あら丁度いい所に…貴方、ちょっとお手伝いして下さいませんこと?
心配する事なんてありませんわ、いえいえ…むしろ貴方にしか出来ない事でしてよ
少しの間、彼を預かって欲しいのですわ
彼…いや、彼等……むしろ、そうね…
貴方、と言った方がよろしいかしら?
どうしてこうなった!?
「それで、シャントット博士から預かってきたのか?」
腕組みに仁王立ちという、それはもう恐ろしい体勢で正座するフリオニールを見下ろしているウォーリア。
すみません、と小さな声でフリオニールは謝罪の言葉を口にするものの、謝って解決できる問題ではない。
「迷惑だろう事は分かってるんだ、でも…その…なんていうか。見捨てられないだろ?」
しゅんと項垂れるフリオニールの背後には、フリオニールのイミテーションが居る。
イミテーションと言っても、フィールドに居る鉱石の様な体のものではない。肌や髪の質感、声まで本人そっくりに真似た、本物に限りなく近い偽りの戦士だ。
シャントット博士が行っている研究が一体何なのか、それは不明だが、彼等はその過程で生まれたらしい。
本物と寸分たがわぬ容姿、戦闘能力も本物を忠実に再現しているそうだ。
ただ唯一違う点がある……。
「俺達、別に迷惑かける気はないんだけど…っていうかアンタ、兄貴の事そうやって見下ろすの止めてくれる」
そう言って、ウォーリアに向け挑戦的な態度を取るのはアナザーの衣装を着たフリオニールのイミテーション。
「迷惑にはならないようにする、しばらくだけなんだ、許してくれないかな?」
そう言って、ウォーリに頭を下げるのは新しいサードの衣装を着たフリオニールのイミテーション。
そんな二人の間に挟まれ、困った表情を見せるノーマルの衣装を着たフリオニールが、本物のフリオニールだ。
この二体のイミテーションには、それぞれの性格が存在するのだ。
秩序の戦士達で会合を行った結果、三人のフリオニールは秩序の軍勢に無事迎え入れられる事になった。
ただし、見わけが付かなくなるので互いの衣服を変更する事は禁止された。
「やった!これでしばらくは兄貴と一緒に過ごせるんだ」
ぎゅっと抱きつくのは、アナザーのフリオニール、本人はシャドウと名乗った。
「宜しくお願いします」
深く頭を下げるサードのフリオニール、本人はリオンと名乗った。
そんな二人を見て、何だかんだでフリオニールなのだから今回は問題無さそうだ、と仲間達は判断した。
「にしても……フリオが三つ子になるなんて、思ってもみなかったッス」
「いや、俺達別に兄弟って訳じゃないんだけど……」
ティーダの言葉に、困った様に笑うフリオニール。
「何だよ兄貴!俺達、兄弟みたいなもんだろ?」
背中から抱きつきそう言うシャドウに、フリオニールは再び苦笑する。
「シャドウとリオンはそうかもしれないけど…」
「っていうか、お前…兄貴にくっついてくんなよ」
「はぁ?お前の方こそ、フリオにベタつき過ぎッス!そのポジションはオレのもんだ!!」
離れろ!嫌だね!…と、まるで母親を取り合う子供の様な言い争いを始める二人に、フリオニールは益々困った表情を見せる。
「シャドウいい加減にしてやれ、フリオニールも困ってる」
そう言うとリオンはシャドウをフリオニールの背中から引き剥がした、ほっと安心した様に息を吐くと「ありがとう」と礼を言うフリオニール。
「いいんだ。でも、許してやってくれないか?コイツはずっと、アンタに会いたがってたんだ」
勿論オレも、とそう付け加えて笑うリオン。
研究所に居て会う事も叶わないと思っていた為に、彼等にとって、今回の邂逅は願ってもない出来事だったらしい。
「それは分かったッスけど…何で、シャドウはフリオの事を兄貴って呼ぶんッスか?」
「兄貴は兄貴なんだよ!別にいいだろ?なぁ、兄貴?」
「あー……まあ、好きに呼んでくれていいけど……」
既に複数の愛称がある為か、一つくらい増えても変わらないと思ったフリオニールの認可を受け、したり顔のシャドウ。
それを見てムスッとしたのはティーダで、「じゃあオレもこれからフリオの事、のばらって呼んでもいいよね?」と対抗意識を燃やす。
「何でそうなるんだよ?」
疲れた様にそう呟くフリオニール、弟分も二人居ると大変な事もあるようだ。
しかし、この二体のイミテーションが仲間達の中に溶け込むのは早かった。
シャドウの方は、本物のフリオニールによく懐いており、彼の言う事ならば大抵素直に聞いてくれる。どちらかというと年相応な性格、と言っても良いだろう。ティーダとぶつかる事もあるが、それは多少なりとも二人が似ているからだろう。
それに対して、リオンの方は本物のフリオニールよりもずっと大人びた性格をしている。シャドウの揉め事に対し、仲裁に入るのは彼の仕事だと言ってもいい。どちらかというと物静かではあるけれど、真面目で優しい一面はフリオニールと共通していると言っていい。
「なんだかんだで、あの三人は良い組み合わせだと思うんだよな」
「まあ、各々の性格のバランスがしっかり取れているからね」
ティーダと言い争いになっていたシャドウとリオンが引き剥がすのを見て、バッツとセシルはそう話す。
「戸惑ったけど、二人共いい人よね?」
「うん、特にリオンさんは大人っぽくて頼りになるよね…ずっと居てくれないかな」
「そうね…皆居てくれると、賑やかよね」
夜、皆が寝静まった頃…今日の見張り番であるクラウドは焚き火の前に腰を下していた。
そこへフリオニールがやって来た、彼を見て、クラウドは首を傾ける。
「アンタ、リオンの方か?」
「当たり…やっぱり、長い間一緒に居ると分かるものなのか?」
「半分以上は勘だけどな……眠れないのか?」
「まあ、そういう所だ…隣いいか?」
その質問にクラウドは黙って頷く、リオンはちょっと微笑みその隣へと腰を下した。
「勘とはいえ、どうしてオレがリオンだって分かったんだ?」
「雰囲気だろうな、シャドウや本物のフリオニールより、アンタはもっと大人びている」
「そっか」
コーヒーでも淹れようかと、リオンが準備している姿を見てやっぱりフリオニールに似ているな、とクラウドは思った。
そこでふと、疑問が生まれた。
「はい、熱いから気をつけて」
「ありがとう」
マグカップを受け取り、一口熱いコーヒーを飲んでからクラウドはふと尋ねる。
「シャドウは、何でフリオニールに懐いているのに。アンタには懐いてないんだ?」
そう尋ねると、リオンはふと首を傾げた。
「ああ……オレに対しては、身の危険を感じるんじゃないのか?」
「身の危険?」
そんな風には一切見えない、意味が分からず今度はクラウドが首を傾ける。
「可愛いだろ、シャドウもフリオニールも」
自分と同じ容姿の相手に対し、そういう言葉を使うのは正しいのか分からないが、クラウドは否定したりしなかった。
「だから何ていうかさ……ちょっとつまみ食いしてみたくならないか?」
普段フリオニールが見せたりしない、大人びた色気のある笑顔。
「アンタ、そっちの趣味があるのか?」
「別にいいだろう?シャドウだって似た様なものだ、フリオニールの事を好きだってずっと憧れてた。そんな二人が絡んでるのを見てて、結構可愛いだろう?」
ニッコリと笑うリオンに対し、クラウドは溜息を吐く。
「ウォーリアやスコールの様な美人系も、結構好みだぞ。勿論、クラウドも」
「……俺はそういう事に興味ない」
「そうなのか?女装するから、そっちの趣味でもあるんだと思ってたんだけど?」
ニヤニヤと笑うリオンに、クラウドは深い溜息を吐く。
「…………アレはそういう装備で、俺の趣味じゃない」
「そうなのか、結構似合ってるぞ」
「嬉しくない」
そう返答すると、リオンは声を上げて笑った。
それを見て、クラウドは呆れた様に息を吐いた。
「冗談だったのか?」
「さぁな?どうだと思う」
余裕の笑みを見せるリオンに、クラウドはもう相手に出来ないと思った。
「一瞬でも、アンタがフリオニールに似てると思った俺は、馬鹿だったな」
「ああ、アイツ程…オレは純粋じゃないんだよ」
「お迎えにあがりましたわ、感謝しなさい貴方達」
後日、秩序の戦士達の野営地にシャントット博士がやって来た。
何の実験をしていたのかは不明だけれど、終了したので迎えに来てくれたらしい。
「皆さんには大変お世話になりましたわ、私とても感謝しておりましてよ。心ばかりのお礼ですけれど、受け取って下さい」
彼女が差し出したのは、ポーションの瓶だった。中身は勿論、女神の霊薬だと思われるけれど、皆が一様にそれは怪しいと思った…。
「うわ、ありがとうございます!こんなに」
「いえいえ構いません事よ。お礼には心を尽くす、当たり前の事ですわ」
そう言って笑う彼女の声が、秩序の聖域一杯に響く。
「なぁ兄貴!また兄貴に会いに来ていい!?」
「いいよ、いいから…ちょっと、苦しいし離してくれないかな?」
「兄貴!また会いに来るよ!!」
ぎゅっとフリオニールに抱きつくシャドウに、溜息を一つ、リオンは彼の背中を引っ張って引き剥がした。
「大変お世話になりました、ありがとうございます」
そう言うと、ペコリと深くお辞儀するリオン。
「そんなにかしこまらなくっていいから。二人共…また会いに来てくれよ」
「絶対に行くからね!兄貴!」
ぎゅっと別れの抱擁をするシャドウ、それが終ってからリオンがフリオニールに一歩近付く。
右手を差し出したのを見て、握手を求められているのかと思ったフリオニールは同じ手を出した。
その手を取ると、リオンはフリオニールを抱き寄せるとその頬へと優しく口付けた。
「また会いに来るよ、絶対に」
固まって動けないフリオニールを残し、それを見てぎゃんぎゃんと喚くシャドウを引き連れて、リオンは博士と共に帰って行った。
嵐が去って行ったな、そうクラウドは心の中で思った。
折角のフリオの日なので、ノーマル・アナザー・サードのフリオニールを共演させてみたかったのですね。
DDFFの公式でフリオニールのサード衣装を見た時に、どうしてでしょうか?私はあの子は攻めだと思ったんですね。
攻めヒエラルキーが高めの攻めだと思ったのです、同じフリオニールであるというのに、不思議ですね。
性格はノーマルを基準に、アナザーは子供っぽくサードが大人っぽい…だといいなぁ、と思います。
そろそろ、いい加減にウチのキャラクター説明…または受け攻めのヒエラルキーについて何か説明のページ作ります。
なんだかんだで、三人のフリオを書けたので私としては満足なのです。
2011/2/22