「フリオ先輩は好きな人とか居ないんッスか?」
後輩の質問に対し内心ドキッとするも、それが顔に出ないように「いや、いないよ」と笑って返す。
「えーぇ、つまらないッスね、先輩ちょっとは青春を謳歌したらどうなんッスか?」
「余計なお世話だ、そういうお前はどうなんだよ?」
「俺ッスか?」
その後に続く後輩の浮かれた話を黙って聞いてやりながら、内心彼に謝る。

ゴメンな、ティーダ…俺、本当は好きな人いるんだ。
ただ、絶対に教えられない。
だって…相手は“あの”生徒会長だから…。

想い人は生徒会長

ウォーリア・オブ・ライトを知らない生徒はこの学校に居ない。
何故なら、この学校に入学してから連続して生徒会長を務め続ける、秀才だ。
容姿端麗である為に、女子生徒からの人気も高い。
実は、彼と自分は幼馴染なのだ。
だから、かなり仲良くしてくれているんだけど…。

何時だろうな、この胸中にうずまく気持ちに気付いたのは…。

男の俺から見ても、彼は凄く魅力的だ。
しっかり者で頼りになるし、面倒見もいいし…。
初めはそんなに意識していなかったんだ、別に…そんな趣味でもないし。
だけど、気付いた時には…既に彼の事を目で追っていて。
それに気付いてから意識しないようにしていたんだけど、もう無理で。


好きなんだって、気付いた時には、死にそうになった。

だって、恋愛なんて今まで一度もしたことないから…。

「……はぁ…」
どうしていいのか、分からない。

「どうしたんだ?」
「…クラウド」
同級生のクラウド…実は彼とも長い付き合いなのだが、が俺の隣まで来てそう尋ねる。

「どうかしたって…何も」
「最近、溜息の数が多い」
「そうか?」
「顔が沈んでる」
静かな視線で見つめ返すクラウド。
……重圧が、凄い。
誤魔化せそうにはない。

「ちょっと、な…」
「悩み事か?」
「ああ……」
「好きな、人でもできたとか?」
「えっ!!」
思いも寄らない一言に、驚いてクラウドの方を見ると…。
俺の反応にクラウドが驚いていた。

「図星、だったのか?」
「っな!」
何だ、当てずっぽうで言ったのか…でも、安心できない。
これで、完全にバレた。

「まあ、何となくそうじゃないかって思ってたけど」
そう言うクラウドの一言に、また驚く。
「そんなに俺、態度に出てたか?」
「いや、そこまで気になるものでもない、けど…最近ちょっと何か思い悩んでるな、と思って」
「そう……」
普段と変わらないように接していたつもりだったんだけど、クラウドに言わせると、そうやって意識すればする程、どこかギクシャクしてるように見えるらしい。
「相手は、誰だ?」
「…………」
「言えない、のか?」
「悪い」
「いや、構わないさ」
そう言って黙り込むクラウド。

「告白、しないのか?」
遠慮がちに、少し声を潜めて尋ねられる。
「なっ!!そんな事できるわけ…」
「そんな事言ってると、いつか後悔するぞ」
俺の悩みに対し、真面目に答えてくれるクラウド。
でも、後悔するなんて言われても…俺の場合、好きになった相手が問題で…。
何て答えるべきか迷っていると、クラウドが小さく溜息を吐いた。
「まあ、お前の好きにすればいいが、俺は正直に話した方がいいと思う」
それだけ言うと、クラウドは立ち去った。


告白…なんて言われても、俺にはどうしようもないわけで。
いや、確かに好きなのは認めよう、だけど…。

「フリオニール?」
「ウォ、ウォーリア!!」
いきなり話しかけないでくれ、心臓が止まるかと思った。
「…すまない」
「あっ!いや、あの…別に、俺がボーっとしてただけだから、その…そういえば、何の用なんだ?」
用件を尋ねると、「ああ…」と短い言葉の後、俺の目を真っ直ぐ見て話し始めた。
「いや、今日の放課後ちょっと生徒会の仕事を手伝ってくれないか?」
「俺が?」
「君は園芸部だろう?今度の文化祭で作るアーチに本物の花を使う事になり、企画案を提出しなければならないんだが…私はあまり花には詳しくないんだ」
だから、相談したい…と言われて、二つ返事で引き受けた。
些細な事ではあるが、頼られて嬉しかった。

「なら放課後、生徒会室まで来てくれ、私は少し用があるので、それが終わり次第すぐに向かう」
「分かった」
ニッコリと笑ってそう言うと、彼も少しだけ微笑み返してくれた。
その優しい笑顔に、ほぅっと、胸が熱くなる。
見とれてしまうくらいに、綺麗な彼の笑顔。
それに見とれてしまうのは俺だけではなく、クラスの他の女子生徒の目も釘付けになっていた。
やっぱりウォーリアはモテるからな…。

そう思った時、何だかイラっとした。
嫌だな、何考えてるんだ俺…人の恋愛は自由だろう?
ウォーリアが、誰かを好きになるのが嫌だなんて…そんな事……。
酷い考えだ、と思ってすぐに振り払う。

だけど、嫌な感じは一向に消えてはくれなかった…。


放課後、頼まれた通り生徒会室に来たのだが…ウォーリアの姿はない。
そういえば少し用がある、と言っていたのを思い出して、鍵を受け取って来たら良かったかもしれない、と後悔。
閉まったままの生徒会室のドアの前で十分程待つ。
どうしようか迷った結果、ここで待っていても仕方ないか…と、生徒会室の鍵を借りに行くことにした。
職員室に行く途中、二階の渡り廊下から見える中庭の端に、ふと見知った人影を見つけた。
「ウォーリア…」
その時は、こんな所で一体何してるのか…なんて疑問には思わず、折角見つけたんだし、ウォーリアは合鍵を持ってたはずだから…とそのまま彼の居る中庭へと下りた。


それが間違いだったんだ。


中庭に下りた俺が見たのは、ウォーリアと見知らぬ女子生徒。
あっ…嫌な予感。

「ぁの…私……貴方の事が好きです!!」
付き合って下さい!!っと、ウォーリアに頭を下げる見知らぬ女の子。
コチラからは彼女の後ろ姿しか見えない、頭を下げる彼女を目の前に、ウォーリアは冷静に彼女を見ている。
ここに居てはいけない、そう思うのに、その場から動けない。
何、やってるんだろう?…俺。
自分でも、自分の間の悪さに嫌気が差す。
その時だった。
一瞬、目を上げたウォーリアと視線が合う。
彼の目が驚いたように、少しだけ見開かれるのを確認するより前に、俺は走り出した。

しまった…。

見てしまった事への申し訳なさだけでなく、背中に走る、恐怖とも悲しみとも分からない“何か”に突き動かされ、俺はとにかくどこかへ向かって走った。


生徒会室の前まで来て、ようやく俺の足は止まった。
どうしてここで止まったのか?無意識の内に走ってきたから分からないが、とにかく一刻も早くここから帰りたかった。
廊下に置きっ放しにしていた鞄を肩に掛け、帰ろうと体の向きを変えたところで…。
「何、してるんだ?フリオニール?」
「ウォー…リア」
どうして、気付かなかったんだろう…とかいう考えは無視。
今は、ここから立ち去る事が最優先事項だ。
「ゴメン、ウォーリア…俺、急用を思い出したから「どうして?君は泣いてるんだ?」っえ?」
俺の言い訳を切断して尋ねられたウォーリアの質問に、小さな疑問の声を発した俺は、ようやくそこで気付いた。


俺、泣いてるんだ…。


「何があったんだ?フリオニール」
「べっ、別に何も……」
「じゃあ、何で泣いてるんだ?」
ウォーリアの静かな声が、俺の聞かないで欲しいところを鋭く突いてくる。
「フリオニール?」

止めてくれ、止めてくれ、止めてくれよ。
このまま走って帰らせてくれ。
俺の中に渦巻いてる、ぐちゃぐちゃした感情が、溢れ出してしまいそうだから。
こんなもの、貴方に知られたくないから、だから…。
そんな風に近寄らないでくれ。

「本当に、本当に何もないんだ!!だから…」
「何もない訳ないだろう?」
そう言って、ウォーリアの手が俺の肩に触れる。
温かくて優しい、大きな手が…。
「そんな状態の君を、放っておくわけにはいかないだろう?
私でよければ話を聞こう」
ポンポンと優しく頭を撫でられて、俺に…もしその手を振り払える力があるなら、今すぐそれが欲しかった。


彼が、女子生徒から人気があるのは分かってた。
分かっていたけど、悔しかった。
悲しかった。
苛々したし、何よりも怖かった。

ウォーリアが誰かを好きになる事に。

俺が嫌だと感じたのは、そんな事。
嫉妬…っていうんだろうか?こういうのを。
でも嫌なんだ、どうしても耐えられない。
嗚呼…何て、醜い感情。
だけど、止められない。

「ゴメン、ゴメン…ウォーリア、ゴメン」
「フリオニール?何を謝ってるんだ?」
ただ謝り続ける俺に、困ったようにそう尋ねるウォーリア。
「うん…だからゴメン」
「何があったんだ?」
背中を摩りながら、優しくそう尋ねるウォーリア。

「ウォーリ、ア…」
この時、俺の頭の中はもうグシャグシャで。
どうしたらいいのか、分からなくて。
「ん?」
優しく見つめ返す彼に、自分の心の内を全て、吐き出してしまいたくなって…。


「俺……俺、ウォーリアの事が、好きだ」


そのまま、告白してしまった。

言ってしまってから、自分が何をしたのか、その意味を理解して。
「あっ…あ、ゴメン!!」
驚きのあまり固まってしまったウォーリアに向かって謝るも、時は戻らない。
誤魔化さないと、いけない。
彼に嫌われたくない。

「俺…何言ってるんだろう?本当に…」
急いで涙を拭って、笑って誤魔化そうとしてみるも…どう考えても、そんな事は無理に決まってて。
「フリオニール」
「今の、本当に何も…意味はないから、本当に」
「フリオニール…」
彼の静かな声が、目が、俺を諌めているようで、言い訳を止めた。

「……何?」
「今のは、本気なのか?」
今の、とは…間違いなく俺の告白だろう。
真っ直ぐな視線が痛い、ウォーリアは人と話しをする時に相手の目を見る癖がある。
その真剣な目には、俺の安っぽい嘘なんてきっと見抜かれてしまう。
だから……。
「そう、だよ…俺は、ずっとウォーリアの事が好きだった」
素直に、心の内に仕舞っていた気持ちを吐き出した。

「……そうか」
きっと軽蔑されるだろうな…でも、それは仕方がない、俺がこんな気持ちを抱いてしまったのが悪いんだ。
そう言い聞かせ、彼の次の言葉を待つ。
「フリオニール」
「…何?ウォーリア……」
何を言われても、もうこれ以上泣かないでおこう…そう心に決めて尋ね返す。
返ってきたのは…。


「私も、君の事が好きだった」


予想だにしない言葉だった。

「…………嘘だ」
ふわりと笑って告げられたその言葉を、否定する。
「嘘じゃない」
「嘘だ!!だって…だって、ありえないだろ!そんなの……」
ウォーリアが俺の事を好きだ、なんて…そんな事、絶対にありえない。
きっと、勘違いしているに決まってる。
「一応言っておくが、私は別に勘違いなんてしていない、君が私に抱くのと同じ想いを、私も君に抱いている」
「っ……」
二の句が継げない状態、とはこの事か…。
何でだろう?自分の思い通りにいった現実を前に、どうして俺はこんな風にそれを否定してしまうんだろう?
ああ!!もう、何もかも分からない!!

「まったく、君は自分勝手だな」
「自分勝手?」
「ああ、君が告白するから、私は自分の思いを告げただけなのに、勝手に嘘だなんて決め付けられて。
そんなに私の言う事は信じられないのか?それとも、君は私にフラれたかったのか?」
「そっ…そんな事は、ないけど……でも、信じられないんだ、その貴方が俺の事を、その…」
「君を好きだって事をか?それじゃあ、証明してみせようか?」
「そんな事、どうやって…」

そう尋ねる俺の頬に、ウォーリアの手が伸びる。
俺よりも少し体温の低いその手が、心地よくてふと表情が緩んだ、その時。
「んん!」
唇に、柔らかい感触。
間近にある、蒼い瞳と視線が合い、ふっとその目が微笑んだかと思うと、ゆっくりと離れる感触…。

今、俺…あの、キスされた……?

「!!ちょっ!…あの、ウォ、ウォーリア!!」
恥ずかしくて、顔から火が出そうなんだけど…。
「これで信じてくれるかな?」
「分かったよ!分かった、信じる」
顔が熱い、きっと今凄く赤くなってるんだろうな…俺。

「フリオニール」
「何だよ?」
視線を逸らそうとするも、彼の目の力が俺の目を捉えたように動かせない。

「私と、付き合ってくれないか?」
ふわり、と微笑んでそう言われ、ほぅ…っとその綺麗な笑顔に見とれそうになる。

どうしよう、凄い幸せだ。

「勿論、その…喜んで」
誤魔化しでも何でもない、本心からの笑顔で、俺はそう返事した。


これが、俺がこの学校の生徒会副会長になる、一ヶ月ほど前の話…。


あとがき
『恋人は生徒会長』の過去編、フリオの告白話でした。
当時二人はまだ高1です、高1で生徒会長と副会長って…凄いですね。
私自身は、こういう意味では青春を謳歌してません、青い恋愛談を友人からずっと聞いていた側です。
なので、胸中の葛藤とかよく分からんです。
何か違うとか思っても心の中に仕舞っておいて下さい。
2009/4/6<
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