食する事
生物が生き抜く為に必要な行為
その生を繋ぐために、求めろ
私を生かす為に
貴様を生かす為に
食せ
Nocturnus 〜 the staff of life 〜
「どうした?食べないのか?」「食べれると思うか?この状況で」
それが一体どんなものであるか、状況を説明しよう。
現場は豪華な装飾品で飾られた、ダイニング。
俺の目の前には、この城のどこかに居る(と思われる)料理人の作った美味そうな料理。
俺が座っているのは、その豪華なダイニングテーブルとセットになっている、椅子……に座った、マティウスの膝の上。
「動けないのだろう?」
だから食べさせてやる、片腕を俺の腰に回し、もう片腕でパンを持って俺の口元へと持ってきている。
「…いや、だからってこの体勢はないだろう?」
「不満か?」
「当たり前だ」
何が悲しくて男の膝の上に座って、食べさせてもらわなければならないんだ。
だが真実、俺の体は思うように動いてはくれない。
しかし、食べさせてもらうにしても、どうして相手の膝の上に座らなければならないんだ?こんなに広いダイニングテーブルセットで、沢山ある椅子の中に、どうして同じ椅子の上なんだ?
「分かった……なら、口移しで食べさせてやろう」
「はぁ!?」
相手の口から出た台詞に驚き、どうにかしてそれを取り消そうともがく。
だって、この男の事だ。
やると言ったら、必ずやる。
「食べる!このまま食べるから!!」
「そうか…まあ、仕方あるまい」
なんだ、仕方ないって……口移し、したかったのか?
そんな恥ずかしい事、なんで平気でできるんだよ?
顔が熱くなるのを感じながら、俺は差し出されたパンを口に入れた。
「食べさせてやるからそのまま聞け、貴様の体は私によって生かされている、それはもう分かっているな?」
食べている途中なので、無言のまま縦に頷く。
「貴様の体は私を生かさなければいけない、その為に生命活動の限界が来ても、私の能力の及ぶ限りは活動ができる。
ただ、もし私の力の範疇外に出た場合には、貴様の体は動けなくなる。
今回は貧血で済んだから良いが、もし、これから何かあった場合には…どうなるか」
「どうなるんだよ?」
「…貴様の体は一度死んでいる、それでも動ける理由は一つだ、私の力が及ぶ範囲に居たからだ。
今度、貴様が瀕死の重傷を負うような事があれば、まあ無いとは思うが…そして、もし私の力が範囲に及ぶような場所に居なければ、そのまま貴様は息絶えるぞ」
「……」
返事ができないが、これは間違いなく脅しだよな?
自分の側から離れるなって、そういう。
なら、どうして城の中を歩く時にそう忠告しなかったんだろう?
「実は、私の力の及ぶ範囲を私自身が把握していないのだ、この居城内で倒れたのは以外だったが…生き返ったばかりで、体に無理をさせ過ぎたのも関係しているだろう。
…それに、こういうのは、一度体で体験した方が実感が湧くだろう?」
俺の心の中を見透かしたように、そう言うマティウス。
じゃあワザとだったのか、俺をワザと倒れさせて…。
でも、確かにこれでよく分かった。
俺はこの男に繋がれている。
「ワインはどうだ?」
ボトルに手をかけながら、そう尋ねるが、男の質問に俺は首を横に振る。
「何だ?昼間だからといって、遠慮をする事はないぞ」
「俺…飲めないんだよ」
「下戸か?」
「いや、未成年」
そう返答すると、背後の男の動きが止まった。
うん?一体何が…。
「本当か?」
「嘘、ついてどうするんだよ?」
確かに俺は、よく年上と間違われたけど、またか…。
「大人びた、子供だな」
「煩い」
スープを掬ったスプーンを、口に含みゆっくりと味わう。
この男は確か、人間と同じものを口にしないはずなのに、この料理は凄く美味しい。
まあ、この状況じゃ、ゆっくり味わえるものでもないんだけど。
「どうりで、反応が初々しい…」
ぽつりと、背後から俺を抱き締める男がそう呟く。
「まあ、これからゆっくりと教えていこう」
それもまた一興、と言って、喉を鳴らして笑うマティウス。
聞こえない、俺は何も聞こえなかった。
「それにしても、面白い絵だな」
食事くらい静かに食べさせて欲しい、と思いつつも、男の口を塞ぐ術はない。
「何が?」
そう尋ね返してしまった後で、しまったと後悔する。
一体、何を言われるか、楽しそうな男の声から察するに、きっと俺の癪に障るものに決まっているのに。
「私の生きる糧である貴様が、私から生きる糧を与えられている。
これでは、反対ではないか」
俺の口元にフォークに刺した肉料理を持ってきながら、マティウスは笑う。
面倒だ、なんて思ってはいない。
間違いなく、この状況を心から楽しんでいる、そんな声だ。
「だから、どうしたんだよ?」
そう言って、肉料理を口にする。
食べた事のない不思議な味だけど、不味くない。
咀嚼を続ける俺の耳元に、男の口が寄せられる。
ビクリと震える俺の肩。
背後の気配に、神経が集中する。
「貴様は、私が居なければ生きる事ができない…それを、表しているようだな」
ぎゅうっと、今までよりも強く抱き締められて、男との隙間が少し埋まる。
「煩い」
密着した体を、別に意識していないというように振舞うために、そう返答する。
本当は、彼の息遣いにまで気配を配ってる。
「貴様の糧は私が与えよう、私を生かす者として。
無くてはならぬ存在になるように」
「…そんな、恥ずかしい台詞、よく言えるな」
「貴様は特別、気に入っているからな」
そう言って、俺の肩に顎を乗せるマティウス。
どこからどう見ても、恋人にする行動だよな……。
少なくとも、男同士で取る体勢ではない。
触れ合った相手の感覚に震えつつも、それに耐えるしかない今の俺。
ああ、なさけない。
そう思いつつも、彼の手から与えられる食を俺は咀嚼する。
食する事しか、今の俺には道がない。
背後から抱き締めながら、その光景を満足そうに見つめ続ける男。
確かに、俺はお前に従うしかない。
お前に生かされるしかない。
だけど、間違っても自惚れるな。
俺の意思まで、全て思い通りになるなんて。
「もう、いいよ…」
満足した。
そう言って彼のフォークを握る手の動きを止める。
「もういいのか?育ち盛りは、もっと食べた方がいいぞ」
貴様は少し痩せている、と背後から俺の体型への非難の声。
がっしりしてるとか、そんな風にはよく言われるけど、痩せてるとは…。
そんな事言うのは、あの人以外初めてだ。
「食べれないものは食べれないんだよ、それと、もう自分で動けるから。
離してくれ」
回されていた腕に、自分の腕をかけて引き剥がそうとする。
少し前から、感覚は戻ってきていた。
だが、食事が終わるまで離してくれなさそうだったし、絶対離すつもりはないだろう。
そう思って、好きにさせていたのだ。
「そうか、もう体は大丈夫なんだな?」
「ああ、あまり本調子じゃないけど」
多少、体に気だるさがあるが、これくらいなら大丈夫。
だから離せと相手に要求するも、聞き入れられる様子はない。
「この状態じゃ、何もできないだろう?
それに、吸血鬼はまだ寝てる時間だ」
陽は少し西に傾いてきているだろうが、まだまだ彼等の寝ている時間である事は確か。
お陰で、薄暗い部屋で食事を取る事になった。
「無理して動かなくても、休んだらどうなんだ?」
「それは、私への気遣いか?」
「好きに受け取れ」
「そうか……」
そう言うと、ゆっくりと、少し名残惜しそうに俺を拘束していた腕を解く。
ようやく開放され、地面に足を付けられた事に喜びを感じていると、俺の腰に再びその手が伸びる。
「何だよ?」
「私が休んでいる間に、また倒れられても困る。
それに、どうせこの城の中を迷っていたのだろう?」
何で分かったんだろう……。
いや、でもこの城の中で迷うなという方が無理な話なのだ。
俺は、別に何も悪くはないのだ。
自分で自分にそう言い訳していると、マティウスがぐいっと俺の腰を引き寄せた。
「ちょっ!何…」
「寝室まで案内してやるから付いて来い、もし歩けないのならば、私が運んでやる」
さっきのように、と言われて思い出すのは、ここに来るまでの間のあのお姫様抱っこ。
あれで運ばれるのは、二度とゴメンだ。
「自分で歩ける」
「そうか」
ならば戻るぞ、と俺の腕を取ると歩きだす彼に引き連れられて、ダイニングを出る。
俺の意思まで、全て思い通りになんてさせない…。
そう心に誓うも、俺はすっかりこの男のペースに嵌り込んでしまっていた。
あとがき
第5話まで完成しました、吸血鬼パロ。
まずは…大変申し訳ございません、フリオが瀕死の理由を次回で明らかにする…と宣言しておいて見事に裏切りました、ごめんなさい。
いや…瀕死の理由を書くためには、フリオの身の上話をする必要がありまして…元々こんなんで、とか軽く考えていた設定を細かく決めてみたら、なんか…別のCPになてしまったので…今の設定のままですと、この先、皇帝×フリオ前提のフリオ総受けになる可能性があるのです。
まあ、それも有りかな…と思いつつ、先にこれで書くつもりだったんだし、このまま貫こうかな…と模索中です。
WOLのようなブレなさが欲しいです、あと…誰か、ネタを下さい(←切実に)。
2009/6/3
第5話まで完成しました、吸血鬼パロ。
まずは…大変申し訳ございません、フリオが瀕死の理由を次回で明らかにする…と宣言しておいて見事に裏切りました、ごめんなさい。
いや…瀕死の理由を書くためには、フリオの身の上話をする必要がありまして…元々こんなんで、とか軽く考えていた設定を細かく決めてみたら、なんか…別のCPになてしまったので…今の設定のままですと、この先、皇帝×フリオ前提のフリオ総受けになる可能性があるのです。
まあ、それも有りかな…と思いつつ、先にこれで書くつもりだったんだし、このまま貫こうかな…と模索中です。
WOLのようなブレなさが欲しいです、あと…誰か、ネタを下さい(←切実に)。
2009/6/3