貴方に会えただけで、良かった
光の様に俺達を導いてくれる、貴方…

夢で、逢えるだけでいいんだ
優しい、貴方……

夢で逢えたら…

ふわりとした感覚に目を開けると、不思議な空間が広がっていた。
自分の記憶にある映像が、継ぎはぎになって出来た世界。
立ち上がって周囲を見回すが、皆目見当がつかない。
ここはどこだろうか?そう考えていると、「よう」と背後から声がかけられた。
振り返った先に居るのは、俺の影。

「シャドウ……」
「悪いな、こんな所に呼び出して」
そう言う彼は、俺の隣りまで来ると「ここだと落ちつかないだろう?」と言って、映像の一つと引き寄せた。
すると驚いた事に、目の前の景色が入れ換わって、俺と彼はどこかの丘の上に立っていた。
白い大きな城を見下ろせるそこは、俺の故郷の姿。
「ここは?」
「お前の内側、お前の記憶と意識が混在してる場所…俺は、普段ここに居るんだ」
そう言うと、その場に腰を下ろす彼が、俺にも座る様に促すのでそれに従う。

「これは、俺の夢?」
「まあ、一応はそういう事…体は眠ってるからな、だけど、今この出来事は本物なワケだ」
「俺を呼んだ、理由は?」
「……やっぱり、それ聞くよな?」
小さく溜息を吐くと、彼は何かを取り出した。

さっき見た映像の断片の一つ。
綺麗な湖と、その畔に咲き乱れるのばらの映像。
それは…酷く見覚えのある、映像だった。


「それは、夢?」
「そう、お前の夢。この前見たヤツと同じ夢で、これは今日のお前の夢。本来なら、今見ているハズの映像」
そう言うが、彼はそれを俺に渡してはくれない。


「俺は、コレをお前に見せたくない」
キッパリした口調で、シャドウは俺にそう言った。
「どうして?」
彼の台詞にショックを受けつつも、その理由を尋ねる。
その夢は、俺にとっては、酷く幸せなものなのだ。


「それは偽物だ」
俺の考えは口には出していないのに、彼に真っ直ぐに伝わったらしい。
それを不思議に思っていると、シャドウは小さく溜息を吐いた。

「ここはお前の記憶と意識が混在してる場所だ、主であるお前の意識が考えた事は、俺には伝わってくるんだよ」
今の俺は、お前自身であるから、と彼はそ
う言う。
それは、俺だって良く知ってる、だけど。 「お前が考えてる事は、俺には分からないんだけど……」
「そりゃあそうだろうさ、俺の知ってる事や考えてる事は、無意識にアンタが拒絶してる事なんだから」
だから、相手の考えは伝わって来ないのだ…とシャドウは言った。


俺が拒絶してる事。
それは、一体何だろうか?


「じゃあ、お前が俺に言おうとしている事は、俺が知りたくない事なんだな?」
「まあそういう事で、本来なら、主のアンタの判断に任せる所なんだろうけど……こればっかりは、俺は見過ごせない」
そう言うシャドウは、俺に対して何を隠しているんだろうか?

「お前さ、本当にアイツの事好きなのか?」
「アイツって…」
「当たり前だけどさ、眩しい奴」
分かっているものの問いかければ、彼はぶっきら棒にそう言う。
眩しい奴、とそう言うのは、彼の他に思い当たる相手は居ない。

「好き…って、まあ……その」
「好きなんだろ?聞かなくても知ってるよ、お前の事なんて」
じゃあ何で聞いたんだ?という俺の疑問に、シャドウは溜息を吐く。
隠し事ができないというのは、少し困る。

「俺の事、嫌になった?」
「いや…別にそういう訳じゃないけどさ」
彼の問い掛けを否定すれば、彼は「そう」と安心した様に呟いた。
本心からの言葉は、ちゃんと通じるらしい。

「まあ、俺はこれからお前が耳覆いたくなる事言う訳なんだけどさ」
「何?」
そう尋ねる俺に、相手な真面目な顔になる。


「お前さ、夢で逢えればいいとか思ってるのは…現実から逃げてる証拠だぞ」
ヒラヒラと夢の切れ端を振って、シャドウはそう言った。
「えっ……」
「当たり前だろ?お前は相手に嫌われるのが嫌なんだろうけどさ、そうやって気を使ってるお前が苦しむんじゃ意味ないし」
「でも……」
「どちらにしたって苦しむなら、現実にぶつかって苦しめって…そう言ってるんだよ」
そんな事は分かっているものの、それが現実には不可能だという事も自分が良く知ってる。


あの人に対して、こんな邪な感情を抱いている俺が……本当に受け入れられるのか?といえば、それは否だろう。
近付けない。
あの人は、真っ直ぐな人だ…それで、いいと思う。
俺の隣りにあって欲しいなんて、俺のエゴでしかない訳だから。


「なら、さっさと諦めろよ…叶わない願いにずっと縋ってないで」
そんな言い訳を展開する俺に、シャドウの鋭い一言が刺さる。
「それは……」
「どうするつもりもない、ただ心で想うだけで構わないっていうのはさ。一見、綺麗に見えるだろうけど、そこからは何も生まれない…ただ虚しいだけだ」
虚無の苦しみを永久に味わうくらいなら、深く心の傷を抉ってでも、さっさと治療した方がいい。
彼はそう言う。


「虚しいと感じるのは、俺だけだ」
「俺はそのお前を守りたい、お前には笑ってて欲しいから」
幸せであって欲しい。

「俺はお前が好きだから」
そう告げる彼の言葉が、酷く、俺の心に染み込んでくる。

同じ“俺”であるハズなのに、素直に自分の心を告げられる彼。
そんな彼の姿に、憧れを感じる。
そういう気持ちがあったから、彼は俺の影として生まれ出た訳なのだ。


「優しいな、シャドウは」
「違う、お前がお前の事を顧みないのが悪いんだ、ずっとそうだった…お前はいつだって、一人で何でも背負いこんで、他人の為にしか行動しない。
だけど知ってるか?他人がどれだけ幸せになっても、お前自身は何一つ幸せなんて手にできないんだぜ」
「そんな事無いよ」
「あるんだよ、例えばあの眩しい奴が、元の世界でどこかのお姫様と幸せな家庭を気付けたとして、お前はそれで喜べるのか?」
「…………」
「中途半端は許されない、だけど、あえてでもそれを貫き通すなら…お前がそれでいいというのなら、受け取れよ」
ふいに、俺の方へと差し出された、景色の断片。
俺の幸せであろう、夢の世界。

「これは、俺にとって悪いモノなのか?」
そう小さい声で尋ねると、彼は首を振った。
「どちらとも言えない、もしかしたら、お前にとってとても有意義なモノかもしれない」
「じゃあ……」
「だけど、俺はこれがアンタを不幸せにするモノだと思う、賭けてもいい」
どうする?と彼は問いかける。


二つの可能性を秘めている、欠けら。
だけど、目の前の“俺”自身は、コレに対して警報を鳴らしている。
それを知らせてくれる為に、わざわざ、俺を呼び出した。

俺に、それを選ばせる為に。


ありがとう、そんなに俺の事、想ってくれていて…。
でも、ごめんな、シャドウ……それでも俺は…。


「俺は、狡くて…馬鹿な奴なんだよ」
彼の差し出した夢の断片に手を掛け、俺は相手に笑いかける。
苦笑交じりの、申し訳ない気持ちで一杯の笑顔。
それを見て、シャドウは大きな溜息を吐いた。
そして、酷く悲しげな表情で俺を見返す。
「お前が決めた事なら、それで……いいよ」
そう言うと共に、彼は断片から指を離した。

「俺は、お前自身よりも…お前に愛される、アイツになりたい」

景色が反転する最後の一瞬、呟いたシャドウの声が、俺の耳へと届いた。
それに何か返そうとしたけれど、言葉なんて出てこなかった。


「君に会いたかった」
俺の姿を見つけて、ふわりと微笑んでくれた彼に、俺も笑いかける。

幻影だとか、幻想だとか…そんなものは、どうでもいい。
虚空に咲いた華でいいんだ。
それを美しいと感じるのも、幸せだと感じるのも、俺の勝手である。
自分自身の、生んだ幻でも。
それで、現実を生きていけると…そう思えるのなら。


「俺も、貴方に会いたかった」
夢の、中で……。


to be continued …

あとがき

絶賛スレ違いのWOL→←フリオ、続編。
アナフリは、ノマフリの気持ちを知ってるだけにとても苦しい立場にあるのですね。
別にWOLの事が嫌いだから、諦めろって言ってる訳じゃなく、ノマフリが苦しんでるのを見ちゃいられないから、こそ、厳しい事かもしれませんけれども最もな話をする訳です。
しかし、彼自身も自分よりもノマフリに幸せになって欲しい、という自己犠牲の精神の持ち主なのです。
それはやっぱり、元がフリオですからね。
ただ、彼がノマフリの中に居る事で…多少は、自己犠牲の精神の抑制に繋がっているんじゃないですかね?
2010/6/21

close
横書き 縦書き