勝敗なんて、何時も確率の問題。
必勝法は無い、ただその確率を引き当てられるかどうか。
カードゲームなんて、自分の運に賭けるようなものなんだ。
だから賭けよう、己の運命をカードに託して。
Black Jack
「賭けをしないか?」夕食も終わり天幕の中に入った後、今日同じ天幕を使う相手にそう尋ねる。
「賭け?」
どんな?と問い返す相手に、取り出したカードの束を見せる。
「これで、賭けをしないか?」
この市松模様のこのトランプは、元々ジタンが持っていた物だ。
だが、どうやら荷物の整理をしていた際に、間違って俺の元に紛れ込んでしまったらしい。
これを使って皆にマジックを見せていたから、特別な仕掛けでもあるのかと思っていたが、ただの普通のトランプだった。
「ゲームで?」
「ああ」
そう返事すると、「…俺、そういうの弱いからな」と苦笑い。
あまり乗り気では無さそうだ。
「如何様なんてしないぞ」
「別に、そんな事を疑ってるんじゃなくて…賭け事があまり好きじゃないんだよ」
苦笑いしてそう言うフリオニール。
「それに、クラウドって凄く強いじゃないか」
「そうか?」
「前にセシルとティーダも一緒に、四人でゲームした時、クラウドの一人勝ちだったじゃないか」
確かに、そういう事もあった。
あの日は、退屈を持て余したティーダが「ゲームをしたい!」と言い出して、ポーカーをする事になった。
別に何かを賭けていたわけではないんだが、ゲームは意外と盛り上がった。
そして、フリオニールの言う通り、結果は俺の一人勝ちで、フリオニールは大敗を帰した。
「あの時は、運が良かったんだ」
「運も実力の内、って言うよな?」
俺じゃあ勝負にならないだろう?と、そう言って断ろうとするフリオニール。
実際は、賭け事をしたくないだけなんだろう。
彼は根が真面目だからな。
ただ、そういう返事なら最初から予想済みだ。
「別に、金銭を賭けるつもりはない、軽い遊びだと思えばいい」
「遊びって…」
だが、金銭が絡まないとなると、彼は少し考えてくれるだろう。
後、一押しか…。
「負けた方が罰ゲーム、ならどうなんだ?」
「罰ゲーム?」
「ああ」
「どんな?」
言う事なんて最初から決めているのだが、そこで少し考える素振りをする。
「そうだな…負けた方が勝った方の頼みを聞く、というのはどうだ?」
「……それなら、別に構わないけど」
少し考えた後、そう返答するフリオニール。
よし、じゃあ決まりだ。
「今回もポーカーにするのか?」
「フリオニールはこの前ポーカーした時、あんまりルールを理解してなかっただろ?」
「うっ…」
彼が負けた原因の大半は、おそらくはそれだ。
やってみれば分かるから、とティーダに押し切られて参加していたようだが、完全にルールを覚えたわけではないだろう。
だから、もう少し単純なゲームにしようと思う。
「今回は、ブラックジャックにしようと思う」
知ってるか?と問うと、ゆるゆると首を横に振る。
「カードの数を21に近づけるゲームだ、エースは1か11、10以上の数は全部10になる、それ以外のカードはカードの数に書かれた通りだ。
カードは最初に配られる一枚は全員表に向けて出す、二枚目以降は自分だけが見て裏を向ける、数が足らなければもう一枚カードを引ける、だが、21を超えたら、そこで負けだ」
「ようは、引いたカードに書かれていた数を足して、一番数が大きい人の勝ちなわけだな?」
「ああ、一番強いのはエースと10以上のカードで出来た21、これが“ブラックジャック”同数でもブラックジャックを出した人間の勝ちだ」
凝ったルールはあまりないので、多分、分かり易いはずだ。
一息ついて、続きの説明をする。
「このゲームはディーラーに勝つのが目的だ」
「ディーラー?」
「カードを配る役目を負う親だ、今回は俺がやるけど、構わないか?」
「ああ、別に構わないけど」
「分かった、じゃあ少し練習してみるか」
カードがばらばらになるように、よく切って一枚目を配る。
ポーカーもブラックジャックも確率の問題で、たった一人だけが勝ち続けるなんて事は、絶対にあり得ない。
数学的に絶対に不可能。
それこそ、如何様でもしない限り、一人勝ちなんて不可能だ。
だが、どういう訳か勝ち続けられる人間が居たりする。
運が良い奴。
だけど、運なんてものは結局は偶然を引き当てるようなもので、そう長く続くものではない。
神の気まぐれ、とでも言うのか。
だから、カードの数字を睨みつけたって、最終的に欲しい数字を引き当てられるのかは、自分次第。
自分の運次第なのだ。
「ルールも分かってきたか?」
「ああ、確かに簡単だな」
嬉しそうにそう話すフリオニール。
楽しんでいる理由は、勝敗が五分五分だからだろう。
負け続けるのは退屈なものだ。
「それじゃあ、本番してみるか?」
最初に言った事は覚えているだろう、負けたら相手の頼みを聞く事。
「一回勝負だからな」
「それって面白くなくないか?」
「一回で勝敗を決めた方が、後腐れないだろう?」
「…それもそうだけど」
じゃあやるぞ、と集めたカードをよく切って一つの山にする。
上から一枚取り、まずは相手に、次は自分に表になるように配る。
フリオニールのカードはハートのクイーン、俺のカードはスペードのエース。
悪くない数字だ。
「次で勝負が決まるな」
「勝負って、大げさだぞ」
大げさかもしれないが、俺にとってはちょっとした勝負。
だって俺には、最初からこのゲームを持ちかけた理由がある。
トランプの山から、一枚引いて相手に渡す。
それをちょっと伺い見て、すっと裏側のまま置く。
出た数がどうだったのか表情からは読めない、流石にポーカーフェイスを心得てきているようだ。
まあ分かった所で、次に引くカードの出方で勝敗が決まる。
そっと山からカードを引き、その数を見る。
「ブラックジャックだ」
ニヤリと笑ってそう宣言する。
「……嘘だろ?」
そう尋ねる相手に、手札を明かしてやる。
スペードのエースとハートのキング、間違いなくブラックジャックだ。
「…あーあ、勝てると思ったんだけどな」
残念そうに呟いてフリオニールが明かした手札は、ハートのクイーンとクローバーのジャック。
20か…確かに、ブラックジャックか21しか勝てない。
「残念だったな」
「悔しい…けど、負けは負けだ」
そう言うと、手元にあったカードを直す。
「じゃあ…罰ゲームだな」
「分かってるよ…そういえば、クラウドの頼みって何だ?」
「何でもいいのか?」
「俺にできる事ならな」
それを聞いて心の中でほくそ笑む。
その言葉を待ってたんだ。
「フリオニール」
「うん?」
「俺と付き合ってくれ」
「…………っえ?」
間の抜けたようなフリオニールの声。
「何でも頼みを聞いてくれる。って言ったよな?」
ずいっと、ちょっと顔を近づけると、困ったように視線を避ける。
「いや、言ったけど…あの、本気なのか?」
完全に困ってるな。
「俺は本気だ」
意地悪く笑ってそう言ってやると、更に困ったように身をすくめるフリオニール。
面白い。
「俺は…嫌か?」
「えっ!!嫌…とかじゃなく、えっ!?あの…クラウド」
混乱してるな、でも…止めてやらない。
「フリオニール」
そっと名前を呼んで近付くと、後ろへ下がる。
それを見て俺はもっと近付く。
狭い天幕の中、すぐ壁に行き止まる。
追い詰めた。
「あっ…あの、クラウド……」
頬を赤く染めて、近付く俺にどう返事をしたものか必死で考えてるんだろう。
可愛いな。
近い体、俺より少し高い位置にある相手の顔と同じ高さになるように向かい合う。
「フリオニール……」
そっと顔を近づけると、覚悟を決めたように目をぎゅっと瞑る。
その期待に応えてやろうか、と思うが…それはまだ我慢だ。
額にそっと、優しくキスを落として離れる。
「冗談だ」
「…………何が?」
恐る恐る目を開けたフリオニールがそう問い返す。
「罰ゲームで付き合ってくれ、なんて言うわけがない」
そう言って体を離すと、安心したように大きく溜息を吐くフリオニール。
あらかさまに安心されて、ちょっとイラっとする。
「ただ、俺は本気だ」
「本気…って」
「本気で、俺と付き合ってほしい」
そう言うと、今度は顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。
どうやら、言葉が声になっていないようだ。
「俺の頼みは、必ずどっちかハッキリした答えを俺に直接言う事、それだけだ」
簡単だろう?と相手に問いかけると、呆然とした表情のフリオニールと視線が合った。
「じゃあ、夜も遅いし…寝ようか」
「えっ…」
広げていたトランプの山を片付けると、荷物の中に直す。
明日にでもジタンに返してやらないとな。
「じゃあお休み、フリオニール」
「あっ…ああ、お休み…クラウド」
ぎこちない表情でそう言うフリオニールに、少し微笑みかけ、俺は先に横になる。
しばらくの間、そのままの状態で相手の出方を待つ。
諦めたような、どこか疲れた溜息が聞こえると、俺の隣で横になる相手の気配を感じ取った。
さて、これからどうなるものなんだろうな?
この勝敗は確率の問題ではない。
数字では表されない。
必勝法も、おそらくは存在しないだろう。
だから俺は、俺自身を信じるしかない。
カードは揃ってる、後は相手の手札次第。
あとがき
何でか分からないのですが、またクラウドの告白話でした。
何故かクラ×フリの付き合ってる話が思いつきません、ウチのサイトのクラウドは、ずっとこんな立ち位置になるかもしれないです。
ポーカーよりもブラックジャックの方が好きです、名前の響きがカッコいい。
ルールの説明は管理人の記憶に残っていたもので、しかもちょっと割愛してますので、何か間違ってたら指摘して下さい。
2009/4/7
何でか分からないのですが、またクラウドの告白話でした。
何故かクラ×フリの付き合ってる話が思いつきません、ウチのサイトのクラウドは、ずっとこんな立ち位置になるかもしれないです。
ポーカーよりもブラックジャックの方が好きです、名前の響きがカッコいい。
ルールの説明は管理人の記憶に残っていたもので、しかもちょっと割愛してますので、何か間違ってたら指摘して下さい。
2009/4/7