込まれたくない…というのが、俺自身の見解である。
だから今も、できればこの状況を耳塞いで、何もなかったかのようにこの場所から出ていけたらどんなにいいか……。
だが、そんな訳にもいかない。
残念ながら、見知らぬ少女の運命に関してはどうでもいいが…弟に関しては、知らぬ顔はできない。
理由は酷く単純だ。
アイツは、俺が好きらしい。
同性であり、同じ血を分けた、自分と寸分も狂わないくらい同じ顔の兄である俺の事を、アイツは本気で好きらしい。
長年ずっと苦しめてきた、アイツの気持ちを知ったのはつい最近の事なのだが…。
俺は、その気持ちを知ってもアイツの事を…どうしても、無碍に扱えない。
許されないから、諦めろ…そう言ったつもりなのに…アイツはどうしてか、諦めてくれない。
振り向かせると、本気で思っているようだ。
そんな弟に対し俺は、できれば…その……ノーマルな方向に戻ってくれないかな…と思ってる。
だって、このままじゃ不味いだろう?
将来的に、今この状況を許しちゃいけないと思うのだ。
だから、できればちゃんと修正してやりたいと思うのだ。
普通に女の子と恋愛できる、そんなどこにでも居る男子高校生に、ちゃんとなってほしい…そう思ってる。
なのに……。
「悪いね、俺さ…好きな人いるんだ」
静かな空間に、死刑宣告のように淡々としたアイツの声が響く。
その好きな人…という言葉に、ビクッと反応する。
「えっ……」
「だから、諦めて」
有無を言わさない、無駄のない物言い…それくらい冷たくあしらわないと、やっぱりいけないのかな…なんて、聞いている俺は頭の片隅でそんな事を考える。
「その人、って誰?」
そんな少女の質問に、俺は再びビクッと震える。
「何でそんな事言わなきゃいけないんだよ」
少し不機嫌な声になって、アイツは少女にそう問い返す。
そんな状況を背後に感じて、俺は自分の心拍数が意味もなくどんどん急上昇しているのを感じた。
「だって、どんな人なのか分からないと…諦められない」
「往生際悪いぞ、アンタさ俺と付き合えるとか少しくらい希望持ってた訳?俺アンタの事全然知らないんだぜ?そんな人間とさ、付き合おうなんて考える程、俺は女好きなわけじゃないし、女遊びが好きなわけでもない…それだけだ」
ああ…冷たい、凄く冷たい声だ。
冷徹なまでの声に、第三者である俺ですら怖いと思う。
彼女は、もっと怖いのかもしれない…。
「じゃあ、好きな人いるのは…」
「ああ、それは嘘じゃないよ本当本当、多分アンタなんかよりも何十倍もいい人だよ…俺にとってはね。
話はそれだけ?もう帰ってもいい?俺、人待たせてるんだ…じゃあね」
最後の方は、ほとんど軽く適当にあしらうと、次の瞬間、俺の横の扉が思いきなり開いた。
「お待たせ兄貴、帰ろうか」
「…………」
さっきまでのあの冷たさは、一体どこへ消えたのか…俺は自分の弟の、自分に向ける人懐っこいその笑顔に、寒気を感じた。
「ほら、兄貴…早く帰ろうぜ」
俺の耳元でそう言うと、腕を取り勝手に歩き出す。
早足なのは、その場からできるだけ早く離れようとそう務めているからに違いない。
「お前、いつもあんななのか?」
「あんなって…何が?」
「何がじゃないだろう!ちょっと、、酷いんじゃないのか?あんな言い方しなくても……」
そう言った瞬間に、急に立ち止まり俺の方を振り返る。
「残念ながらさ、俺は兄貴みたいに優しくはないんだ。後ね兄貴…こういう場面で優しくされるのは余計に辛いんだよ、自分の事振る時優しくされるとね、諦めがつかなくなるんだ、だって…嫌いになる所がないでしょ?
相手の事を諦めさせる一番簡単な方法はね、自分が相手に嫌われる事なんだよ……兄貴」
「っ……」
その言葉が、深く俺の胸に突き刺さる。
だが、確かに今のコイツの言葉は的を射ている。
相手に自分の事を嫌いになってもらえれば、確かに諦めもつくだろう。
どんなに傷つけても…それで、彼女は諦められる。
こんな男だったのか…と、でも……。
その為だけに、わざわざコイツは悪役になりきってるのか?
あんな、冷徹になれるのか?
「まあ、兄貴には絶対に無理だと思うけどね…」
「…………」
「兄貴優しいもんな、まあそれはそれでいいと思うよ。俺なんかよりもずっとずっと人間らしくてさ」
ニッと笑って、コイツはそう言う。
「俺はさ、恨まれたり嫌われたりする方が面倒だからいいわけ…嬉しい事に、俺そういう人間だって思われてるしね」
へへッと笑っているけれど、コイツは心の中で一体何を考えているんだろう?
分からない。
コイツの心の中が、一体どんな風になっているのか…分からない。
「兄貴、今日バイトなんだろ?ほら、ボヤボヤしてると遅刻するぞ」
グイグイと俺を引っ張って行く弟…。
分からない。
同じ顔して、同じ声して…全く違う性格のこの男の事が分からない。
…本当に、分からない。
「なぁ……」
「ん?何、兄貴?」
「…………いや」
『どうして、お前は俺の事が好きなんだ?』
そんな事、聞けない。
なぁ、このままでいいのか?
いいわけが、ないよな?
俺の事、好きでいてくれるのは嬉しいけど…でも。
俺は一切、お前に自分の気持ち返し切れてないんだぞ…。
それなのに、ただ想っていられるお前は、一体なんなんだ?
いっその事……さっきのお前みたいに、俺もあの時、冷徹になってやれれば良かったのか?
冷たくあしらって、嫌われてしまえば良かったのか?
なぁ?
俺…分かんないよ……。
to be continude …
アナザー×ノーマルフリオ現代パロ。
アナザー君の本性、垣間見ちゃったお兄ちゃん…みたいな?
本性っていうか、隠してた部分ですが…ええ、彼はお兄ちゃん以外にはトコトン冷たいです。
一応不良って事で通ってますからね、教師でも普通に仲良い友人でも、彼を手なずけられるはお兄ちゃんだけです。
そろそろ、この二人いい加減にくっ付けたい…そう思ってます。
2009/10/12