憎い、憎い…
この身を裂いた、あの痛みを…俺は決して忘れやしない

例え、この身が滅びようとも
例え、アイツが全ての存在に許されたとしても
全能の神すらも、アイツを許したとしても…決して

決して俺は忘れない

例え、この世界が終焉を迎えようとも
俺を“墜落”させたアイツを、俺は決して許さない





Nocturnus〜 fall angel 〜

普段なら、この城にやって来る訪問者なんて興味がない。
どうせ、自分と同じく行き場を失った半端者と、そう大して境遇は変わらないだろうから。
だから普段は覗いたりなんてしに行かない。

だけど、今回は違った。

昨日、城主が連れ帰った時からずっと感じていた、彼の気配。
神聖で、近付き難いような…それで居て、側に居たくなる不思議な雰囲気。
不思議と人外の生物を惹き付ける、そんな魅力を持って生まれる人間が稀に居るとは聞いていたが、本物を見る事になるとは思ってもみなかった。
だが、俺が気になった理由は…そんな事じゃない。

あの青年からは、アイツの気配がしたのだ。

昨日見かけた一瞬で感じたのは、共鳴。
彼は、アイツときっと接触しているんだ。
だとしたら、一体どういう関係なのか…ただの人間が、アイツと会う事なんて中々ないだろう。
まさか…仲間とかじゃないよな……?

確かめないといけない。

そう思って、そっと様子を伺っていた。
誰かと一緒に居る時では、マズイ。
ソイツが仲間である可能性だってある、だから狙うなら一人の時だ。


「俺、もう少しこの庭見て回ってきます」
「そうか、まあ城主が連れて来た人間に何か危害を加えるような奴は居ないと思うが…用心しとけよ」
「分かりました、気を付けます」
この城に自分と同じように住み着いている男にそう答えると、例の青年は庭の奥地へと歩いて行く。

チャンスだと思い、そっと後を付ける。

気付かれないように、音を立てずに気配を殺して移動する。
庭の中に作られた石造りの朽ちかけた塔の付近に近付くに連れて、そっと相手への距離を詰める。
興味を持ったのか、青年がそっとその中へ足を踏み入れたのを見て、急ぎ、その中に入って相手を自分と壁の間に押さえ込む。

「なっ!誰だ!!」
「静かに、それと動くな」
相手の首元に、持っていた刃物を突きつける、少し怯えたように俺を見るがそれも一瞬の事で、「アンタ、何者なんだ?」と気丈な態度で俺を見つめ返した。

「俺の名はクラウド、アンタに一つ尋ねたい事がある」
「…人に、ものを尋ねる態度ではないと思うんだけど」
確かに、この青年の言葉は酷く的を射ているが…しかし、今はそんな事どうでもいいんだ。

「セフィロス、という名前の男を知ってるな?」
確信を持って、そう尋ねる。
すると、青年は瞳を大きく見開いて俺を見つめ返した。

「…あの男の、知り合いなのか?」
「俺が、最もこの世で憎む男だ…そんな事はいい、知ってるのか?知らないのか?」
そう尋ねると、しばらく時間を置いてから青年は俺の目を真っ直ぐ見つめた。
琥珀色の澄んだ目が、俺を見つめる。
こんな時に何を考えてるんだ、と自分でも思ったが、そんな事忘れさせるくらいに綺麗な目だと思った。

「ソイツは一昨日、俺を殺しかけた男だ」
そんな言葉が青年の口から紡がれるのを聞いて、俺はその真偽を一瞬考える。
一体何の為に彼を殺そうとしたのか。
目的は知らないが、彼も自分と同じあの男の被害者である事だけは確かであろう。

そして、彼から感じた共鳴の正体も分かった気がする。
この青年と自分は、同じ男の手によって、自分の存在を抹消されかけたわけだ。
昨日俺が感じた、この青年に僅かに残っていたアイツの妖力も、一日経って、もうすかり消え去っている。

「……すまない、手荒な真似をして」
首元のナイフを下げて、壁に拘束していた俺の腕から解放する。
「確かに、乱暴だったな」
「怪我、してないな?」
「そんなに弱くもないぞ、俺」
もっと怒ったっていいのに、青年はそう言って軽く微笑むと石造りの階段に腰掛ける。

「世界で一番憎んでるって、どうしてそんなに?」
「…………」
「言いたくないなら、言わなくたっていいよ」
色んな事情があるだろうし…と、青年は俺に優しく微笑む。
…天界に居た頃に見た、慈母の笑顔を思い出す。
いや、それ以上に、彼の微笑みから優しさや温かみを感じられるのは、今の俺が既に“墜落”してしまい、久しく優しさから遠ざかっていたからか。

「……昔、俺は天界の使いだったんだ」
「ジェクトさんが言ってた堕天使って、もしかして」
「俺の事、だ」
認めた後で、背中に仕舞っておいた自分の翼を久々に出す。
堕天した事で、純白だった羽の色が段々と黒く変色していく…。
その様子を見るのが辛くて、普段は仕舞ったままなのだが、今はこの翼を出してもいいと思った。
理由は、よく分からないけれど。
「俺を堕天として、天界から追放させられた理由を作った男、それがセフィロスだ」

もう、思い出したくもない…あの日。
俺は、あの男によって…地上へと引き摺り落とされた。
それから、二度と…天へ帰る事は許されていない。


何よりも、憎い男だ。


「会って、どうするんだ?」
神妙な面持ちで俺の話を聞いていた青年は、そう尋ねる。
「…アイツを殺したって、俺はもう天界へは帰れないんだ…こんな風に、誰かを憎んでしまった時点で、俺は神の使いとしては失格だ。
だが、そんな事はどうでもいい…俺は、アイツが単純に許せない、それだけだ」
そう言うと、青年は悲しそうな顔で俺を見返した。

「辛い事、聞いちゃったな」
「……本当の事だから、気にするな」
しかしそう言っても、青年はその顔を止めたりしない。
俺の翼へと手を伸ばし、そっとその羽に触れる。
「ゴメン」
「いや……」
そっと相手の腕を外し、翼を仕舞う。

「俺は、もう行くから。
手荒な真似して悪かった」
「行くって、どこに?」
「お前には、関係ないだろう?」
「そうかもしれないけど…」

どうして、そんな寂しそうな顔をするんだろうか?
俺に対して、彼は同情してくれている。
そんな瞳で見ないでほしい。

甘えたくなってしまうから…。

「……じゃあ、な」
「あっ!ちょっと」
相手の声を無視して、俺はその場から立ち去った。


興味がないなら、もう関係しなくったっていいんだ。
無視したって、別段、困る事はないのに。
なのに、「じゃあな」なんて、再会を臭わせる様な言葉が、口からついて出た自分が不思議だった。

きっと、彼の持って生まれた人外を惹き付ける魅力の所為だ。
心の底から、再会を望んでいるわけではない。
そう自分に言い聞かせ、俺はどこけへ向けて、羽を伸ばした。

後書き

吸血鬼パロ第八話…って、もうそんなに書いてるんですね。
居候のジェクトさんと中庭の木、エクスデスを登場させるのが目的だったんですが…この二人が一緒に居るところなんて、DFF本編でほとんど見た事ないですね…。
因みに、エクスデスはあの鎧ではなく本物の木です、よくジェクトがその上に登って昼寝してます、枝が折れると本人は怒ってます。

なんか、微妙なところで終わってしまってすみません、切る所を見失ってしまったのです。
次回もまた居候が出てきます、嗚呼…段々話が込みあってくる。
2009/7/11

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