「あの……本当に、知りませんか?」
お願いだ、それは人として…いや生物として、知っておくべき事なんだ
お願いだから“知ってる”と言ってくれ
「いや、全く」
俺の願い虚しく、彼は首を横に振った
そして、俺の願い虚しく…その流れからならば当たり前であろう問い掛けをする
「君の言う“性欲”とは、一体何だ?」
よい子の保健体育
俺は右も左も知らない世界に、ある日召喚されてしまった。
現れる敵、それを排除するだけで精一杯だったある日、俺は光の戦士に出会った。
「君は、私の敵ではないのか?」
「この世界の事なんて、何も知らないんです…気づいたら、ここに居て」
「そうか……私も一緒だ」
そう言って彼は俺から剣を引いた、それに合わせて俺も彼から剣を引く。
「良かったら、私と一緒に来ないか?」
その質問に、俺はどれ程心強いと思った事か。
それは俺だけではなかったらしい、彼も、人と共に居れる事を安心したようだ。
あれから二週間程、だろうか?
彼と行動を共にする上で、まず驚いた事は……彼が戦闘以外の日常生活において、無知であった事。
料理ができない、その程度ならば驚きはしないものの……彼の無知は俺の想像を超えていた。
「私は何も覚えていないんだ……自分の名前すら、覚えていなかった」
「そう…なんですか。すみません」
「いいや、本当の事だ。それにしても、君は物知りだな……良かった、君の様な頼りになる人に出会えて」
そう微笑む彼に、俺も微笑み返す。
彼は隙が無い……と思っていたのに、戦闘時と日常にとてつもないギャップがあった。
それが嫌ではなく、とても可愛らしく感じてしまう自分は。この人に憧れを抱き、信頼を寄せると共に、どこか庇護したいという思いも感じていた。
「フリオニール……最近、体調がおかしいんだ」
君ならば対処法が分かるだろうか?と、彼は俺に向けてそう相談したのだ。
「そう、なんですか?それは…大変じゃないですか!」
全然気づかなかった自分にも驚く。言い訳をするようだが、この人は普段と変わらず、表情も一切変えずに剣を振るっているから。
でも言いだしてくれて良かった、こんな場所でこの人に倒れられても困る。
俺に治せるようなモノならいいけれど、他の世界には別の病気があるのかもしれないし……。
「まずは、症状を教えてもらっていいですか?体は、どんな風におかしいんです?」
そう尋ねる俺に、彼は俺の顔をじっと見つめる。
「そう、だな……体の奥が熱いんだ、それにイライラする…というのか。戦闘時とはまた違う、高ぶった熱が体の中にある様な……そんな状態なんだ」
「えっ……ぇえ?」
それは、その変化は、もしかして……もしかするのか?
生唾を飲み込む、ゴクリ…という大きな音が自分の喉から響く。
「ウォーリアさん、あの……つかぬ事を聞きますけど。ウォーリアさんは、性欲って分かりますよね?」
いくら記憶を無くしているからって、これは生物、特に人間の男としては平等に存在するハズの欲求だ。
食欲、睡眠欲と並んで、人間の三大欲求だぞ……それを知らない、知らないなんて。
「いや、知らない…それは何だ?」
彼は全く平然と、そう答えた。
ああ……無知とはこんなにも罪深いものなのか?
俺は頭を抱える。
「あの……本当に、知りませんか?」
「いや全く……君の言う“性欲”とは、何だ?」
そんなに興味深々な目で俺を見ないでくれ、純粋で真っ直ぐな汚れなき子供の様な目で。
しかし、彼は純粋で真っ直ぐで汚れない人ではあろうとも、立派な大人なのだ……これは知らなくては、マズイだろう。
俺は一先ず、ここで話をするのは気まずくて、彼と一緒に天幕の中へ入った。
月の光と、小さなランプの炎だけが揺れる天幕の中。俺は、この世界で唯一の頼りになる仲間と、膝を突き合わせて座っている。
「えっと……俺の考えが正しければですけど、その……貴方の、その…イライラは、こ、こ…股間部にある…と、思うのですが…違いますか!?」
「……ふむ、そうだな。言われてみたらその通りかもしれない。ここが熱いな」
普通に返答されて、俺は怖気ずく。
俺としては恥ずかしい話なのだが、彼にとってはそれはなんて事もない事なのだ。
しかし、これでハッキリした。
彼の抱く体の変化は、やっぱり……つまりは、その…そういう事なんだ。
「えっ……えーと…それじゃあ、ですね。性欲が、何か……ですよね?」
「ああ、教えてくれフリオニール」
そんな真っ直ぐな目で俺を見つめないで下さい、何だか、純粋なものを汚している気分になるので。
そんな良心の呵責と戦いながら、俺は彼に話をする。
「人間というか、動物には色んな欲求があるんです。食欲なら貴方も分かりますよね?」
「ああ、動けば腹が減るな…人は食べなければ生きていけない」
「その通りです。その他にも睡眠欲というものがありますけど、眠って体を休まなければいけませんよね?」
「そうだな……性欲、というのはそういうものか?満たさなければ支障をきたすような」
「まあ…そうです。ただ、性欲はこの二つとは少し異なっていて…ですね。俺達が、その…子孫を残す為にある、欲求なんです、よ」
言葉が、途切れ途切れになっていく。
仕方ない、だって…だってこんな事を、この人に……なんて。
「子孫を残す……そう言われても、私は別に子供は欲しくないんだが」
「体の欲求は、自分の意識とはまた違いますから……戦場に居ると、こう…命の危機に晒されますから、体は子孫を残そうと…そういう風に働くんです」
俺の話を、彼は興味深そうに聞いている。
「成程…しかし、それではこの体を沈める方法は無いのか?」
「えっと……あの、あるんです…あるんですけど」
教えるのか?この人に、その……あの、自分を…自分を慰める方法を…。
ゴクリ…と再び生唾を飲み込む大きな音が、自分の喉から鳴る。
その為には、そうだな…教えないと、いけないのか?
「あの、性器は分かりますよね?」
「そこまで私も無知ではないさ」
「ですよね……えっと、性欲が刺激されるとですね…そこから子供を作る種が、出るようになるんです」
「そうなのか?」
「そうなんです。男性の場合、精液…種の事ですけど、を定期的に出さないと…ですね、それが溜まってくるんです。
貴方の体の変調は、多分、それが溜まっている所為だと…」
ああ、話せば話す程、羞恥心が増してくる。
アレなのかな?子供に性教育をしなければいけない親というのは、こういう気持ちになるものなのか?
これは、なんとも気まずい……。
せめてもの救いは、彼が男性であった事だ。
…………いや、女性ならばそもそも、こんな話題になんてならなかったのか。
彼が女性であったなら、それはそれで気まずいかもしれなかった。彼の美貌を見ていると、そう思ってしまう。
「ふむ、そうか。それは体に悪いのか?」
「そのまま放置していると、夢精って言って。その…夜寝ている間に、精液を出してしまうんですけど……これだと、衣服を汚してしまいますし……あんまり、体にも、良くは無い…です」
「汚すとは、種ではないのか?」
「種っていっても、その凄く小さいもので…それがその、まあ液体なんです!」
「そうなのか。それで、フリオニール…その治める方法とは何なんだ?さっきから君を見ていると、更に体が熱くなってきて仕方ないんだ」
「はい、それなんですが……はい?」
今、この人は何て言ったんだ?
更に体が熱く……いや、無い無い無い無い。
ただ単に、我慢の限界に来ているのだろうか?
「えっと……ですね、性器を自分で、あの…擦ったりして、こう射精を促せば……」
「ふむ、具体的にはどうしたらいい?言葉だけでは…どうも、伝わってこなくて」
「えっ……え、あの…ウォーリアさん?」
困った様に俺を見る彼に、俺も困った顔を返すしかない。
だって……だって、どうしたらいいか分からないと、そんな事を言われても…俺にどうしろと?
その意図は分かっている。
しかし…しかし、しかし!!俺にそんな事、できる訳がない。
大体、おかしいだろう?男同士でどうしてこんな、こんな空気を作らなければいけないんだ?
「フリオニール、すまないんだが…私はどうしたら?」
俺を真っ直ぐに見つめる彼の目、汚れのない綺麗な目。
でも…そうだ、この人には罪はないんだ。ただ、無知というのが起こす、恐ろしい現象だ。
ゴクリ…と三度目の生唾を飲み込む音。
「分かりました、その……俺で良ければ、貴方の性欲を治めるのを、お手伝い…します」
「すまない、ありがとうフリオニール」
本当に、君が居てくれて助かる。そんな嬉しい台詞も、この状況では俺の羞恥心を刺激するものでしかない。
ああ、この人の純真な姿が…これ程、恨めしく思えるとは……。
「ぅ……あ……」
「どうした、フリオニール?」
どうした…なんて聞かないで欲しい。
相手の足の間、俺は彼の衣服…しかも下半身を脱がせ、彼の性欲、つまりは雄本体を取りだしたのだが……。
「何か、変だろうか?」
「あ……大きいな、と」
やはり、この部分も体の逞しさや何かに左右されるのだろうか?
男の俺から見て、一瞬、畏怖を感じさせる程、彼の雄はかなり良い大きさをしている。
今、その熱い雄は俺の手の中にある、そして……俺の手に触れてからも成長の途中にあるのだ。
ビクビクと手の中で震え、少しずつ大きさを増して行くそれに…俺はもう生唾を飲み込む事すらもできず、ただ手にしたまま固まってしまった。
「フリオニール……震えているのか?」
そんな俺を心配してなのか、彼の手が俺の頭に触れた。
優しいその感覚と目の前の状況のあまりの落差に、眩暈がしそうなくらい脳内が揺れる。
「あっ…いや、その……普通はこういう事、その…人に頼む様な事じゃないんで。その……痛かったら、言って下さいね!」
それだけ言うと、彼の雄を手の中でゆっくりと擦り合わせ、愛撫していく。
ビクビクと成長していく彼の雄、手のナカで感じる凶器にもなりそうなそれを、必死で必死で考えないように俺は作業をこなす。
「……っ……ん」
彼が顔を歪ませたのを見て、驚いて手を離して謝ると、彼は済まなそうに俺を見た。
「あっ……済まない。どういう、事だろうな……何だか、感じた事のないような快楽が……」
「えっと…生きるのに、必要な欲求には……その、快楽が付き物なんです。特に…性欲、には」
「成程……済まない、手を止めさせてしまって」
謝る彼に、俺は無言で頷いて再び手を動かす。
快楽に顔を歪ませる彼なんて、初めて見た……いや、彼だけではない。快楽に染まった人を見るのは、きっとこれが初めてだ。
立ち昇る雄の香り、周囲を包む淫靡な空気は…何だか、俺の体まで伝染してしまいそうで。
ドクドクと高鳴る心臓が、とても煩い。
熱い頬は羞恥心の所為にして、彼の雄の高まりに刺激を与える。
といっても、自分でする方法しか知らない俺は…彼の竿を撫で上げて、時折、彼の先端を弄って、射精を促す様な事しかできない。
「はっ……ぁ。フリオニール、子供を作るにはどうするんだ?」
上から落ちて来た彼の質問に、俺は淫靡な空気に染められかけた頭で考えて、見合うような言葉を探す。
「この性器に溜まった……精液を、あの……えっと、ぁ…あ、なに…注ぐんです」
「穴?」
「お尻にありますよね?もう一つの、その……性、器が……それに注いで、卵ができれば…子は、作れます」
「そうか……知らなかった。やはり、君は博識だ」
「……ありがとう、ございます」
そう返答するも、頬の熱が引いてくれない。
そうこうしている間に、彼の雄からは蜜が零れ落ちて…そろそろ限界が近い事を訴えかけている。
「フリオニール、何だか…変だ」
「出そう……ですか?いい、ですよ。出して……」
男に対し、雄を刺激し、あまつさえ射精をしても良いと言うなんて…自分でも驚く事なのだが、どうしう事なだろうか?彼だからいいように思ってしまった。
それからいくばくかしない内に、「くっ」と息を詰める音。
彼の雄が一瞬ピンと大きく張りつめて、それからビクビクと一際大きく震えた。
「ぁっ!……」
飛び散った精は思った以上に多く、俺の手だけでなく顔にまで飛び散ってかかってしまった。
熱く粘り気のある、濃い雄の香りの漂う快楽の証を、彼ははっと息を吐いてから見た。
「白い…んだな」
そう言うと、彼は俺の頬や顔に飛び散ったそれを拭ってくれた。
しばらく、自分も息と心……そして、最後にして重要な体を落ちつける様に、深呼吸をする。
「その……少しでも、落ち着きましたか?」
そう尋ねて、彼の体から離れようとした俺の腕を、彼は強い力で掴んで止めた。
ビックリして彼を見れば、その目に宿した光をまともに直視してしまった。
「ぁ……」
何だ?この、ギラギラとした…燃え上がる様な、熱い目は。
普段の落ち着いた、涼やかな表情しか知らない彼とは、まるで別人だ。
この瞳に宿っている、獣の本能の様なものは、まさか……。
でも…それしかない。
この人の、性欲。
「君には済まないが、私の熱は引いてくれるどころか…高まる一方なんだが」
「そ、んな……どうして?」
それ以前に、この状況がマズイと、俺の中で警報が鳴る。
良くない…良くない、良くない。
この人の目は、俺に対して抱いているのは…それは、駄目なものだ。
「フリオニール……私も君がしてくれた様に、君に触れたい…」
「……えっ?」
真剣な顔をした彼が、俺を敷布の上へと押し倒す。
抵抗すればいいのだろうが、俺にはそんな力が持てない。
頭で考えた事が、目の前の状況に追いついていない…体はもっと、ズレている。
「君に触れたい……何だろうか、この感覚は…君を……君に、もっと近付きたい…全て知りたい、全てを見たい」
「あっ……おねが、やめ…」
そんな、熱い言葉は……聞いた事が無い。
漂っていた性的な空気に当てられて、鼓膜を震わせる彼の声にも、体が熱くなっていくのを感じる。
震える俺の真上で、瞳に獣の本能を宿した美丈夫が熱っぽい言葉を語る。
「私は、君を求めているようだ……」
「おれ、を?」
どうして俺なんだ?
……いや、その疑問は間違っている。
この世界には、見たこともない敵と…俺と、彼しか居ない。
欲を抱ける相手なんて、双方とも…今は、お互いしか居ないんだ。
そうなれば必然的に向かう先は、一つ。
「私は、どうやら……君と、子を作りたいようだ」
そう言う彼の唇が、俺の唇へと押し当てられる。
柔らかさと熱っぽさを兼ね備えたソレ、俺はその感触が離れてから気づいた。
彼にキスされたんだと。
そして、彼の手が俺の衣服へと伸びてくるのに、一拍遅れて戻った意識で抵抗する。
しかし分かっている、力ない腕で見せる抵抗なんて、どうせ無駄だろう。
俺は……刺激してしまったんだ、熱い獣の本能を。
いくら彼の為であろうとも、俺は近寄り過ぎてしまったんだ。
でも……諦めたくない、このまま……このまま、彼に流されるのは……。
「フリオニール…私の好きに、触れてもいいのか?」
彼の問い掛けに、俺は無言のままで固まる。
もう、逃げようがないのだ。
男同士、ましてや恋人ですらない…この目の前の人を相手に、俺は…どうしたらいいんだ?
「ところで……済まないが。さっきの説明ではまだ、良く分からないんだ…それは、教えてくれるだろうか?」
「何…を?」
「だから、子供の作り方を」
ああ……どうしたらいいんだ、俺は。
熱っぽく俺に触れてくるこの人は、それでもやっぱり、無知という罪をその身に宿しているのだ。
しかし……これは、俺が悪いのだろうか?
「ひっ!!ぁあ……」
男は子を孕まないと、この人にどう説明しようか…そう思案している間に、彼は俺を快楽へと誘おうとしていた。
to be continued …
性行為について全くの無知、といえばフリオでしょうけれども…WOLが記憶を失っている事を考えていて、出会った当初は色々な事に凄い無知な人だったらいいなと。
そう思った結果がコレ、WOLに性教育をする必死なフリオです。
正直、書くのがとっても楽しかったので…自分、もうどうしようとか思いましたが……それよりも、タイトルのセンスの悪さがない…。
因みに、このWOLさんは本気でフリオにも種付けすれば自分との子ができる、と信じてます。
そして…フリオを好きだと思っているのは、全然気づいてません…恋愛感情も、フリオは教えられますかね?
2010/9/27