夢は、心が脳内に映した虚像。
現実に抱く不安が、夢として映るのならば。
夢が、現実に成り代わる事だってある。
だから、人は夢に怯える。
それが、現実にならない様にと。

正道に就く者が見る夢現

悲しい夢を見た。
恐ろしい夢、でもあった。

本当の両親の顔は知らない。
それでも、親と呼ぶ・・・呼べる人が居た。
その人が、亡くなった時の光景・・・。

過去に起こった現実。
ただ一人取り残された俺が見た、悲しみと虚無と変えようのない現実と・・・。

力が欲しかった、誰かを、大切な人を守れる力を。
だから、がむしゃらに闘いの中に身を投じた。
誰かを守れると、そう・・・信じたかった。

だけど。

成長した今、仲間を亡くしてしまった光景を見た。
俺の力不足で、皆を守れなかった。

また、助けられなかった。
また、守れなかった。
俺の、力不足で・・・。

うなされて目を覚ました。
肩で荒く息をしながら周囲を見回す、皆の穏やかな寝顔を見て、ああ、夢だったのかと思った。
夢で良かったと思ったのと同時に、ふと恐ろしくなった。

今見たものは、本当にただの夢で済むのか・・・と。

「っう・・・」
辺りは静かだ、夜は特に音が無いから。
だから、自分の泣き声が酷く大きく聞こえる。
泣くほどのものではない、と思う。
でも、どうしても止まらないのだ。
失う悲しみというのか、底の見えない虚無というのか・・・。
それが、酷く恐ろしい。

夢が、現実になるのではないか、と。

こんな自分が、物凄く弱い気がする。
何でこんなに不安になるんだろうか?
何でこんなに恐怖を覚えるんだろうか?
この手に、まだ力が足りないんだろうか?
それを、自分でも知らずに感じているからこそ、泣きたくなってしまうんだろうか?

落ち着けと、自分に言い聞かせる。
泣いたって、どうしようもないんだから。
大きく深呼吸をして、心を入れ替える。
そっと涙を拭って立ち上がる。
その時、近くの岩山の影に誰かが立っているのが見えた。
夜目は利く方だ、だから、その人物が誰かすぐに分かった。

「ウォーリア?」
それでも疑問系なのは、少し自信が無かったからだ。

「どうしたんだよ?こんな所まで」
ゆっくりと相手に近付く。
普段の自分の声で話せているのか、自信がない。

「帰りが遅いから、様子を見に来た」
「そうか、わざわざ済まないな」
彼の真っ直ぐな目が、少し伏せられる。
しかし、すぐに真っ直ぐに俺と視線を合わせ。
「何か・・・あったのか?」

そう尋ねられた瞬間に、相手から視線を逸らしてしまった。

彼の視線は真っ直ぐすぎる、どこまでも見通されそうで怖い。
「別に、大した事じゃない」
「フリオニール・・・」
「大丈夫・・・本当に何でもないから」

隠せるわけがないとは思ってた、けど、その理由は聞かないで欲しい。
彼のような迷いのない力強さは、俺にはない。
だから、弱い部分を見て欲しくはない。
知られたくないのだ。
「俺は大丈夫だから、もう戻ろう」
居た堪れなくなって、彼の横を通って帰ろうと思った。

その俺の腕をしっかりと掴まれる。
驚いて立ち止まり、彼に向き直る。
「どうしたんだ?一体」
彼がどうしてそんな事をしたのか、よく分からない。
じっと、真剣な目で俺を見つめる蒼い瞳。
その瞳の奥に、何かを迷っているような影を見た。

驚いた。
光のように真っ直ぐなウォーリアが、何かに迷うような事があるんだと。

「フリオニール」
決意を決めたように、彼が俺の名を呼ぶ。
真っ直ぐな声で、真っ直ぐな視線で、真っ直ぐな意思で。

「君の事を好いている」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。
俺はまだ夢の中に居るんじゃないか、とそう思ったくらいだ。
だけど、腕をしっかりと掴まれたその強さは確かなもので。
今起こっている事が、現実なんだと分かった。
驚愕で頭が真っ白になっている俺は、簡単に彼の腕の中に引き入れられてしまった。

「私は、君の力になりたい」
力に、なりたい・・・か。

「ウォーリア、俺は・・・誰かに守られなければいけないくらい、弱い存在かな?」
心の中にある不安を、そのまま口にしてしまった。

「君は決して弱くはない」
静かな声で、彼はそう言う。

「でも・・・」
「ただ、誰だって一人で持てる力には限界がある。
君は、決して弱くはない。
力が欲しいなら頼って欲しい、君は一人じゃないんだ。
それとも・・・私の方こそ、君の力になれない位に弱いんだろうか?」
「そっそんな事は!」

驚いて顔を上げると、寂しそうな、悲しそうな彼の目が俺を見ていた。
彼だって、弱い部分を持ち合わせているものなのか・・・。
「貴方は、すごく強い」
他人に、弱い自分を悟られる事を躊躇わない。

もし、貴方が力を必要とするのなら・・・。
「ウォーリア、俺も・・・貴方の力になれるかな?」
「勿論だ」
そうやって、強く頷いてくれる声に安心する。
夢に捕らわれている思考が、正常に戻る。


目が覚めてしまえば、夢は儚く消える幻想。
それに捕らわれてしまってはいけない。
例え、真実という強い魔力を持って惑わされたとしても。
現にあれば、全ては幻。
それを現実にさせない事こそが、俺を生かす道になる。
だから、はっきりと受け止めなければいけない。
今目の前にある、“現実”を。


「ウォーリア」
「何だ?」
野営地へと帰る道すがら、隣を歩く彼に問いかける。

「あの・・・さっき、俺の事を・・・その、好きだって言ったのは・・・」
仲間として、なのか、それとも・・・。
「恋慕っている、方だな」
やっぱり、そうなんだ・・・。

「あの・・・返事は」
「考えてくれるのか?」
「ああ、当たり前だろ?」

一応、こういう事には誠意を持って返答すべきだと思う。
うん?でも、同性って・・・それだけで断る要因に、できるよな・・・。
しかし、相手が本気ならそれだけで断るっていうのも・・・って、待て。
了承して、俺・・・どうする気なんだ?

「そうか、なら君の答えが決まったら教えてくれ」
「ああ・・・分かった」
俺の心の中の葛藤なんて理解されるわけもなく、ウォーリアはちょっと微笑むとそう言った。

現実は、時に夢よりも現実離れしている・・・なんて言葉を思いついたけど。
全然、笑えなかった。

あとがき
終わりです、結局結ばれてないとか・・・。
そして書いてて気付いた事ですが、自分はどうやら抱きしめるという行為が好きなようです。
っていうか、書き手の恋愛経験値が低い為でしょうか。
大した絡みにならないので抱きしめさせてみる、というのがパターン化してます。
このままでは・・・まずいですね。
誰か!誰か恋愛小説の書き方を教えて下さい!!
2009/3/1
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