それは、ある人物の一言から始まった。
「ところで、フリオは誰の嫁に行くんだ?」

瞬間、仲間内に広がる沈黙。

俺はまだ十八歳だし、そこまで結婚の事真剣に考えなくても、とか。
いや、それ以前に俺は男だから“嫁”じゃなくて“婿”だろ、とか。
誰のって、何で候補者がいるんだよ、とか。
それ以前に、何で今そんな質問するんだよ、とか。
きっと、皆そんなツッコミを入れてくれる事だろう、そう思った。

「何を言っているんだ、バッツ」
「そうだよ、いきなりそんな質問なんて」
「そんな事は分かりきった事だろう」
「そうそう、火を見るよりも明らかッス」

「そんなの(私、僕、俺×2)の嫁に来るに決まってる!!」

……はい?

I felt like running away when I heard it !!

「あの…何で、俺が嫁に……」
「来るだろう?私の元へ」
超真剣な顔でそんな事を言う、我等がリーダー、ウォーリア・オブ・ライト。
「違うよねフリオニール、君は僕の家に嫁いでくれるんだよね?」
ちょっと首を傾げてそう言うのは、セシル。
「俺と生涯を共にしてくれるんだろう?」
何時ものクールな態度で、さも当たり前だというように言うのはクラウド。
「フリオは、俺の奥さんになってくれるんッスよね?」
俺の、の部分をやけに強調して、何時もの笑顔で言うのはティーダ。

いや…ちょっと待って下さいよ。
今の言葉の意味を今すぐ分かりやすく説明して下さい、三十文字以内で。

脳内のキャパシティーが限界を訴える。
今すぐ、とにかく今すぐに!ここから逃げ出したい!!
しかし、俺の周囲を仲間四人がしっかりと囲っている為に、逃げられない。

他の仲間に助けを求めようにも、この問題を定説したバッツは興味深々を体現した輝く目でコチラを見ている。
バッツの問題発言に慣れてしまったジタンは、起こってしまったものは仕方ないと、傍観を決め込んでいる。
オニオンナイトはティナが絡んでこない限り、我関せずを貫き通すだろう。
そのティナも、きっとオニオンナイトが関わらせてはくれないだろう。
最後の頼みの綱であるスコールは……。
「……そうなのか?」
「いや、違う違う違う!!」
頼みの綱どころか、全然頼りにならなかった。

「あの…俺、嫁に行くなんて言ってないけど」
「そんな、照れなくてもいいっすよ」
「そうそう、他の人の事なんて気にしなくてもいいんだよ、フリオニール」
「お前の本当の気持ちを話せばいい」
「そうだ、既に答えは決まっているだろう?」

「俺は誰の嫁にも行くつもりはないぞ」


思い切ってそう口にしてみると、周囲の空気が急に固まった。
固まった、というか凍て付いた。

「…………」
「私に何の落ち度があるというんだ?」
「どういう事だい、フリオニール!?」
「そうッスよ、俺の何がいけないんッスか!?」
ちょっと待って、何でお前達は本気で俺が嫁に行くと思ってるんだ?
クラウド、お前何時ものクールな表情が完全に崩れてるぞ、かなりショックを受けた顔になってるぞ。
ウォーリア、セシル、ティーダ、お前達もそんな必死で迫るな!!

「興味深い話をしているな」
そんな俺達の空気を更に悪化させる人物の声がした。

「皇帝!!」
ある者は敵意をむき出しにして、ある者は登場に酷く驚いてその人物を呼んだ。
敵意をむき出しにしたのは、言うまでもなく例の四人だ。
嗚呼、気のせいか胃が痛み出した気がする…。

「ここに何しに来たんっすか?」
「フリオニールが誰の嫁に行くのか、等最初から決まっているだろう?
フリオニールは将来的には我が后に…」
「誰が行かせるか!!」
皇帝が言いきらない内に、クラウドのブレイバーが皇帝に炸裂した。
ショックから立ち直るの早いな!!
そんな俺の心の内も知らず、勝ち誇ったように立ち上がるクラウド。

「さて…邪魔者は消えた」
「いや、まだだ」
「そうだよクラウド、まだ邪魔者は片付いていない」
なんとなく、不穏な空気を感じ取り、四人の周囲から皆立ち去っていく。
俺も巻き込まれる前に、そっと俺も彼等から距離を取る。

「誰がフリオニールを嫁に貰うのか、こうなったら正々堂々と勝負して決めるッス」
自分の得物を取り出して、敵意いや…もうそれは殺意に近いオーラを出しながらそう言うティーダ。

いや、だから本気で誰の嫁にも行かないって言ってるだろ。
しかし、何を言ったって今この仲間達は聞き入れてくれないに違いない。
何よりも有無を言わせない顔が、それを証明している。

「望むところだ」
「私は決して負けはしない」
「手加減、しないからね」
「いざ、尋常に…勝負ッス!!」
互いに自分の得物を手に、相手へと向かって行く。
オニオンナイトやティナの姿はもうどこにもない。
バッツ、スコール、ジタンのお決まり三人組みはちょっと離れた所からコチラの様子を伺っていた。
どうしたものかな…。
今俺の目の前に立っているのは、本当に仲間なんだろうか?
仲間なら、何でこんな事でそんなに本気で闘ってるんだろう?
それ以前に、何で俺の意見は全部きれいに無視されてるんだろう?

っていうか、秩序の戦士が混沌とした空気を生み出すな!!

「おーい、ここに皇帝いるかぁ?」
四人の死闘を遠くから眺めながら、なんとなく痛み出した胃を抑えていると、背後から聞き覚えのある声がそう尋ねた。
「ティーダの親父さん…」
「おいおい、まさか俺様の名前覚えてない、なぁんて言わないよな?」
「いや、そんな事はない…ジェクト」
男の名前を呼ぶと、ジェクトは満足そうに笑った。
「皇帝を探しているのか?」
「ああ、何か急に飛び出して行ってよぉ…これからカオス側で会合開くってのに…
それで、皇帝は何処だ?」
「皇帝は……あそこだな」
指差した先には、四人の戦闘に何時の間にか巻き込まれている。
何ていうか…哀れだ。

「あぁー…何だ?随分と派手に喧嘩してんな、何があった?」
「いやぁ」
どう説明したものだろうか。

「フリオニールは誰にも渡さん!!」
「彼は僕が貰い受ける!!」
「俺達の将来の為に、犠牲になれ」
「絶対諦めないッス!!」
「貴様等、いい加減にせんか!フリオニールは私の后に…」

「「「「それだけはない!!」」」」

嗚呼…何ていうか、穴があったら、入って出てきたくない。

「何だ?何だ?アイツ等、お前の婿候補なのか?」
ニヤニヤと楽しそうに笑って、ジェクトはそう言う。
完全にからかわれてるな。

「俺は…別に、誰の嫁にも行くつもりはない!!っていうか、俺が何で嫁…」
「いいじゃねぇか、行けば」
「何で!!」
「おっと、誰もアイツ等の嫁に行けとは言ってねえよ」
「はぁ?…って、ちょっと!」

ぐっと腕を掴まれ、引き寄せられる。
そのまま腰に手が回される。
ジェクトの顔からはニヤニヤとした楽しむような笑顔は消えて、見たことないくらい真剣な顔になっていた。

「ジェクト…?」
「俺様の…嫁に来い」

そのまま、しばらく何も言えず、動く事もできすにその状態で固まる。
どう…したらいいんだろうか?

ティーダは、ジェクトの息子…だったはず。
ならば、ジェクトにはそれ相応の配偶者がいる…のではないのか?
それは家族の問題だから、深くは追求するのはどうかと思うけど…でも。
いや、だとしてもだ。
ティーダと俺は一つ違いだよな?
自分の息子と、ほとんど年が変わらないんだぞ…。

「そんなに驚いたか?」
真剣な表情のまま、そう尋ねる。
その一言で、ふと我に帰る。
「ああ…まぁ」
「しかし、拒絶しねぇって事は、いいのか?」
「っえ…」
ニヤリと…ふざけてるのではない、純粋に楽しんでいる顔でジェクトは笑う。

「ちょっ!!親父、何フリオとイチャイチャしてるんッスか!!」
「おっと、ようやく気付いたか」
遠くから聞こえたティーダの叫び声に、ジェクトはのんびりとそう答えた。
と思ったら。
「よっこいしょ!!」
「えっ!!ちょっ!えええぇ!!」
ひょいっと、軽々とその肩に担がれた。
装備品のほとんどは外していて、軽装だとはいえ、軽く担がれた事に驚く。
いや、ちょっと待って、もっと別の問題があるだろう。
「コラ!暴れんな、落っことしちまうだろう?」
「ちょっと、待てって!一体どこ行くつもりなんだ?」
「んー…とりあえず、邪魔が入らねえところだな。
お前からの返答は後でゆっくり聞かせてもらうとして、今はとりあえず奴等から逃げる」
そう言うと、振り返って背後に迫る彼等に、俺からは角度的に見えないがきっと不敵な笑顔を向けたんだろう。
「おーい、花嫁は俺が貰ってくぞ!!」
そう高らかに宣言すると、どこかへ向かって走り出した。


それを聞いた時、俺は今すぐここから逃げ出したかった。


あとがき
フリオ総受け小説を書きたい衝動に駆られました。
うん?総受けになってるんですかね?なってますよね?
まあ美味しい思いをしたのはジェクトです、最終的に掻っ攫った者の勝ちですよ。
フリオの意思は全部無視です、完全無視です。

タイトルの英文は、英語の問題集から抜粋しました。
2009/3/6
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