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見上げれば、天高く輝く月
君は月が好きだったな…よく一緒に眺めたものだ

そんな過去の記憶に、溜息をつく
手の中にはの金属は、握り過ぎて冷たさを失った

熱い、熱せられた金属

君は今、どこに居る?

Nocturnus 〜 where are you do 〜

その男には、普通の人間からは感じられない別の力を感じた。

教会の騎士、というのは異教徒との抗争において、教会を脅威から守る為にある組織である…というのは、基本的に表向きの風評である。
いや、実際にそれも我々の務めの一つなので、決して間違いではない。
だが、それだけでもない。

我々は、異教徒のみならず神に反乱する異分子を片付ける、エクソシストとしての務めも兼任している。
教会を守り、市民を守る為には悪魔払いの力も時には必要になるからだ。
人の心は弱く、悪魔はそこに漬け込む術を多いに持ち合わせている。
それでいて、彼等の力というのは、巨大過ぎて生身の人間では太刀打ちできない。
そんなものを味方に付けられてしまっては、我々とて歯が立たないのだ。
ならば、それに対抗する力を身につけてしまえばいい。

我々、聖教徒騎士団はそんな特別な一団なのだ。


「ねえ、ウォーリア…ちょっといいかな?」
教会内の廊下を歩いていた私に、そっと背後から声を掛ける男。
「どうしたんだ?セシル」
振り返って、幼馴染の神父にそう尋ねる。
彼は少し話し辛そうに視線を泳がせた後、私にそっと切り出した。

「実は…フリオニールに、お使いを頼んだんだ」
「……こんな時間に、か?」
日も暮れて、夜も深まろうという時間帯、子供が一人で歩くには少し物騒だ。
「それだけ、僕達も彼を信用してるって事だよ。人としても剣士としても、彼は出来た人物だから」


それは確かにその通りかもしれない。
彼だってもう18歳なのだ、もうほとんど大人と変わらない、周囲からの人望も中々厚く、教会の神父達も彼の熱心さには感心している。
それだけではない、鍛錬を続けている剣術にしたって、今じゃあ聖教徒騎士団の下級兵士よりも上の腕前を持っていると、私自身は感じている。
彼には中々剣の才能があるのだ。
だから、信用できる人物なのだと言われても、首を縦に振れる。


「それで、フリオニールがどうかしたのか?」
「……実は、まだ帰って来てないんだよ」
なんとなく予想はできたけれど、その予想がそのまま的中してしまい、私は心の中で小さく溜息を吐く。

「それで…?」
「…実は、さっき隣町の悪魔払いの使いが来たんだ」
急に話が変わって、私は一瞬自分の思考が現状に付いて来れなくなった。

「悪魔払い?」
ああ、嫌な予感というものはここま当たるものなんだろうか?

「実は、高位悪魔が現れたらしいんだ…それで、此方の教会の悪魔払いに急遽、応援を頼みたいって…」
「……誰が行ったんだ?」
「シスター・シャントットと、彼女の護衛者の…」
「ああ、あの二人か」
あの二人が応援に向かったというのならば、多分大丈夫だろう、だけど。

「フリオニールが、その事件の渦中に巻き込まれたかもしれない…と?」
「まだ帰って来ない所を見ると、どうしてもね…それで、君にお願いがあるんだ」
「探しに行けば、いいんだろう?」
彼が何か言う前にそう切り出すと、彼は苦笑して「話が早くて助かるよ」と言った。

「直ぐに向かおう」
「ありがとう、残念ながら…僕は一緒に行けないんだ」
それはそうだろう、シスターの居ないこの教会を守るには、少しでも力のある聖職者が必要になる。
彼には彼の役目があるのだ。

「無事を祈っているよ」
「私ではなく、フリオニールの無事を祈ってくれ」
それだけ言うと、私は踵を返して彼の前から立ち去った。
なんとなく、胸の中に嫌な予感が渦巻いたまま、私は教会を後にした。


教会の者だ、と悪魔払いに証拠である騎士団の紋を見せると、町の中には入る事ができた。
「しかし、一体どんな用なのか知りませんが、歩く時は気を付けてください」
高位悪魔が、まだどこに潜んでいるのか分かりませんから…とその悪魔払い(まだ見習いなんだろう、正規の制服は着ていない)が私に忠告した。
そんな事は分かっているのだ、それよりもずっと問題になる事がある。
彼の安否だ。

いつでも抜けるように剣を腰に差したまま、痛めつけられた町の中を歩く。
酷い有様だった。
そこら辺に、無造作に人の死体が投げ捨てられている。
窓に血液が飛び散っている、あの部屋の中は血の海なんだろう。
現れたのは一体何だったのか、そう尋ねるとあの少年は「吸血鬼だ」と教えてくれた。
人の血を喰らう、鬼の種族…人の生き血を得て永遠に生き続ける者達。
そんな者に彼が、襲われてしまったならば…。
いや、そんな事は考えてはいけない。


「神とは一体何者なんだろうか?その答えを持っているかな?」
そんな声がして、驚いて後ろを振り返る。
そこに居たのは、黒い衣装に身を包んだ細見の男。
長い銀の髪が印象的な優男が、私の方を見つめる。

「何の用だ?」
警戒しつつ、彼にそう質問する。
教会の人間ではない、悪魔払いの類でもなさそうだ…。
ならば、今この町に居る者としては…彼は闇の住人の関係者だと疑うべきだろう。
実際、彼からは僅かであるが人外の力を感じる。

「私は…神を信じてはいない、それでも…ソレは確かにこの世界に存在するのかもしれない、だが…それが何故人を導く存在なのか?
人が都合よく作り出したものなのか、それとも、本当に我々の創造主なのか…」
男は私の質問には答えず、独り言のようにそう言う。
「何の用なのか、と私は聞いたのだが…」
「君は、神の存在を信じているのか?」
全く会話になっていない。
「我々を最後に救う者があるというのならば、勿論それは神だろう」
そう男に返答すると、彼は薄らと笑みを浮かべた。
気味の悪い男だ、私はそう思った。

「神は誰も救わない」
ようやく、男が私にまともな言葉を返した。
「何故、そんな風に断言できる?」
「できるとも、救われなかった者を私は知っている」
そう言うと、男はおもむろに自分の衣服の中から何かを取り出して私へと差し出した。
「これを持っていた人物は、神には救われなかった」
そう言って笑う男の手に握られていたのは…。

私が、私の探し人へと贈った、赤い石の付いたアミュレットだった。


自分の怒りが、感じた事のないくらいに高まっていくのを感じる。
「貴様、フリオニールに何をした!?」
腰に下げていた剣を抜いて、相手に付きつけると私は叫び彼に言う。
一体、私の大事な人間をどうしたというのか?
「絶望を、見せてあげただけだ」
男はそう言うと、アミュレットを離した。

高い金属音が、石畳の上に落ちて響く。

「彼はどこに居る?」
「行ったって、もう手遅れだと思うが…それより、君は君自身の心配をした方がいい。
直に君も、絶望を見る」
そう言うと、男もどこからか剣を取り出して構える。
一層強まる、人外的な力。
だけど、普段相手にするような悪魔のような力とは少し違う。
なんというのか、感じた事のな異質な力だ。
一体、この男は一体何なんだろう?

「貴様…一体何者だ?」
そう尋ねると、男はフッと自嘲気味に笑う。
仮面のような笑顔だと思う。
人の手で作り上げた、整い過ぎた笑顔。
ちゃんと綺麗に笑えないものが、作った笑顔。
そんな風に映る。
気味が悪い、同じ人間として…それとも。
同じ、人間ではないのか?

「私はセフィロス…救いを与えない神を、裏切った男だ」
彼はそう言うと、私に向けて剣を振った。
その斬撃を受け、私は後ろに後退する。
「意味が分からないな」
「分からなくて構わない、私は誰かに理解してもらおうなどとは、思っていない」
静かにそう言うと、大勢を立て直して再び私へと向かう。

冷静に向かわなければいけない。
例え、相手が自分の大事な人を、その手にかけたのだとしても…いや、それならばもっと冷静に動かなければいけない。
確実に相手を片付けなければいけない。
「何故、私の友人に手をかけた?」
相手と剣と剣で向かい合いながら、私はその男にそう尋ねる。
「神は人に絶望しか与えない、ならば…誰が与えようと同じだとは思わないか?」
「何を言っている?」
「意味なんて理解できなくていいさ。
死ぬ間際に、きっと理解できる」
救いなんてないんだ、と…。
彼の声が冷たく響く。

一瞬、見間違いかと思った…。
その男の背に、黒い片翼があるように見えたからだ。
勿論、それは人が持てるものではない。

人外の魔物ではない。
だけど人間でもない。
だとしたら…彼は一体何者なんだ?


「止まれ、異教の者よ」
そんな声と共に、私と向かいあっていた男の周囲に結界が張られたのが分かった。
悪魔払いの手による結界だ。
「よくやりましたわ、ガブ、ラ……まあ、名前なんてどうでもいいのです」
通りの向こうから、高笑いと共にそんな言葉が飛ぶ。
「シスター」
「お下がりなさい、彼は貴方の手に負える相手ではなくてよ」
そう言うと、彼女は逆に私の前に現れる。

我々人間よりも体格の小さい彼女。
かつて、高位悪魔との争いに勝ち、その呪いで姿を変えられてしまったシスター。
元老院の、最高位悪魔払い。
シスター・シャントット、その人だ。

「全く、吸血鬼を狩りに来て、思わぬ相手と出くわしてしまいましたわ」
彼女はそう言うと、結界に捕らえられたままの男を見つめる。
さっきのは見間違いだったのか、彼の背には今は翼はない。
「貴方ですわね、異教の実験台となった哀れな戦士というのは?」
彼女の問いかけに、男は薄く笑った。
「実験台になった覚えはない。私は私の意志で神を裏切っただけ、それだけだ」
彼はそう言うと、結界の壁に手を触れた。
「貴方!決して逃してはなりませんわよ!!」
彼女がそう叫ぶのと同時、男は簡単にその結界を破った。
その背には、やはり片翼の翼。

彼は無言で私を一瞥すると、その場から消えた。
一瞬で、消えてしまった。
一体、どうやって?
そんな事はいい。
彼は、我々人間とは、どうや遠くかけ離れてしまった存在らしい。

「まったく、一体何をしていましたの!?」
「申し訳ございません」
彼は彼女に頭を下げているが、別に彼に非があるわけでもないだろう。
逃げられてしまったのは、事実だけれど。

私はその男が置いたままにしていったアミュレットを拾い上げ、その場から立ち去る。
彼の生死、それを確かめなくてはいけない。
そう固く誓って、私は走り出した。


その夜、私が見つけられたのは彼の使っている剣、それだけだ。
彼の躯は、結局見つからなかった。
あったのは、鞘の抜かれた剣と、その地面に零れ落ちた、乾きかけの血液だけだ。
彼の遺体は、どこにもなかった。

持ち去られた?
どこに?また、どうやって?どうして?
今、この町には教会の悪魔払いと家の中で震える市民しかいない。
出歩いていた者は、間違いなく、その命を奪われた事だろう。
それくらいの被害者が出ている。

なのに、彼はどこにも居ない。
どうして?

これでは、泣くに泣けない。

「君は、今どこに居るんだ?フリオニール?」

あとがき

久々に登場ウォーリアさん、あの人はその時という事で…。
アレ?何でシャントット閣下が出てきたんでしょう?いや作者がどうでしょうはないですね。
そろそろ人物に関する質問を頂くので、人物設定アップします。

次回はフリオと皇帝様に戻ります。
ちゃんと進めなければ、当初の予定より進度が遅くなってる…。
2009/9/6

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