好奇心は子供の特権…なんて、誰が決めたんだろう?
大人だって、好奇心を充分に発揮してもいいんだ!

続・後ろ髪、引かれたい?

「なぁ、何でお前はこんなモノ付けてるんだ?」
そんな能天気な声の後に「何するんだ!」という、怒りの声。
振り向けば、ラグナがしっかりとジタンの尻尾を掴んでいる。

「何してるんだ?」
「いや、だってコイツ尻尾付けてるだろ?アクセサリか何かかと普通思うじゃんか」
「オレのは自前だよ!そんなに引っ張るな!!」
どうやら痛感もしっかり備わっているらしい、黄色いジタンの髪と同じ色の長い尻尾は、今は威嚇する様に逆立っている。
そんな言葉を受けて、ラグナは「悪い悪い」とあんまり反省していない様に謝り、尻尾から手を離した。

「でも、世界には色んなヤツが居るもんなんだな…尻尾生やした人間なんて初めてみたって、なぁ?ヴァン?」
「ん?何だよ、そんなに珍しいのか?」
尻尾くらい居るんじゃないのか?と首を傾けるヴァン。
「良く分からないけど、オレの世界にはそういうヤツたくさん居たぞ…トカゲみたいなのとか、あとウサギの耳生えてるのとか…」
「へぇー…そっか、世界によって人種にも違いがあるんだな。フリオニール君のところはどうなんだ?」
「俺?…俺の世界では覚えてないな、知らないだけかもしれないけど……」
話にも聞いた事がないから、きっと居ないんだと思う…この記憶が正しければ、だけど。


「そういや、フリオニール君にも尻尾あるよな?」
「えっ?俺に尻尾なんて……」
無いぞ、と言おうとした瞬間に言葉が奥へ引っ込んだ。
グイッと思いっきり後ろへと引っ張られる頭、ラグナの手が引っ張ったのは俺の尻尾…正しくは、後ろで結ってある髪だ。
「痛い!痛いからラグナ、離してくれ!!」
「ああ、すまん」
パッと手を離されて、なんとか元の姿勢に戻る。

「それにしても、アンタ髪長いよな」
「そう言うラグナだって長髪だろ?人の事言えないぞ」
「でも、オレ達の中でも確実に長い方だよな?ネギ小僧やティファの次くらいに長いんじゃないか?」
「兜の所為で知られてないけど、カインも結構長いだろ?」
俺がそう言うと、ヴァンは「へぇ…」と興味無さそうに呟いた。

「でもさ、何で後ろだけこんなに長いんだよ?何か意味でもあるのか?」
「ああ、それは……」
「待ってくれよ、簡単に教えたら面白くないだろう?おじさんがその謎を解き明かしてみせるぞ!」
高らかにそう宣言するラグナ、ジタンは「おお!」と声を上げ、ヴァンは「またそんな事言って」と、少し呆れ顔だ。
俺はというと、そんな謎という程でもない理由なのに…どう説明したら良いものか、と内心焦っている。


「そうだな…フリオニール君は、元の世界では反乱軍に所属していたと言っていたね?」
「あ、ああ」
「戦火において自分の故郷を取り戻す為に立ち上がった青年、その胸の中にある願いと夢の成就の為に、願掛けをする事にした!」
「ほぉー…それで、願掛けとして自分の髪を伸ばしてるって?」
「そういう事だよジタン君」
「ふーん…てっきり、切るのが面倒だから伸ばしてるんだと思ってたんだけど」
「おいおいヴァン君、君はもう少し夢を見たらどうなんだよ?」
いや、夢も何も…それはラグナの勝手な推測であって、本当の事じゃないだろ。
というか、人をからかって遊ぶの止めてくれないかな……。

それで正解は?とようやく求められて、少し溜息。
「どちらかというと、ヴァンの理由の方が正しいかな」
「えっ?」
「俺、髪が伸びたら自分で切るんだ。前髪とか、横の髪なんかはまだ出来るんだけど…後ろまでは見えなくて。変に切ったらどうしようもなくなるだろ?だから、伸ばしてるだけなんだ」
そう説明すると、ラグナとジタンはぽかーんとした様に俺を見返す。
ヴァンだけが、「ほらオレの言った通りじゃんか」と言った。


「…………あのねぇフリオニール君。世の中にはね、人の髪を綺麗に切ってくれる職業の方がいるんだよ」
俺の両肩に手を置いて、ぐっと強い力で掴むラグナ。
「そうだな…それで?」
「自分で切らなくとも、そういう方に頼むっていう選択肢はあったんじゃないのかな?」
「でも面倒だろ?俺達は義勇軍で、軍資金は自分達で調達しないといけないから…少しでも金銭的負担が減るならさ」
いいじゃないか、タダだし。と言うとラグナは盛大な溜息を吐いた。

「君ねぇ、若い内からそれでどうするんだよ?」
「そんなんじゃレディにモテないぞ、フリオニール」
「なっ!……そ、そういう事には…あんまり興味無いから、いいんだよ」
二人共、俺の目の前で大きく溜息を吐いた。
何だろう、呆れられているのか?

「もういいだろ?そろそろ馬鹿らしいぞ」
「ヴァン、これは全然良くない!良くないぞ!」
「ああ、大問題だ!!一人の男の人生がかかっているんだ」
「そんな大ごとにしないでくれよ!!」
項垂れる俺の髪が、後ろへと引っ張られる感覚。

「お待たせ!どうしたんだよフリオニール、随分楽しそうだけど」
「バッツ!聞いてくれよ、フリオニールの奴さ……」


そうして始まる一通りの話、これはコスモスのメンバーへと一気に広がっていく。
はぁ……別にいいだろう、放っておいてくれよ。
「イテッ」
そう思っていた矢先、グッと後ろの結った髪が引っ張られた。
風に吹かれた時に木の枝に引っ掛かってしまったらしい、自分で取ろうと手を伸ばすも、中々苦戦する。
いい機会だし、もういっその事切ってしまおうか……そう思って、ダガーに手をかけた時「どうした?」と声をかけられた。

「フリオニール、何をしてるんだ?」
そう言って俺へと近付いてくるのは、あの青い鎧の戦士だった。
「ああいや、髪が絡まってしまって…」
情けない所を見られてしまった、俺は少し恥ずかしくなったのだが…相手はそんな事は気にしていないようだ。
「随分としっかりと絡まっているな」
「ああ、もういいよ…この際だから切ろうかと……」
「いやその必要はない、私が取ろう」
そう言うとウォーリアは俺の後ろへと周り、絡まった髪と枝をするすると解いていく。
時折、後ろに引っ張られるが特別に痛いという訳ではない。

「取れたぞ」
急に頭が軽くなったと思ったら、ようやく絡んでいた枝が髪を解放してくれたらしい。
「ありがとうウォーリア」
「いや、大した事ではない……それに、勿体無い」
勿体無いという言葉、それを使う意味が分からずに首を傾けると、彼は俺を見つめて言う。
「君のその長い髪は綺麗だ、切ってしまうのは勿体ない」
「そうかな?別に手入れなんかしてないし、女の子みたいに……」
「私は綺麗だと思う。君が切るというのなら構わないが、そのままで居て欲しいと思う」
じっと真っ直ぐ見つめてそう言われ、何も言い返せなくなる。
「あ、貴方がそんなに気に入ってくれているんなら……このままにしておくよ」
「いいのか?」
「別に、どうしても切らなくちゃいけない訳じゃないからな」
そう言うと、彼は少し微笑んでくれた。
「そうだ、髪を解く時に解いてしまったのだが」
彼が差し出したのは俺が髪を結うのに使用している紐で、受け取ろうと手を伸ばしたら、少し手を引かれた。
「良かったら、私が結ってみてもいいだろうか?」
「ああ、別にいいけど」
どういう訳だが知らないけれど、この人は俺の髪を随分と気に入ってくれているようだ。
背後に回って後ろ髪をに手をかけ、髪を結う為に引っ張る相手の指がくすぐったく感じられたが、偶には人にしてもらうのもいいか、と思った。

あとがき

以前に書いた、フリオの髪の毛を引っ張ってみたい衝動にかられた小説の続編…みたいなものです。
どうしてフリオは尻尾があるのか、その理由を考えてみたら…なんかただ単純に切るのが面倒なだけだからなのではないか、という結論に私は落ち着きました。
ジタンが尻尾を引っ張られてしまったので、どうせならフリオの尻尾もラグナさんに引っ張ってもらおうかと。
あと、12回目の輪廻ではWOLさんはフリオが好きだと自覚してないといいなぁ…13回目になってようやく結ばれる二人を希望します。
2011/4/23

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