子供と大人の境界線というのは、よく分からない
自分が大人になったんだ、とか…まだまだ子供だとか…
そんな実感は、そう簡単には感じられない

以前の自分と決別する為には、その証が欲しい……
目に見える、証が


May I smoke ?

ユラユラと立ち上る煙を見つめていると、どういう訳か気分が落ち着く。
形の安定しないそれ等は、行く先も安定していない。
そういう不安定なモノを見て、安堵する…というのもおかしな話だ。

溜息と一緒に吐き出される煙に、既に咽る事なんてなくなっている。
「何か悩み事なのか?」
「いや……ただ、息抜きしたいだけだ」
振り返ってそう答えると、仲間は「そうか…」と言って、少し俺に微笑んだ。


二手に別れた俺達。
敵を巻く為に取った手段だった、勿論…それが良い方に出るか、反対に悪い方に出るかは運次第なのだが、今回はそのどちらと言えない。
最後に、別れた仲間と合流するまでは…いつだって何とも言いようが無い。
そんな中、「少し休憩しようか」と持ちかけたのは彼の方だった。
お互いに体力を消耗していた、それを見越しての俺への気遣いだったのだろう。
俺はそれに短く了承の返事をして、彼の隣りへ腰かけた。

その時、それまで抑えていたのだが……胸中に渦巻く、どこかザワザワした気持ちが沸き起こって来た。
こういう時に、この騒ぎを抑える唯一の方法を俺は知っている。


「フリオニール」
「うん?どうしたクラウド?」
「煙草、吸ってもいいか?」
隣りに座った仲間にそう尋ねると、直ぐに折り返して「構わないよ」という答えが返って来た。
その言葉に感謝して、俺は箱から一本煙草を取り出すと口に咥えて火を付ける。
一口吸って、肺の中へ煙を満たせば途端に落ち着きを見せる俺の内部。
安堵感がそのまま顔に現れたのか、「クラウドは煙草好きなのか?」と隣りの彼がそう尋ねた。

「別に…無いと生きていけない程じゃない」
「そうか……」
「ああ、ただ…時々、無性に欲しくなる時があるだけだ」
多分、そこには大した意味はない。
ただ己を落ち着かせる手段として、現段階ではそこそこ有効なモノだ…というだけの事。
別段、そこに好き嫌いは無い。

「アンタもどうだ?」
手にした箱を隣りへ向けると、真面目な青年はそれを一目見て首を横に振る。
「俺はいいよ…っていうか、一応まだ吸えないからさ」
その一言を聞いて、俺の脳内に疑問が浮かぶ。

この仲間は今、俺の質問に“まだ”と付け加えた気がするのだが……気の所為か?


「フリオニール…お前、一体……幾つなんだ?」
恐る恐るそう尋ねると、彼は不思議そうに俺を見返す。
「俺、18歳なんだけど」


……今、このどこから見ても立派な青年は何て言った?
「アンタ、未成年だったのか?」
「……そうだけど…それが、何か?」
「俺より、3歳年下だったんだな……」
「え……ぇえ!?」
どうやら、お互いに相応の衝撃はあった様だ。


「えっと……今までその、知らなくてごめんなさい」
「いや、俺の方こそ…済まない」
そう言って、咥えていた煙草の火を消す。
「あっ!いや気にしないで下さ…」
「一応、子供の前では吸わない事にしてる。あと敬語はいい、なんだか、お前から敬語を使われるのは…変に違和感がある」
「そ…そうか……」
年上に対する礼儀はしっかりと教えられていたらしい相手は、俺よりも大きな体を少し丸めて座る。
それにしても、俺の方だって驚いた。

自分は多少童顔に見られがちであるし、自覚が無い訳ではないが…それに対し、この青年はかなり大人びている。
「それに…悪いが、アンタは18には見えない」
「それ、ティーダにも同じ事言われたよ」 俺よりも先に、この質問を出した相手が居ると知って、なんだか気分が良くない。
俺が初めて知った事かと、そう思ったのだ。

「一つ違いになるんだな、ティーダとは」
「まぁ…一応そうなんだけどさ、俺は年齢詐欺だって言われたよ」
苦笑いを零す相手に、俺はただ溜息を返す。
人の事を言えないだけに、溜息しか出てこない。
俺の場合はコイツとは反対なんだけれども。


「煙草って、そんなに美味いのか?」
「いや…そこまで、ハマってるわけじゃない。ただ時々、無性に欲しくなる時があるだけで」
「どうして?」
「さぁな……」
そう返答し、潰された吸いがらを見つめる。
大した意味は無いし、寧ろ何も役には立ちはしないだろう。
最悪、人体に害しか及ぼさない代物を、どうして好んで接種するのか。


「初めて吸ったのは、成人してからだけどな」
「そうなのか?」
その疑問と彼の意外そうな表情から考えると、もしかして、彼は俺が未成年の時でも吸っている様な、そういうタイプだと思ったのだろうか?
「そんな悪ぶった事をする様なタイプに、見えるか?」
「あっ、いや…そういう事じゃないんだ!ただ、その理由が分からないかな…って」
理由、そんな事は簡単だ。


「大人になった証に吸い始めた」
一言、そう答えると、彼は俺の方を見返して「そうか」と呟いた。
「子供じゃなくなったから、記念じゃないが…自分と決別したかったんだろう、昔の嫌な思い出なんかも一緒に」
そんな子供じみた発想で、俺は火を付けたのだ。
そして、それはそのまま癖になった。

「それで、消えてなくなるものなのか?」
俺の方を見てそう尋ねる相手に、俺は緩く首を振る。
「……いや、何一つとして、なくなりはしなかったよ」
ただ、今でも時々思うのだ。
立ち昇る煙と一緒に、嫌な事も消えてしまうんじゃないか…と。
胸騒ぎがした時に、妙に自分を落ち着けてくれる。
そんな代物なのだ。


「大人になるにつれて、嫌な事はたくさん溜めこんで来たからな」
「そっか…だけど、良い事だってあったんだろ?」
「ああ」
「それまで、忘れる必要は無いんじゃないか?……それに、忘れちゃいけない事も、あるだろうしな」
俯き気味にそう呟く彼の表情が、少し曇る。
何か、俺は彼の中の過去に触れたのか?
「忘れたくないものが、あるのか?」
「ああ、凄く大事な事なんだ……なのに、なんだろうな…思い出せないんだよ、俺は」
それがもどかしくて仕方ない、とばかりに、彼は悔しそうにそう言った。
そう言う彼を見つめ、本当はそのまま忘れた方がいいものなのではないか?と、俺は想像する。

ソレを語る彼の表情が、どこか悲痛なものだったからだ。


彼の過去に何があったのか、それは俺には分からない。
違う世界で、違う境遇で生きて来たのだから…それは、当たり前と言えば当たり前の事だろう。
だが、その世界がこの青年を必要以上に大人に成長させたのは、間違いない。


彼の見て来た世界は、一体どんなものだったのか?


「アンタは、もう少し…子供で居てもいいだろう」
俯く彼の頭に手を置き、グシャグシャとその頭を撫でてやる。
そんな事をされたのは久方ぶりだったのか、ビックリした様に俺の方を見るフリオニール。
「何だよソレ?」
「背負いこみ過ぎてるんじゃないか?って事だ」
「えっ…」
キョトンとした表情の彼に、俺は続ける。
「アンタは少し背伸びし過ぎてるんだ、もう少し子供らしくしてくれないと、“大人”である俺の立場がない」
「……?」
「人を頼れって言ってるんだ、一応…アンタより人生経験は長い」
そんな事を他人に言える様になっている、自分に驚く。
何で、昔は興味無い事の方が多かったハズなんだけど。
これも、俺が大人になったからか……。


「ありがとう、クラウド」
そうやって微笑みかけてくれる相手に、俺も少しだけ笑い返す。


大人だとか子供だとか、そういう境界線はよく分からない。
ただ、アンタが少しでも、俺の事を頼りに思って欲しいとそう思ったのだ。


あとがき
クラウド→フリオ(?)、出会って間も無い頃で、なんとなくいフリオに惹かれてるクラウドを書きたかったんです。
前にスコールの喫煙の時に、クラウド編が先にある…とか書いてたのの、クラウド編です。
その内アップするとか言ってから、気付けば一年経っていました、自分でもビックリしました。

この二人は、見た目では年齢が分からないけれど、中身では年の差が出るだろうな、と個人的には思っています。
2010/5/28
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