救われたいのならば、祈りなさい
俺はただ、必死で祈った
俺を救ったのは、光の導き…?
Nocturnus 〜 I lived to through with divine protection 〜
柔らかい午後の光が、教会の床を柔らかく照らしている。俺の胸元で揺れる、青い石の付いた銀のアミュレットも、その光を柔らかく反射する。
祭壇を前に、一人静かに祈りを捧げる。
「今日も来てるんだね」
「セシル」
祈りを止めて顔を上げると、そこにはこの教会の若い神父の姿。
「君にお客様だよ」
「俺に客?」
誰だろうか?と首を傾げると、講堂の奥から一人、長身の男が現れた。
「君も熱心だな」
「ウォーリア!」
教会の護衛を司る騎士団、厳格な規律によって束ねられた騎士団の第一舞台の隊長を務めるのが、この男性。
光の戦士という名を持つ、ウォーリア・オブ・ライト。
俺と同じ教会の孤児院で育ち、騎士団に選出されて以降、めきめきと頭角を現していった俺の憧れの存在。
そして、幼い頃から俺の面倒を見てくれた、兄のような存在。
「遠征に行ってたんじゃないのか?何時戻ったんだ?」
「ついさっき着いたところなんだ、孤児院の方に先に顔を出したんだが、君に会うなら先にここに来るべきだったな」
祭壇の前まで来ると、彼はそこに膝を付いて祈りを捧げ始めた。
その神聖な姿に、俺はつい見惚れそうになる。
「僕はこれから司教様とお話しがあるから、しばらくゆっくりしていっていいよ」
ウォーリアの祈りの邪魔をしないように、そっと俺に耳打ちすると、ちょっと笑うとセシルは立ち去った。
残された俺は、ウォーリアが祈りを捧げ終わるのを待つ。
やがて気が済んだのか、兜を横に抱えてすっと立ち上がった。
「セシルは?」
「司教様とお話しがあるからって、さっき出て行ったよ」
「そうか……しばらく見なかったが、皆元気そうで何よりだ」
「ああ、大きなトラブルもなかったし…ウォーリアも元気そうだね、怪我とかしてない?」
「ああ、兵士の何人かが軽く負傷した位で、今回は大きなトラブルもなかった」
「そっか」
長椅子に兜を置くとそこに腰掛けるウォーリア、その隣に俺も失礼させてもらう。
「君は今年で18だったか?」
ふいにそう尋ねるウォーリアに、俺は縦に頷く。
「うん、騎士団の入団へ向けて今も修行の最中なんだ」
「…本当に、騎士団へ入団するつもりなのか?」
苦笑いしてウォーリアは俺にそう尋ね返す。
騎士団への入団を望む俺を、ウォーリアは、あまりよく思っていない。
何故、駄目なのか?
「君は手先も器用だし、孤児院の子供からも好かれているだろう?わざわざ騎士団に入って、戦場に立たなくとも君にできる事は他にあるだろう?」
ある日、その理由を尋ねたら、そんな返事が返ってきた。
「ウォーリアは、君に危ない目に遭ってほしくないんだよ、家族同然に暮らしてきたんだから」
セシルは悩む俺に、優しくそう言ってくれた。
別に、俺の力が足りないわけではない、そう諭すように…。
それは俺も分かってる、でも…できるなら、憧れの人の隣に立ちたいと思う。
それに、俺の知らない所で闘って負傷していく同胞達の事を思うと、なんだか不安になるんだ。
「俺だって、少しでもウォーリア達の力になりたいんだ」
搾り出した俺の返答を聞いて、「もう君は、充分役に立ってくれているさ」と静かな声でウォーリアは言った。
「この孤児院を維持していくのも大変なんだろう?」
「そうでもないさ、神父様も手伝ってくれるし、ティナがこの教会が運営してる学校で勉強して、先生になろうとしてるんだ、子供達の将来が少しでも開けるようにって、俺ができる事なんて家事の手伝いくらいだよ」
「それができるのが凄いと、私は思うんだが」
相変わらず、ウォーリアは家事が苦手のようだ。
そんな所も、ずっと変わっていない。
「そのアミュレット、ちゃんと身に付けてくれているんだな」
俺の首に掛かったチェーンの先に揺れる、銀のお守りを見てウォーリアは話題を変えた。
「ああ、当たり前だろう?これがあると、何だか本当に守られてるような気がするんだ」
「そうか…気に入ってくれていて嬉しいよ」
彼が始めての遠征に行った際、手土産として俺にこのアミュレットをくれたのだ。
薔薇の模様が刻まれた十字架のそのアミュレットは、細工が細かく、とても高価そうなものだから貰うのが躊躇われたのだが、「私の留守の間、君達を守ってくれるようにと思って」という、ウォーリアの暖かな気遣いの前に、結局頂いてしまった。
以来、肌身離さずに身に付けるようにしている。
「神は、我々を恐怖から救って下さる」
祭壇に飾られた女神像を見つめて、ウォーリアはそう呟いた。
「だから、人々は神を信じ、光と共に生きようと思う」
「……ウォーリア」
必ず、神は俺達を導いてくれる。
そう信じてる。
それは、ある夜、隣町の教会へ使いを頼まれた帰りだった。
「君は、教会の人間なのか?」
急に、背後からそう男に声をかけられた。
「ええ、一応そうですけど」
「騎士団の一員…では、なさそうだな」
「違いますけど、俺の兄代わりがその騎士団の隊長を務めています、何か用ですか?」
「ほぅ…兄代わり、ね…」
その男は、何かを面白がるようにそう言った。
「それは、とても都合がいい」
「あの…何が?」
そう問いかけるのと同時、月光を反射して煌く刃を一瞬視界が捕らえて、背後に退く。
「なっ!何を」
一瞬、遅れていたら確実に俺の首は飛んでいただろう。
それくらいの正確さ、そして迷いの無さ。
「お前達の神が“絶対”だと、何故信じられる?」
その男は、俺にそう問いかけた。
男の着ていたコートが翻り、内に隠れていた紋章が見えた。
それは、異教の神を表す三頭の蛇が絡みついた剣。
成る程、剣を向けられる理由は分かった。
「貴方の神が、“絶対”だと誰が言ったんだ?」
「私は神を信じてなどいないさ、ただ、この世の流れがゆくままに、私は生きている」
異教の紋章を身に付けておきながら、その男は神などいないと言い切った。
見たこともないくらいの長い刀を構えた、長髪の男。
「お前は、神の導きを信じるのか?」
「俺は、俺達の神を信じているさ」
「だが…我々は一向に救われない、どの神を信じたとしても、我々は救われない」
男はどこか悲しそうに、そして俺をどこか哀れむような目で見てそう言った。
そう言いつつ、男は剣を構え直す。
腰に刺していた護身用の剣を取り出し、俺も構える。
「ただ救いを求めるのなら、命まで奪うつもりはなかったのだが…剣を構えるというのなら、仕方ない。
教えてやろう、神は我々を救いやしない。
お前は、絶望を見る」
「何を…」
その時、俺は一瞬信じられないものを見た。
男の背に広がる、片翼の黒い翼。
「神は、我々に絶望しか与えない」
その言葉が終わるか終わらないかの内に、全ては終わっていた。
何が起こったのか、俺が認知するよりも先に全ては片付いていた。
「っあ…」
グラリ、と崩れ落ちる体。
自分の血が、体を伝い流れる感覚。
一瞬遅れて、全身を襲う痛み。
寒いような、熱いような、痛み。
「お前の神は、救ってはくれなかったな」
倒れた俺を見て、その男はそう言う。
俺の側に屈みこむと、倒れた俺の顎に手を掛け、ゆっくりと上を向かせた。
不思議な色を宿した男の瞳が、俺を捕らえる。
「信じても無駄だ、神はいない、救いの手など差し伸べられない。
こんなものに縋ったところで、虚しいだけだ」
そう言うと、男は俺の首に下げていたアミュレットを取った。
「神の紋章も、突き詰めてしまえばただの金属と石の塊だ」
何の効果もない。
そう吐き捨てながら、自分のコートのポケットにそれを仕舞った。
「まあ、お前の兄代わりだという男にはコレの効果はあるかもしれないな。
お前は死んだと、教えてやろう、名は?」
「先に…お前が、名乗ったらどうなんだ?」
「私はセフィロス、神に救われなかった男だ」
「俺は、フリオニール……絶対に、お前の名前を忘れないからな」
「しっかり覚えておくといい、あと僅かな間だけ」
そう言うと、男はもう俺に興味を無くしたのか、踵を返して歩き出した。
待てよ、俺は死んでない。
そう叫びたかったが、呼吸が苦しくなってきて、上手く声にならなかった。
生きてやる。
絶対に生きてやる。
そう硬く心に思うも、体は刻一刻と死の淵へと近付いていく。
目の前に広がる夜に、男の残して言った絶望が紛れ込んでいるんじゃないだろうか?
“生きる事なんて辛いだけ、悲しいだけ、虚しいだけ…今まで何を救われた?”
“もう楽になればいい、怖いものなんて何もないから、死んで楽になればいい”
それは悪魔の囁きのような、甘い勧誘。
「神は、我々を恐怖から救って下さる」
俺の脳裏に、あの日のウォーリアの言葉が蘇る。
「だから、人々は神を信じ、光と共に生きようと思う」
生きなければ、俺は…神の為にも、彼等の為にも…。
「…死ぬ、わけには…いかない」
そう口にしてみると、生きようと思う力が湧いてきた。
だが、瀕死の傷を負った体はもういう事をきいてくれない。
どうしたらいい?
俺はどうしたらいい?
「貴様、生きたいか?」
その言葉は、生きようと望む俺の耳に真っ直ぐ届いた。
ゆっくりと顔を上げる。
俺を見下ろしていたのは、黒い上等な衣服を身に纏った、陽の光のような色の髪を持つ、陶器のように白い肌の男。
「生きたい」
何をしてでも、生き残りたい。
その時はただ、必死にそう望んだ。
「生かしてやろうか?私が」
だから、その男の言葉が光の導きのように、俺には聞こえたんだ。
とんでもない、勘違いだった。
俺を導いたのは、光ではなく。
何よりも深い、闇の権化である事に俺が気付くのは、次に目覚めた時だった。
あとがき
ようやく完成しました、嗚呼…長かったです、何回書き直した事やら…。
このサイトで、初めてセフィロスがまともに出てきました、初登場は会話文で三点リーダーのみでしたので、今回活躍させてやりたかったのです。
そして、微妙にWOL→←フリオ…っぽい?……でも、ないですよね?そうですよね。
まあ、例えフリオがWOLの事を好きだとしても、彼の主人もといエロ紳士さんは絶対に強奪愛を目指しますんで、まったく問題はないんですが。
この話を書いてる間に、なんとかこの吸血鬼パロのキャラ設定が完成しました。
それくらい先に作ってから書き始めろ、ってかんじなんですが…細かい事は気にしないで下さい。
需要があれば、また近日中にアップします。
2009/6/14
ようやく完成しました、嗚呼…長かったです、何回書き直した事やら…。
このサイトで、初めてセフィロスがまともに出てきました、初登場は会話文で三点リーダーのみでしたので、今回活躍させてやりたかったのです。
そして、微妙にWOL→←フリオ…っぽい?……でも、ないですよね?そうですよね。
まあ、例えフリオがWOLの事を好きだとしても、彼の主人もといエロ紳士さんは絶対に強奪愛を目指しますんで、まったく問題はないんですが。
この話を書いてる間に、なんとかこの吸血鬼パロのキャラ設定が完成しました。
それくらい先に作ってから書き始めろ、ってかんじなんですが…細かい事は気にしないで下さい。
需要があれば、また近日中にアップします。
2009/6/14