「お前達ってさ、なーんか夫婦みたいだよな」
クラスメイトの言葉に驚く
いや、だってさ……秘密にはしてるけど

俺達、付き合ってるからさ

いい ふうふ の ひ

「いっその事、明かしてしまってもいいんじゃないか?」
「何言ってんだよ、駄目だよ、駄目だ!」
強い口調で言ったから、ウォーリアもそれ以上は言い返してこなかった。
人前でイチャつくことはしない、確かに普通のクラスメイトよりは仲がいいかもしれないけど、友情と映っても差し支えないくらいの距離は保ってるハズ。
男同士で付き合ってるってバレたら、どうなるのかなんて、想像するだけで背筋が震える。
だから隠しておこうと、二人で約束したんだ。
二人だけの時は勿論、構わないんだけど。でも、学校内は何があるか分からないから友達のフリで過ごそうと決めてたのに。
いや、勿論バッツの発言が冗談だっていうのは分かってるんだけど、心臓に悪い。
なんか本当に噂にでもなってるのか、とか嫌な事を考えてしまう。

「だけど、それは君も悪いと思うぞ」
そう言われてちょっとムッとした、どういう意味なんだと問い詰めれば、相手はちょっと微笑みかける。
この人の笑顔は綺麗だから、怒りの矛先が少しブレてしまう。
「今日、あったことを思い返してみるといい」
「今日あったこと?」
「そうだ、正確には私と過ごしている間の行動を」
仕方なく思い返してみる、今朝からの事なんだからそんなに苦労する事はない。


「ウォーリア、なんだよその格好」
最寄駅から出てすぐに見つけた背中に挨拶して近付いたら、あまりの軽装にビックリした。
ブレザーにカッターシャツとネクタイ、制服の着方としては間違っていないけど、季節的には間違いだらけだ。
「明日は寒くなるから、暖かくして来いよって言っただろ?」
「別に、これくらいの気温なら平気なんだが」
「そう言ってると風邪引くんだって!」
体温調節とか、問題だらけの服装に文句を言う。
確かに彼は体調管理は怠らない方だし、体だって丈夫なんだろうけれど。かといって、この寒さの中でこれは軽薄すぎる。
せめてベストくらいは中に着ればいいのに。
「ほら、これ貸すから」
首に巻いていたマフラーを外して渡すと、相手はそれを受け取る事をしぶった。
それじゃ、俺に悪いから……なんて断りの文句を入れてくるので、さっさと首に巻き付けてしまう。
これで少しはマシだろう、と満足に見つめる俺に対し。彼は呆れたのか諦めたのか知らないけれど、ちょっと微笑むと「ありがとう」とお礼を言った。
「お礼を言うなら、明日からは気をつけてくれよ」
「ああ、分かった」

授業中に居眠りしている姿なんて見た事ないし、大抵の教科は完璧にこなしている様に見えるウォーリアなんだけど。ただ一つ、どうしてもからっきし駄目な授業がある。
それが、家庭科だ。
「ウォーリア、それ貸してくれよ」
「これくらいなら、私でもできるぞ」
ムッとしてそう言い返すけど。それならどうして、針に糸を通すだけでそんなに時間がかかってるんだろう?
なんていうか、こういう所は不器用なんだよな。
「いいから貸してくれよ、これじゃあ授業内に課題終らないだろ?」
大した内容でもないのに、居残りというのは悪いだろう。
彼の手からさっと針と糸を奪い取って、糸を通して玉結びをして返すと、感心した様に俺を見つめる。
「流石だな」
「いや、そんなに凄い事でもないから」
その後もなんというか、危なっかしい手つきで縫ってるものだから、横から見ていてハラハラさせられた。
なんでこの人、こんな極端なんだろう。
まあ、できない事もあるんだって安心するところではあるけれど。
「ウォーリア、そこはそんなに縫わなくても大丈夫だぞ」

昼休み、学食で食べるのはお金が勿体ないからという理由で、いつも自前の弁当で来る俺。
「はい、ウォーリアの分」
「ああ、いつもありがとう」
彼の分も一緒に作る様になった理由は、その日の気分によって、あまりにも彼の食事のバランスが悪すぎるからだ。
酷い時なんて、食べないなんて事もあるくらいだ。
そんな姿が見ていたれなくて、明日から弁当を作ってくると言ったのが始まりだったと思う。
「相変わらず、フリオニールの弁当って美味そうだよな」
俺も作って欲しい、なんて言うバッツだけど、なんどもそれは断ってる。実際、バッツ自身もかなり料理ができるから、あんまり料理が上手い人に対して自信を持って振る舞える訳じゃない。
「でも、ウォーリアには作ってくるんだな」
「そうしないと、食べないだろ」

そうだ、この時だったクラスメイトが例の発言をしたのは。

「お前達ってさ、なーんか夫婦みたいだよな」
満面の笑顔でそう言うものだから、思わず持っていた箸を取り落としかけた。
「なっ、なんで!?」
「いやあ、二人とも息ぴったりっていうかさ、お似合いっていうかさ……なんだろう、恋人通りこして熟年夫婦の域に入ってる感じがするんだよなあ」
バッツは笑ってそう言うけれど、こちらとしてはそれは全く笑えない。
そんな俺に対して、ウォーリアはブレる事なくその冗談に笑って問い返す。
「そうだな、友人よりもそちらの方が近いかもしれない」
「ちょっ!ウォーリア!!」
「おっ、珍しいねウォーリアが冗談に乗ってくれるなんてさ。でも、良いコンビって事だよな」
羨ましい、とか言いながらも顔がニヤニヤと面白がる様に笑ってる。
なんだよ二人共。


「付き合ってないフリをしようと言いながら、結局、君は私に構い過ぎてるんだ」
「なっ!そんな事ないだろう」
「そうかな、まあ構わないんだ。
君が無意識に、私の事を想ってくれてるって事だろう?」
ニッと笑ってそう言う相手に、顔が熱くなってくるのを感じた。
駄目だ恥ずかしい。
確かに思い返してみたら、少し彼に構い過ぎてると言われても頷ける。だけど、なんというか見ていられないというか。一緒に居て、気になる部分が出てくるというか……。
ハッキリ言うと、放っておけない。
「君が私が大好きだって事は、よく分かってるから」
頭を撫でられてそう言われると、なんだか子供扱いされてるみたいで、ちょっとムッとした。
「ウォーリアが見てられないだけだよ」
「そう言ってくれるのは、君だけだよ」
二人っきりじゃないと駄目だと言ってるのに、俺の手を取って歩き出した。
人目を気にして文句を言ってやろうかと思ったけど、笑顔で振り返る相手に言葉を無くしてしまった。
「偶にはいいだろう?」
そんな事言われたら、言い返せないだろ。
感じたのは怒りじゃなかった。

夫婦だ、なんて言われるくらいなら。今更、こんな事を隠しても一緒かもしれない。
繋いだ手を離さないで、少し力を込めて思った。

あとがき

という事で、WOL×フリオで夫婦の日。
滑り込みセーフ!……ですよね?
正直、良い夫婦にならないネタばっかり浮かんできて困っていたんです……夫婦、に見えれば良いんですが。
2011/11/22

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