私は求めている
この渇きを満たす存在を
私は求めている
この体を生かす存在を
出会ってしまえば最後
その全てを手に入れよう
この欲望が疼くままに、奪い去ってやろう
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Nocturnus 〜 I thirsts for … 〜
ある夜、私は“食事”に、人間の町へと下りた。
汚い世界だと思う。
人間の世界は、欲望に満ちている。
人々が教会に祈りを捧げて、望むような清浄な世界等、存在はしていない。
それが分かっていないので、人々は祈りを捧げる。
それが自分を救うものだと信じて。
馬鹿げたものだ。
しかし、そんな低脳な人間でも、利用する価値はある。
我々が生きる上での食料として、存在する価値くらいは。
「不味いな」
食べかけていた人間から、直ぐに口を離す。
グシャっという醜い音がして、潰れる頭。
力なく落ちていく体を放り投げ、次の相手を探しに出かける。
食料にもならない人間なんて、存在する価値すらもない。
そんな低級な人間ばかりが増えて、我々はどうやって生きていけというのだろうか?
味に文句を付けるななど、無理な注文だ。
味が不味ければ、食欲など一気に失せる。
それに不味い血は、我々に与える力が少ない。
喰うだけ無駄、というものだ。
「これも、外れだな」
背後から近寄って殺した娼婦の体を一突きで倒すと、面白いくらいに血が噴出した。
噴水のように血を撒き散らして倒れる女。
口を付ける気にもならず、そのまま捨て去る。
「虫ケラめが」
欲で汚された血なんて、臭いを嗅ぐだけで嫌気が差す。
こんな汚い体で、よく生きていけるものだ。
だからこそ、救いを求めるのか?
愚かしい事だ。
手当たり次第に人を殺めていく。
恐怖に歪む顔に楽しみを覚えるも、それは一瞬の事。
満たされたいのは食欲。
だが、その血を口にしてみても、一口飲み込む前に吐き出してしまう。
「不味い」
最近の人間は本当に低俗になったものだ。
ここしばらく、美味い血になんて出会っていない。
どこかに居ないのか?私の渇きを満たしてくれるような存在が…。
私は求めていた。
私の欲を満たす、素晴らしい存在に出会えるのを。
己の食欲が満たされぬまま、町を彷徨っていた私は墓地の前で倒れる何かを、ふと、視界の端に捉えた。
月明かりに照らされた、それは銀髪。
死んでいるのかと思ったが、幽かにその体からまだ力を感じた。
興味が湧いて近寄ってみると、苦しそうな喘ぎ声と、周囲に漂う“美味そうな”血の香りが鼻腔をくすぐる。
それが、あそこで死に掛けている人間から漂う香りだと気付き、更に興味を引かれた。
「貴様、生きたいか?」
倒れている青年にそう問いかける。
一体何故、ここで倒れているのか。
そんな事には興味がない。
ピクリと震えて、彼はゆっくりと顔を上げた。
褐色の肌に、映える銀の髪。
琥珀色の瞳には、生きようとする強い意志が宿っている。
日々の暮らしに絶望する目でも、この世の艱難辛苦から逃れようと快楽を求める目でもない。
ただひたすらに、自分の生をまっとうしようとする、汚れ無き生きる者の目だ。
美しい…。
人間に対してこんな感想を抱くなど、久しぶりのことだ。
だが、そんな自分を不思議に思うよりも先に別の欲望が疼きだした。
所有欲、独占欲…何に置き換えてもいい。
とにかく、この青年が欲しい。
ようやく出会えたのだ、私の求める存在に。
私の欲望を満たす、存在に。
「生きたい」
強い意志の宿る瞳に、はっきりとした口調で、青年はそう言った。
体勢が変わった事で、その体に付いた傷口どっと血が流れ出す。
その濃厚な生命力の香りに、思わず喉が鳴る。
不味い血に失せていた食欲が、戻ってくる。
自分の奥にある欲望が、その血を求めている。
だが、今は我慢しなければいけない。
彼には、生きてもらわなければいけない。
「生かしてやろうか?私が」
「そんな、事…できるのか?」
青年は私の誘いに、質問を返す。
生きようと望んでいるものの、自分の死が目の前にまで迫っている事を、彼は自覚しているのだろう。
それでも、生きる事を諦めないか…なんともしぶとい奴だ。
だがその分、生命力には溢れている。
申し分ない。
「貴様、名は?」
「…フ、リオ、二ール…」
「フリオニールか…私の名はマティウスという」
「マティウス?」
小さな声で青年、フリオニールは私の名を繰り返す。
「そうだ。よく聞けフリオニール、私は貴様を生かす事ができる」
「どうやって?」
「理由を説明していては、その間に貴様は死ぬぞ、今は時間がない。
とにかく、生きたいのならば私が生かしてやろう、貴様が私に一つ誓いを立てられるなら」
「ど…ん、な…?」
説明しようとした時、息をするのも苦しそうな青年の意識は、そこで途切れてしまった。
力なく横たわる体を、ゆっくりと抱き上げる。
まだ、息はある。
抱き上げる事でより近くなった血液の香りに、眩暈がしそうになる。
こんなにも人の血の香りに興奮を覚えたのは、一体いつ以来だろうか?
なんとしてでも、連れ帰らなければ。
我が居城まで。
そして、傷を癒して目が覚めたならその時は彼に誓わせる。
永遠に私のものになるように、と…。
「貴様はもう、私のものだ」
思っていた以上に甘く響いたその言葉に、自然と零れる笑み。
次の瞬間、そこにはもう闇以外誰も居なかった。
あとがき
久々に皇帝×フリオを書きました!そして、続きます!!
Ⅱ組のEXモード、『ブラッドウェポン』と『ブラッドマジック』を見てると、吸血鬼ネタが浮かんできたという…。
相手の血で回復する…あの二人のEXモードが好きなんです。
グロイ系にしたかったんですが、そうでもなく終わったという…もうちょと皇帝サマに暴れまわってもらえば良かったですね。
鬼畜な話を期待してる方、先に申し上げて起きますが、コレから先は多分甘くなりますよ。
いいじゃないですか、甘い皇帝×フリオがあったって…ただ、自分に鬼畜を書けるだけの能力がないだけですが。
2009/5/14
久々に皇帝×フリオを書きました!そして、続きます!!
Ⅱ組のEXモード、『ブラッドウェポン』と『ブラッドマジック』を見てると、吸血鬼ネタが浮かんできたという…。
相手の血で回復する…あの二人のEXモードが好きなんです。
グロイ系にしたかったんですが、そうでもなく終わったという…もうちょと皇帝サマに暴れまわってもらえば良かったですね。
鬼畜な話を期待してる方、先に申し上げて起きますが、コレから先は多分甘くなりますよ。
いいじゃないですか、甘い皇帝×フリオがあったって…ただ、自分に鬼畜を書けるだけの能力がないだけですが。
2009/5/14