誰かを愛するという行為に…神も人も関係などない……
ただ、相手の事を心から愛しているのならば

朱門の内で

一度俺から離れた彼の唇が、再び俺の物へと重ねられる。
今度は触れる様な優しいものではなく、激しく貪るような、喰いつくされそうなキス。
ぬるりとした彼の長い舌が、俺の咥内を荒らし回っていく。
どこか甘い彼の唾液、 ニッコリと微笑む彼は、暗闇の中でも僅かな光を放ち、俺を見つめている。
ポゥッと、その姿に見惚れている俺だったが…ふと、今の状況が不味いのではないのか?と、思考の片隅から俺の中心へと向けて発せられる警告。

このままだと、俺は…もしかして、彼に…?


ふっと笑う彼の背中で、ゆらゆらと彼の毛並みの良い綺麗な尻尾が揺れる。
九つある彼の尾、その一つが俺の腕へと擦り寄る様に絡みついてきた。
柔らかい毛が、俺の腕をくすぐる様に撫でていく。
「あの…ウォーリア様、何を?」
こそばゆい感覚に身を捩り、何とか逃れようとするが彼は許してくれない。
「私の事はウォーリアと呼んでくれ。“様”だなんて、改められて言う様な関係ではない」
俺を見下ろしてそう言う相手に、しかし俺は困惑する。
「でも、神にそんな…畏れ多い事など」
俺は神に仕える神官なのだ、陰陽道にも色々あるが、俺は特にこの神を祭る為に存在している。
仕える者には、仕える者としての態度がある。
「私が許すと言っている。それとも…そう命令すればいいのか?」
尋ねられ、返す言葉が見つからない。
そこまで強く言われて、更に首を横に振れる訳がない。

そうこうしている内に、俺の腕を撫でる相手の尻尾がゆっくりと這い上がってくる。
「っあ……やぁ…!」
それだけでなく、俺へと擦り寄る尾の数は増え、それは衣服の中へも堂々と入り込んでくる。
背中を駆けるゾクリとした感覚、こそばゆい様な、体験した事の無い熱い感覚。
「やっぱり君は敏感だな、いつだってそうだ…君は変わらない、魂も肉体に与えられる名も、声も姿も、その初心な心根も…私が愛する君のままで転生する」
愛おしいモノを見つめる様に、すっと目を細める相手。
美しい笑顔に顔が熱くなるが…しかし、俺はそれに身惚れているばかりではいられない。
「ひゃぁっ!……ぁ、ああ…あ…」
俺の体、その全てを撫でて行く毛の感触。
その動きがあまりにも性的に感じられ、なんとかして逃れようと身を捩るが、九つの尾がそれを許してくれない。
「あの…ウォーリア、お願い…これ、止めて」
「何故だ?私には君がとても、悦んでいる様に見えるんだが」

震える声で懇願するも、意地悪く笑う相手はそれを聞き入れてはくれない。
むしろ、俺の体へと伸びる尾の進行は止まらない。
腕だけでなく、胸や腰・脇腹、太股の裏にまで伸びて行く彼の愛撫。

これは俺にとっては初めての感覚、。
だからこそ、拒絶したい気持ちがある。
恐れている、酷く恐怖している。
でも……。
どこか、待ち焦がれていた様な、そんな感覚。


「気持ちいいんだろう?そんなに頬を染めて、涙を浮かべて…待ち焦がれていてくれたんだろう?」
耳元で囁いかけられる相手の言葉に、体が震える。
俺が感じているのは、快楽だ。
畏れ多くも、神の手から俺の肉体に与えられているのは、苦行にも似た快楽の渦。
「駄目だ…うぉー、りあ……っぁう、駄目…」
「何が駄目なんだ?教えてくれ、フリオニール」
そう尋ねる彼の尾が、するりと俺の体から離れて行く。
その次に上着の合わせ目から、するりと彼の綺麗な手が忍び込み、俺の胸を撫で上げる。
尾とは違う、指が肌を撫で上げる感触にビクンと体が跳ねる…が、それでも俺は彼に向けて言葉を返す。

「神の御前で…こんな、俺…はしたない姿して、申し訳なくて……」
涙交じりに訴えかけるも、彼はそれを聞いて笑う。
「私はそんな君が見たい、大丈夫だ」
「でも…ここは、聖域だ……神の住まう場所で、俺は……神様に、仕える為に生きる者で……」
「その神が、それを望んでいる」
ニヤリと口角を釣り上げて笑う彼の指先が、俺の胸の飾りを引っ掻いた。
「ひゃぅっん!」
ビクンと電流が走った様に、体が跳ねる。
「感じ易い体だ……愛らしい」
耳朶を食み、穴の中へと吹き込まれる息にさえも体が反応して、浅ましい自分の肉体を恨めしく思う。
震える俺の首筋に舌を這わせ、肌を寄せ吸い上げられてピリッとした痛みと共に広がる、言い知れない熱。

「ウォーリア…熱い」
ぎゅっと相手の衣服の裾を掴み、自分の熱を訴える。
溢れ出てくる涙を舐め取り、宥める様に優しくキスされる。
「大丈夫だ、その熱を求めている」
彼の手はゆっくりと、俺の衣服の合わせ目を開けて行く。
熱を帯びた肌には、夜の空気が少し冷たい。
だが、彼に触れられている部分は、酷く熱い。
しかし袴に伸びた彼の手に、一気に惚けていた意識が戻される。
「あっ!……そこは、駄目」
伸びて来た彼の腕を押し留めると、彼は首を傾ける。
「どうして?ここにも、君の熱は集まっているだろう?解放して欲しくないのか?」
服の上から張りつめた俺の熱を撫で上げられ、悲鳴に近い声が上がる。

「ぁ、ああ…駄目です、そこ触っちゃ……」
止めようとする俺の声を無視して、彼は俺の袴を下着ごと一気に引き剥がす。
「ふぁっ!……嫌だ、見ないで」
イヤらしく起ち上がった自分のモノを曝け出され、羞恥で震える俺。
「良かった、君がこんなに感じてくれて…私もすっかり熱くなってしまった」
そう言う彼は俺の上から退くと、自分の衣服を脱ぎ始めた。
暗闇に浮かび上がった彼の、白く輝く体の美しさに、思わず溜息が零れる。

「此方においで」
手招きする彼が差すのは、彼の膝の上。
緩慢な動きで彼に近付いて行くと腕を引っ張られ、そのまま彼の膝の上へと足を開けて座らされる。
腰を下した場所の所為で、触れ合う俺の熱と彼の熱。
「あっ…当たって…る……」
「フフフ、君は熱いな」
抱きしめている彼の片腕が離れ、そっと俺の起立した欲に触れる。
「ふぁっ!ああああ」
愛撫され、先端から零れ落ちてくる愛液。
痺れるような感覚に、目を閉じると、彼が耳元に唇を寄せた。

「ほら…君も、一緒に」
「ひぁ…えっ?」
何の事か分からずに首を傾ける俺の腕を取り、熱を持ったそこへと宛がわされる。
触れた熱の思わぬ熱さに、丸まる指。
その手を取り導かれる様に、上下へと扱われる。
クチュクチュと音を立てて扱われる俺の熱、それだけではなく、共に擦り合わされる彼の熱が更に快感を呷る。
「はぁ…ぁ」
零れ落ちる愛液は彼のモノも汚し、淫靡に濡れていく様。
神を汚してる…そう思うだけで、俺の中に沸き起こる背徳感。
だが、それは俺の中で有り得ない程の快感も生み出している。

求めちゃいけないと思っているのに。
体が……熱い。


「ウォーリア…も、だめ…俺、もう…もう」
ピンの張りつめた俺の欲。
それは、もう限界を訴えかけている。
「いいよ、全て吐き出しなさい」
「でも……」
我慢して震える俺を見つめて、彼は微笑んだ。
「君が快楽に乱れる綺麗な顔…見せてくれ。私も、もう我慢できない」
「あっ!あああああ!!」
グリッと先端を強く引っ掻かれ、その衝撃で我慢していた熱が吐き出される。
その余波は俺の指にも伝わり、思わず彼の熱を強く擦り上げてしまい、それと共に俺の手の中にも熱い飛沫が飛び散る。
「ふぁ……ぁ、ああ…」
クタリと力の抜けた体を、彼の胸に預けて呼吸を整える、力の抜けた俺の手をそっと彼の手が握り締めた。
俺の白濁で汚れた指と、彼の白濁で汚れた指が絡む。

「大丈夫?」
優しくそう尋ねる彼に、俺はゆっくりと頷く。
それに満足そうに微笑む彼の指が離れる、すっと俺にキスをしてくれた。


離れた指が、俺の背後へと回り尻の間を撫でていく。
むず痒い感覚に耐えていると、彼の長い指があらぬ場所に触れた。
「はっ!……ちょ、何を……?」
互いの白濁で濡れた指が、自分の内部へと入り込んでくる奇妙な感触に身を固くする。
「嫌だ!嫌…そんな所、触らな……」
「大丈夫、私に身を任せなさい」
そんな事を言われても、何をされるのか分からない、そんな恐怖が体を覆う。
それだけではなく、本来モノを挿入する場所でないそこに何か入れられている、それは俺の体に、酷い苦痛をもたらす。
知らず溢れだす涙を、彼の指が拭う。
「我慢してくれ…お願いだから……」
なら、止めて欲しい。
そう訴える俺に、彼は困った顔を見せるだけで、中の指の侵攻を止めてはくれない。
曲がったり引っ掻いたりする彼の指、内臓を内側から引っ掻きまわされている様な、嫌な感覚に自然と体の力が籠る。

「ぁっ!ふぁ、ああああん!」
止まない苦痛にじっと耐えていた俺だったが、彼の指が奥の一点に触れた瞬間に電流が走った様な感覚が付き抜けた。
「……ここか」
「やっ!そこは駄目だ!……駄目!」
何度も同じ場所を突かれ、ビクビクと体が震える。

グチグチと、卑猥な水音を立てるそこは、気付けば彼の指を三本も飲み込んでいた。


「もう、そろそろ…いいだろう」
そんな言葉と共に彼の指が引き抜かれ、再び床へと仰向けに横たえさせられる。
物を受け入れる場所じゃないハズなのに、引き抜かれて名残惜しく収縮するソコの物足りない感覚に、自分の内側が熱く燃える。
どうしてしまったんだ?一体。
動揺する俺の、今まで押し広げられていた場所へ、彼の猛った熱が押し当てられた瞬間、体に衝撃が走った。

「ウォー…リア、ね…それ、待って」
俺の懇願する言葉に、彼の動きが一旦止まって、俺の顔を見る。
ギラつく様な彼の目は、まるで本物の獣の様だ。
「どうした?フリオニール」
「あの…これから何を?」
その質問が、あまりにも滑稽である事は尋ねた俺自身、分かっている。
この状況に至って、まだ何をされるのか理解できていない程に、自分が子供でないのは分かっている…だけど。

どうしても、信じられない。

自分が、自分の仕えなければいけないハズの神様に…愛を囁かれているのも。
こうやって、情を交えようとしているのも。
ただの、夢のように感じられるのだ。
でも……体に感じる彼の熱は、本物だ。


「君と、想いを交わし合いたい…そう願うのは、私だけだろうか?」
そんな俺に、彼はむしろ問いかけた。
独白の様な呟きに、俺は何も言葉を返せない。
「君を愛しているのは、私だけなのか?フリオニール」
愛しているという彼の熱い言葉が、俺の胸を高鳴らせる。
この鼓動…焦げ付いてしまいそうな、この気持ち。
俺は彼を、愛してる……?

「君が欲しいと思うのは、私だけなのか?フリオニール」
「ぁっ…」
彼の問い掛けと共に、グッと入り口へと彼の熱が押し付けられる。
受け入れようと収縮するソコが、彼の先端を少し飲み込んだ。

耳元で鳴り響くのは、爆音。
心臓が打ち出す鼓動と、どんどんと血液が回って行く早い音。
内側に広がる疑問と、高まっていく熱。
ああ……でも、でも…知ってる、どうしたいのかの答え。
体も、魂も…さっきからずっとそれを叫んでいる。
拒んでいるのは多分、俺の理性。

「フリオニール…愛してる、君だけを」
そう呼びかけて、俺の唇へとキスをする相手。
柔らかく優しい熱に触れられた瞬間に、俺の中で、音を立てて何かが壊れた。

ああ…彼が、欲しい…………。


「好き…です。好きです!貴方が……貴方の事が好きです!
俺も、愛してます!本当に…本当に貴方を愛してます!!
貴方の事が、欲しいです!!…俺、あっ!ぁああああああ!!」
続けようとした俺の言葉は、後半ただの悲鳴に変わった。
腰を押さえられて、一気に付き入れられた彼の熱。
その動きは優しさ等感じさせない、とても強引な動きで、強い痛みを伴った。

「はっ…ぁ、ああ…あああ……」
ビクビクと震える俺の体を、抱いてくれる彼の強く逞しい腕。
体を貫いた激痛…だが、変だ……そんなものが苦にならない程に、幸せを感じている自分が居る。

キュウッと内側が締り、彼の熱が奥まで感じられる。
呼吸を吐いて、腕を伸ばせば…すぐそこに居る彼。

美しい神様…今は、俺だけのもの。

ああ…愛おしい、この熱が。
身を貫いた痛みさえも、愛せてしまう程に…愛おしい。


「はぁ…んぁ……ああ、何で?こんなに貴方が好きなんだろう?分からない」
ぎゅうと彼の背中を抱きしめてそう呟くと、彼はそっと顔を上げて俺を真っ直ぐに見つめた。
「言っただろう?君は私を愛していると……理由なんて、忘れてしまう程に、私達はずっと愛し合っている。
だけど…理由なんてもう必要ない、その事実があればそれでいい…違うかな?」
そう尋ねる彼に、俺は首を横に振った。
愛されている幸せが、それ以上を考えるなと…そう告げた。

貪るようなキスは、どちらからともなく交わされた。


彼が俺の内側で、熱を持って攻め立てる。
その事実が、自分をこれ程に乱れさせている。

「あっ!……そこ、ばっかりやめてぇ!!おかしくなるっ!」
最奥の俺が悦ぶ場所を何度も何度も攻め立てられ、もう止められない、甲高い自分の淫らな鳴き声。
擦りあげられる内側は、彼の熱を受け止め包み込み、離さないとばかりに締めつける。
それが自分でも感じられて、彼を自分は放したくないのだ…と思った。
いや、離すものか。
こんな、愛おしいモノを。

彼は、口元に薄らと笑みを浮かべている。
だけど、その目は捕食者の用にギラついている。
狐というのは肉食の動物だ…彼は元より、捕食者なのだ。

「いいぞ、もっと乱れろ。もっと、私の為に鳴け」
攻め立てる彼は、どんどん動きを強く早くする。
初めての感覚に付いていけず、涙を流して縋りつく俺。
「そのまま私で狂え…フリオニール」
ああ、このまま彼の腕の中、彼が命ずる通り……狂い咲くしかない。


溢れだす欲望の蜜に、限界が近い事を知る。
一度吐き出してからは、二度と手を触れていないというのに、淫らに濡れたソコ。
「もう…無理か?」
「あっ…イヤ、俺だけ……俺だけイクのは」
手を伸ばしかけた彼を静止して、訴えかける。
一緒に、イキたいんだと。
我慢してでも…貴方と二人、愛を交わしたのだとそう感じたい。
そう言った瞬間に、俺の中に居た彼が一気に質量を増した。

「ふっ!くぁああ!!」
「君も、凄い事を言うな……」
はぁっと熱い吐息を吐き出して、彼はより一層強く腰を押し付ける。
何度も何度も、深く最奥を突かれてしまう。
「あっ!ぁあ!!やぁ!!いや、いぁあ……いや!!……そんな強くしないで!俺、先にいっちゃ……」
「構わない、もう…私も限界だ」
そう言われ奥へと熱を穿った瞬間、俺の中の欲は弾け、絶頂を迎えた。

「あっ!ぁああああああん!!ぁああ!!」
目の前で火花が散る様な感覚。
瞬間、あまりの衝撃で収縮した内側で、熱が爆ぜるのを感じた。
「くっ!……ん」
ドクンと大きく跳ねて、内側に溢れだす熱い何か……。
「熱い…熱いよ……俺のナカ、凄い熱い……」
ボーとして定まらない意識の中、そう呟いた俺の言葉に彼は笑いかける。
「ありがとう…愛する者」
擦り寄って、キスを贈られる唇にも、愛された熱が灯ったような気がした。

「愛しています……」
そう最後に呟いた後、俺の意識は暗闇の底へと沈んでいった。


夢を見た。
昔の夢だ、だけど…俺の知っている昔じゃない、もっと昔の夢。
それは今よりももっと、神や妖怪の存在が脅威とされていて、それに対抗する人間が必要とされていた時代の事だった。

俺は朝廷に仕えていたが、ある時、怪狐を狩るように命じられた。
その狐、あまりにも強い力を持ち、土地の者が手を焼いている…それを倒して、平穏をもたらす様に…との命に、俺は従った。
言われた場所に辿り着き、感じたのは強い力。
それは森に住みついているという妖狐と対峙した時に、最も大きく感じた。
「何の用だ?」
俺へと向けられる殺気と、妖気の強さに驚く。
だが、それよりもずっと驚いたのは……彼の強く、凛々しいその立ち姿。
なんて美しい……そう思った。

「帝の命によりお前を討ちに来た…恨んでくれるな、妖の者よ」
そう言って身構える俺と彼が争ったのは、きっかり七日間。
八日目の朝、決着は付かず…俺は彼と対峙していた。


「お前は…本当はこの地を守護する主だろう?」
そう尋ねた俺を、相手は一瞥しただけで黙し続けた。
「何故、住まう者達を襲う?本来なら、お前は人々から崇められるべき存在だというのに…」
「人の信仰等に興味はない、私は私で、この土地を荒らす人間を排除していただけの事。
この山も、野も…そしてこの森も、全ては私のものだ。特に森は、私を慕う者達の住まう場所…そこを荒らして行く人間が、勝手に侵略した上に邪魔者だと、森に住まう者達を排除していく人間が、私は許せん」
そう語る彼に、俺が出したのは共存の道だった。
「この地に社を建てましょう、貴方を祀り、この土地を守ればいい」
「人は信じられん」
しかし、そう言う彼は…つい先ほどまで、闘い続けていた俺を殺す気はないようだった。
信じてもらうしかない、ここは俺が誠意を見せる場所。
「俺が貴方に仕えましょう、生涯を賭して、貴方一人の為に仕えます」
この地を守り、収める貴方の為に。
それを聞いた彼は、酷く驚いた表情を見せた。
今まで、自分の前に傅いた人間など居ない、彼はそう言った。
だが俺は分かった、彼は排除されるべき存在ではない。
この地を守るべき者だ。
数多くの年月を、彼は一人でこの地を守って来たのだ。
彼を孤独にさせてはいけない、俺は…俺が、彼の為に全てを捧げよう。

狐に憑かれたのではないか?そう、後に親族からは言われたけれど、しかし皆、俺を止めたりはしなかった。
俺は、魂を捧げて誓いを立てたのだ。
貴方の為に、生きましょう…と。


「信じては貰えないだろうか……人間を」
そう尋ねる俺に、彼は不器用な表情を和らげた。
「人が皆…君の様ならば良いのに」


目を覚ますと、夜闇は薄らいで朝を迎えようとしているようだった。

「……んっ!!」
起き上がろうとした俺の腰に、感じた事のない激痛が走った。
「大丈夫か?」
そんな声と共に隣りから伸びた腕が、再び俺を床へと横たえさせる。
見上げれば、彼の真っ青な綺麗な瞳と目が合う。
トクトクと高鳴る胸。
やはり、この神様は美しい。

「昨夜は無理をさせたな…何せ、私も数百年ぶりだったから……」
そう言う相手の耳が、申し訳なさそうに項垂れている…少し、それが可愛いと思った。

痛む俺の腰へと彼の腕が伸び、そこに触れる。
少しの間動くなという彼の言葉通りに身を任せて、いや任せるより他に選択肢はないのだが…そうすると、彼の手が少し光った。
不思議に思っていた俺は、そのままその光を見つめていると…段々と痛みが消えていくのを感じた。
「……凄い」
「一応は私も神だ、これくらいはできる」
自分の責任程度は取る、という彼の台詞に俺はクスリと笑みを零すが…ふと、そこで自分の今の格好に気が付いた。
昨晩、彼と情を交わし…その後、着ていた衣服を上にかけられて眠っていた俺は、今は一糸纏わぬ姿のままだ。
それに気付いて、顔を真っ赤に染めて身支度を始めると、彼は不思議そうに顔を傾けた。
「君の裸体なら昨晩に、嫌という程目に焼き付けてある…今更、隠す事もないだろう」
「そういう問題じゃありません!!」
神に向けて、一言そう切り捨てると、急いで衣服を着た。


しっかりと身支度を整え終えた俺は、彼の方を振り返る。
彼も自分の衣服に着替えたらしく、昨晩と同じ青い袴を身に纏い、ご神体のあるべき台座の上に座って居た。
「私は君を愛している」
昨晩、何度も何度も囁かれた言葉を、彼は再び俺にくれる。
それが、俺を高鳴らせるものなのだと、彼は既に知っているようだ。
だって…俺も彼を愛している。
「今度の君も、私を永久に愛してくれるのか?」
その問い掛けに、俺は彼を真っ直ぐに見つめて答える。
「生涯をかけて、貴方だけに俺の全てを捧げます」

それはなんて素敵で、なんて背徳的な…愛の誓い。


the END

あとがき

狐WOL×陰陽師フリオの妖怪パロ!
ほぼ全編エロしかない!!という後半戦でした、いや…書いていて楽しかったです。
WOLの尻尾でフリオの体を弄ってるシーンとか、書いてて凄く楽しかったんですよ…。
いや、普通は獣化したら尻尾は弱点にされますけどね、WOLさんは攻めですから…こういう使い方も有りですよね?
やっぱり和モノ好きです。フリオの陰陽師である過去編とかもやりたいかもしれない…土地神と共闘して、土地を守る為に戦う陰陽師、萌えです。
2010/8/1

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