先生、貴方を好きになってはいけない理由とは、何ですか?

貴方への拘束

じっと見つめ返す彼の瞳。
直接見つめ返される青い瞳には、強い力がある。
クラクラする…フラフラする…。
彼の、その瞳に見つめられていると、心臓の鼓動が、どんどん大きくなっていく。

眩暈を覚える状況、彼は酷く真剣だ。
本気で、彼は俺を…?

「冗談です」と言って、してやったりの笑顔を待つも、彼の表情は微動だにしない。
元より彼は、冗談なんて通用しないタイプだろうし、それは同時に冗談なんて言わないタイプの人間だろう…と、思っていた。
だけど、これを冗談と言わずに何を冗談と言うんだ?
自分の生徒が自分を好いている、しかも…それが同性の生徒相手だなんて。


「駄目…だよ、ウォーリア君」
目の前の彼へ向けて、なんとかそう答える。

「駄目?」
「そう、駄目だよこういうのは、その……君は、俺の生徒な訳だし、それにその…やっぱり同性での恋愛は」
「先生は、そういう人間を差別するんですか?」
彼の真剣な射る様な眼差しが、俺をしっかりと捉えてそう言う。
表情こそ変わらないが、彼の声の中に、幾分か悲しい響きがあって俺は慌てる。

「あっ!…いや、そういう事じゃなくてさ、その。君はまだ若いんだし、俺じゃなくても君に合った相手って、きっと他に居ると思うんだ」
彼の胸を少し押し返し、少しだけ距離を取ろうとする。
そんな俺の言葉にも、彼は微動だにせずに聞き入ってくれている。
彼は本心で俺にぶつかってくれている、というのに…俺が返す言葉が、一般論的な、型にハマった文句である事が、酷く申し訳なく思う。
だが、こういう事を繰り返すしかないのだ。 「クラスメイトでもそうだし、同級生でなくても部活の先輩とか…」
押し返した俺の手を、彼は再び取ると握りしめた。
「ウォーリア君?」
「そんな答えは求めていません、先生…私は、貴方が好きなんです。他の誰かなんて、考えたくもない」
ギュッと俺の手を握る彼の手に、更に力が込められる。
強い力はもう、痛いくらいだ。


「何故、教師と生徒が恋仲になってはいけないんですか?
何故、同性同士の恋愛に白い目を向けられなければいけないんですか?
私は好きな人に好きだと、そう言いたいだけです先生…そして、私は貴方にもっと、私の事を知って欲しいだけです。
貴方の事も、もっと知りたいんです先生…」
痛いと思っていた手は解放され、彼の腕が俺をかき抱く。

抱き締められた腕の中、彼の心臓の鼓動が高鳴っているのを感じた。
ドクドクと、俺と同じ様に高く早く脈打つ心臓…。
それが、何だか心地よく感じて、流されてはいけないと自分を律する。

駄目だ、ここで流されるのはよくない、自分の為というよりも…彼の為によくない。
文武両道で真面目な好青年、そんな彼には普通の高校生として楽しい日常を過ごして欲しい。
その相手が俺である必要なんて、ない。


「貴方が好きです、先生」
だけど、この説明ではきっと彼は満足してくれない。
彼を満足させられる様な、そんな言葉を俺は必至で探す。

「どうして?俺を……?」
そう尋ねると、彼はじっと俺を見返す。
そして、俺を自分の腕から解放すると、俺を見つめたまま「綺麗だと、思ったんです」とそう言った。

「こんなに綺麗な人は、初めて見ました」
「えっ……」
「初めて会った時にそう思ったんです。微笑んだ表情がとても綺麗で…貴方に身惚れてしまった」
あの日、俺は入って来たばかりの新入生を見つめて、挨拶をした。
自分の目付きは少し鋭いので怖がられたくない、第一印象は大事だろう、そう思って、はにかむ様に笑いかけた。
俺は固い笑顔ではないか?と思っていたのに、彼はそれを「輝いて見えた」とそう評した。
「少しでも貴方に近付きたくて、学級委員に名乗り出て…頑張れば、貴方は私に微笑みかけてくれる、声をかけてくれる。
始めはそれで良かったんです先生…貴方が私を少しでも気にかけてくれるだけで、それで幸せでした。
でも、駄目なんです先生…どんどん足りなくなっていくんです」
「足りなく?」
「言ってもいいですか?貴方を、苦しめる事になるかもしれませんが……」
彼は真剣に俺を見つめてそう言う。
きっと、彼だってそれで苦しんでいるんだろう。

「教えて、ウォーリア君」
彼に続きを促すも、彼は黙りこくって言葉の続きを紡ごうとしない。
どうしたのだろうか?と思う俺に、彼は首を横に振った。
「やっぱり言えません、貴方に、軽蔑されたくありませんから…」
「ウォーリア君」
「貴方に嫌われたくはありません、でも…もう遅いですね。貴方に私の想いを伝えた時点で、貴方に私は軽蔑されてもおかしくないんですから」
そう言って苦笑する、彼の表情が寂しそうだ。
「俺は別に、軽蔑したりしないから…だから、何をそんなに苦しんでるのか…教えてくれないかな?」
そう尋ねる俺を彼はじっと見つめ返す。
やがて、決心した様に頷くと、俺の前へとずいっと顔を寄せた。
すぐ側にある彼の、綺麗に整った顔に見つめられて思わず顔に熱が集中する。

「私は、貴方を私のモノにしたい…私に、話しかけて欲しいし、できるなら笑いかけて欲しい。
だけど、それだけじゃ足りないんです。
貴方に触れたくなる、その手を握って、その体をこの腕に抱いて…できるならその唇に、私の物で触れたい」
俺の頬を撫でていた指が、ゆっくりと震える唇をなぞる。
ビクッと、俺の体が震える。
そんな事を、彼は思っていたのか…全然、知らなかった。

「先生、私はおかしいんでしょうか?
同性にこんな感情を抱いていると知って、悩みました…しかし先生、貴方だけなんです。
他の同性に関しては何も感じません。
女性に関しても、私はこんな気持ちを欠けらも抱くことができません。
私は貴方だけに、こんな感情を抱くんです…先生」
そう言う彼の指が、俺の頬を撫で、唇をゆっくりとなぞる。
ドクドクと流れる血が熱く、燃えている様だ。
それは、彼が触れた部分からどんどん奥へと広がって行く。
ああ、熱い……。


「先生…貴方を、好きになっては駄目なんですか?」
じっと見つめる相手の視線が、あまりにも…強く、俺を捉える。
「それは」
答えられない。
そんな俺に、彼は笑いかける。
ニヤリと口角を釣り上げたソレは、随分と大人びた表情だ。

「先生、顔が赤いですよ」
「っあ…それは、その」
自分でも感じていた事を指摘され、更に自分の顔に熱が集中するのを感じた。
「私の事、意識してますよね?」
「いやっ!あの、違う…違うんだって、俺」
「嘘を付かないで下さい、貴方の心臓が、私と同じ様に…こんなに高鳴っているのに」
そっと俺の胸元へと下りる、彼の大きな手。
触れたその場所は、自分でも抑えが利かない程にどんどん速く、鼓動を打つ。
「こんなに赤く頬を染めて、目を潤ませて。随分と純情なんですね、可愛らしいですよ」
「年下に、言われたくないんだけど…」
そう言い返せば、彼はふっと笑いを零して、「そうですね」と微笑み返した。
「だけど先生、本当の話です…貴方は今、私の事を意識している、このまま本当に口説き落としてしまえそうです」
「なっ!!」
彼の自信に満ちた言葉に驚愕する。
だが、彼の言葉に頬が熱いのは事実、胸が高鳴るのも事実。
「君は、諦める気は…無いんだ」
「何でそんな事をしなくてはいけないんです、先生?貴方は別段、決まった相手なんて居ないんでしょう?なら、私が貰ってもいいハズですよね?」
「貰うって…俺は物じゃないんだから」
「言ったでしょう?貴方の事を手に入れたい…と」
そう言って笑う相手の顔が、再び俺に近づく。
背の高い彼を見上げる、俺の額に彼は触れた。
その唇で。
優しく触れた柔らかいソレは、直ぐに離れて行く。

アレ……俺、今…キスされた?


「ちょっ!!えっ、ぇええ!!ウォーリア君!!」
驚愕する俺に対して、彼は意地悪く微笑む。
「これくらいで怒らないで下さい、先生…私はもっと、貴方に触れたい」
そう言って笑みを深める相手に、俺はどこか恐怖を感じた。

とりあえず、言える事は一つだ。
俺のクラスのある意味最大の問題児は、彼だ。

「愛しています、先生」
そう言って微笑む彼の姿が、酷く俺には脅威に見えた。


to be continude …

あとがき

委員長WOL×教師フリオ、続編。
何だろう…この二人が最近、自分の脳内で凄く流行っているのですが……。
委員長WOLがかなり積極的な件、そして何か計算してそうですよね、奴は…。
本気で先生を口説き落とす為に、自分の笑顔も何もかもを武器にして向かってくる計算高いWOLとか…いいなぁ、と。
ちょっとそろそろ黙れよお前…って声が聞こえました、申し訳ないです。
で、続きます、先生がWOLさんの物になるまで。
という事は、もう直ぐ終わります…先生の陥落は絶対早いです。
2010/7/17

close
横書き 縦書き