こんな事あってたまるか!!

秩序の聖域にて。
コスモスに召還された十人の戦士達は今、自分達の目の前に広がるありえない状況に驚き、呆れ、軽く疲れを覚えていた。

「すまないが、説明してくれるか?」
「実は、今日ケフカと闘って」
「その時、アイツの実験途中の変な薬を浴びた」
「それで?」
「「それでこうなった」」
綺麗なステレオボイスでそう話す、目の前の二人の青年。

一人は、フリオニール。
そして、もう一人もフリオニール。

軽く、頭痛がしてきた。

こんな事あってたまるか!!


とりあえず区別が付かないので、薬で分裂した方のフリオニールはアナザーの衣装を着ている。
ただ問題があった。
フリオニールがただ分裂しただけなら、問題はもっと減っただろう。

「二人ともフリオニールなんだよな?」
「ああ」
「そうだって言ってるだろ、ガキ」
分裂した方のフリオニールは、どういうわけか元のフリオニールとは違う。
むしろ正反対。

「あの、悪いなティーダ」
「謝る事ないだろ、本当に煩いガキなんだし」
「止めろって」
「俺、煩いッスか?」
半泣き状態のティーダに、フリオニールは苦笑いするしかない。
分身したフリオニールは、口は悪い・態度はデカイ。
めちゃくちゃ性格の曲がった、捻くれ者なのだ。

「とりあえず、ややこしくなりそうだから、お前はちょっと静かにしといてくれないか?」
「分かった」
ただ唯一の救いなのは、分裂した元のフリオニールの言う事は素直に聞き入れてくれるようだ。
「…それで、薬の解毒剤はあるのか?」
「あったらとっくに元に戻ってるっつうの」
「静かにしろって言っただろ。何とかケフカを捕まえて、話しを聞いてみたんだけど、開発途中の薬だから解毒剤なんかは用意してないらしい」
「じゃあ、薬が切れるまで…」
「このまま、って事になりそうだ」
途端、周りの仲間達から溜息が聞こえる。
「まあまあ、いいじゃない、仲間が一人増えたと思えば」
セシルが何時もの笑顔でそう言う。
「そうだよ、コイツだって根は悪い奴じゃないはずだし」
そう言って笑うフリオニールに、しかし当人である分身の方はぷいっとそっぽを向いてしまった。

というわけで、コスモスメンバーにしばらくの間、一人仲間が増えた。
わけなのだが…。

「アイツ、カワイクねえ!!」
うがぁああっと、叫びに近い声を上げたのはジタン。
「つか、フリオの顔と声であの言動はキツイッス」
「フリオニールは優しくて、苦労人で弄られキャラ(←オイ)で、皆のお母さんであるからこそ、フリオニールだよな」
はぁっと盛大な溜息を吐いてそう言うバッツ。

彼がコスモスの他のメンバーと接触して、わずか数時間の間に起こしたいざこざは、両手を使っても足りない。
そのほとんどの被害者は、上の三名だ。

「何なんだよアイツ、姿形以外は全部正反対ってありえないだろ、元の面影一つも残してねえじゃん!!」
「ケフカの奴…今回ばかりは許せないッス」
「てか、何の実験やってるんだ?」
「さあ?新しいイミテーションの開発とかじゃねえの?」
「イミテーションでも、あんなフリオは見たくないッス」
「同感」
「酷い言われようだな」

「「「フリオニール!!」」」

今は声だけでは判断できないので、三人は飛び上がる程驚いたが、その姿を視界に納めて胸を撫で下ろした。
普段見かける、バンダナ姿の彼だったからだ。
「驚かさないでほしいッス」
「心臓に悪いぞ」
「そう言われてもな…シャドウと俺は同じ声だし」

シャドウ、分身までフリオニールと呼ぶと分かりにくい、という事で「俺はお前の影でしかない、その内消えるんだから気にするな」と言った分身の方を、そのまま“シャドウ”と呼ぶことになった。

「同じって、ね…一緒なの、本当に姿だけじゃないッスか」
「もうちょっと、ほんのちょっとでもいいから性格がフリオニールに似てたら問題ないのにな…」
はあ…っと再び溜息を吐く三人に、フリオニールは苦笑いする。
「皆、ゴメンな」
「フリオニールが謝る事ないッス」
「そうそう、悪いのはシャドウの方だし」
「それでもな、アイツもやっぱり俺だし」
そう言って彼が見つめる先には、分裂して生まれたもう一人の自分。

よくよく考えたら、一番苦労しているのは他でもないフリオニールなのかもしれない、と三人は気付く。
ふと、そこで疑問が湧く。

「アイツさ、フリオニールを完全に真似てるって事は、アレか?フリオニールと同じように闘えるのか?」
「ああ、ケフカを捕まえる時、俺に協力してくれたんだ」
あの時は、自分が二人居るのは意外と便利だななんて思った…と笑いながらフリオニールは言った。
「まあ、交渉にはかなり手間取ったんだけど…」
「何で?」
「アイツ、口悪いだろ?ケフカに対してもああでさ、二人で言い争って全然話し聞き出せなかったんだ」
だから帰りが遅くなったらしい。

「そっか…フリオも手焼いてるんッスね…」
「ハハ・・・否定はできないけど、まあ賑やかな奴が一人増えたくらいに思った方がいいだろ?」
「賑やかどころじゃないぜ、アイツ」
その時、野営地の近くで何かの爆発音がした。
「敵襲か?」
「行くぞ」
自分の武器を手に、四人は音のした方向へと急いで向かった。

「で、何の用なんだ、皇帝サマ?」
その光景を見て、コスモスメンバーは凍りついた。
地面に倒れる皇帝、その皇帝の髪を鷲み不機嫌極まりない顔、それはもう悪鬼の如く凄まじい形相で皇帝を見下ろすフリオニール、の分身であるシャドウ君。

「貴様…フリオニールではないな」
「俺もフリオニールだぞ、お前の愛する、な」
ニィっと人の悪い笑みを浮かべる。

「お前達、何してるんだ?」
この状況の中でそれを尋ねるのはかなり勇者だ、っと全員が思った。
ちなみに勇者は、何時もの衣装のフリオニール。

「お前達、一体、これは何があったのだ!?」
地面に押さえ込まれた状況でそう言われても、なんてうか凄い無様ですよ皇帝サマ。
「いや、それは俺の台詞だって、何があったんだシャドウ?」
「いや、コイツがいきなり意味の分かんねえ事言いながら攻撃してきたから、それを避けてマスターオブアームズを叩き込んだ」
「意味が分からないとは何だ?私の愛のこもった求婚を!」
「黙れ、変態ストーカー」
「変態ストーカー…ちょっと待て、それは私ではなくあの英雄「何か言ったか、虫けら」ひぃっ!」
なんか、皇帝が皇帝らしくない小さな悲鳴を上げた。
そしてその後、シャドウに頭を踏みつけられる皇帝。
不憫だ、その場に居た誰もが思った。

「あっあの、シャドウ…そろそろ許してやれよ、何もされてはないんだろう?」
「俺は何もされてないけどよ、お前に手を出そうとした事が許せない」
「シャドウ…」
「貴様…いい加減に、その足を退けんか」
皇帝の声が苦しそうなものになってきてるんだけど、気のせい…じゃないよな?

「ほら、もう許してやれって、皇帝ももう何もできないだろうし」
「ッチ、しゃあねえな」
そう言うと、しぶしぶと皇帝の頭を踏みつけていた足をどけた。

「一体…一体お前達に何があったのだ?」
呼吸と乱れた髪を整え、普段通りの皇帝に戻ると二人を見比べながらそう尋ねる。
「何がって…ケフカに聞いてないのか?」
「あの道化には三日ほど会ってないが…しかし、それはケフカの仕業か?」
「そうだ」
言葉を失う皇帝。
「しっしかし、私の愛するお前とは似ても似つかん」
「思いっきり間違えてたじゃねえか」
再び不機嫌なオーラ全開でそう言うシャドウ。
まあ、確かに間違えられたのだから迷惑だろうけど。
「姿形ではないわ、性格が似ておらんと言ったのだ」
「似てる似てないはどうでもいいだろ、っていうかこれが俺なんだ、放っとけ」
フンッと鼻を鳴らしてそう言うシャドウ。

「まったく、今日は厄日だ」
「それはコッチの台詞だ、変態ストーカー」
「だから、それはあの英雄」
「お前だって充分変態だし、ストーカーだろ?」
「ストーカーではない、私はフリオニールをただ心の底から愛しているだけだ!!」
「それがストーカーだろうが」
冷静にそうツッコミを入れるシャドウに、皇帝は返す言葉もない。
秩序の戦士達は遠巻きにしたいものの、何か問題が起こった時に対処できるように、その場に留まり二人の口論に耳を傾けている。

「いい加減にせんか、泣くぞ」
大の大人が泣くとか言うなよ、アンタが泣いてもどうしようもないだろ。
「泣くなら泣けよ、ただ、誰も慰めてはくれねえぞ」
「フッ・・・フリオニール!!」
「うわあぁ!ちょっ皇帝!!」
二人の言い争いを止めるタイミングを見計らっていた元のフリオニールに、皇帝は抱きついた。
「お前が、お前こそが私を慰める天使だ!!」
「いや、あの皇帝・・・頼むから離れ「ソイツから離れろ、変態」
ゲシッという音と共に、皇帝の脇腹にシャドウのローキックが見事に決まった。
「大丈夫か?」
「あっああ、大丈夫だけど・・・」
そっとフリオニールを助け出し、真剣にそう尋ねるシャドウ。
「にしても、シャドウさ・・・なんでそんなにフリオニールには優しいんッスか?やっぱり自分の元になった人物だから?」
ティーダの質問に、「何言ってるんだ?」とバカにしたようにティーダを見る。

「俺もコイツが好きなんだよ」

さも当たり前かのようにそう言うシャドウ。
その場の全員(特に皇帝)、固まる。

「あの?シャドウ・・・何言ってるんだ?」
「お前、自分で俺はフリオニールの影だって言ったよな?」
「ああ、だけどコイツはコイツ、俺は俺だ」
開き直ったかのようにそう言うシャドウ。
ぐいっと、フリオニールの腰を引き寄せる。
「ちょっ!!ちょっと待て!!お前、その手は何だ?その手は!!」
フリーズ状態から戻った皇帝がそう叫ぶ。

「何だよ、別にいいだろ?コイツだって嫌がってないし」
(いや、ただこの状況に付いてこれてないだけだと思う)
という、スコールの心の声は口にはしないので、当人達には届かない。

「なあ?フリオニール」
そう言ってフリオニールの顎を掴み、そっと口付けた。

秩序の戦士、固まる。
皇帝、固まるを通り越して石化(金の針を下さい)。

「ちょっ!シャドウ!!」
真っ赤になって腕から抜け出そうとするフリオニール。
それを阻止するシャドウ。

「うっうっ・・・うぼああああぁぁぁぁあ!!」
泣きながら断末魔の叫びを上げ、走り去っていく皇帝を見ながら、秩序の戦士達は物凄く胃が痛くなったらしい。
to be continued


あとがき
やってしまいました、アナザー×ノーマル。
いや、絡めてみたかったんです、そしてフリオをどSにしたかったのです。
っていうか、正直フリオニールに皇帝を踏みつけさせたかったんです。
皇帝ファンの方、大変申し訳ございません、パソコンの前で土下座しますのでお許し下さい。

ちなみに、タイトルは皇帝の心の叫びです。
そして続きます、次回はギャグではなくなる予定ですが・・・どうなるか保障はできません。
2009/3/26
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