「久しぶりに皇帝と刃を交えた。
「どうした?もう終わりか?」
「まだまだ!!」
皇帝の仕掛けたトラップを掻い潜り、相手に刃を向ける。
相手を殺そうとする二つの意思が、ぶつかり合う。
恋は闇
殺されるかもしれない、何て思う位にこの男と向かい合ったのは久しぶりだ。「はぁっ!」
魔法攻撃を掻い潜り、相手に向けて斬撃を繰り出す。
すっと身を引いてそれを避ける皇帝。
その顔に、ふと人の悪い笑みが浮かんだのを見て背後を振り返る。
俺の背に向かって飛んできた魔法攻撃を、何とかぎりぎりの所で回避する。
攻撃によって巻き上がった煙によって、視界が塞がれる。
「ッチ」
視界の悪さを何とかしようと、すぐにその場から離れる。
相手の姿を視界の端に捉えた瞬間に、弓を引く。
放たれた矢が相手を貫く。
「勝負、あったな」
「・・・・・・そのようだ」
俺の剣が相手の喉下へ向けられる。
ちょっと力をかければ、その首を取れる。
だけど・・・・・・。
「どうした?殺さないのか、私を?」
相手に剣を向けたまま、硬直して動けない。
憎い相手ならば、躊躇わずにその剣で貫いてしまえばいい。
それだけで、相手は息絶える。
なのに、できない。
体が拒絶している。
一体どうして?
「フリオニール」
「・・・・・・」
「どうした?私を殺さないのか?」
「俺は・・・」
「殺さないというなら、この剣を引いてくれないか?
想い人に剣を向けられるというのは、あまり良い気分ではない」
なら、どうして闘いを挑んできたんだ?
そう思ったが口には出さず、相手に向けていた剣を鞘に戻した。
その瞬間に、相手の腕が伸びたのを見て咄嗟に身構える俺に、皇帝は苦笑いする。
「私に触れられるのは、嫌か?」
「今まで、殺し合いをしていた人間だぞ?」
「・・・そうだな」
しかし、再び伸ばされたその腕を、今度は拒絶せずに受け入れた。
どうして?
「お前を愛している」
その台詞に、胸の奥が疼く。
「その台詞、そろそろ聞き飽きたぞ」
相手から視線をできるだけ外してそう言う。
「そうだな、しかしこれ以外に人に最上の好意を伝える言葉はないだろう?」
「・・・よくそんな事平気で言えるな」
「何を?」
「もういい」
太陽が沈み、辺りはもうほとんど暗闇に包まれている。。
闇、この男がその身の内に抱くもの。
光の戦士である俺とは対極の存在。
「この闘いは、何時まで続くんだろうな?」
「いきなり何だ?」
そっと俺の髪を触りながらそう呟く。
「いや・・・この闘いが終わる時どちらかが消滅してしまうなら・・・
このまま終わらなければいい、そう思ってな」
「それは、困る」
永久に戦争を続けようというのか。
終わりのない戦いなんて、全くの無意味だ。
そんな闘いなんて、できない。
何か、目標がないと・・・俺達は剣を取れない。
「しかし、剣を取って闘うなら。結局はどちらかがどちらかを殺さないといけないんじゃないか?」
「その時は、それでいい。
どちらかが未来永劫、相手のものになれば」
・・・そう思うなら、今ここで殺されれば良かったのに。
「今、ここで殺してしまえば良かった、と思ったか?」
「えっ・・・」
どうして分かったんだろうか?
心の中を見透かされたようだ。
「・・・本当にそう思ったのか?」
「お前と俺は、敵同士だろ?」
相手を殺そうと思ってもおかしくはない。
実際さっきまで生死を掛けた闘いをしていたんだ。
今こうやって、相手と抱き合っているような状況の方がおかしいだろう。
「しかし、今お前は私を殺せなかった」
「そうだけど」
「その理由は、何なのか分かるか?」
「さあな」
ほんのちょっとした心の揺れ。
剣先の迷いを生んだのは・・・。
「私の事を、想っているんじゃないのか?」
「まさか!」
「しかし、今お前はこうして私の腕の中に居るだろう?
殺す事だってできたのに、こうして私に止めを刺さずに」
どうして、と聞かれても分からない。
暗闇でほとんど見えないけれど、相手が笑っているのは気配で分かった。
「いい加減に離せ」
相手の胸を押し返してそう提言する。
いくらなんでも誰かに見られたら、まずいだろう。
「それは、できない」
「でも・・・」
「気にするな、この闇の中では誰にも私達の姿なんて分からないだろう」
俺の願いは簡単に却下され、それだけじゃなく、抱かれていた腕に更に力が込められた。
自分の意見なんて、この男が聞き入れてくれるわけがない。
この状況を打破する方法がないなら、諦めて相手の好きなようにさせるしかない。
「この後、お前は仲間の元へ帰るのか?」
「当たり前だろう」
そこ以外、一体どこに戻るというんだ?
「このまま、私の元へ来る気は無いか?」
「ありえない」
「そうか・・・
このまま、連れ去りたいな」
最後の言葉は小さくて、聞き取り難かったが、確かに皇帝はそう呟いた。
驚いて相手の顔を見る。
暗闇で表情は見えない。
「皇帝・・・」
今の言葉は、本気なのか?
「お前を私の元に繋ぎとめて、他の誰にも二度と会わせたくはない」
俺の耳元で、そう話す皇帝。
くすぐったくて身を捩るが、相手から逃げられない。
皇帝の声が本気なような気がして、ふと怖くなった。
「安心しろ、そんな事はしない」
また、俺の心中を見透かしたように皇帝はそう言った。
「・・・どうして?」
「お前が、私の手の中へ堕ちる未来が私には見えているからだ」
その台詞に、体が震える。
この男は、本当に俺の心の中を見透かしているんじゃないかと思う。
口に出さないだけの、出したくない俺の心中を、その瞳は捕らえているんじゃないかと思う。
そうでなければ、説明が付かない。
俺ですら理解し難い自分の気持ちを、この男が察する事ができる理由なんて。
「お前の口から、何時か必ず言わせてやる。
私を、愛していると」
「止めろ」
胸の動機が止まらない。
この腕から早く逃れたい。
そうでなければ、この胸が間違いなく壊れる。
「どうした?顔が熱いぞ」
「ちょっ!!触るな!」
頬に触れた相手の腕を振り払おうとするが、その手を取られる。
「照れてるのか?」
「何に照れて・・・」
「嘘を付くな」
そっと、男の顔がさっき以上に近付くのを感じる。
視覚では無く、相手の気配で近付くのが分かる。
この前とは違い、唇に重ねられる。
初めは軽く、そして段々深く。
「ふぅ・・・っ!ん、んん!!」
経験のない深いキスに、身を捩る。
何とか逃れようとするも、しっかりと抱きしめられている為に逃れられない。
熱い相手の舌が自分のものに絡められる。
初めての経験に、どうしたらいいのか分からない。
くちゃ、くちゃ、という水音がやけに耳にいやらしく響く。
息苦しくなってきて、相手の胸を叩く。
もう、限界だった。
名残惜しそうにゆっくりと離れていく、唇。
「はぁっ!はっ・・・はぁ・・・・・・」
「・・・そんなに激しかったか?」
これだけ呼吸を奪い合うようなキスをしていながら、どうして皇帝は呼吸が乱れてないんだ?
これも・・・・・・経験の差か?
「怒らないのか?」
「怒ってるだろ!!充分」
「しかし、今までのお前ならばここで確実に私に斬りかかってるだろう?」
それは、確かにそうだけど・・・。
「お前に逆らったって、どうしようもないだろ・・・
それに・・・どうせ、誰も見てないし」
「そうか、なら・・・このまま私に抱かれるか?」
「調子に乗るな!」
どんっと、相手の胸を押して離れる。
「まったく、お前は初心だな」
「黙れ!!」
満足そうな満面の笑みを浮かべている事が、目に見える。
「もう・・・もう、俺は行く」
皇帝の腕から離れられたので、相手に背を向けて急いでその場から離れようと走りだす。
「今度会う時は、陽の光の元で、お前の顔を見ながら触れ合いたいな」
楽しそうにそう言う皇帝の声が後ろから聞こえた後、男の気配が消えた。
おそらく、魔法で移動したんだろう。
知っているだろうか?
恋は、暗闇の中での方が上手くいくものなんだ。
誰にも見られないし、誰にも邪魔されないから。
陽の光の元で、なんて無理に決まってるだろ?
お前と会う時は、闇の中で・・・。
それが分かってるからこそ、きっとああやって近付いてきたんだろうな・・・。
「チクショウ」
仲間の元へと急ぎ向かう俺の胸中に渦巻くのは、皇帝の台詞。
『お前の口から、何時か必ず言わせてやる。
私を、愛していると』
本当に、もう・・・いい加減にしてくれよ。
心臓に悪い。
ぱたりと止まり、、深く触れた唇をそっと指で触れる。
「何時か・・・か」
そう、遠くないかもな・・・なんて思った自分の思考を振り払い、走り出す。
ああ!!もう。
恋って奴は!!
あとがき
一応完結です、終わって物凄く嬉しいです。
何なんでしょうね?この終わり方は、結局結ばれてないですよ、ハッピー(?)エンドですよ。
でもまあ、フリオもそこまで許せるならほとんど結ばれたも同然なんですけどね・・・。
やっぱり、皇帝は鬼畜でドSな方がいいですかね・・・。
精進します。
2009/2/28
一応完結です、終わって物凄く嬉しいです。
何なんでしょうね?この終わり方は、結局結ばれてないですよ、ハッピー(?)エンドですよ。
でもまあ、フリオもそこまで許せるならほとんど結ばれたも同然なんですけどね・・・。
やっぱり、皇帝は鬼畜でドSな方がいいですかね・・・。
精進します。
2009/2/28