四月馬鹿

知ってるか?
今日は嘘を吐いていい日。

だから、騙されてくれよ。


四月馬鹿


「何の用だ?」
「別に、何の用でもいいだろ?」
「貴様は用もなく、他人の家に上がり込むのか?」
「お前の家ってな…一応マップだし」
青と紫で彩られた奇妙な城、パンデモニウム。
マップとして様々な人間が通っていったりするが、本来ここは彼の居城だ。

「それで、一体何の用なのだ?」
俺の近くまで歩み寄って来ながら、そう尋ねる皇帝。
「別に、お前に用があって来たんじゃない」

嘘だ。
完全な嘘だ。
本当は、お前に用があって来た。

「嘘だな」
フンっと、鼻で笑うとそう言う皇帝。
心を見抜かれ、ムッとする。
「何で、そう言えるんだよ?」
あくまでも、用なんて無いようにそう尋ね返す。

「貴様は嘘を吐くのが下手なのだ、顔に出ている」
そう言われると、何も言えない。
今まで嘘を吐いた事が無い事はない。
だけど何故かすぐにバレる。

さっき皇帝も言ったように、俺は顔に表れるらしい。
正直者、と言われればそれまで。
嘘吐きは泥棒のなんとやら…と言われるように、嘘はあまりよくないものだし。

だけど、嘘を言ってみたい事もあるだろう?
特に、今日はそれが許される日なんだ。
だから、来てやったのだ。

「それで、何の用なのだ?」
「お前に用はない」
「闘いに来たわけでもない、かといってただ通りかかっただけ、でもないだろう?
見ていたぞ、さっきからお前がここに立っていたのを」
そっと俺の顔を伺い見る皇帝、その整った顔に、面白がっているような笑みが浮かぶ。
ああ、嫌な感じだ。

「お前の事なんか、待ってないぞ」
「誰も、私を待っていたのか?とは聞いてないが」
うっ…確かにその通りだ。

「誰も待ってない」
ふいっと、彼の視線から逃れるようにそう言う。
「嘘だな」
すると、またしても彼は俺の心を見透かしたようにそう言う。
面白がってる、そう感じられる声色。

「嘘じゃない」
余裕の相手に苛立つ。
それに、一度嘘を吐いた以上は貫き通す必要があるだろう。
だから繰り返す、嘘を吐いてないと否定する。

「さっきも言っただろう?お前は嘘が顔に出ている」
「嘘じゃない」
「強情な奴だ」
ククッと喉を鳴らして笑う皇帝。

「嘘じゃない、というのなら…私の目を見たらどうなのだ?」
そっと俺の頬に手を掛けると、自分の方へと無理やり向かせる。
何とか、その手から逃れようとするも、もう片方の腕が俺の腰へと伸び、しっかりと抱きしめられる。
逃げられない。

「どうなのだ?フリオニール」
ん?っと、皇帝の整った顔が近付く。
「嘘、じゃない…」
「目が泳いでるぞ」
そう指摘されても、どうしようもない。

嘘は苦手なのだ。

「私を相手に、よくそんなバレバレの嘘を吐けるものだな」
「煩い、それに嘘じゃないって言ってるだろ!?」
「ほぅ…」
嗚呼、皇帝の視線が痛い。

「お前の目的は何なのだ?」
「目的?」
そろそろ言い訳が苦しくなって来たのが見えてきたのか、最初の話題に戻った。

「闘いに来たわけでもなく、ただ通過していたわけでもなく、ましてや私に会いに来たわけでもない。
なら、お前は何故ここに来た」
そう尋ねる皇帝に、どう答えようか思案する。
「それは…何だっていいだろ?」
結局、口から出たのはそんな言葉だった。

「散歩でもしていたのか?」
「ああ」
「敵陣まで?」
「…そうだ」
「…………」
「何だよ?」
「もう、無理しなくてよいぞ」
「無理、なんかしてないぞ」
人って、自分の立場が苦しくなったら、どんなありえない嘘でも吐けるものなんだな。
何て、ちょっと恥ずかしくなってきた俺に、ククッと、また皇帝は喉を鳴らして笑った。

「…馬鹿にしてるだろ?」
「いや、可愛らしいと思っただけだ」
そう言って微笑む皇帝に溜息。

ここに何で来たのかって?
お前に会う為だよ。
お前に一言、言ってやりたい事があるのだ。

「皇帝」
「何だ?」
頬に触れていた手を外し、その先にある皇帝の顔に思い切って接近し。
そのまま、そっと口付ける。
そっと離れた瞬間、呆然とする皇帝の顔。
いい気味だ。

「お前なんか、大嫌いだ」
離れた瞬間に、そう言い放つ。

数秒、何を言われたのか分からずに瞬きをした後、皇帝は噴出した。
「ちょっ!!何だよ!?」
「嘘が下手だな、お前は」
そう言うと、そっぽを向く俺の顎に手をかけ、しっかりと固定すると、流れるような動きで今度は皇帝から口付けた。

「しかし、どうして今日に限ってそんな嘘を?」
「知らないのか?」
今日が一体何の日か、彼は知らないんだろうか?
「何を?」
何だ、やっぱり気付いてなかったのか…。
「今日は、嘘をついてもいい日なんだぞ」
「ほぅ…それは知らなかった」
興味深そうにそう言うと、ふと俺のめを見る。

「さっき、本当は何と言いたかったのだ?」
「…言うと、思うのか?」
っていうか、分かってるなら尋ねるな。

顔に熱が集まっているのが分かる。
「フリオニール」
「何だ?」
相手の顔を見ると、意地悪そうな笑顔を顔一面に貼り付けている。
「嘘を吐く悪い子には、仕置きが必要だな」
「なっ!!」
耳元で、少しトーンを落とした声でそう囁かれ、顔から火を噴くんじゃないかというくらい、赤くなる。

「安心しろ、可愛かったので許す」
「許すって…」
何もしないって、事。
「存分に、可愛がってやる」
ないよな、やっぱり…。

その後、俺がどうなったのか…何て言わなくてもいいよな?


あとがき
ネタが尽きた私が、今日会った友人に「ネタをくれ!!」と言ったところ。
「今日は四月一日だぞ!エイプリルフールだろ?」という返事が返ってきました。
そこで思い出したのです、そして友人の嘘に見事に引っかかった四月馬鹿です。
頼むから、フリオで私を釣らないでくれ!!

色々とありましたが、何とか今日中に仕上がってよかったです。

久々に甘い皇帝×フリオを書きました。
前作で皇帝が大分酷い目に合ったので、今回は幸せにさせてあげたかったのです。
2009/4/1
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