「きっと、君は知らないだろう。
私が心の底で殺し続けている、感情を。
蒼い光がその心の底に抱くもの
月の渓谷は何時来ても夜、辺りには大きな月の浮かぶ星空が広がってる。闇の暗さとは違う、青い夜。
深夜、見張り番として起きていた私の隣へ、彼はやって来た。
月の光を反射して輝く髪、そして、その髪に良く映える褐色の肌と琥珀の瞳。
「どうしたんだ?」
そう彼、フリオニールに問いかける。
髪も結わず、愛用のバンダナしていない彼の姿を見るのは珍しい。
だが、今日の見張りに彼は当たっていなかったはずだ。
「いや・・・急に目が覚めて、眠れなくなったから・・・ちょっと、辺りを歩いてくる」
「夜は危ないぞ」
それに、起きたてだからだろう彼は簡単な装備品しか身に付けていない。
少し、無防備じゃないかと思う。
「分かってる、そんなに遠くにも行かないから」
そう言う彼の顔に、何だか違和感を覚える・・・。
それが、一体何なのか分からないが、しかし・・・。
「・・・・・・分かった、あんまり遠くには行くな」
「ありがとう」
彼が、きっと一人になりたかったんだろう事は、理解した。
「交代だ」
「ああ」
空に雲がかかり、大きな月の光が遮られて暗闇が辺りを支配し始めた頃、仲間がやって来てそう言った。
愛用の大刀を背負いやってきたクラウドと入れ替わり、その場から立つ。
「どこへ行くんだ?」
野営地とは逆の方向へ向かう私の背に、クラウドがそう問いかけた。
「さっき、フリオニールが出たきり戻ってこない、少し様子を見てくる」
「どうして行かせたんだ?」
「誰だって、一人になりたい時はあるだろう?」
「・・・そうだな」
彼は私の返事に満足したのか、それ以上は引き止めなかった。
私は、フリオニールの向かった方向へと足を向けた。
遠くまでは行かない、そう言った割に彼の姿は見つからない。
一体、どこへ行ったのか・・・。
溜息混じりにそう思った時、声が聞こえた。
その声のした方向へ足を向ける、と——。
「フリオニール」
雲が切れて、月光が辺りを照らし出す。
私の視線の先にいるのは、間違いなく彼だ。
辺りに高い岩のない開けた場所に、彼は蹲っている。
何をしているんだ、と問いかけようにも近づけない。
風に乗って聞こえてきたのが、彼の泣き声だったからだ。
どうして、泣いているのか?
一体、何があったのか?
出て行く時に感じた、違和感。
一人にしてほしかったのは、この為なんだと知る。
自分の泣き顔を、誰にも見られたくないのだろう。
自分の弱い姿なんて、知られたくないのだろう・・・。
だから、一人離れて涙を流す。
その姿を、背後からとはいえ彼の意に反して覗いてしまった自分の中に、湧き上がる感情。
複雑な思いを、必死で押し殺す。
望むらくは・・・。
その涙を拭ってやりたいと思う。
一人の仲間としてではなく、一人の人として。
君の側にいたいと思う。
そして、できるならば・・・。
その手を握りたいと思う。
その髪を梳いてみたいと思う。
その体を抱きしめたいと思う。
その唇に、触れてみたいと思う。
その心を、占拠したいと思う。
この感情の名前なんて知っている、だから押し留める。
私と君の今の関係を、壊したくはないからだ。
しばらくその場に立ちつくし様子を見ていたが、これ以上居てはいけないと思い、その場から立ち去ろうとした。
その時。
「ウォーリア?」
背を向けた私に、背後から声がかけられる。
「どうしたんだよ?こんな所まで」
ゆっくりと私に近付いてくる足音。
平静を取り繕っていると分かる声。
振り返って、彼と真正面から向き合う。
「帰りが遅いから、様子を見に来た」
「そうか、わざわざ済まないな」
隠し通せていない、涙で赤く腫れた目元。
無理に笑おうとしている、ぎこちない表情。
「何か・・・あったのか?」
そう尋ねた瞬間、彼は私から視線を逸らした。
「別に、大した事じゃない」
なら、どうして話してくれないんだ?
大した事でなければ、泣かなくてもいいだろう?
「フリオニール・・・」
「大丈夫・・・本当に何でもないんだ」
明らかに拒絶が含まれたその声に、突き放された気分になる。
私では、君の力になれないだろうか?
君は、私を頼ってはくれないんだろうか?
どうすればいい?私は。
心の底で反発し合う感情の、どちらの思う方に動いたらいいんだ。
「俺は大丈夫だから、もう戻ろう」
そう言って、私の隣を通り通り過ぎようとする彼。
その腕を掴んで、その場に留まらせる。
「ウォーリア?」
訝しげに私の方を見返すフリオニール。
月光の下で見る今日の君は・・・何時もより綺麗で、どこか儚くて・・・。
痛い位、私の心を締め付ける。
「どうしたんだ?一体」
私の方をじっと見つめながら、そう尋ねる彼。
きっと、君は知らないだろう。
私が心の底で殺し続けている、感情を。
だけど、もう殺せない。
一時の情動に突き動かせれて、止まれない。
「フリオニール、君の事を好いている」
驚きによって見開かれる彼の瞳。
掴んでいた腕を引き寄せて、彼を私の腕の中へ迎え入れる。
心の底に抱いていたモノが、溢れ出す。
「私は、君の力になりたい」
宮沢賢治作 「銀河鉄道の夜」より
あとがき
急に書きたくなったWol様の告白話です。
月の渓谷なのは、ただ私があのマップ気に入ってるだけです、綺麗な所ですよね?
フリオが何で泣いていたのか、結局は不明なまま終わる・・・。
その辺はまた後日、フリオ視点から小説を書く予定なので、そこで明らかになります、多分。
2009/2/21
急に書きたくなったWol様の告白話です。
月の渓谷なのは、ただ私があのマップ気に入ってるだけです、綺麗な所ですよね?
フリオが何で泣いていたのか、結局は不明なまま終わる・・・。
その辺はまた後日、フリオ視点から小説を書く予定なので、そこで明らかになります、多分。
2009/2/21