誘惑っていうのはその字の通り、“誘って”“惑わせる”事だ
絵で表せば……今のオレの状況
甘い誘惑
柔らかい感触のフリオニールの唇を味わう…という、オレからすると凄い幸福を味わった。
それだけでなく、この手の中にある小瓶の惚れ薬によって…彼の心も頂いてしまったという、最上の幸福まで手に入れてしまった。
オレ、マジで死んでも悔いないッス。
「美味しいか?」
「美味いッス!!」
何が美味いか…って、何よりも貴方がニッコリ笑ってオレにアーンってしてくれている事、それが一番美味しいッスよ!!
愛があればLove is OK!!
こんな状況ならどんな料理だって、超高級料理店並みに変貌しますとも。
いや、実際にフリオの料理は、何時だってめちゃくちゃ美味いんだけど!!
しかし…これから一週間、野営地の皆には悪いなぁ……。
こんな豪華な幸せを独り占めできるんだから、もう本当に言葉も出ない。
「ほら、もっと食べろよ」
そう言って、彼は再びフォークで料理を差し出してくれる。
ああ、幸せ。
さてと、このフリオニールと過ごす幸せな時間に、オレは目が眩んである事を忘れていた。
いや、それはもう完全に良い所取りの忘却だ。
でも欲に目がくらんだ人間っていうのは、大体そんなものだろう?
だけど、それはとても重要な事だった。
このオレを幸せを与えてくれた薬品、これをくれたあの魔女は、一体何を言っていたのか…という事だ。
オレはすっかり失念していたけれど、最初に彼女はこう言ったのだ。
『最高の下僕を手に入れられる薬』と……。
「今日は、もう休もうか?」
偶然に見つけた小さな小屋の中で、オレはフリオにそう尋ねる。
小さいとはいえ、簡易のキッチンや寝具も揃っていて、ちょっとの間生活するだけならば不便はしない。
二人では見張りも立てないので、天幕で寝るのは危ないなぁ…と思っていただけに、ちょっとツイていたなと思う。
「ティーダ…」
「ん?どうしたんッスか?フリオ?」
彼の方を見ると、目を合わせにくいのかどことなく視線が泳いでいる。
その雰囲気に、何か普段の彼と違うものを感じ…不安というか、胸騒ぎというか…とにかく、そんなものを覚えた。
「フリオ?」
ベッドに腰かけるオレの側に彼は来ると、彼はそっとオレの横に腰を下ろした。
普段見に付けている装備品を外し、髪を下したフリオニールは、一気に色気が上がって見える。
そんな綺麗な彼が、どこか熱っぽい瞳でオレを見る。
オレの心臓が、大きく高鳴った。
「ティーダ、今日は誰も居ないだろ?」
「…うん」
少し頬を染めて、フリオは言葉を紡ぎ出す。
「ティーダ…ティーダはどうしたいんだ?」
「何が?」
そんな事、尋ねる方が間違っている。
彼が醸し出す雰囲気、その雰囲気が息が詰まりそうな位に色っぽいものになってきている。
「フリオ!オレ…別に、そんな気負わなくても、フリオが嫌がるような事しないから!!」
赤くなってそう叫ぶように言うオレに、フリオはゆるゆると首を振った。
「我慢しなくていいんだぞ、ティーダ…」
「えっ!!いや、別に我慢してるとか…そんなっ!その、別に!!」
「ティーダ…」
「っ……」
熱っぽい視線で、彼がオレを見つめる。
嗚呼、止めて止めてそんな視線。
色っぽ過ぎて、オレにはどうしても毒だ。
目の毒、どころじゃない。
ヤバい、心臓が高鳴り過ぎてなんか爆発しそうな気がする。
「フリオニール、無理しなくていいッスよ」
ちゃんと名前を読んで、彼にそう告げる。
誘っている…今の状況は、どう考えてもそんな状況でしかない。
しかし、そんな彼の顔は真っ赤に染まっている。
彼が凄く純粋な青年で、こんな色事には疎く、また、めちゃくちゃ初心なのは良く知ってる。
色気は半端ないが、無理をしているのは確実だ。
ああ、だけど…だけど……無理させたくないけど、でも!でも!!でも!!!でも!!!!
スッゲー…エロい。
オレの理性、めちゃくちゃ揺さぶる位にエロい。
「ティーダ…好きだよ」
熱い吐息交じりに、そう言われた瞬間。
オレの、理性の糸が切れる音がした。
ガバッとその場に押し倒して、貪るように唇を奪って…。
急くように、彼の体を慣らしていく。
ガッツくな、と言われても…大人っぽく余裕を持って振る舞う事なんてできない。
所詮、オレは思春期の子供で…こんな行為には、やっぱり慣れていない。
だから、満たされたいとか、気持ちよくなりたいとか…そんな欲望ばかりが先走る。
「ふぇっ!っぁ…ん……んぅ……」
ビクビクと大きく体を快楽に震えさせ、甘い甘い声で鳴く。
快楽なのか羞恥なのか、あるいはその両方からなのか、赤く染まった頬にうるんだ瞳。
それが酷く印象的で…とても綺麗で、でも凄く色っぽくて…。
「フリオニール…気持ちイイ?」
ただただ必死なオレは、彼にそう尋ねる。
こういう経験が初めてなのは、何も彼だけではない。
女性とこんな体験をした事があったのか、それすらも微妙なのに…ましてや男の経験があったなんて事は絶対にない。
だが、この自分を慕ってくれている恋人に比べて、自分の方がある程度の知識を持ち合わせていたのは幸いな事だ。
「ぅっ…あっ!ティーダ、イイよ…凄く、イイ……」
始めこそ苦しそうな表情でオレの事を見ていた彼も、一度快楽に見出されてしまうと、もう思考回路もドロドロに崩れ落ちてしまったみたいで…。
トロンとした瞳でオレを見つめ、律動を続けるオレの肩に、彼の腕が不安そうにしがみついてくる。
絡みつくような、彼の中の気持ちよさ。
互いの吐息の熱さ。
こんな強い快楽、初めて感じる。
自分の欲が絶頂に達し、彼の中にその全てを吐き出す。
「っあ!!あっぁああ!!」
そんな俺の熱を感じて、彼も絶頂を迎えてその欲を吐き出すと、ベッドの上に力なく落ちる。
「フリオニール……愛してるッス」
「うん、ティーダ…俺も」
そう言うと、彼は荒い息のまま嬉しそうに微笑んだ。
オレがもう、この世で思い残す事のない位に満足な一夜を過ごした次の日。
「何で…フリオは、昨日あんな事言ったんッスか?」
「あんな事?」
昨日、あれからまだ三回程行為に及んだ所為で、腰を痛めたらしいフリオニールは、苦痛に顔を歪めつつもオレの問い掛けに反応する。
「オッ…オレを誘うような、あんな事なんで?」
平素の彼から、昨夜の彼はどうしたって想像できない。
色仕掛けなんてできるような、そんな人物ではないのだ。
なのに…どうして?
「もしかして…ティーダ、俺じゃ駄目だったのか……?」
ショックを受けたようにそう言うフリオ、それはもう青ざめたと言っていいくらいの表情だ。
「そっ!!そんなんじゃないッス!!フリオニールとはめちゃくちゃ良かったッスよ!夢なのかって思う位に……でも、なんていうか…フリオニールは、そういう事に関してはスッゴイ初心だから、自分からあんな事言うなんて意外で……」
「ああ…それは……その、俺は…ティーダが、喜んでくれるなら、それが嬉しいから…」
頬を赤く染めて、フリオニールはそう言った。
オレが彼に飲ませた薬は、単なる惚れ薬とは訳が違う。
あの魔女も言っていたように、“最高の下僕を手に入れられる薬”なのだ。
フリオニールの全ての愛情は、今この世でたった一人、このオレだけに捧げられている。
身も心も、全て余すところなく、彼はオレに捧げてくれるつもりなのだ。
それは全て、オレの為に。
彼の体は、オレの望むがままにできる。
彼は、それを拒否できない。
薬の効果が切れるまで、彼はオレを心の底から、それはもう、溺れたように盲目に愛してくれる。
ああ、甘い甘過ぎる誘惑。
「フリオ……キスしてほしいな」
「うん?いいよ」
彼は少し頬を染めるとオレへと近づき、少し躊躇を見せた後、恥ずかしそうにそっとオレにキスしてくれた。
その唇の柔らかさに、自分がどんどん毒されていくような気がした。
to be continued
表の妙薬話の続き、ぬるいけどまあ致しているので地下室の送りこんだ次第です。
ティーダがとにかく幸せに浸り続けています、さて幸せなだけで終れるのか否か…。
結局、次回に持ち越しになってしまいました…まあ、仕方ないという事で。
『愛があればLove is OK』…このネタ、分かってくれる人居ます?もう結構、懐かしの番組になってしまいましたが……。
ウチのティーダは無駄に子供っぽいです、フリオに次いで初心なのかもしれません。
それがティーダの持ち味なんで、それがなくなったら彼はもう勝てないと思います、色んな人に。
勢いで勝つのが若者特有の力ですから、彼は多分まだまだ子供っぽいままで過ごしてもらいます。
2009/10/4