頼むから、そんなに見つめないでくれ……

熱視線

砂漠へと探索に向かった。
今日、共に行動を取って居たのはフリオニールだった。肌の色や服装の雰囲気から、こんな熱帯の生まれなのかと思っていたのだが。彼の曖昧な記憶ではそれは分からないと首を振っていた。
そんな雑談を時折交わしつつ、進んでいく内に何度か敵に遭遇した。
幸運にもそんなに手強い相手ではなかったのだが、しかしながら足場の方は悪かった。俺のジャンプでや彼の武器を扱う中で、細かな砂が周囲に巻き上がる。
お陰で、帰路に着く頃には体が埃っぽくなってしまった。

「なんというか…もう少し考えて行動するべきだったな」
苦笑いを浮かべる相手に、小さく頷き返す。
「せめて、魔法攻撃とかならもう少しマシなんだろうけど……俺もカインも、攻撃する時にどうしても周囲を巻き込むからなぁ」
自分の髪を指先で弄びつつ、フリオニールはそう言う。
普段は陽の光を受けて銀色に輝く彼の髪は、今はどこかくすんだ色をしている。
「済まない、もう二人で行動は避けた方がいいかもな」
「あっ!いや、別にカインが悪いんじゃないだ。カインは空中戦が得意だから、俺は一緒だと心強いし。それにこの世界で召喚された戦士の中で、槍を専門で扱うのはカインぐらいだし、一緒に闘ってると本当に勉強になるよ」
そう力説する彼は、ふと表情を曇らせる。
「もしかして、カインは俺と一緒に行動するの、嫌だったのか?」
不安そうに尋ねる彼は、戦闘時の凛とした表情とは打って変わって、年相応なものへと変化する。
まるで、弟でも出来たようだ。
だが、そうだな……彼の様な兄弟はいいかもしれない。共同戦線を張るのに、彼が有能であるのも事実だ。
「いや、もしお願い出来るなら。また一緒に行って欲しい」
そう答えると、彼は「良かった」と安堵の笑顔と共に呟いた。
「……でも、そうだな…ちょっと今回は場所が悪かったんだよな」
払っても払ってもどこか砂っぽい体に、彼は大きく溜息を吐いた。


野営地に帰り着き、俺達の惨状を見た仲間達は溜息と一緒に着替えとタオルを用意してくれた。
泉で体を洗ってくるといい、その言葉に甘えて二人揃って再び野営地から歩き出した。


「あー……気持ちイイ」
笑顔でそう言うフリオニールは、既に水の中に体を浸けている。
彼よりも複雑な鎧を着ている所為で、まだ俺は泉の畔に居てその様子を眺めていた。

ほう、と心の奥底で溜息を吐く。
彼の事を、少なからず意識している自分に気付いたのはつい最近の事だ。
男に対して持つべき感情ではないのは分かっている、しかし、既にこの感情は俺の中で定着し始めているらしい。
どうして彼なのか、その理由は自分でも知りたい。
これが単なる気紛れや勘違いであるならば問題は無い、ただ黙ってやり過ごせば良いのだから。
しかし、そうは言ってもこの状況はあまり喜ばしくはないな。
男同士なのだから、裸で向き合った所で何か不具合が起きる訳が無い、普通はそう考えるのだろう。
だが、泉に浸かる彼を見て、少なからず俺が息を飲んだのは、その姿にくぎ付けになってしまった理由は……。

「カインどうしたんだ?早くしないと、そろそろ陽が暮れるぞ」
「あっ、ああ…そうだな」
泉の中からそう声をかけられて、自分の手が止まっていた事に気付いた。
急いで残りの装備品を外し、水の中へ入る。
装備を解く事で体が軽くなった、この時はどこか、自分が解放された気分になる。
泉の水は冷たいが、熱い土地を歩き続けていた自分達には、これくらいの温度の方がありがたい。
さっきまで近くに居た仲間の姿は、今は泉の中央付近にあった。
岸辺の近くからその様子を伺う、背中に走る傷跡に、俺の中で何かがグラリと揺れた気がした。
もう直視すべきでない、これ以上は危ないと判断した俺は、中央に佇む彼から視線を逸らした。

体についた汚れを洗い落とし、絡まった髪に手を入れる。
すっかり縺れた髪をゆっくりと解いていると、此方に向けて水面がゆらりと揺れた。
ふと顔を上げると、中央付近に居たフリオニールが此方へと向かって戻って来ていた。
鍛え上げられているものの、まだ幼さを残す彼の体。その褐色の濡れた肌に、普段は結われている長い髪が張り付き、瑞々しい若い肉体と相まって不思議な色気を醸し出している。
思わず、喉が鳴る。

「……どうした?」
平常心をなんとか保ちつつそう尋ねるも、彼はただ此方へと近付いてくるだけで答えてくれない。
じっと見つめられている。逸らされない視線は強く、どこか熱を感じる。
ドクドクと、体の奥底で騒ぐ自分の心臓を落ち着かせる為に深く息をする。

「フリオニール?」
すぐ近くまで来た彼の名を呼ぶと、じっと見つめる彼の目が大きく瞬きする。
髪を解く途中の手は、不自然な形で止まった。
不自然な形というのは、彼の両肩に伸ばしても良いのかと迷い、空中で止まったままの姿だ。

「……カイン…」
「…何だ?」
自分の声が変にうわずっていないか、緊張が体に満ちる。
「カインの素顔って、あんまり見る機会ないよな……」
ほうっと息を吐いてそう言う彼の言葉に、そうだっただろうか?と首を傾ける。
確かに、普段から顔を覆う様に兜を被り続けている為に、素顔を晒す機会というのは他の仲間達に比べれば少ないかもしれない。
それこそ、EXモードの間や食事や就寝時くらいだろうか。
「素顔の俺は、そんなに珍しいか?」
「珍しい、というか……その」
ふと逸らされる事の無かった彼が、頬を染めて少し俯いた。
ようやく解放された真っ直ぐな目に、心の底で僅かに安心した自分が居た。

「カイン、凄く綺麗な顔してるんだな……って」
小さな声で続けられた彼の言葉に、ビクッと体が跳ねた。
「…………綺麗?」
「あっ、うん…何だろう、女性的とかそういうんじゃなくて。一人の人として見惚れてしまうくらい、綺麗なんだ」
ぽつりぽつりとそう言葉を繋ぐ彼を見つめ、頭痛がしてきた。

綺麗だと?その言葉はお前の方が当て嵌まるだろう。
目の前に居る、俺の心を根底から揺さぶっている相手に、そう叫んでやろうかと思った。
無意識の内に彼が周囲に放つ色気。まだその身の内に宿す純粋さ故のものだろうと思われるソレは、戦いから帰還し、高ぶった体を前の前では濃厚で強すぎる。
彼の一糸纏わぬ姿に、俺は欲情しているのか?
高ぶる胸の鼓動が、耳元で騒いでいる。

おそらく、彼にその意思等は無いハズだ。
男を誘う事が出来る程、彼がそういう経験を積んでいる様には見えない。
いや、そう見えないだけで経験があってもおかしくない、か……彼も反乱軍という男所帯の一員であったのだ、容姿の整った彼であればありえない話ではない。
…………って、俺は何を考えているんだ?仲間に対して、一体どんな過去を捏造しようとしていたんだ。
一瞬、頭に浮かんだ仲間の痴態を慌てて振り払い、深く息を吸う。
だが、変わらずに向けられる彼の真っ直ぐな視線に、体の奥からふつふつと沸騰していく熱。
宙に浮いていた手が、そっと動きだす。


「あっ、フリオニール!カイン!」
今この場の雰囲気に似つかわしくない、明るい声が岸辺から響く。
「バッツどうしたんだ?」
「いや、そろそろ夕飯だからさ。早めに帰って来いよ」
それだけだ、と言って彼は走り去って行く。
「そろそろ陽も暮れるなぁ……早めに上がらないと」
「そうだな」
なんとかそう答え、小さく溜息を吐く。
体の中心から、ドクドクと波打つ音が響いてくる。
「カイン、そろそろ帰ろうか?」
「ああ、先に上がっててくれ……俺は後で行くから」
そう言うと、彼は先に岸辺へと向かう。
後ろ姿を確認して、押さえていた溜息を再び吐く。
まったく、俺は一体どうしたんだろう。

彼の視線の熱の意味を考えるのを放棄して、泉の水で冷ましてしまいたいと思った。

あとがき

ようやく出来ました、カイン→フリオの水浴び話。
大分前から書いていたハズだったのに、どうしてこんなに書きあげるのに時間がかかってしまったのか……それは管理人に問題があるからなのですが。
それにしても、この二人が水浴びで裸になるのは凄く絵になると思います…いや、誰だって絵になるだろうとは思いますが。このコンビの色気は何だか、今までの人とまた違う気がします。
カインとフリオ、褐色・銀髪に白い肌・金髪という、なんか正反対っぽいのもいいのかもしれないですね。
あと、カインさんの筋肉は個人的にとっても美しいと思っています。
2011/5/11

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