時々、彼は酷く子供だ
だけど、そんな我儘が可愛いと思う事が出来る俺も、多分手遅れなんだろうな
willful adalt and dull child
「フリオ先輩!」
街中で急にそう声をかけられた、聞き覚えのあるその声に振り返ると、向こうから走って来る懐かしい後輩の姿があった。
こんな所で会えるなんて、奇遇だな…なんて挨拶をするつもりでいたのだが。それは声にはならなかった。
「久しぶりッス先輩!!」
「ちょっ、ティーダ!!」
久しぶりはいいものの、俺の体に向けてタックルしてくる事は無いだろう。
ぎゅっと強く抱きしめてくる相手に対し、呆れの混じった溜息を吐く。
高校時代、大いに体を張った彼のスキンシップには悩まされたものだが。今振り返ると少し懐かしくもある。
「ティーダ、お前……大学生になっても変わらないな」
「いいじゃないッスか、先輩。久しぶりッス」
ニッコリと笑ってそう言う相手に、俺もようやく「久しぶり」と挨拶が出来た。
ふと、隣から視線を感じ。自分が誰と歩いていたのかを思い出した。
「ああ、クラウドはティーダに会うの初めてだよな?前にも言ったけどは、ティーダは高校時代の後輩だったんだ。ティーダ、この人は俺の大学の先輩でクラウド」
「初めましてッス」
「ああ、こちらこそ……」
挨拶を交わすものの、クラウドはどういう訳か機嫌が悪そうだ。
首を傾ける俺に対し、彼は溜息を一つ、ティーダを見つめて言った。
「いい加減に離れたらどうだ?……さっきから、周囲の視線が痛い」
ガタイの良い男に抱きつく青年、確かに奇妙な構図であるが…そこには二つ理由があると思う。
一つは、高校を卒業してプロのスポーツ選手として活躍しているこの後輩にあるだろう。試合後のヒーローインタビュー等で何度も見かけた事があるので、彼を知らない人というのもまた珍しいかもしれない。
もう一つは、街を歩けばモデル等のスカウトに引っ掛かる程、容姿の優れたクラウド本人にあるだろう。何度もそっちの道に進む事を勧めてみたのだが、自分には合わないと拒否されてしまった。
この二人に挟まれてしまった、自分の非凡さに少し嫌気が差す。
クラウドに指摘された事で、しぶしぶといった感じで離れるティーダ。
以外と潔く離れてくれた事で、俺は肩が軽くなったのだが…間に流れる空気はどこか悪い。
何だろうか、このピリッとした空気は?
「ティーダは、こんな所でどうしたんだ?」
少しでも空気を軽くしようと思ってそう尋ねると、彼は俺の方を向いてニッコリと笑いかけた。
「うん、チームメイトと待ち合わせ中なんッス。これから取材なんだ。あっ!そうだ先輩、また今度オレの試合見に来てくれよ」
チケット用意しておくからさ、と笑顔で言われ楽しみにしてると答えると、彼は輝く笑顔で「任せとけ」と返答した。
「……っと、オレもう行かなきゃ駄目なんだ……先輩、また連絡するッスから!絶対に試合来てくれよな!!」
ニッコリと笑って大きく手を振ると、彼は走って行ってしまった。
底抜けの明るさは相変わらずか、本当に見ていると元気を貰える後輩だ。
「フリオニール」
グイッと俺の肩を掴むと、クラウドはじっと俺を睨みつける。
「もう、帰ろう」
有無を言わせぬ物言いで、俺の腕を掴んで引っ張って行く。
彼が身に纏った不穏な空気から、何か怒らせてしまったらしい事は分かった。
ルームシェアしているマンションの一室に辿り着き、玄関に入ったところで背後から無言で抱き締められた。
「クラウド?」
一体どうしたのか?その理由を聞こうと思って振り返ると、唇に噛みつかれ、咥内を貪られる。
「ふぅっ!……ん、ん…」
腰をしっかりと抱き寄せられる。性急な求めにたじろぎ。なんとか相手を引き剥がそうとするものの、俺の抵抗をいとも簡単に封じ込めてしまうと。相手はどんどん俺を貪り喰う様にキスを深める。
力が抜けてその場にしゃがみ込んでしまうと、今度は玄関スペースに押し倒されてしまった。
「ぁの……クラウド、その…こんな時間から、何のつもり?」
まだ日が照っている時間に、まさかとは思うけれど、事に及ぶつもりなのか?
それには流石に抵抗を感じて、相手を見返すものの…彼はただ無言で俺を見下ろすだけだ。
するりと胸に伸ばされる彼の腕、次いで俺の頬に唇を寄せる相手。
漂う甘い空気に、心の中がざわりと揺れる。
「ちょっ!!なぁ、クラウド…お願いだからこんな所で……」
なんとか彼を引き剥がそうとするものの、抱きついたクラウドは、決して離さないというように腕に力を込める。
無言で俺の腰にしがみ着くだけで動こうとしない相手に、俺はどうしたらいいものかと、小さく溜息を吐く。
「なぁ…クラウド、何のつもりなんだ?」
そう尋ねると、彼は顔を上げて俺を見つめ返した。
「アイツは……アンタの何なんだ?」
アイツとはさっきのティーダの事だろうか?それならば、彼にも確かに紹介した通り、俺の高校時代の後輩である。
それ以外の彼については、情報番組等で知っているだろうから詳しく話す必要は無いハズだ。
すると彼はゆるゆると首を振った。
「アイツ、確実にお前の事を狙ってるな」
「狙うって、何が?」
「アイツが俺を睨みつけてきたの、気付かなかったのか?確実に、俺とお前がどういう関係なのか分かってたんだろうな」
「はい?」
俺とクラウドの関係というと、一応、恋人なのであるが……それにティーダが気付いていたのか、あの一瞬で?
そんなまさか、と思ったものの。そんな俺に、クラウドは溜息を吐く。
「アンタのその鈍感さにはつくづく苦労させられる、自分が好意を持たれてる事に、全く気付かないんだからな」
「好意って……まさかティーダが?アイツはただ俺に懐いてただけだって、弟みたいな存在だから心配しなくても…」
「はぁ…………分かってないな。いや、それが救いか」
心の中に疑問符の浮かぶ俺に対し、クラウドは額や頬に何度もキスする。
ただ、何となく。彼がティーダに対してヤキモチを焼いているようだ、という事は分かった。
もしかしたら、ティーダのスキンシップを嫌がらなかったのが原因なのかもしれない。
それが本当なんだとすれば……。
「クラウドって、偶に本当に子供っぽいよな」
「お前に言われる筋合いはない」
深い溜息を吐く相手に、俺は苦笑する。
試合に行くと約束した彼には悪いけれど、どうやらその約束は守れそうにない。
だけど、残念な事に…懐いてくれる後輩よりも、大人な恋人の我儘の方が可愛いのだから、俺は救いようがない。
色々と書きたいCPが多かったので、あみだクジして決定した結果、クラフリを書くという指令が言い渡されました。
クラウドは大人っぽいですけど、何か時々取る行動が子供染みいればいいと思います。
そんな所が、フリオの母性本能に凄くキュンと来てると更に良いと思います。
2011/5/2