俺がこの世界に具現化されてから、今日で三日目だ。
彼の仲間とは何だか合わないので、相変わらず距離を置いたままだ。
今もそう。
秩序の戦士達が集まっている場所から、少し距離を置いて、俺は一人佇んでいた。
一人夜風に吹かれながら、思い出すのはあの道化の言葉。

彼が表ならば、暗黒面とでもいえるだろう、己自身の存在に、疑問を感じていた。

光は、時に暗黒面を求める

『その薬はですねぇ、自分の中の隠れた本心を具現化させる効果が、あるみたいなんだよん』
『隠れた本心?』
『そう!例えば、こういう存在になりたい!!とか、そんな風に思ってる自分を具現化させるみたいなんだけどねぇ…』
当初の予定とはかけ離れた物ができたらしいが、研究者として興味深い代物だったので残しておいた、とも…。
『しっかしビックリしっちゃったよぉ、君がこんな乱暴者になりたいと思ってたなんてね』
捕まる前に、大分痛い目に合わせ、捕まえてからも言い争いになっては、相手が手を出せないのをいい事に、一方的に手を出していた俺に向かって、ケフカは責めるようにそう言った。

その事に対し、疑問に思ったのは、他でもない自分自身。
人に優しく、周囲に頼られているあの、心優しい青年は…一体どうして、自分のような存在になりたかったんだろうか?

「こんな所で何してるんだ?」
一人、離れた場所に座っていた青年にフリオニールは近付き、声をかけた。

「何もしてない」
「みたいだな。隣、座ってもいいか?」
「好きにしろ」
「なら、そうさせてもらう」
ちょっと微笑むと、フリオニールは俺の隣に腰を下ろした。
「皆とは、馴染めないのか?」
「俺はお前とは違うんだよ」
「分身だって、ケフカは言ってたけどな…」
それも、自分が望む存在だと。

俺には、それが分からない。

彼が憧れる、望む存在というのなら、秩序の戦士達を統括するあの光の戦士こそ、それだと思う。
そうでないのなら、あのティーダという、ちょっと騒がしいが、自分にはない場を和ませるような、独特の明るい雰囲気を持つあの少年のように、もう少し、年相応に振舞ってみたいと思っていてもおかしくはないだろう。

なのに、生まれたのは、他でもない自分。

他人と付き合うのが面倒で、正直、あまり人に近寄りたくもない。
タイプでいうなら、クラウドとかスコールとか…あの二人に似てるのかもしれない。
だけど二人とは違い、自分の性格は、最悪だ。

人に何か言われると、すぐに突っかかる。
正直、人をあまり信用していないからこその、この言動。
それは、自分がその内消えてしまうんだという事が分かっている事からくる自暴自棄なのか。
本当に、人間を信用していないのか、俺自身分からない。

だからこそ、生まれた瞬間にできればその場で消しさってしまって欲しかったのだ。
事実、俺はそれを申し出た。
こんな事になって面倒だろうから、今すぐ消してくれ、と。
夢幻の軍勢と相手をする彼なら、自分自身と瓜二つの存在であるとはいえ、その望みを叶えてくれると思った。
なのに…。

『そんな事、できるわけないだろう』
返ってきたのは、予想に反する言葉。
『何時消えるのか分からないんだ、このままこの世界に存在してるのはお前に問題があるだろう、だから…』
『だからといって、お前の方を殺すなんて事はできない。仲間にはちゃんと説明すれば分かってもらえると思うし、とにかく早く帰ろう』
なっ?と、我侭を言う子供を宥めるような声で、フリオニールは自分の分身にそう言った。
正直、説得されたわけではない。
ただ、その時自分に向けた彼の顔が、とても優しかったのだ。
その優しさに、ちょっと甘えてみたくなっただけ。

あのムカつく道化は、きっと正確に実験データを取れてない。
彼が自分に憧れを持っているなんて事、きっと絶対にない。
分身である方の自分が憧れる存在、それこそが元の自分なのだから。
きっと、あの薬品は、自分とは正反対の存在を形作るものだったに違いない。

「なぁ、一つ聞いてもいいか?」
「何だよ?」
「あの…この前、お前がさ…俺の事を……その」
「好きだって言った事か?」
「ああ、それなんだけど…俺って、無意識で自分自身の事好いたりしてるのか?」

つまりは自己陶酔者なのか?とそう問いたいようだ。
「大丈夫だ、そういうわけじゃない」
「本当か?」
「俺はお前自身の分身なのは間違いない、だけど、お前の持つ意思をそのまま具現化したわけじゃない。
俺の中の感情や思考はお前の影響は全く受けてない、俺とお前は姿形は一緒だけど中身は別人なんだ。
別に、お前がナルシストってわけじゃない」
「そうか……じゃあ、あの言葉は?」
「俺の本心」
直球でそう言うと、彼はちょっと顔を赤らめた。

「よく、そんな恥ずかしい事を平気で言えるな」
「恥ずかしいって言われても、これが本心なんだ」
「そっか…俺は、やっぱりお前みたいになりたかったな」
「えっ!…」
思いもよらない言葉に絶句する。
俺のようになりたかったと、この目の前の青年は言ったのだ。

「何でだよ!?」
「何が?」
いきなりの質問に、きょとんとしたように彼は俺を見つめ返す。

「どうしてお前は、俺みたいな存在になりたいんだよ?」
人を嫌い、関わらないようにし、それだけではなく近付く者に敵意をむき出しにしてしまうような、こんな自分に。
一体どうして、何があれば憧れを持てるというんだ?

「お前は、本当は人の事をちゃんと好いてるんだろう?」
「何で?」
「だって、俺には優しい」
ふわりと穏やかな微笑みで、俺にそう言う。

「それは、お前だからだ…」
一瞬で俺の心の隙間に入り込んできた、安心できる温かさ。
「安心できる存在の側に居たいんだろ?俺も…正直、一人は怖いんだ」
言葉にはしなかったが、彼には何となく伝わっているんだろう。
俺が、お前の側では気を張ってない事を。
それが分かっているからこそ、この言葉が言えたんだと思う。
「怖い?」
「戦争で、本当の両親を失って、育ての親も亡くして…反乱軍に入ってからも大切な仲間を無くして…。
そんな事が続いたから、一人で居るのは、怖いんだ…仲間を、全て失ったんじゃないかって、そんな杞憂に捕らわれるから…何時でも、できれば誰かの側に居たい」
穏やかな笑みを消して、自分の膝を抱えると、静かな声でそう胸中を告白するフリオニール。

「それと、俺の質問は何の関係があるんだよ?」
「ああ…一人で居るのが怖いから、誰かに嫌われないように勤めてる、誰かと意見が違っても…最終的には自分の意見を曲げてしまう、勿論、自分が正しいと思うことは絶対に曲げるつもりはないんだけど、でも…そうだな、嫌な事は嫌って言えない方かもな」
だから、憧れるんだ、と彼は言う。
自分の意思を、人に向かって真っ直ぐに伝えられる人間を。

「だけど、俺は見ての通りの捻くれ者だぞ、どう考えてもお前の好むような性格じゃない」
「…うーん、何て言うか…よく言われるんだけど、俺って真面目で…かなり純粋らしいな」
「ああ」
確かにそうだが、それが一体どうしたというんだろうか?
黙って続きの言葉を待つと、彼は少々言い難そうにしながらも、沈黙に耐え切れず、その先を話し出す。
「正直、曲がった事は嫌いだ…だけど、何ていうのかな…もうちょっと、物事を柔軟に考えられたら、とも思う…
冗談が分かるような、そんな人間になりたいし、それに…」
「それに?」
「少しくらい、少しくらいなら、ちょっとグレてても、誰も困らないだろう?」
そう言った後、恥ずかしいからなのか、自分の抱えていた膝に顔を埋めるフリオニール。
ビックリして、そのまま彼を見つめる。

つまりは、何だ…。
不良に、憧れてたと…?

「プッ!」
「なっ!!わっ笑う事ないだろ!!」
噴出した俺に対し、抗議の声を上げるフリオニール。
いや、だって…お前。
「不良に憧れるって…何処の田舎のガキだよ!!」
ヤバイ、ちょっと可愛いかもしれない。
顔を赤くして照れているフリオニール。
「田舎のガキで悪かったな!!」
「そんなに怒るなって、成る程なぁ…これで分かった、何で俺みたいな奴が生まれたのか」
これで納得した。
でも、不良に憧れるって…以外だったな。
まあでも、ありえない事でもないか。
真面目に生きてきたからこそ、ちょっとくらいグレてみたくもなるのかもしれない。
まあ、コイツは本当に根が素直で純粋っぽいから、そういうのは憧れだけで、実現はしなかったんだろうな。
それが心の中のどこかに残っていたのか。
「まったく、人事だと思ってそんなに笑って」
「人事じゃないぞ、お前がグレたいとか思うから、俺はこんな捻くれ者になっちまったんだから」
「うっ…それは、そうだけど」
言い返せずに口ごもるフリオニール。
俺はからかいの笑顔を引っ込め、コイツの真似をして微笑む。

「だけど、気にする事でもないだろ」
「何が?」
「お前が心配しなくても、お前の仲間はお前を置いて消えたりしない、少しくらい自分の意見を主張したって、誰も責めたりしないだろ」 まあ、俺くらい人に敵意を持って接するのは問題があるかもしれないが…。
「お前は、お前の思う通りに生きてろ、もし何か困った事があったなら、何時だって俺が助けてやるから」
「まるで、恋人への告白だな」
「大切な人間である事に変わりはないだろう?」
俺の生みの親なんだから。
「ありがとう」
俺の好きな、穏やかな微笑みで、そう礼を言うフリオニールに、すごく満たされた気分になった。

その時、ついに時が来たようで、俺の体が少しずつ、少しずつ消えていく。
「シャドウ?」
「悪い、どうやら効果が切れたみたいだ」
「そんな…」
ああ、そんな顔するなって。
「大丈夫だ、さっき言っただろ?俺は何時だってお前の側に居てやるうからさ」
そう言って、フリオニールの髪にそっと指を通す。
柔らかい髪が、手に触れる。
そのまま頬に触れれば、まだ、その温かさを感じられる。
もうすぐ、こんな事も感じられなくなってしまうのか…それは、ちょっと寂しいな。
でも、大丈夫だ。
俺達は一人じゃないから。
「じゃあ、また会おうぜ、フリオニール」
最後にその唇にそっと、自分の物を押し当て、その感触を味わう。
消える直前に見たその笑顔は、瞳に涙を溜めながらも俺の好きな、あの穏やかな笑顔のフリオニールだった。


シャドウが消えた、それは秩序の戦士達にとっては朗報だった。
しかし、シャドウ自身は消えたものの、彼の残したものは騒がしい記憶だけではなかった。

「これは、一体どういう事なのだ?ケフカ」
「うーん…君達が言う事が本当だとするなら…どうやら、あの分身は消える寸前に、自分の一部を元の存在に残していったようだね」
シャドウが消滅した後、再び問題を起こしたこりない、バッツ・ジタン・ティーダの前に、フリオニールがキレた。
それは見事に、キレた。
「テメエ等は、何度同じこと言わせんだ?あ?バカなのか?バカなんだな?」
これは、その時フリオニールが発した台詞の一つなのだが、これ以降もずっと、それは延々とこの調子で三人は怒られ続け、最終的に三人がボロ泣きしながら、土下座するという事件が起こった。
しかしその後、我に返ったフリオニールは自分が何故そんな事を言ったのか分からず、三人に詫びていた。
これはおかしい、という事で思い浮かんだのは、例の薬品と、それによって現れたもう一人のフリオニール。

「それは、消すことはできないの?」
「消すって言われてもね、君達の仲間を貸してくれるっていうんだったら、調べても構わないけど」
ニイっと嫌な笑顔を浮かべながら、そう持ちかけるケフカ。
「それは、無理だ」
「じゃあどうしようもないね、まあ、彼が登場しないように、充分に注意する事だね」
実験体にならないのなら、もう興味は失ったようで、じゃあ帰ろうか…とした所で、大きな足音が聞こえてきた。

ああ、嫌な予感がする。

「フリオニール、今日こそ我が后に…」
「死ね!虫ケラの屑!!」
走ってきた皇帝に対し、見事にマスターオブアームズを叩き込むフリオニール。
「なっ!お前は、この前の…」
「違うぞ、俺はお前が愛する癒しの天使サマだぜ」
サディスティックな微笑みで、皇帝を踏みつけるフリオニール。
これからも、しばらくはこの騒動は続きそうだ。


「うっうっうう、うぼあああぁぁぁぁあああああああ!!」
この日の皇帝の断末魔の後、一週間程、皇帝は寝込むことになる。


END


あとがき
完結です。
フリオニールはちょっと不良に憧れている節があれば可愛いなぁ、と思ったのです。
そして、アナザーはそんな真面目なフリオニールが大好きなのです、学パロでよくあるパターンですね、不良と学級委員(笑)。
暗黒面フリオニールは、これから現れると思います。
2009/3/30
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