拝啓、親愛なる我が兄貴へ…

俺、貴方の事愛してます


愛する兄貴へ…

「またこんな所でサボりか?」
屋上で寝ていた俺に、そう声をかける人物に、俺はそっと目を開ける。
「何の用だよ?委員長」
「その呼び方は止めろって言ってるだろう?」

間違いではないんだが、しかし彼は自分の役職名で俺に呼ばれる事に不満があるらしい。
クラスの人間には、そんな事全然言わない癖にな。
でも、俺には俺の特権ってものがある。

「何の用だよ?兄貴」
俺と同じ色の髪に肌、そして同じ声と同じ顔。
彼は俺の双子の兄貴。
「もう授業終わったぞ、今日はバイトないって言ってたから、一緒に帰ろうって言っただろ?」
「そうだったな」
ついでに、帰りに買い物に寄りたいって言うから、それにも付き合う予定だった。

寝転んでいた給水塔の上から降りて、兄貴の横に立つ。
「ほら、お前の鞄持ってきてやったから」
「流石兄貴、気が利くな」
「まったく……ほら、行くぞ」
「おう」
受け取った鞄を肩に背負って、兄貴の横を歩いて俺は屋上を後にした。


「今日の晩御飯、何食べたい?」
兄貴に付き合ってやって来たスーパーで、そう尋ねる兄貴。
「うーん…昨日は和食だったし、今日はイタリア料理がいいな」
「そっか…じゃあパスタ買って、ソースは…」
ぶつぶつと呟きながら隣を歩く兄貴の代りに籠を持ち、その中にどんどんと入れ込まれていく食材を眺める。
時々立ち止まって、どちらの方がいいかなんて見比べてる姿なんて、学生じゃなく主婦そのものだ。
帰ったら、着替えていそいそとエプロンなんか付けて、夕飯の用意を始めるし。
まるで、新妻か何かだ。
あっ…結構それいいかも。


帰ってきた俺に向かって、玄関へ駆けて来てニッコリ微笑むエプロン姿の兄貴。
「おかえり、ご飯が先か?それとも風呂?……それとも」


「おーい、何してるんだよ?」
そんな俺の妄そ…想像を打ち破ったのは、兄貴の呼ぶ声。
気がついたら、兄貴は俺よりも先に歩いてる。

頭の中まで分かったりはしないだろうから、そのまま気にせずに兄貴の側へ。
「なんか、変な事考えてるだろう?」
だがそんな俺の決心なんて見透かしたように、俺の顔を伺いながら、そんな事を言う兄貴。
「…いや」
俺が考えてるのは兄貴の事さ、と一応真実を答えておく。
「俺の事ってなんだよ?」
「うん?兄貴をお嫁さんにもらえば、苦労しないだろうなって」
だからお嫁さんになってよ、なんて言うと兄貴は俺に苦笑を返す。
「コラコラ、笑えない冗談は止めろよ」
冗談じゃないんだけど、まあ言っても信じてもらえないだろうから言わないでおく。

どうせ、俺達は兄弟二人暮し。
帰ったら新婚気分だ。
ちょっとした、俺だけの贅沢。


二人だけの帰り道、学校での出来事を二人で話しながら、ゆっくりと家へと帰る。
夕日に照らされた兄貴の横顔が、ちょっと綺麗だ。

同じ顔なのに、同じ姿の兄弟なのに。
兄貴、俺は兄貴の事が好きなんだ。

「好きだぜ、兄貴」
「何だよ?急に」
急な俺の告白に、兄貴はプッと噴出す。
その反応に、俺はちょっとイラっとするが、それは仕方ないだろう。
むしろ、兄貴の反応の方が正しいだろうし。
「いや、俺はやっぱり兄貴が好きだなって…兄弟愛を、再確認したわけなんですよ」
「何だソレ?ちょっとお前変だぞ」
俺の言葉を冗談だと思っているのか、兄貴は笑顔を零す。
その笑顔が無邪気で可愛いなと思いつつ、意味が通じていなくてもどかしい。


拝啓、親愛なる兄貴へ…
俺、貴方の事愛してます、本気で。


あとがき
アナザー×ノーマルフリオ、現代パロ。
正反対の兄弟っていいですよね、兄は真面目な学級委員、弟は不良。
不良ってなってますけど成績は悪くない弟、だって兄が勉強を優しく教えてくれるから。
兄弟なら同じ家で暮らしてるわけで、二人っきりの生活=新婚気分を満喫してる弟がいればいいなぁという想像でした。
続くかもしれないですね、結ばれる二人とか書きたいかもしれません。
2009/6/29
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