何時だって、青いんだ
特に、青春を謳歌する人間の空は…
青春の空は、何時だって蒼い
「のーばらー!!」
そんな声と共に響き渡る足音、ダダダという騒がしいその音は走ってくるそれで…。
「何だ?ティー…ダっ!!」
名前の最後で、丁度背中にドーンという衝突。
それによって前に飛ばされかける体。
その衝撃に何とか耐えて、しっかりと抱きついてきた少年に溜息。
「危ないだろ、ティーダ」
「へへへ、だってフリオが居たんッスもん」
何の理由にもなってないと溜息混じりに言うと。
「へへへ」と全く反省していない笑い声が背中から聞こえた。
背中に槍と弓を持ち、その他にも剣やアクス、メイス等、様々な武器を身に付けているから、こうやって抱きついてくるのは危ないって言ってるのに、彼は一切聞き入れない。
怪我した事はないから大丈夫、と彼は言うが、何かあってからでは遅いのだ。
「重いぞティーダ」
へばり付く少年に、そう呼びかけてみるも。
「愛の重さッス!」
離れるつもりは毛頭ない、そう言わんばかりに腕の力が込められる。
「いや、愛って…」
そう言った少年の台詞に、ちょっと溜息…。
「オレ、フリオの事大好きッス」
「……知ってるよ」
毎日毎日、こうやって過剰なスキンシップに加え、この台詞。
そういう事は女の子に対して行えっと言ったが、彼は一向に止める気配はない。
「ティーダは、フリオ二ールの事が本当に好きだね」
なんて、微笑みながら言うセシル。
「そうッスよ!オレはフリオが大好きなんッス」
「分かった、分かったから離れろって」
「嫌ッス」
ぎゅうっと腰に絡みつく相手の腕を離そうと試みるも、かなりの力で抱き締められたその腕は離れようとしない。
「嫌じゃないだろう…抱きつかれたままだと動き難いんだよ」
「じゃあ、大人しく抱き締められといて」
完全に人の迷惑なんて意に介さない、そんな台詞に深い溜息。
「いい加減に、離れてやったらどうなんだ?フリオニールが、困ってる」
静かにそう告げたクラウドの言葉。
背中であるので分からないがどうやらクラウドはティーダの肩に手を置いて、軽く後へ引いたようだ。
すると、ピタリとティーダが止まり…。
「……分かったッス」
しばらくの沈黙の後、しぶしぶといったようにティーダは俺の背中からようやく離れた。
全く、離れるなら最初に離れてくればいいのに。
そんな事を考えていた俺に、今度は太陽のような笑顔を向けて話しかけてくるティーダ。
弟のような可愛い存在に、ちょっと俺の心は癒される。
こんな明るくて人懐っこい弟が本当に居たら、毎日楽しくていいんだろうなぁ。
そう考えていた俺の背後から、クラウドが近付く。
どうやら、最初から俺に用があったらしい。
「フリオニール、ちょっと手合わせしてくれないか?」
「ああ、いいぞ」
武器を片手にそう尋ねるクラウドに、そう返答する。
「えーぇ、行っちゃうんッスか?」
俺の返答に、あからさまに不満な声を上げるティーダ。
「手合わせにいくだけだし…戻ったらまた相手してやるからさ」
「…分かったッス……」
不満が顔に表れているが、しぶしぶとそう返事するティーダ。
全く、一体何なんだ?
「行くぞ」
「あっうん、じゃあなティーダ、良い子で留守番してろよ」
そう言ってから後悔。
良い子で留守番…って、一体いくつの子供に対する台詞だよ?
そう思ったが、口から出た言葉はもう戻ってこない。
明らかにムクれた顔をしているティーダに申し訳なく思いつつ、クラウドと共に歩いて行く。
「アンタは、ティーダに好かれているな」
手合わせが終わった帰り、俺にそう話しかけるクラウド。
前を真っ直ぐに見ながらそう言う彼に、俺は疲れたような笑顔を返す。
「ああ…ちょっと毎日で疲れるけど」
「どう思ってるんだ?アンタは?」
「どう思ってる?…って、何を?」
「ティーダの事を、どう思ってるんだ?」
確かに、その流れからいくとそう問いかけられていたのは推測できた。
俺が分からないのは、その質問の意図。
「どう思ってるも何も…仲間の一人で、明るくて人懐っこい弟みたいな奴だと思ってるけど」
「そうじゃない」
何がそうじゃないのか分からないが、クラウドは俺の台詞を否定する。
彼の意図が分からずに、首を傾げる俺に対してクラウドは小さく溜息を吐く。
「アンタは、ティーダに対してどんな感情を抱いてるんだ?」
「どんなって、別に嫌ってなんかないぞ」
「はぁ……アンタは、本当に、何て言うのか…鈍いな」
「鈍い?」
そう言われて首を傾けるしかない俺に、クラウドは再び溜息を吐く。
「まあ、そこがアンタらしい所だと思うがな」
だから、一体何だというんだろうか?
っていうか、人に向かって鈍いって…ちょっと失礼じゃないか?
そう思って抗議しようとしたところ、隣を歩いていたクラウドの足が止まった。
「フリオニール」
「何だよ?クラウド」
普段からあまり表情の変化に乏しい彼は、ティーダと違って感情や考えが伝わり難い。
だから、尋ねなければ何を考えているのか分からない。
そんな彼が真っ直ぐに俺を見つめる。
「そうやって、誰にでも優しく対等に付き合う、アンタの博愛主義的な態度は、誰も傷付けないようでいて、特定の人間を傷付けてる。
アンタはそれを理解した方がいい」
真剣な表情でそう語るクラウド、だが…。
「…どういう意味だ?」
残念な事に、その言葉の意味が俺には分からない。
俺は誰かを傷付けているんだろうか?もし、そうだとしたら、一体誰を?
「アンタの態度はどっちつかずだって言ってるんだ」
そんな疑問に取り巻かれる俺に、彼の与えた返答。
「はぁ?」
全く意味が分からない。
そんな俺に、クラウドはまた一つ溜息を吐く。
湧き上がる疑問に、溜息を吐きたいのはコッチだっていうのに。
「それが分かったら、ティーダがアンタに過剰に引っ付きたがる理由も、俺に対してライバル心を燃やしてるのも分かる」
「ライバル心?二人で何か勝負でもしてるのか?」
そう尋ねると、クラウドはフッと笑った。
「いや、俺は別にそのつもりはないが…ティーダは勘違いしてる」
「それならそうと、はっきり言ったらいいんじゃないか?」
「俺の言葉だけじゃ、これはどうしようもないんだよ」
そう言うと、クラウドは歩きだす。
意味が分からずに立ち尽くす俺を置いたまま。
その背中をしばらく意味が分からず見つめ返していたが、「置いてくぞ」という彼の急かす声に、慌てて後を追った。
「のーばーらー!!」
そう言って俺に向かって突っ込んでくる騒がしい足音にデジャヴを覚えつつ、走ってくる彼をなんとか抱き締める。
「だから、ティーダ…危ないから突っ込んでくるなって、毎回言って…」
「心配したッスよ!帰りが遅いから」
心配…って、ただ俺は手合わせに行ってただけなのに…。
しかしそう言った所で、彼は聞く耳を持たない事だろう。
「俺は、セシルを手伝いに行って来る。手合わせしてくれて、ありがとう」
「あっ、ああ…」
そう言って去っていくクラウドの静かな背中を見つめていると、俺を抱き締めていたティーダの手に、思い切り力が込められた。
「イッタ!こら、ティーダ…ちょっと力強い」
「フリオは…フリオは、クラウドが好きなんッスか?」
抱き締める手の力を少し緩めると、そう尋ねるティーダ。
「フリオは、オレみたいな明るくて子供っぽい奴よりも、物静かで大人っぽいクラウドみたいな人が好きなんッスか?」
「何言ってるんだよ?俺は、別にお前もクラウドも…」
「二人共好きだとか、そういう優等生的な発言なら止めてくれよ、オレはそういう言葉聞きたいんじゃない」
ティーダの真剣な声に、口から出掛かっていた言葉がその場で止まる。
『そうやって、誰にでも優しく対等に付き合う、アンタの博愛主義的な態度は、誰も傷付けないようでいて、特定の人間を傷付けてる』
さっき、クラウドにもそう言われたばかりだ。
もし、俺が彼を傷付けているのなら、できればその悪い所を直したいと思うし、彼にも謝りたい。
「じゃあティーダ…俺は、どうしたらいいんだ?」
だけど俺には何が悪いのか分からない。
教えてもらわないと、分からないんだ。
しばしの沈黙の後、小さな溜息を一つ吐いて、ティーダは俺から離れた。
「フリオは…誰にだって優しいッスね」
「誰にだって、ってそりゃあ…皆仲間だから」
できれば優しくしたいと思うのは、当然な事だと思うんだが…そう言うと、「確かにそうッスよ」と、彼も俺の意見を肯定した。
「だけどフリオは、オレとクラウドとだと、明らかに態度違うッスよね」
「それは…」
当たり前じゃないか、だってお前とクラウドは違う人間なんだから。
明るくて人懐っこい年下の少年と、物静かで冷静な年上の青年。
結構対照的な二人なんだから、自然と対応も変わってしまう。
「オレとフリオ、一歳しか年変わらないのに、何時もオレの事子ども扱いするッスよね」
彼のそのイラ立った口調で思い出されるのは、彼に出かける前に言い残した一言。
「あっ…さっきのは、本当に悪かったと思ってるさ、別にお前の事子供だって思ってるわけじゃ…」
「でも、大人だとも思ってない、そうだろう?」
そう言われると、返答に困る。
だって、確かにその通りだから。
「フリオは、オレの事を弟みたいだとかいう風に思ってると思う、それ間違ってないだろ?
分かってる、自分でだって思うんだ、もっと大人っぽい、それこそクラウドみたいな落ち着いた人になれたらいいなって、でも…」
俯き加減で俺にそう訴えかける少年。
彼は、大人でも子供でもない。
「オレ悔しいッス、アンタはいっつもオレを子供扱いするし、クラウドが相手だとオレに勝ち目ないのは見えてるし…。
だからって、アンタの事は好きだし、でも…正面からぶつかってんのに全然気付いてくれないし」
「あの、ティーダ?」
言ってる事が、分からないんだけど。
「だああっ!!もう!アンタ本当にどこまで鈍いんッスか!?」
大人しかった態度から一変し、俺に向かって怒りを露にするティーダ。
「なっ!!人に向かって鈍いって、お前なぁ!!」
「もういいッス、アンタがそこまで鈍いなら、分からしてやるッスから」
そう言って俺の胸倉を掴むティーダ。
「分からせるって何を…っん!!」
相手の手を振り解こうとするも、グイっと引き寄せられて、一瞬ティーダと視線が合った。
だけど、次の瞬間には彼の目はそこにはなく、俺の唇に押し当てられる柔らかい感触があった。
真っ白になる思考。
「ぅ、ん…」
今の状況を理解できた後、慌てて逃れようともがくも、しっかりと頭部を抑えられていて叶わない。
触れるだけ、なのに長いキスを終え、ゆっくりと離れていくティーダ。
最後に、ペロリと俺の唇を一舐めすると、掴んでいた腕を開放し悪戯っぽく微笑む。
「フリオ、真っ赤ッスよ」
「……ッ!!」
「あーあ…もしかして、初めてだったとか?」
ニイっと笑顔を深めてそう言うティーダに、俺は何て答えたらいいものか分からない。
だが、この場での沈黙は即ち“肯定”を意味する。
「へへへ、フリオの初めて奪っちゃった」
「ティーダ!!」
そんなに嬉しそうに言われても困る、俺の一生の問題なんだから。
だが、当の本人は俺の怒りなんて全く気にしてないようで、「これで分かったっしょ?」と俺に言う。
何が…なんて、もう聞き返さなくていい。
ティーダは、ずっと俺の事を…。
「オレ、アンタの特別な存在になりたいッス、大切な仲間とか、そういう皆と同じようなんじゃない。
オレはフリオニールの、たった一人だけの特別な存在になりたいんッス」
真剣な声で、表情で、俺を真っ直ぐ見つめてそう言うティーダ。
彼は真っ直ぐだ、曲がる事なんて知らない。
自分の想いに真っ直ぐで、相手へとぶつかっていく、正直に。
若さっていう勢いで、相手へと向かってくる。
それは、人としての青さのなせる技。
だが、受け止める俺にしても人としてはまだまだ青い。
「返事欲しいんッスけど」
真剣なままの彼は、俺にそう問いかける。
「いやっ!!あの…いきなりそんな事言われても、俺は…」
何て答えていいものか分からない。
「まあ、予想してたッスけどね、フリオは恋愛とか奥手っぽいし…。
大丈夫オレ待つッスよ、フリオの心決まるまで」
「ティーダ…」
「っていうか、覚悟しておくッス、オレ断られても絶対諦めないッスからね!」
それは笑顔の宣戦布告。
そんな彼の自信満々な台詞に、俺は呆れながらも笑顔を返す。
俺達は未熟な存在だ。
だけど、それを包み込むように青春の空は青く広大に広がっている。
ようやくまとも(?)な、ティフリが書けたかもしれません。
ティーダにとって最大の恋敵はクラウドだと思うんです、だってクラウドとフリオは夢の話がありますから、ティーダからすると親密な二人に嫉妬しちゃったんじゃないかな…と。
フリオがティーダに対して自分の夢について語るのを渋ってたのも、彼がクラウドを恋敵と思う原因を生んだと思ってます。
ティーダは『青春』という言葉がすごく似合うと思うんです。
2009/5/22