「オーイ、そろそろ夕飯の準備するから誰か手伝って……って、何してるんだ?」

理想像

聖域の近くの泉を野営地として定めた俺達、コスモスの戦士。
女性の仲間は、水浴びに行くと言って出て行ったので今は居ない。
野営地に残ったのは男ばっかりで、彼等が集団で寄り集まって居たので家事を手伝ってもらおうとやって来たのだが…。

「……好きな女の子のタイプ?」
「そうそう、誰だって好みはあるだろう?」
そうやってニヤリと笑うジタンとバッツ、その後ろでは疲れた様に溜息を吐くスコールの姿がある。
「さぁさぁ、主夫のフリオニール君は将来どんな女の子が好きなんだ?」
ぐっと肩を掴まれて、その集団の中に引き込まれてしまった。
「あのなぁ…俺はこんな事してる場合じゃないんだけど……」
溜息を吐く、どうすればこの輪から抜け出す事ができるだろうか?
早くしないと夕飯が間に合わないんだけど、というか…それで文句を言うのは食べ盛りのお前達だろう……。

「それでフリオニールの好きな子ってどんなタイプなんだ?」
「基本的にお前は女の子でゴッ、ゴクリ…ってしてる所しか見た事ないけどな」
「バッツ!そんな事言わなくてもいいだろ!!」
顔が熱い、反論してもこれではきっと効力はないだろう。
それを証拠に、バッツとジタンはニヤニヤとした笑いを深めている。
「いやいや、フリオニール君の気持ちは分かるよ。男としてはさ、やっぱりこうおっぱいの大きな女の子にはドキドキするだろう?」
ガッと俺の肩を抱いてそう言うラグナに溜息、俺は別に好きだとか、そういう訳じゃないんだ。
ただ露出が激しいと、目のやり場に困るだけだ。
「それは異性としてしっかり意識しちゃってる、って事だろう!」
バシバシと俺の背中を叩くラグナ…出来れば、もう少し力加減を調節してくれないだろうか、結構痛いんだけど。
「という事は、フリオ二—ルの好きなタイプはおっぱいの大きなお姉様タイプか?」
「なっ!!誰もそんな事言ってないだろ!!」
「誤魔化すなって!プロポーションの綺麗なお姉様に誘惑されてみたいよなぁ…青少年は」
ニヤニヤと笑うラグナの言葉に、ふと何か嫌な記憶が蘇ってきた。
なんだか思い出せそうな、そんな気が……。

えっと…今、俺はラグナの言葉の何に反応したんだ?
綺麗なお姉様…誘惑…………?


『きて…はやくきて』
『おっ、おうじょ…そんな』
『はやくきて、じらさないで…』
『ゴッ、ゴクリ……』
『かかったな!!』
『…………!!』
バターン!!
『何やってるんだい!!……おんなはこわいんだよ!!』


「……フリオニールどうしたんだ?真っ青になってるけど」
「いや……何か今、女性に関する嫌な思い出が蘇ってきたような…?」
そんな俺の言葉に対して、興味深々といった様に目を輝かせて此方を見つめるジタンとバッツ。

どんな事なんだ?と嬉しそうな声で聞くものの、俺が思い出した情景は一瞬だけ鮮明に浮かんだものだった…だから、言葉で上手く説明できるようなものではないんだけれど。
とりあえず、分かった事といったら。

「女性が怖い、って事は分かったけど…」
「はぁ?なんだそれ」
不思議そうに首を傾ける、女性を大事にするジタンからすれば俺のこの台詞は不思議なものなんだろう。
「ハハ、あれじゃないのか?フリオニールの事だし、悪いお姉様に騙されたんじゃないのか?」
「なっ!!」
「セクシーなレディだったら、フリオニールはイチコロだろうな!」
ちょっと待て、お前達は俺を一体なんだと思ってるんだ。
「いい加減にしてくれよ!」
涙交じりにそう叫ぶも、二人は笑い続けていて聞き入れてくれない。
傍で見ているスコールは、もうとっくに諦めてしまったのか溜息を一つ吐いただけで、終った。

「まあまあ、そこまでにしておいてやれよなぁ?お前達だって、綺麗なお姉さんがベッドに横たわって誘惑してきたら迷わず飛びつくクセに、なぁスコール?」
「……………」
「そんな険しい顔するなよ!男同士なんだから恥ずかしがらずに、正直に何でも話していいんだぞ」
「アンタ達と一緒にするな」
待てスコール、“達”って…それは俺も含まれているのか!?
「ス、スコール!俺は別に…」
弁明しようにも、どう言えばいいのか分からない。
ああ…本当に俺は異性に関係する話は苦手だ。


「ああ、フリオニール…ここに居たのか」
恥ずかしくて居たたまれなくて、どうしうようとグルグル悩んでいた俺の背中に向けて、そう声をかける誰か。
此方へと歩いてくる鎧の擦れる音が混じった足音、人それぞれに特徴があるので分かる、この音は……。
「頼まれていた薪割りが終ったんだが、夕飯の用意はしなくていいのか?」
「あっ、カイン!……そうだ、夕飯の準備手伝ってくれって言いに来て…」
「なら俺が手伝おう」
良かった、これでここから抜け出せる口実が出来た。

「そうだ!カインはさ、どんな女の子が好きなんだ?」
俺が立ち上がるのと同時に、バッツはかの竜騎士にそう聞いた。
なんて勇気のある奴なんだ!?この寡黙な騎士にそんな事を聞くなんて。
「カイン、あんまり気にするなよ…ほら行こう」
「そうだな、清純で料理の上手い人がいい」
「えっ……」
「へっ…へぇー」
きっと彼は答えないだろう、そう思っていたので…この早い返答にビックリしてそんな声しか上がらない。
そう思ったのは彼等も同じだったんだろう、皆一様に驚きの表情のまま固まっている。
「そっか、つまりユウナみたいなタイプが好みなのか」
笑顔でそう言うジタンに対し、カインはしばらく沈黙する、もしかしたらこれ以上は話す気がないのかもしれない。
だが俺の予想に反して、竜騎士は意外な言葉を呟いた。

「俺は、フリオニールの様な嫁が欲しいが…」
「えっ…ぇええ!?」
「ップ、アハハハハ!!良かったなフリオニール、嫁の貰い手があって!」
「大丈夫だフリオニール君、君だったらもういつでも嫁げる!我等コスモスの、素晴らしい主夫だからな!」
「主夫って言うな!っていうか、嫁って何だよ!俺、別に嫁いだりしな…」
その時、俺は気付いた…竜を模した兜の所為でほとんど表情の分からないカインの、口元が少し笑っているのを。
「カイン、悪い冗談は止めてくれよ!!」
「フッ、すまん…お前は何だか、虐めたくなるそんなタイプの人間だ」
そんな事を言われたって嬉しくもない。
とにかく、「もういい!」と叫んで、俺は彼等の輪の中抜け出した。
俺を追いかけて来たのは、あの金属音交じりの足音だけ。

「何だよ、カイン…」
「手伝おう、と…そう言っただろう?大した事はできないが、な」
そう言う竜騎士は、普段と変わらない大人で寡黙なあの竜騎士だ。
「カインがあんな冗談を言う人だなんて、知らなかったよ」
「いや……この間、偶には人の会話の中に入ってやれと、そう言われたんだ……下らない事でも笑ってやれば、それで仲間は安心すると」
確かに、彼はどこか一人が好きそうで…どこか近付き辛いから。こんな一面を見れたのは意外だったし、彼もやはり人なんだってそう思えたけれど。
「俺みたいなガタイのいい、武骨な男を嫁に欲しいなんて…本当に悪い冗談だ!」
怒り交じりの声でそう言うと、彼はふと溜息を吐いた。
こんな事で怒る俺に呆れているのだろうか?まだ、子供だと思われているのかもしれない。
いいだろう!どうせ俺は貴方に比べれば、女性とどう付き合っていいのかも分からない、子供だよ。
「今日は皆揃ってるから、食事の用意が大変なんだ…だから、もうこれ以上は無駄話しないからな!」
「ああ、分かっている」
そう言って小さく笑う、その声もどこか余裕で。
やっぱり、この人は大人なんだろう…そう思う。
悔しい、けれど……そんな魅力ある大人の男に、俺もなりたいと思った。

  薪を取って来る、そう言ってフリオニールと一度別れた。
  立ち止まって彼の背中を見送り、つつ…ぽつりと口から言葉が零れる。

  「俺は、思った事を口にしただけなんだが」

  こんな事を言えば、きっと彼はまた怒ってしまうだろう。
  冗談だと笑ってくれるなら、それでいいのかもしれない。
  今の内だけ、だがな。

  俺が思い描くバカらしい理想の未来、彼はそれを知ったら何て言うだろう?

あとがき

女性陣が居ない間に、理想の女の子について語るコスモスメンバー男性陣。
修学旅行の男子部屋みたいな雰囲気が、ちょっとでも出てればいいなぁ…と思いました。
本当は、コスモスの男性陣全員の女性の好みについて書きたかったんですけれど…それは流石に収集が付かなかったので、フリオニールを弄る事に終始させてもらいました。
というか、そういう話題に向かない人に心当たりがあり過ぎて……ちょっと全員は無理だろうという結論に。
あと、カイン×フリオが見たかったのです。
カイン×フリオ、これから流行ればいいと思いますよ。
2011/3/10

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