俺は、アンタの全てが欲しい…。

誰より愛する兄貴へ…

初めて触れた兄貴の唇は、想像以上に柔らかく、どこか甘い。

「んっ!!んん…」
何とか俺の腕から逃れようと、必死に抵抗する兄貴を逃すまいと、抱き寄せる腕に力を込める。

双子だからって、何でも互角なわけではない。
昔から、俺の方が兄貴よりも腕力では勝っている、それを知ってるから兄貴は俺と無闇に喧嘩なんかしなかった。
いや、それは兄貴が俺よりも優しく、何時だって一歩引いてくれていたからかもしれないけど。
でも俺の方が兄貴よりも強いのは、変えられない事実だ。
それは、今も一緒。

少し開いていた兄貴の口内へ、俺の舌を滑り込ませる。
「っふ…ぅんっ!!」
ビクリと大きく揺れる肩。
ああ…そっか、兄貴“初めて”なんだっけ?
口内を逃げる兄貴の舌に、自分のものを絡ませながら、ふとそんな事を思い出す。

クチュっという水音とぬるりとした舌の感触、それが気持ちよくて貪るように絡める。
力が抜けたのか、俺に縋りつく兄貴の体をしっかりと支えてやると、僅かに俺の服を握っていた手に力が篭る。


そうだよ、俺を求めてよ…兄貴。


ただ、俺達が人間である以上肺には酸素が必要だ。
初めての兄貴には、息継ぎなんてできないようで、息苦しくなったのか俺の腕の中で再びもがきだす。
本当はもっと味わいたいけれど、仕方ない。
チュッと音を立てて唇を開放すると、俺達の舌先に銀の糸が繋がって落ちた。

「っは!!…はぁ、はぁ…」
肩で荒く息をしながら、俺を睨み付ける兄貴。
どんなに怖く見せるように睨んだって、上気した頬に潤んだ瞳が色っぽく映る。
怖くなんてない、むしろ…もっと虐めたくなる。

「な…に、するんだよっ!!」
赤くなってそう叫ぶ兄貴に、俺はニヤリと笑いかける。
「今言ったじゃん、兄貴」
そう言って相手へと一歩近付くと、兄貴は怯えたように一歩後退する。

「俺は兄貴の事好きなんだ…恋愛対象として」
「ふざけるなよ!!俺達、兄弟なんだぞ…」
分かってるさ、そんな事、よく分かってる。

「だから何だよ?」
「だからって…普通、こんな事許されない」
「ああ、そうさ!!だから言えなかった!今の今までずっと!!隠してきたんだよ、俺も…でも、もう限界だ」


今まで内に秘めていた想い。
誰よりも、愛しい兄貴へのどこまでも深い愛情。
恋愛対象としての、ソレ。
日増しに募るその想いを、これ以上、留める事ができない。


「兄貴が欲しい」
更に一歩近付き、兄貴へと手を伸ばす。
「えっ!!ちょっ…待って」
触れられる寸前、後退する体と驚愕と怯えの見え隠れする瞳。

待つわけが、ないだろう。

力任せに、相手を床へと押し倒す。
思いっきり体を打ちつけた事で、痛みに呻き声を上げる兄貴。
その体の上に乗り上げ、相手の動きを防ぐ。
下から見上げる怯えたような兄貴の瞳に、俺は笑い、再びその柔らかい唇を塞ぐ。
ビクッと強張る体。
いかに色恋や、こんな行為に免疫のない兄貴であっても、この状況で何が起こるか分からない程、無知ではない。
怯える兄貴の咥内を舌で荒らし回り、チュッと軽い音を立てて離れる。

俺は笑みを深めて、兄貴のシャツの合わせ目に手を掛ける。
「っ!!」
外すのを止めさせようと、兄貴の手が俺の手首を掴んだ。
ろくに力も入らないクセに…でも、邪魔するつもりだっていうんなら、こっちだって力に頼らせてもらうぞ。
兄貴のシャツの合わせ目に手を掛けて、思いっきり引き裂く。
ビリッという音と共に、兄貴のシャツのボタンが飛ぶ。

「オイ!いい加減に止めろ!!」
「誰が止めるかよ」
兄貴の首筋に舌を這わせる。
そうしながら、相手の胸へと手を伸ばす。
やらしく撫で上げて、胸の飾りを摘めば「っぁ…」と、小さな悲鳴が上がる。
それに気分がよくなって、今度は首に吸い付く。


気持ちよく、してあげるからさ…ねぇ、兄貴。

一緒に堕ちちゃおうよ。


「ヤ…だ、やめて、くれ……よ」
悲鳴や喘ぎ声とは違うで、声。
ふと、埋めていた顔を上げる。

恐怖から零れ落ちる、涙。
止め処なく零れ落ちる、兄貴の涙に、俺の動きも止まる。

兄貴のこんな顔、久々に見た。

怯えたように涙を流す兄貴の顔に、俺の中で今まで高ぶっていた欲望が、潮が引くように遠退いていく。
その代りに、俺の中で沸き上がってきたのは、兄貴への罪悪感。

「なぁ…頼む、止めて」
泣いて懇願する兄貴。


何、やってるんだよ…俺。


「…悪かった……」
そう呟いて、相手の上から退く。
「…っえ……」
拍子抜けしたようにそんな声を上げて、俺を見返す。
その瞳から逃れるように、俺は視線を外す。
自分がした事の重さを、今更になって自覚する。
…本当に今更だ。
謝ったってしょうがない、この溝はもう埋められない。

「俺、出てく」
「っえ?どこに?」
「この家から、出て行く」
「どうして!?」
床の上から起き上がったばかりの兄貴は、まだ止まらない涙を瞳に溜めたまま俺を見る。
その悲しそうな顔に、俺の良心が痛む。

「兄貴だって分かっただろ?俺は兄貴に対してこんな感情持ってるんだ、ここに居たら…また、いつ兄貴を押し倒すか分からない」
だから、ここに居ちゃいけない。
一番愛する兄貴を、俺がこの手で傷付けないように。

「っでも!!」
俺の身を案じてくれているのか?兄貴。
優しいよな、本当に…自分を犯しそうになった男の心配するなんて。

でも…その優しさに、今回ばかりは甘えられない。

「受け入れられるのか?兄貴、俺に犯されるかもしれないんだぞ」
冷たい、感情を押し殺した声で相手にそう言う。
「っ!…そ、れは…」
自信無さ気に、兄貴は俺から視線を逸らした。
そうだよな、それが普通の反応だよな。
分かってるからこそ、俺は冷たく当たる。


優しくしないでくれ、勘違いしそうだから、
俺の事、許してくれるんじゃないかって、受け入れてくれるんじゃないかって……そう。

兄貴、いくら兄貴が優しくても…この溝はもう、埋まらないよ。
知られてしまった以上は、もう。


「ごめんな、兄貴…本当に、ごめん」
そっと兄貴の頭へ向けて手を伸ばす、それを見て怯えたように兄貴は体を強張らせた。

ほら、怖いんだろ?俺の事。
なら、最初から言えよ…馬鹿だな。

「大丈夫だよ、兄貴…もう何もしないから」
きっと、信じてくれないだろうけど。
でも本当だから。
だから、出て行く。


「じゃあな、兄貴」
最後に、そっと微笑んで俺は兄貴の目の前から立ち去った。


to be continued …

あとがき

アナザー×ノーマルフリオ、現代パロ第3話終了。
アナザー君は本当は良い人なんですよ、耐え切れずに襲っても、お兄ちゃんの本気泣き顔には勝てません。
こんな顔、久々に見たと彼が言ったように、ノマフリの泣き顔には特別な思い入れがあるのです。
それはまた後日…と言って延ばします。

今回、この話を表に置くか裏に置くかでものスッゴク悩みました、が…やっぱり多少なりとも絡みがあるので、裏の方に回す事にします。
R指定のはっきりしたボーダーラインが分かりません。
2009/7/18

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