彼等はこの世界の住人
でも、神が許さなかった存在
それでも、彼等はここに存在している
ひっそりと、息を潜めて
生きている
もしかしたら、俺達のすぐ側で…
Nocturnus
〜 lesident of darkness 〜
朝日が燦々と差し込んでいる城の中庭へと足を踏み入れる。
朝目が覚めたら、全てが夢で今日も俺は孤児院のベッドで寝てるんじゃないか…なんて思ったけど、それは儚い幻だった。
目が覚めたら、俺はあの忌々し吸血鬼の腕に抱かれたまま眠っていた。
「俺は、お前の活動時間に合わせるつもりはないぞ」
「そうか…なら、仕方あるまい…朝食はこの部屋に運んでこさせるよう手配する、その後はゆっくり過ごせばいい…まあ、歩き回って迷子になるような事があれば、日が沈んでから迎えに行ってやる」
絶対に迷わないようにしよう、そう俺が心に決めたのは言うまでもない。
「ところで、挨拶くらいしたらどうなんだ?」
「…おはよう」
「そうじゃない」
そう言ってひらひらと手招きする相手に釣られて、俺はそっと近付く。
朝起きてから頭が働いていなかったのか、それとも油断していたのか…。
あっさりと相手に捕まった俺は、流れるような動きで交わされらキスから、逃れられなかった。
過去に一度だけ感じた事のある、柔らかい感触に俺は思考が止まる。
「挨拶くらい、ちゃんとできるようになれ」
そう言って微笑む相手の顔を思い出して、何だか腹が立ってきた。
アレが挨拶なのは恋人同士の場合であって、俺達は決してそういう仲じゃないんだから、あんな風にキスなんてするか…。
家族や兄弟なら、頬とか額とかそういう場所に…って、アイツとはそんな親しい仲じゃないんだから、まずキスを交わす方がおかしいだろう!!
これからの生活が、不安で不安で仕方ない。
「ファファファ、この城に生きた人間が来るとは…一体、何年ぶりだろうな」
「えっ……」
どこかから響くような声に、周囲を見回してみるも、それらしい人影は見あたらない。
「誰?」
「儂じゃ、儂」
「えっ…どこ?」
声はするけれども姿は見えない、もしかしてどこかから隠れて俺の事を見ているのかと思ったのだが…。
「おいおい、普通の人間にアンタが話しかけて気付いてもらえるわきゃねえだろ」
ふいにそんな声と共に、ガサリと地面に何かが落ちる音がした。
音のした方を振り返ると、野性味溢れる男が立っていた。
黒髪で長髪のがっしりした体型の男、その筋肉が自慢なのかは知らないが上半身はほとんど衣服を身に付けておらず、そして何故か素足。
「よう」
見た目には、少し乱暴者にも見えるのだが、その声は以外にも優しく、親しげに声を掛けて来る相手に、俺も一拍遅れて「どうも」と、返答する。
「悪いなビックリさせちまって、でも仕方ねぇんだよ、コイツはこんな姿だからよ」
急に現れた男はそう言うと、目の前にあった大木の幹をコツコツと叩く、すると。
「ふん、悪かったな」
と、木の内側から声がした。
まさか……。
「俺に話しかけてきたのは、その…貴方なんですか?」
「左様、儂の名はエクスデス、この城ができる以前よりこの地を見守ってきた存在よ」
そう言うと、ファファファとあの特徴ある笑い声で笑う。
「あーあ、コイツはよ、長い年月ずっとここで暮らしてる内に、ここの妖気にあてられて、こんな風に意思を持つようになっちまったんだ、元々、木には精霊が宿ってるっていうしな、そんなに不思議がらないでやってくれ…まあ、人間には無理か」
そう言いながら俺の肩をポンポンと叩く。
「俺様の名前はジェクトだ、兄ちゃん、アンタは?」
野性味溢れる男はそう名乗ると、今度は俺にそう聞いた。
「俺は、フリオニールって言います」
「へぇ…フリオニールな……マティウスの奴、こんな美人どこで見つけてきたんだか」
「え?」
「いや、何でもねえんだ、気にするな。
それより、アンタこれからここに住むのか?」
「…一応、そんな事になってるけど」
「一応って何だよ?不服か?まあ、あんな変態とじゃ、これからの生活も心配かもな」
あっ、やっぱりアイツ変態なんだ。
「まあ、だが安心しろよ、この城の中に住んでるのはマティウスだけじゃねえからよ、まあ城主はアイツなんだが。
だから、何かあったら誰かの元にでも逃げて来い、例えば…俺様とかな」
親指で自分を差してそう言う男に、俺は「はあ…」と曖昧な返事を返す。
「あの、ジェクトさんは…マティウスの何なんですか?」
話し口調から考えると、使用人ってわけではないだろう。
家族とか兄弟…にしては似てないし、それに日光に当たれるのなら吸血鬼ではないんだろう。
でも、あのエクスデスという木の言葉から考えると、人間でもない。
じゃあ、一体何なんだ?
「俺様は、マティウスとは古い付き合いなんだよ、まあ今はここに転がり込んでるんだが」
「転がり込んでる?」
「居候だ」
はっきりとそう告げる木に、ジェクトさんは「おいおい、そんなんじゃねえよ」と反論する。
「俺様はアイツが寂しがらないように、ここに居てやってるだけだっつうの」
「返る場所を剥奪され、他に行く宛てがないだけだろう」
「おいっ!!それを言っちゃあ、お仕舞いだろう!!」
……本当にただの居候らしい。
「だが、しょがないんだよ…人間の町も段々と俺達が住むには住み難い場所になってきてるからな、昔なら返る場所を剥奪された所で人間界のどこかで、幾らでも住んでいられたのに…今じゃ教会の監視の目が厳しくて、それも中々叶わない」
そんな言葉を聞いて、俺は少し申し訳なく感じてしまった。
教会が、魔物に対する監視の目を厳しくしてるのは本当の事。
だけど、それは人間の生活に害を及ぼすからだ。
魔物と人は所詮相容れない関係なのだ。
なら、どうして同じ世界に居るんだろう?
喧嘩したくないのなら、相手と顔を合わさなければいい。
住む世界が分かれてしまえば、二つの間で争いも摩擦も起こる事なんてないのに。
そうは上手くいかないのが、この世界なのかもしれない。
そんな世界の被害者が、ここに二人。
「まあ、そんな事はいいんだ…それより、何か聞きたい事とかあるか?」
何でもいいぞ、と言う男に俺は「それじゃあ…」と質問する。
「この城の中には、貴方の他にも住人が?」
「ああ、居るぞ…他にも何人か、闇の住人って奴がな」
「どんな人何です?」
そう尋ねると、ジェクトさんは「人じゃないんだけどな」と言って笑った。
「住み込んでるのは俺の他に堕天使と狼男だけだな、その他にも出入りしてる奴は沢山いるけどな、魔女とか死神とか悪魔とか…。
ただ一つ忠告しとくと、堕天使と狼男にはあんまり近付かねえ方がいいかもな」
「どうして?」
そこで、ジェクトさんは初めて顔を曇らせた。
「気難しいんだよ、アイツ等」
たった一言、それだけだった。
その様子をじっと眺めていた誰かの存在に、俺も彼も気付かなかった。
「…………アイツ…」
風に乗って、白い羽が一枚飛んでいった。
吸血鬼パロ第八話…って、もうそんなに書いてるんですね。
居候のジェクトさんと中庭の木、エクスデスを登場させるのが目的だったんですが…この二人が一緒に居るところなんて、DFF本編でほとんど見た事ないですね…。
因みに、エクスデスはあの鎧ではなく本物の木です、よくジェクトがその上に登って昼寝してます、枝が折れると本人は怒ってます。
なんか、微妙なところで終わってしまってすみません、切る所を見失ってしまったのです。
次回もまた居候が出てきます、嗚呼…段々話が込みあってくる。
2009/7/11