いのち短し

恋せよ…

命の灯火を…

ふわり…ふわり……と辺りを飛び交う光の群れ。

「うわぁ……凄いな」
「そうだろう」
俺が驚いたようにそう呟くと、相手は満足そうにそう答えた。


「少しいいか、行きたい場所があるんだが」
食事の後片付けを終えた俺に、彼はそう声をかけた。
「行きたい場所って、どこ?」
「それは、悪いが秘密だ」

そう言って、ウォーリアは悪戯っぽく微笑んだ。
真面目な相手の珍しい表情に、俺は少し呆気に取られてしまう。
一体、何を企んでいるのか…。
しかし、偶にはこの真面目な戦士の企みに乗ってみるのも面白そうだ。

「分かった、行く」
ちょっと微笑んでそう言うと、相手は「じゃあ行こうか」と俺を促した。


そして連れて来られたのが、この湖。

昼間も周囲を通ったのだが、その時は涼しげなただの湖だった。
綺麗に咲いた蓮の花が、とても綺麗だったのを覚えている。

夜になって闇に沈んで暗くなった湖に、今は白い月灯りが映っている。
湖の周囲には、ふわりふわりと漂う蛍達の群れ。
今日の空が快晴だったのも相まって、満点の星空が地上に落ちてきたみたいだ。

「蛍が居るなんて、どうして知っていたんだ?」
「昨日、見回りの時に偶然見つけたんだ……君と見たいと思って」
俺の髪にそっと手を伸ばし、毛先を弄びながら彼は微笑んでそう言った。

真っ暗な森の中を歩いていた時は、一体どこに行くんだろうか…と不安になったが、しかし、それも僅かなものでしかなかった。

相手が他でもない、ウォーリアだったから。

危険な場所に行くなら、事前にそう言ってくれるだろうし…もし、何か危ない目に遭っても大丈夫だと思う。
それは全て、この人と一緒だからだ。

「偶には、闘いの事なんて忘れて、君とゆっくり過ごしたかったんだ」
「貴方でも、そんな風に思うものなんだな」
そう俺が呟くと。

「私には闘いしかないと?
…そんな風に映るかな?」
少し寂しそうに、ウォーリアはそう言った。

確かに、初めて会ったばかりのウォーリアは記憶もなく、ただ剣を握り戦場に出る事しか頭になかったかのように思える。
なんていうか…人として、どこか感情が足りていないような…そんな感じ。

でも、今は……。

彼は人としての感情を持ち、笑い、怒り、時折、寂しさや悲しさを見せたりもする。
ああ、生きているんだ…と思う瞬間。
俺達と同じ、人として。
記憶がなく、ただ闘いの中でしか生きる事のできなかった彼は、人として生きる喜びを彼は再び手にできたんだ。
普段は真面目で厳格な彼の、ふとした瞬間に見せる表情の変化や感情の変化に、俺は嬉しく思いながら見守っている。


彼の隣で…彼の大切な存在として。


「ごめん、別にそんなつもりで言ったわけじゃないんだ」
しゅんとして相手に謝ると、ウォーリアはさして気にしていなかったようで、「分かっているさ」と軽く受け答えた。

くいん…と彼は俺の弄んでいた髪を引いた。
「何?」
そう尋ねると、彼は真面目な顔をして俺を見つめ返した。


「フリオニール、君が好きだ」


そんな彼の真面目な告白に、俺は数週間前の彼の告白を思い出す。

そう、あの日もこんな風に彼は真面目な顔で、俺の目を見てそう告げた。
途端に顔中に血が上ってきて、動悸が酷く激しくなった。
恋なんて…した事なかったから……どうしたらいいのか分からなくて。
真っ直ぐ射抜くような相手の視線に、恥ずかしさを覚えながらも…俺は、確かに相手の問いかけに答えを返したのだ。


俺も好きです、と…。


「なっ!……何、急に!?」
突然の告白に、俺はあの時のように顔に血が上るのを感じた。
きっと、今俺の顔は真っ赤なんだろうな…そんな風に思いながら、相手を見返す。
すると彼は、真面目だった表情を崩して穏やかに微笑む。

その顔に、俺の動悸がまた早くなる事を彼は知っているだろうか?
その綺麗な微笑みが、俺は好きなんだ。

「彼等は、自分の恋を成就させる為に一生を費やすと聞いたのだ」
彼等という言葉に、俺は周囲をふわふわと飛び交う蛍達を見た。

そうだ、彼等の光は自分の恋人を探す為の灯りなのだ。
そして、恋が成就する頃には彼等は命を散らす。
生きている、最後の光。

「彼等を見ていたら、思わないか…我々も必死に生きなければいけない、と…」

そっと見上げる先、彼の視線を追えば蛍達の光と共に視界に入る星空。
境界線を忘れそうになってしまう、そんな光景に、俺は見惚れる。

「彼等は、愛する者の為に生きるのだろう?
私も、大切な人間の為に生きようと思う……君の為に」
そんな彼の言葉に、俺はただ閉口するしかない。
よく、そんな恥ずかしい台詞を平気で言えるな…なんて思ったけど、そう言ったって彼はどうせ「これが私の本心だ」とでも、恥ずかしげもなく言うに決まっている。
何て言ってやろうか、と画策する俺の肩に、ウォーリアは腕を回した。

「ウォーリア…」
「二人だけだ、気にするな…周りも皆、恋人同士だろう?」

負けてられない、と彼は悪戯っぽく微笑んで、俺に優しくキスをした。

「っ!!ウォーリア!!!!」
「恥ずかしがるな…まあ、初心な所も可愛いが」

ああ、こんな意地悪なところも可愛いな…なんて思ってしまったら負け、だよな。
恋なんて、こんなものだろうけど。
でも…それって、悪くない。


「彼等の分まで、我々は生きないとな…」
愛する者の為に。
ウォーリアの呟きに、俺は「そうだな…」と小さく頷く。


“いのち短し、恋せよ…”


彼等はきっと、そう言うだろう。

短い命の間に、必死に必死に相手を愛せと。
俺達よりもずっと短い命の彼等は、命の灯火を燃やしながら、そう伝えている。

なら、俺は必死に生きよう。
自分の想いを胸に抱いて。
愛する人の為に…。

「好きだよ、ウォーリア」
俺達が一緒に居られる時間が、あとどれくらいあるのか分からない。
だから、その時間を無駄にしないように。
必死に生きよう。
愛する人よ…。


“今日はふたたび 来ぬものを”

あとがき

やっぱりいいですね、WOL×フリオ、甘い話は久しぶりかな…?
そうでもないですか?
っていうか、WOL×フリオが久々ですね、別にWOLが嫌いになったわけじゃないですよ、他のキャラとの絡みが最近凄く美味しいだけです。

季節ネタなら、夏祭りやればよかったな…今日は天神祭りで、町に浴衣来た人が溢れ返ってました…。
ええ、夏を満喫したいんです、ただそれだけですとも。
2009/7/25

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