チョコレートは惚れ薬の味
人を籠絡し、虜にする
そう、いつだって甘美なモノは毒を含む
癖になって、離れられなくなって、もう病みつき
狂う程に愛し、求めればいい
そうなれば…毒ですらも、良薬になる
Nocturnus 〜 good dream or nightmare 〜
「食わせろ」
寝起きの第一声に、男が言った言葉がこれだった。
それを受けて、俺が取った行動は相手を殴るだったのだが、この判断には何も間違った所は無いと思う。
何故ならば、俺はこの男の強制的な拘束によって、自分の午後の時間を全て奪われてしまったのだ。
「誰の所為で空腹なんだと思っている?昼間、貴様を淫魔の手から救ってやったのを忘れたか?」
殴られた頬を摩りながら、寝起きに空腹で機嫌の悪いマティウスは俺を睨む。
そう、昼間に彼は確かに俺を助けてくれた。
淫魔だと彼は言うものの、本人は夢魔だと言っていたあの少年。
笑顔が印象的な、爽やかな少年に見えたのだが……。
「魔物を見た目で判断するな、お前は教会で育ったのではないのか?」
「悪魔は人を騙す存在なのは分かってるよ、でも……どう考えても、お前が一番、人に害を及ぼす存在だと思う」
「フン、言ってくれる」
鼻を鳴らしてそう言うと、マティウスの腕が俺の腰へと伸びる。
「そんな事は良い、とにかく、私は空腹だ」
ああ、本当にこの男には欲しか存在していないのか?
腰に巻きついた手を払い、シャツのボタンを外して首筋を晒せば、ニヤリと笑ってその顔を近付ける。
首筋にその牙を突き立てられ、ピリッとした痛みと、背筋に走るゾクゾクとした感覚。
だが、少し舐めて彼は口を離してしまった。
「…んぁ……どうしたんだ?」
空腹だと言ったのは、お前の方なのに。
そう尋ねると、彼は俺をじっと見つめる。
「一つ尋ねるが、お前は最近、自慰行為はしてるんだろうな?」
「…………は?」
いきなり何を言い出すんだ、この男……。
「貴様の血が、生臭い」
「はい?」
「溜めこんでいるだろう、教会の戒律の所為か?全く、無駄な事を」
そう言うが早い、俺の下の衣服を脱がしにかかるマティウス。
それに驚いて逃げようと試みるもそんな俺の行動なんて、簡単に封じ込められてしまい、バサバサと、どうしてそんなにも手際が良いのか分からないくらい、鮮やかな手つきで俺の衣服を脱がせると、急所である雄本体を其の手の中に収められる。
「ひぅっ!ぁああん、ん!!」
俺の雄を手で愛撫していくマティウス、今までに他人に触れられた事の無い場所へと、直接与えられる快楽に目が眩みそうになる。
「はっ……ん、んん……ん」
「軽く擦っただけでもうこんなになるか、昼の事も合わさっているのだろうがな…しかし、どれくらい抜いてなかった?大分、血の味に性の生臭さが滲んでいたぞ」
起きぬけの食事には向かない、とそう言いながらも彼は俺の雄へと与える刺激を止めない。
「ん?もう蜜を零してるぞ、イヤラシイ子供だ。まあ良い、イキたいだけイカせてやる。存分に乱れろ」
「ふぅ…ん」
プクリと透明な蜜が零れた雄の先端、ほどなくして、男の手を淫らに汚す程にまで、俺から零れる蜜は段々と止まらなくなっていく。
グチ、グチュ…という、自分の雄が立てる水音が室内に響く度、思わず耳を塞ぎたくなる。
だがそんな行動も、彼を前にしては無駄な行動だ。
俺の欲を刺激する手は、絶妙に絡んで、そこから快楽を引きだして行く。
「いやっ!ヤダ、マティウス…止めてくれ、マティウス!!」
「無理だ、私は何よりも美味い血を求めて生きている、貴様の血が不味くなるのは生きる楽しみを欠く事と同義だ……それに」
そこで言葉を切ったマティウスは、俺を見てニヤリとイヤらしい笑みを作る。
「貴様を快楽で染め上げ、善がり狂う姿というのを見てみたい」
そう言うと、手の動きを速めて行くマティウス。
それは俺の射精を促す強い刺激で、押し寄せる強い快楽の波に、俺は耐えようと努力をするも……そんな俺の意思とは反対の事を、この体は望んでいる。
「あっ!!駄目だ、出ちゃう…やっ、ダメッ!やっぁ、ぁああああああん!!」
ビクンビクンと大きく体が震えて、俺の雄から性が吐き出される。
その直後、息を整えようとする俺の首筋へと彼の顔が近付く。
プツリ、と突き刺さる牙の感覚、それをハッキリと知覚した瞬間に体に流れる、電流の様な刺激。
「っ!!ぁああっ!あん、うぁ、あ……ぁああああん!!」
強い刺激から逃れようと身を捩る俺を抑えつけて、マティウスは満足気に俺の血を吸い上げていく。
吸い上げられて、舌で血を舐められる度に、達したばかりで敏感になっている体には強すぎる快楽を与える。
力を取り戻した自分の雄に、再び熱が集まっていくのを感じる。
だがマティウスは“食事”に夢中になっていて、俺の体に刺激を与える気は無いようだ。
体は敏感に、彼から与えられる快楽を受け取っているものの、それだけでは満足できない。
さっきまで与えられていた様な、直接的な刺激が欲しいのに……。
どうしたら、彼はそれを与えてくれるだろうか?
しばらく考えても、彼は言葉に出さなければ聞き入れてはくれないだろう、そうとしか思えない。
ならば……。
「マティウス…おねが、い。もう、一回……イカせて」
相手の耳元でそう言うと、ビクリとマティウスの体が震えて、俺の首筋から牙が抜かれた。
顔を上げて俺を見下ろす相手の、薄く吊り上がった唇の端から、トロリと一筋赤い血が零れて行く。
その光景に、どこか背徳的な美を感じ、俺の背が震える。
「自ら懇願するか……そんなに私に可愛がって欲しいのか?」
ん?と首を傾けるマティウスが、俺の雄をツゥー…となぞる。
そんな僅かな刺激でも、俺は自分でも信じられない程の甘い声を上げてしまう。
歓喜に打ち震える自分の体が、酷く恥ずかしい、でも……。
「私を求めるのであれば、いくらでも与えてやる……ほら、存分に鳴け」
再び雄に触れられて、そこを擦り上げられる。
「あっ!ふぁああん!!」
縋りつくものを求めて男の背中に腕を伸ばせば、嬉しそうに微笑む相手が、俺の唇にキスをくれる。
まるで恋人同士の様な、そんな甘さを感じさせる空気。
俺は、彼の食糧でしかないハズなのに、抗おうとした快楽にどんどん流されて、染め上げられてしまっている。
駄目だ、駄目だと思うのに。
彼が与える快楽は、強い。
彼は人では無いのだ、俺よりも遥かな時を生きる存在……。
ならば、俺が抗った所で無駄なのかもしれない。
ただの人間を一人、籠絡する方法なんて……この男は、いくらでも持っている事だろう。
「性の衝動というのは、人間が富み栄える為の衝動だ……それ自体は、我等にとっても活力を与える力だろう」
ぎゅっと俺の雄を根本から抑えつけて、彼はそう言う。
「やっ!!……ぁ、止めて…イケない」
はち切れない程に膨らんだそこを抑えられるのは、酷く苦しい。
懇願する様に相手を見れば、ニヤリと口の端を上げた意地悪な笑みが返って来る。
「だが、我々にとって美味い血というのは、まだ誰の体も知らぬ者に流れる血の事だ……それには聖職者等は、特に優れているな。神に仕える為の戒律には、しっかりと性衝動を抑える様に記されている。お前もソレを、しっかりと守り抜いてきた様だな」
抑えつけられたままの雄、その先端を片方の手が虐める様に引っ掻く。
イキたいのにイケない、行き場の無い快楽に俺の体が震える。
「だが、抑えつけたままというのは良くない。それは生きる衝動を閉じ込めている様なものだ、快楽に汚れた堕落した人間とまではいかずとも、その血には性の濁りが混じる……それは、美味くは無いな」
「マティウス……マティウス、もう…駄目だ、おねがいだから…この手、止めて」
放して欲しいと、俺を戒める手に自分の手を重ねれば、彼の空いている手が伸びてそれを引き離した。
「フリオニール、一番美味い血はどういうものか、分かるか?」
取り上げた俺の手、その指先に彼はキスを落としてそう尋ねる。
魔物の趣向なんて分かるハズもなく、俺は無言で首を横に振る。
それを見たマティウスは、嬉しそうに微笑む。
「生きる衝動を昇りつめ、生の衝動に体が打ち震える瞬間の血、それが一番美味い。何か分かるな?今のお前がそうだ」
「えっ……ぁ」
「そういえば、“愛情”というのは、人間の食をより美味くするようだな?今ならば、私もその気持ち、分からんでもない。
私を求めて縋りつくお前の血は、より一層美味そうだ」
再び彼は俺の首筋へと牙を突き立てる、それと同時に、戒めていた手を解き、俺を解放へと追い詰めて行く。
「ひゃあっ!!ぁああ、うぁあああん!!」
同時に与えられる強い快楽に、俺は一瞬、目の前で火花が飛び散ったのを見た。
真っ白になったその瞬間、塞き止められていた俺の欲が一気に吐き出され、どこか満たされた気分になる。
ぺロッと首筋を舐め上げられる感覚に顔を上げれば、マティウスの満足そうな目と目が合った。
「ご馳走様、と言っておこうか?」
満足したらしいマティウスは、俺の体を撫でる。
その手つきの厭らしさを咎める様な力は残っていなかったし、それにその刺激は、まだ荒く息を吐く俺の体には、心地良い。
「どうだ?私の恋人になる気になったか?」
「また、そんな事を言うのかよ……」
性を吐き出して、すっかりと疲れ切った体では相手を罵倒する気も起こらない。
「何だ?お強請りしてくるものだから、てっきりその気になったのかと思ったのだが」
「アレは!お前が変な事するのが悪いんだろう」
「しかし感じ入っていたのはお前だ、善がり鳴き、縋りついて離れなかったのもお前だろうが。
それとも何か?お前は自分に快楽を与えてくれる相手ならば、どんな相手でも構わないというのか?」
「そっ!!そんな訳……ない!!」
そう言うと、マティウスはニヤリと勝ち誇った様な笑みを見せる。
「ならば認めろフリオニール、今宵、貴様が私に求めた事は…明らかに、愛情を抱く相手に行うものだ、と」
そう言われてしまうと、俺は二の句が継げない。
確かに、その通りだからだ。
一瞬でも、俺はこの男に全てを曝け出し、縋りついて求めたのだ。
ああ、もう正気の沙汰ではない。
「今宵のお前の味、それはそれはクセになりそうな良い味だったぞ」
俺の耳元でそう囁くマティウスの声に、俺は震える。
癖になりそうなのは、俺も同じだ。
悔しいけれども、そう思ってしまった。
めっちゃ久々に書きました、吸血鬼パロ。
某お方様から「半年程更新されてませんよ」と言われて、そんなに放置しまくっていたのか自分!?と、ハッとなった次第です。
我がサイトの糖分過多なマティフリを、楽しみにして下さる方が居る……というのは、とっても励みになりました。
しかし……久々にマティフリ書きましたけど、まあ、なんと楽しい事か!
久々だったし、そろそろ本格的にエロを入れたかったのでね…もう好き勝手して頂きました、皇帝様に。
もう、陛下が暴走しっぱなしでフリオがあんあん言わされっぱなしも考えたんですが、纏まらなかったので途中削除です。
えっ……削除して、ますよ?
2010/10/18