この願いが、世界に広がればいい
のばら咲く、平和な世界を
思い出したんだ、大事な事を。
俺の住む世界の事、大事な人達の事。
俺の、守れなかった人達の事……。
何もかも、奪い去っていった悲しい出来事。
だけど、ただ俯いているだけじゃ何も変えられない。
少しずつでいいんだ、俺は…俺達は立ち上がって、歩いていかないといけないから。
“のばら”は、俺が歩む為の合い言葉なんだ。
人々の夢、皆の希望、その標。
どんな時だって、誰の中にだって…きっと未来を夢見る想いがある。
俺達の想いの形は、この花だったんだ。
「それが、のばらッスか?」
「ああ……俺の夢」
そう言うと、ティーダは「へぇ…」と呟いてから少し微笑んだ。
行軍の最中、立ち寄った次元城に敵の気配が無かったので休憩する事になった。
そんな中、宣言していた通りティーダは俺に聞いてきたのだ。
のばらとは、一体何なのか…と。
「大事なもの取られたって言って、走って行っちゃうし…どんなものかと思ったんッスけどね」
「俺みたいな男に花が似合わない事くらい分かってるよ、でも…なんていうか……手放せないんだよな」
「似合わないなんて誰も言ってないッス!むしろ、フリオにとって凄くピッタリな夢だと思う」
ティーダは「そうだよな」と、誰かに向けてそう言った。
嫌な予感がして振り返る、そこには俺とティーダを見つめる10の目があった。
「なっ!……そんな所で何してるんだよ!!」
「いやぁ、フリオニールの“のばら”について、オレ達も聞いてみたかっただけだって」
「仲間の夢はオレ達の夢……だろ?」
ジタンはニヤリと笑い、バッツはモノマネで答える。
そんな二人を溜息交じりに見つめるスコール、その側には困った顔をするティナと、彼女を見つめるオニオンナイト。
「ごめんなさい、盗み聞きするのは悪いと思ったの…でも、どうしても貴方の夢を、聞いてみたかったから」
「あっ……いや、その…別に謝らなくても」
「ティナ、フリオニールはそんなに怒ってないから、安心しなよ」
口籠る俺に対し、オニオンナイトがそうフォローしてくれる。
子供にフォローされる自分は情けないが、彼女に対しては彼に頼むのがいいかもしれない。
「そうなの?」
「うん、ビックリしただけなんだ…まさか、こんなに沢山の人に聞かれてるなんて思わないだろ」
ビックリしたというより、恥ずかしいと言った方が正しいか。
さっきティーダにも言った様に、自分の様な男が花について思うのもそうだし…自分の夢を語るというのは、やっぱり恥ずかしい。
誰かに否定されたら、そんな風に思ってしまうから。
「とっても素敵な夢だもの、否定なんてしないわ」
「そうだよ、それはフリオニールの思いなんでしょ!なら大事にしないと」
「ありがとうティナ、オニオンナイト」
そう言ってくれる二人に、俺は照れ笑いを返す。
「オレ達だって応援してるんだからな!」
「そうだよ、夢の強さ見せてやるんだろ?」
便乗する様にそう言うジタンとバッツ、だけどその思いは嬉しい。
「……世界お花畑計画、か…」
「スコール、何か言ったか?」
「いや…何も」
ふいと目を逸らしてしまったけれど、「アンタなら、その任務成し遂げられる」と言うスコールに俺は微笑み返した。
「結局、皆に広がってしまったんだね」
「俺の所為なんだけど、な」
夜、焚き火を囲み武器の手入れをしている時、昼の出来事を話したら、セシルとクラウドはそう言った。
「いや……そもそも俺が、セシルに話したのが始まりだからなぁ」
「何の事?」とセシルは笑って首を傾げる、俺は溜息を吐いた。
人の口に戸は立てられず…とは、よく言ったもんだ。
秘密の話も、一人に話すと伝わってしまう。
「まあ、知ってしまったものはしょうがないんだけど、なぁ…」
「やっぱり、恥ずかしい?」
「幼稚な夢だろう…胸を張って言うのは流石に躊躇われる」
そう答えると、クラウドは首を振った。
「俺はアンタの、そういう真っ直ぐな所がいいと思う」
「クラウド……」
「君のその夢があるからこそ、救われた人も居るんだ。だから、君がそれを否定しちゃいけないよ」
「うん……そうだな」
確かにその通りだ、俺がしっかりしないといけないんだな。
「まあ、その為とはいえ…もう一人で敵陣には突っ込んでいくなよ」
「そうだよ、無茶は厳禁だからね」
「うっ……分かってるよ。俺だって反省したんだ」
「確かに、あの時の君は普段の君らしくなかった」
「ウォーリアには、本当に迷惑をかけたと思ってるよ…すまない」
今晩、同じ天幕になったウォーリアは小さく笑った。
「今日、君の周りが随分と賑やかだったのは、その所為なのか」
「ああ。皆、俺の夢…のばらについて、興味があったんだろうな」
一日の間にあった事を思い返して、俺は溜息。
だけど、こうして俺が話をして知ってもらった事で…皆の中に少しでも、何か感じる事があったなら良かったと思う。
同じ夢を見よう…そんな言葉が聞けるなんて、思ってなかった。
でも……皆の夢、か。
「皆の夢だったのだろう?君の世界では」
「そう、皆の…平和を願う夢だったんだ」
荒れた世界を立て直す為の、人々の抱いた夢。
思い出したんだ、俺はどうして闘っているのか…どうしてこの夢を、成し遂げたいと思っているのか。
誰かが、大事な仲間が繋いでくれた未来を…守りたかったから。
希望を繋ぎたかったから。
俺だけじゃない、たくさんの世界の人々に向けて…俺は未来を繋ぎたかった。
今あるものを全て、失ってしまう前に。
歩く気持ちすら、捨て去ってしまわないように。
そんな俺の言葉を受け、ウォーリアは俺の頭をそっと撫でた。
「なら、君は胸を張ってその夢を掲げればいい。何も恥じる事はない」
「ぇ……」
何だろう…今、彼が言った言葉、過去にどこかで聞いた事がある気がする。
俺の思い出の中には無い、けれど…確かに誰かが……。
「ラ、イト……?」
「?……どうした?フリオニール」
「あっ…いや」
何でも無いんだとそう言うと、ウォーリアは「…そうか」と訝しげに首を傾げるも、それ以上は追及しなかった。
誰かの想いが重なった気がする…それは、確かに俺の夢を守ろうとしてくれた人だった。
でも…それは誰だったんだろう、分からない。
でも、この花の花弁の様に誰かの想いがまた一つ重なった気がした。
「君の夢の為にも、私達は行かなければならない」
そうだ、俺達は明日、混沌の大陸へと向かう。
全ての決着を付ける為に。
「全てを終わらせる」
決意を決めた様にそう言う彼に、俺は首を振る。
「終るんじゃない、始めるんだ……皆の夢を」
荒れた大地にも、花は咲く。
そして、誰かがその花を見て微笑んでくれるだろう。
誰かの笑顔を作りだそう、その為に、種を蒔こう。
荒れた大地に、人の心に。
夢と希望の種を蒔こう。
大地に根付いて、花を咲かせるまで。
大事に大事に育てよう。
花と一緒に…この想いが、世界に広がればいい。
一枚一枚、重ね合わせた想いはきっと、綺麗に咲くだろう。
誰もが笑って暮らせる、のばら咲く平和な世界を。
東北太平洋沖地震で、悲しみの底に居る皆様の為に…少しでも希望を届けたい、そんな想いで書きました。
アナウンサーの方が「津波によって、未来や希望まで押し流されてしまったかのようです」と言っていたのを聞いて。もう一度その土地に未来や希望を根付かせられればいいのに、と思ったのです。
そんな今の現状が、フリオニールの夢に重なったのです。
勿論、被災地の方がここを見れる訳が無いというのは承知の上です…でも暗く悲しい感情が、沢山の人の胸の中にあると思います。
だけど、私達が希望を持って進まなければ、何も始まらないと思うのです。
私に出来る事は募金程度しかないんですけれど、もし創作を通して、誰かがこの気持ちを共有してくれたら嬉しいです。
2011/3/16