重くなっていく体と、薄れていく痛み
終わりだと思ったと同時に、終わりたくないと願う体
ぼやけていく意識の中、俺は見た
夜闇に溶け込みそうな、漆黒の服を身に纏った、陽の光のような髪を持つ男を
「生きたいか?」
微笑む男
差し伸ばされるのは希望の光?
否
光のようなその人は
闇の住人だった
Nocturnus 〜 invisible chain 〜
「……はぁ…」溜息しか出ない、色々な意味で。
今まで見たことのないくらい豪奢な造りの室内。
俺を連れてきたアイツは、どうも、予想がつかないくらいの富があるようだ。
アイツ…マティウスは一体、何者なのか。
今の所俺が分かっている事といえば、アイツが吸血鬼である事。
そして、俺を生かす存在である、という事。
「はぁ…」
自分の胸部を押さえて、思い出すのはあの文様。
契約を果たした、という証。
アイツの所有物になった事を表す、自分の体に刻まれたその印を憂鬱に思いつつも、俺はそれを受け入れるしかない。
自分ではどうしようもないからだ。
「だけど…あんな契約の仕方しかなかったのかよ」
思い出しただけで、また顔が赤くなる。
まさか人生で初めてのキスが男で…しかも相手が吸血鬼だとは、誰が予想できようか。
しかも、初めてだっていうのにしっかり舌まで入れて、恋人でもないのに…。
……でも…情熱的なキスだった……って、何考えてるんだ俺!!
「ああ…なんか鬱になる!!」
恥ずかしい、羞恥で死ねるとしたら今きっと死ねる。
これなら死んだ方がマシだったんじゃ、と思うが…命拾いしたのだから、そんな事言っちゃいけないんだろうとも思う。
それが闇の住人に“生かされている”ものだとしても。
「この居城内であれば、どこも好きに歩いていい、まあ広いから迷う事のないようにな」
「広いって、どれくらい?」
「説明するより、見てみれば分かるだろう…日は昇ってるから、あまりカーテンは開けるな」
そう注意されて、そっと窓の外を覗いてみる。
そこに広がっていたのは、見たことない巨大な城だった。
周囲は森が広がっていて、ここが一体どこにあるのかは分からない。
とりあえず、人里離れた場所である事は確かだ。
「貴様の部屋はここを使うといい、まあ、私の寝室でもあるんだが」
窓の外を覗いていた俺は、そんな声と共に室内に視線を戻す。
「…じゃあ、あのベッドは?」
さっきまで俺が横になっていた、どこかの王様にでも使うんじゃないかっていうくらい、巨大なベッド。
「無論、私のものだ」
そうなるよな……。
「安心しろ、見た通りの大きさだからな、貴様と私の二人で寝ても充分な広さはある」
「ちょっと待て、何で俺とお前が同じベッドで寝る事になってるんだ?」
一人で寝るには確かに大きい、大きいけれども…。
何が悲しくて男の隣で添い寝しなきゃいけないんだ!!
ただでさえこの先の人生に光が見えなくなっている俺を、更に絶望の淵に落として楽しんでるのか?そうか!?そうなのか!!?
「貴様は私を生かす為に存在しているのだ、それならば自分の手元に置いておきたいと望むのは、自然の摂理だと思うが?」
…うん、そう言われてみればその通り、自分の生死を左右するものを側に置きたいというのは、正しい考えだとも思えるのだが…。
だが、ここまで一緒に居る意味はあるのか?ちょっと過剰過ぎだろう。
っていうか、城の中は自由に歩いていいのに、何で添い寝……。
「まあ、私の趣味だな」
ニヤリと嫌らしく、人をからかうような笑顔を見せる男。
「……まさかとは思うけど、マティウスは男色趣味、なのか?」
だとしたら、さっきまでの行動にも説明がつく。
そして、それが真実であれば、俺の背後には身の危険が迫っている。
生命の危機ではなく、貞操の危機。
「失礼な奴だな。安心しろ、私は気に入った奴にしか手を出さん」
「…………はぁ」
「貴様は私の好みだがな」
「……っは?」
ちょっと待て。
安心しろって言っておきながら、今、ものスッゴク問題ある発言したよね?そうだよね?
俺の身の安全を保障できない、そんな発言したよね?この人。
「褐色の肌に銀髪、意思の強そうな目…どこを取ってみても私の好みに合っている」
俺の頭からつま先までを、じっくりと観察していく嫌らしい視線。
この時、俺は人生で初めて視姦されていると感じた。
「……」
「何を青ざめた顔をしている?喜べ!ただの食糧として飼われ、家畜のような扱いを受けるような奴隷よりは、ずっと待遇がいいぞ」
いや、それはそうかもしれないけれども。
「無理だろ、それは」
むしろ、どうやって喜べっていうんだ?
残念ながらとか括らずに、俺はソッチの趣味はない健全な人間なんだ。
なのに…なのに、何で?
「私は思春期の青臭い餓鬼とは違う、勢いでがっつくような真似はせん」
俺の側に立ち、顎に手をかけるとツツーとゆっくりと撫でる。
その感覚にぞわり、と背筋があわ立つ。
「時間はある、ゆっくりと…貴様を攻略していこう」
くいっと、俺の腰を引き寄せて耳元でそう囁く男。
「ちょっ…離して!」
「初心な奴め…寧ろその反応は歓迎すべきものだが」
クックッ…と、喉を鳴らして笑う男。
なんとか男の腕から抜け出す事に成功したのはいいが、彼の嫌らしい笑顔からは逃れられない。
「俺、俺…この城の中、見てきてもいいか?」
「構わんぞ、私はしばらく寝させていただくが。
さっきも言ったようにこの城は広い、迷わんように遠くには行くな」
「分かってるよ!!」
城の主から簡単に許可が下りたので、そのままその部屋を飛び出して、今現在こうやって見て回ってるわけなのだが…。
問題が一つ。
「ここ、何処だよ?」
完全に迷子になってる。
さっきから歩いてるのに、この城には主以外誰も居ないのか、誰ともすれ違わない。
どういう事だよ?この城、こんなに広いのに、使用人が一人もいないのか?
かといって、この城の主自身にこの城を管理できるような能力があるとも思えない。
綺麗に磨きこまれ、手入れの行き届いているこの城の内部には、絶対誰か人がいるはずなのに…。
そこで、はた…と気付く。
そうだ、主が闇の住人ならば、そこに雇われた者達もその筋のものである事だろう。
陽が燦々と照っている昼間は、彼等にとっては活動時間ではないのだから、誰も居なくて当たり前じゃないか。
「どうやったら、戻れるんだろう?」
誰かが通ったら、帰り道を聞こうと思っていたのに。
といっても、自分が戻る部屋といえば、飛び出してきたマティウスの寝室になる。
そこに戻るのは、何と言うか…怖い。
今現在、その部屋の主は就寝中であるのだから起こしたら悪い、というのもあるが…。
寝てる時に部屋に入って、何か変な事を考えられても困る。
これが本音だ。
「ん…」
グラリ…と、突然視界が揺れ、壁に手を着く。
一体、どうしたっていうんだろう?体が、重い……。
立っているのが辛くなってその場にへたり込むと、足元の大理石が酷く冷たく、自分の体の熱を奪う。
そんな自分の脳裏に浮かんだ言葉、それは…。
「貧血?」
昨晩死にかけて、生き返ったと思ったら、今度は血液を食されて…。
自分の体を巡る血液が、普段以上に減っているのだろう。
だけど、今まで平気だったのに…どうしていきなりこんな……。
「迷うから、遠くに行くなと忠告してやったというのに…」
背後からそんな声が聞こえ、まさかとは思うが振り返ってみる。
「マティウス……」
「何を驚いている?城主である私が城の内部に居るのはそんなに不思議か?」
違う、そうじゃない。
「どうしてここが?」
俺の居場所が分かったのか?
そう尋ねると、彼は嬉しそうに笑みを深める。
まるでその質問を待っていたかのように。
「貴様のその胸の文様は、ただの契約印ではない。
貴様がどこに居ようとも、契約で結ばれた者の居場所は全て感知できるのだ」
「なっ!…じゃあ、俺に行動の自由は……」
「自由はある、好きな場所に行く事は許されている、だがその場所は私にも伝わっているというだけの事」
そうだ、俺は彼を生かす存在。
ならば、自分がどこに居るのかくらい、その場所を特定できるだけの何かがなければ、肝心な時に困るだろう。
予想できなかった俺も、馬鹿だと思う、でも。
「なんか……見えない鎖で繋がれてる気分だ」
「本物の鎖で繋がれるよりはマシだと思え。
それより、立てるか?」
すっと手を差し伸べられ、昨日の光景を思い出す。
あの時は、こんな親切な人間も居るものなんだって思ったのに、なのに。
人間じゃ、ないなんて…。
「……多分、無理」
差し伸べられた手に触れるも、力の入らない体を起こせない。
「ならば、仕方あるまい」
そう言うとマティウスは、俺の前にしゃがみ込み、そして…。
「わわっ!!と…何!」
「暴れるな、血が減るぞ」
軽々と、男の腕は俺を抱き上げた。
横抱きにするその体勢は、所謂お姫様抱っこ…というやつで…。
「ちょっ何するんだよ?」
「動けんのだろう?私直々に運んでやるんだ、感謝しろ」
予想以上に近くにある相手の顔に、俺は頭に血が上っていくのを感じた。
「運ぶって、どこに?」
「お前の体が今、最も必要としている物を与えてやる」
「……っえ?」
それは一体、何なんだ?
そんな俺の疑問に、彼はもう答えを出さずに歩き出した。
あとがき
FFⅡの皇帝の城は砂漠と岩山に囲まれた中にあるのは知ってますよ、でもそんな殺伐とした場所はいやだったんで、綺麗な所に変更しました。
その内フリオが花壇で薔薇を育て始めます、その辺の順応力は彼はきっと高いです。
今回視点をフリオに変えてみたら、どことなくギャグっぽくなったのは、彼のツッコミ能力の高さのせいですね。
そして、この吸血鬼パロにおける皇帝のキャラが決まりました。
ずばり“エロ紳士”です。
素敵なエロ紳士道を、彼には極めてもらいます(多分)。
2009/5/24
FFⅡの皇帝の城は砂漠と岩山に囲まれた中にあるのは知ってますよ、でもそんな殺伐とした場所はいやだったんで、綺麗な所に変更しました。
その内フリオが花壇で薔薇を育て始めます、その辺の順応力は彼はきっと高いです。
今回視点をフリオに変えてみたら、どことなくギャグっぽくなったのは、彼のツッコミ能力の高さのせいですね。
そして、この吸血鬼パロにおける皇帝のキャラが決まりました。
ずばり“エロ紳士”です。
素敵なエロ紳士道を、彼には極めてもらいます(多分)。
2009/5/24