無防備な姿を見ると、ふと心の中に芽生えてくるものがありませんか?
それは誰にだって生まれる衝動。
そう、秩序の戦士にだって…。
そっと物陰から様子を伺うのは、金髪の少年。
ターゲットは銀髪の青年。
そろそろと、獲物に近付き、そして…。
「フリオ覚悟!!」
「はぁ!?って、うわあぁ!!」
思いっきり、彼の結ばれている髪を引っ張った。
後ろ髪、引かれたい?
「なっ!何するんだよティーダ!!」
引っ張られた衝撃で、後ろに倒れそうなったが、そこは何とか持ちこたえて悪戯を仕掛けた相手に向かってそう怒鳴る。
当の悪戯を仕掛けた犯人は、どこ吹く風。
「だってその髪、引っ張って下さいって言ってるようなもんじゃないッスか」
なんて、微塵も反省の色を見せず、笑顔で対応。
「痛いだろ」
「手加減はしてるッスよ、ちゃんと、一本も抜けてないっしょ?」
確かにそうだが、だからといっても痛いものは痛い。
いや、それに…。
「何で俺なんだよ?」
そう、それが疑問。
コスモスの戦士は、長髪の人間が多い。
カオスの戦士でも短髪はあまり見かけないが、彼等に間違ってもこんな遊びはできないだろう。
彼の悪戯には、髪を結っている事が必須条件となってくる。
となると、それによってターゲットは絞られてくる。
自分の髪は長いが、オニオンナイトも俺と同じように後ろの髪を長く伸ばして結んでいる。
ジタンも、二人と比べると短いが、同じように後ろで髪を結んでいるし、ティナも高い位置でポニーテールにしている。
流石にティナは女の子だし、ターゲットにするのは心苦しかったんだろう、髪は女の命とも言うし。
さて、ターゲットにできるような残りの三人で、何故自分が選ばれたのか…。
「だって、フリオが一番反応が面白そうなんッスもん」
そんな理由だけで、悪戯のターゲットにされてしまったらしい。
「こういうのは、イジられキャラにするのが一番面白いんッス!」
「イジられキャラって…」
勝手にキャラ付けしないでくれよ…。
その時、ふと背後に何かよからぬ気配を感じ取り振り、返ろうとした瞬間。
「取ったりぃ!!」
「うおわぁ!!」
悪戯っ子二世現る。
「ジタン!!」
「へへぇん、隙有りってね!」
そう言って走り去って行く、小柄な少年の背中を追いかけようとした時、再び後ろに髪を引かれる。
「隙だらけだぜ!フリオニール!!」
「バッツ!!」
悪戯っ子三世…って、バッツはもう子供って年じゃないか。
「すまない」
「えっ!?」
背後でそう小さい謝罪の声がしたかと思うと、そっと髪を引かれる感覚。
驚いて振り返ると、立っていたのは年相応に見えない十七歳。
「スコール……」
意外すぎる人の、意外すぎる行動に思考が止まりかける。
申し訳無さそうに俺を見るスコールをどうしようか迷い、悪戯が過ぎる大人か、それとも少年か、どっちを追いかけるべきなのか躊躇している間に、さっきまでここに居たはずのティーダの姿まで消えていた。
三人共、グルだったのか?
「済まない、罰ゲームだったんだ」
「…罰ゲーム?」
スコールの話によると、スコール・ティーダ・ジタン・バッツの四人でカードゲームをしていたらしい。
そこで負けたスコールに課された罰ゲームこそが、これ。
俺の髪を引っ張ってくる事、だったらしい。
ただ、そのまま行くには流石に…というスコールに、三人が一肌脱いだらしい。
っていうか、ティーダ達が凄くヤル気だったんだそうだ。
「…何で?」
(それはアンタがイジられキャラだからだろ?)
うん?
今、目の前の少年の心の声が聞こえたような気がしたんだけど、気のせいだろうか?
「はぁ…」
スコールが立ち去ってから小さく溜息を吐く。
まったく、何してるんだよ?
呆れて溜息が漏れる俺の髪が、弱い力で再び後ろに引かれる。
「ちょっ!!いい加減にしろ!!」
「ごっ…ごめんなさい」
ティナだった。
「なんか、楽しそうだったから…つい」
怒鳴られた事で、うっすらと涙を目に溜めながら必死で弁明するティナ。
「いや、いいよ」
流石に、ティナを…女性を泣かせるのは良心の呵責がハンパない。
「本当に、本当にごめんなさい!」
「いや、いいから!本当にもういいから!!」
なんとか彼女の気持ちを落ち着かせ、もう最後には自分の方が謝らなければいけないんじゃないか、というくらい、お互いに謝まった。
「ティナ、どうしたの?」
「あっ…オニオン君」
二人で譲り合いのような謝罪を延々と続ける二人を、怪訝な目で見る少年。
事情を掻い摘んで話すと、ああ、と納得したように頷くオニオンナイト。
「もういいよティナ、フリオニールも本気で怒ってるわけじゃないし」
「本当に?」
「ああ」
「ほらね?そうそう、今日ティナと僕で食事当番でしょ?もうそろそろ準備しないと」
「あっ、そうだね」
そうやって去り際に、さり気にオニオンナイトが俺の顔をちょっと伺い見た、と思ったら。
くいんと、また後ろに髪を引かれる。
「確かに、これはやりたくなるね」
そんなちょっと幼い、満足そうな笑顔で言うとオニオンナイトとティナは食事の準備に向かった。
自分の後ろに結んだ髪を触る。
そんなに、引っ張りたくなるような髪、してるんだろうかだろうか?
…っていうか、オニオンナイトとジタンは俺と同じ結び方してるだろ?
なのに、何で俺ばっかり。
「皆に悪戯されてるの?」
そう言いつつ、俺の髪を後ろから軽く引くのはセシル。
ついにこの人も、か…。
「セシル…」
「いいじゃない、減るものでもないし」
ふふっと優しく微笑みそう言われると、なんか強く言えない。
「皆もさ、こう闘いばっかりだと心が荒んでくるんだよ、悪戯でも何でも、癒しは癒しだよ」
「癒しって…」
それは悪戯をしかける方には癒しになるだろうが、される方は一切癒しにならない。
「まあまあ、深く考えないで」
そう言って笑われると、やっぱり強くは言えない。
それからしばらくして、また俺の髪が引かれた。
「……クラウド」
「諦めろ」
それを言われてしまうと、しかもクラウド相手に言われてしまうと、本当に諦めるより他ない気がする。
「はぁ……」
精神的疲労からくる、何度目かも分からない溜息を吐く。
「疲れているようだな」
その台詞と共に、また軽く結んでいた髪を後ろに引かれる。
「ウォーリア…」
掴んでいた髪を手放し、そっと微笑む戦士。
この人がこんな事をするなんて…他の誰よりも驚く、普段ならば。
だが、今日はもう何が起こっても驚かない。
それより、俺の溜息の原因がなくなるどころか拡大していってる、そんな気がして、また溜息が漏れた。
「髪、切ろうかな…」
「どうして?」
俺の小さな呟きに、疑問を提示する光の戦士。
「いや、大して理由はないけど…どうせ、伸ばしてる理由もなかったし」
この際、切ってしまってもいいか、とそう思っただけ。
「もったいないだろう、そこまで伸ばしておいて」
「もったいないって…」
「綺麗な髪なのに」
綺麗だ、と言われると、たとえお世辞だとしても多少嬉しくなる。
特に彼からの言葉には。
「そうだ、理由があるなら切らないんだな?」
「っえ?」
何か思いついたように、そう言うと再び俺の髪に手を伸ばす。
ふと、彼との距離が近い事にそこで気付く。
目の前にあるウォーリアの青い瞳に見つめられ、胸が跳ねる。
「君の長い髪が好きだと言ったら、君は切らないでいてくれるか?」
くいっと引っ張られる、後ろの髪。
そっと、その髪に口付けられた。
「フリオニール?」
その指に、俺の髪を絡ませながら俺の名を呼ぶ。
真近にあるその目は、俺の返答を待っている。
「…分かったよ、切らないから。
だから、離してくれ」
結局彼の力に負けてしまった俺は、彼の希望を飲む代わりに、彼からの開放を求める。
それにしぶしぶながらも応じ、その指に絡めていた俺の髪はするりと、彼の指をすり抜け解放された。
「男の髪なんて、触って楽しいのか?」
開放された髪を、背中に回しながらそう尋ねる。
「君の髪を触るのが、好きなんだよ」
そんな台詞を真顔で言われたならば、閉口するより他ないだろう。
これじゃあ、まだしばらく髪を切る事はできなさそうだ。
そして、まだじばらく悪戯のターゲットにされるんだろうなぁ、と思うと、再び溜息が出たが…。
…まあ、いいか。
この人が気に入ってるなら。
あとがき
フリオニールの後ろの髪を引っ張ってみたいと、ある日ある瞬間に意味もなく思い立ったのです。
いや、やってみたくなりません?えっ…私だけですか?
まあ、ほのぼのさせてみたかったんです。
結局、甘いんですけどね…。
2009/3/14
フリオニールの後ろの髪を引っ張ってみたいと、ある日ある瞬間に意味もなく思い立ったのです。
いや、やってみたくなりません?えっ…私だけですか?
まあ、ほのぼのさせてみたかったんです。
結局、甘いんですけどね…。
2009/3/14