見上げた先には黒い、どんよりとした空間。
その先に輝きを求める、俺達は一輪の花のようだ。
幽かな光と、ほんの少しの水と。
それだけを貰って、誰かの為に咲こうとする。
ただ、根を張ってしっかりと蕾を付け、花を咲かせたところで誰かが愛でてくれるとは限らないけれど。
ROSIER
仲間達の囲む焚き火から、少し離れた場所で武器の手入れをする。
愛用のバスターソードを磨きながら、視線は時々、アイツを捕らえる。
ティーダやバッツにからかわれながらも、楽しそうに笑い合っている、フリオニール。
心の中でざわざわと蠢く、暗く重い感情を押しつぶす。
嫉妬なんて、馬鹿げた感情だ。
とは言うが、自分がこれに捕らわれているのも確かな事。
心の中の感情を吐き出す代わりに、深い溜息を吐いた。
恋愛で悩む事になるとは思っていなかった。
勿論、今がそういう状況でない事も分かってる、でも今だからこそ抱ける感情だろう。
この闘いが終わったら、俺達は元の世界へと帰っていく。
そうすれば、もう会う事もないんだろう。
思いを伝えるのも、また、伝えずに封印してしまうのも、一つの手だ。
どちらを選ぶのか…。
「何か、悩み事でもあるのか?」
「…フリオニール」
さっきまで焚き火の側で他の仲間と談笑していたのに、何時の間に隣に。
「何か、最近クラウド溜息多いぞ」
「そうか?」
感情が表に出ないように、そう返事してみる。
分からないんじゃない、その原因は分かってる。
夢を持たない俺に、輝く自分の淡い夢を聞かせてくれた…。
目の前に居る、お前だよ。
「そんなに、暗くなってたか?」
「暗く…っていうより、思いつめてるかんじだな」
何か心配事でもあるのか?っと、顔をちょっと覗き込みながら聞かれる。
少し近くなる顔に、心臓の鼓動が大きく跳ねた。
「いや…何でもないんだ」
「そうか…クラウドは何でも一人で抱え込んでるようなところあるからさ、何かあったら俺でよかったら相談に乗るから」
「ああ、ありがとう」
そう言って、ちょっと口角を上げると、フリオニールも微笑みを返してくれた。
それだけで、嬉しくなる俺は一体どうしたんだ?
また小さく溜息を吐いたのを、隣に居たフリオニールが見つける。
「やっぱり何か…」
「いや…きっと疲れてるんだろう」
そう言って何とか言い訳してみた。
アイツが納得してくれたのかは分からない。
「フリオニール」
その時、静かな声が隣に座る想い人の名前を呼んだ。 視線をそちらえと向けると、そこに立っていたのは何時も着ている青い鎧を脱いだ光の戦士。
「どうしたんだ?ウォーリア?」
「いや、少し話しがあるんだが…いいかな?」
「ああ…ええっと」
言葉を濁して俺の方を向くフリオニール。
「行けよ、急ぎの用なのかもしれないし」
「悪いな」
じゃあ、また…と、言うとフリオニールは立ち上がり光の戦士の方へと向かった。
去っていくフリオニールの背中を見送る、一瞬、光の戦士と目が合った。
その俺へと向けられていた視線に…何か、嫌な影を見た気がした。
ぞわり…と心の中が波立つ。
何だ、今のは?
心の中で何かざわめきが止まらない。
居てもたってもいられず、立ち上がり二人の消えた方へ足を伸ばした。
足音を忍ばせ、二人から距離を取りつつ様子を伺う。
「どうしたんだよ?ウォーリア」
自分を呼び出した相手の背中に、そう問いかけるフリオニール。
フリオニールの一歩前に立つウォーリア、こちらからは二人は背中しか見えない。
「…君を好きなんだ、フリオニール」
はっきりとした声で、ウォーリアはそう言った。
言葉が耳に入り、頭で理解できるまで、しばしの間時がかかった。
あの、何時でも前を見続けるリーダー的存在の彼が、まさか自分と同じ感情を同じ相手に抱いているとは、思っていなかった。
そして、俺とは違って彼は既に自分の気持ちを伝えている。
俺が、押し殺し、消してしまおうと思った気持ちを、ストレートに。
「知ってるよ」
フリオニールから返ってきた反応に、驚愕する。
今、フリオニールは何て言った?
知ってる?
何を…相手の、気持ちを?
知ってる?
信じたくない。
現実を否定する俺の心が、一際大きく揺れた。
知ってはいけない、そう本能的に感じ取っているに違いない。
だけど、俺の体はその場所から動けない。
根が生えたみたいに、動けない。
「俺だって、貴方の事が好きだよ…ウォーリア」
ちょっと照れたように、そう返答するフリオニールの声。
瞬間、握りしめた手に力が入る。
指が白くなるくらい強く、強く握りこむ。
息が、止まるかと思った。
言葉もなく、ただ首を振る。
心臓の鼓動が、早鐘を打ってる。
打ちのめされた、気分になった。
背中を向けられているので、顔は見えないが、少し頬を赤らめたフリオニールの、照れた表情が安易に想像できた。
「君を愛してる」
「どっ、どうしたんだよ?ウォーリア」
その質問に、光の戦士は振り返る。
「君が、誰かの隣に居ることが落ち着かない」
静かな怒りや嫉妬を感じさせる、ウォーリア言動。
普段のどこか人間離れしたと言っても過言ではない、あの光の戦士とは思えない、人間らしさ。
ああ、彼も俺と同じように何か、誰かに嫉妬するものなのか…と頭の端で誰かが考える。
彼にだけ見せる、本当の表情なのかもしれない。
俺達の仲間で秩序の戦士としての光の戦士ではなく、人としての彼の、本来の姿。
「そんな事言われても」
相手の言葉に、困ったようにそう呟くフリオニール。
「仲間と一緒に居るのが、別に悪い事だとは言わないが…」
そう言って、ウォーリアの腕がフリオニールへと伸びる。
「しかし、心配になるんだ、特に……」
抵抗もせずに、相手に抱きしめられるフリオニール。
その肩越しに、ウォーリアの視線がコチラを捉えた、気がした。
ずきずきと、痛み出す。
心が、酷く痛い。
「特に?」
「…いや、何でもない」
“特に、アノ男と居る時は”
きっと、そう続いたであろう台詞。
俺と居る時が心配なんだ。
光の戦士は、間違いなく俺の隠した感情を見透かしている。
そして間違いなく、踏み潰そうとしている。
俺の抱く感情を。
「あっ!ちょっと、ウォーリア…」
何か言おうと、きっとその行動を押し留めようとした、フリオニールの声は途絶えた。
それと同時に、俺はその場から走り去る。
全てを、忘れ去りたかった。
でなければ、この感情を消し去りたかった。
今すぐに。
「はぁ…っは……」
あれから、野営地から離れた場所にまで、走って来た。
俺の普段とは違う不振な行動に、ティーダが声をかけてきたが、無視した。
今の俺が、普段通りの対応ができるとは思えなかった。
—失恋—
恋に破れた人間が陥る自己嫌悪。
今の俺には、それが取り付いている。
誰にも関わってほしくはない。
「クソッ!」
小さな声で呟いた罵りの言葉は、一体誰へ向けてのものなんだ?
自分なのか、それともアノ男へか…。
両方だな、きっと。
焼きついたように、さっきの二人が頭から離れない。
そっと伸ばした腕も、それを受け入れられるのも、アイツだからこその特権。
俺では近づけないし、触れられない。
「……好きなんだ」
お前が。
告白の台詞は口に出してしまえば、簡単で使い古された安っぽい台詞だ。
だけど、込められた感情は、とてつもなく重い。
酷く重い。
『君を愛してる』
これは、さっき光の戦士が言った台詞。
俺だって、愛してるさ。
お前に負けないくらいに、アイツの事を愛してる。
その重さに、押しつぶされそうになるくらいに。
どうすればいい?
俺の心の中に落ちた、恋愛感情の種は既に根を張っている。
芽を出し、育て、花を咲かせたところで、気付いてはもらえない。
隠れるように咲いた花なんて。
本当にそれを望むなら、陽の当たる場所へと枝を伸ばせば良かった。
それをせずに、影と夜の闇の底へ自分の身を置いた俺が愚かだったのか…。
側に居て欲しいと望んだ相手は、既に他の誰かのモノ。
救われない。
誰か、燃やして消しさってくれ。
この感情を、花弁一つ残さずに。
あとがき
ある日、某番組で“LUNA SEA”の“ROSIER”を聞いた時に浮かんできたネタです。
タイトルはそのまま引用です。
クラウドがここで諦めるのは、らしくないですか?彼なら下克上狙っちゃいます、よね…。
でも、ここで諦めてくれないと歌詞と釣り合わないのです…。
ただ、読み返してみたかんじ、なんか今ひとつ雰囲気出てなくて撃沈してます。
2009/3/26
ある日、某番組で“LUNA SEA”の“ROSIER”を聞いた時に浮かんできたネタです。
タイトルはそのまま引用です。
クラウドがここで諦めるのは、らしくないですか?彼なら下克上狙っちゃいます、よね…。
でも、ここで諦めてくれないと歌詞と釣り合わないのです…。
ただ、読み返してみたかんじ、なんか今ひとつ雰囲気出てなくて撃沈してます。
2009/3/26