年齢確認
20歳以上ですか?

 いいえ

その温もりは偽物。
その愛情は、作り物。

「あっ!ぁん・・・ふっああ!!」
熱に浮かれて彷徨う視線は、何を見ている?
ドロドロに溶けた思考の中で、一体何を思っている?

熱い吐息。
快楽の底に沈んだ体。

所詮は、全て偽りの・・・・・・。


Spinel

アイツの模倣品を壊してみた。
胸の底に渦巻く、よく分からない苛立ちを紛らわせる為に。
その苛立ちの原因である、アイツの模倣品をいたぶってみた。
しかし、その苛立ちは収まるどころか、より一層強まるばかりだ。

「・・・つまらん」
杖の先でその体を貫けば、それは様々な大きさに分かれ砕け散った。

「あーら、勿体無い」
そんな声がして振り返れば、柱に背を預けて魔女が立っていた。
「何をしている?」
「別に何も、貴方の様子を見に来ただけよ」
魔女、アルティミシアは怪しく微笑んでそう言った。

「それにしても、貴方は随分とあの青年にご執心のようね」
床に散らばったイミテーションの欠片を一つ拾い上げ、魔女は私の方を見てそう言う。
嫌な笑顔だと、思った。

「誰が誰に執心だと?」
「貴方が、あの義士に対してご執心だと、そう言ったつもりだったんだけど?」
義士という言葉を聞かなくとも、魔女が誰を指して言っているのかは分かっていた。
つい先程まで、私の苛立ちを紛らわせる為に壊されていた、あの模倣品のオリジナル。
秩序の戦士達の一人であり、私の宿敵。
「私があの虫ケラにだと?馬鹿馬鹿しい」
「本当に、そう言えるかしら?」
イミテーションの欠片を投げ捨てると、魔女はその懐から何かを取り出した。
砕けたイミテーションの欠片とは違う、赤く綺麗に磨かれた鉱石。
僅かながらも、秘められた魔力を感じる。

「それは?」
「スピネルという石よ、綺麗でしょう?
ルビーの模倣品として世に出回っているんだけど、これはちょっと特別製なのよ」
「何が特別なんだ?」
「魔力を宿しているでしょう?ほんの僅かだけど。
求める相手に使えば、一度だけ熱情を与えてくれるわ」
その言葉の意味を理解した瞬間、魔女の手の中で輝く鉱石が、酷く禍々しい物に思えた。

魔女は微笑むと、私の方に近付きそれを差し出す。
指の先で、赤い石が怪しく輝きを放っている。
「差し上げるわ」
「何故、私に?」
「元々、私には必要のない物だわ、これを必要とするのは貴方でしょう?」
差し出された石を無理やり私の手の中に握らせると、魔女はより一層、笑みを深めた。
「純愛と熱情のイミテーション。
きっと満足できるでしょう」
「・・・・・・」
「効果は三時間よ、有意義に使いなさい」
そう言い残すと、魔女はどこか別の場所へと消え去った。
手の中に残った、怪しく輝く鉱石が・・・私の心の底をざわめかせる。
「余計な事を・・・」
そう吐き捨てながらも、手の中にあるその赤い輝きを、イミテーションの欠片の中に捨てる事はできなかった。


ある日、パンデモニウムの片隅に、一人の戦士が佇んでいるのが見えた。
褐色の肌に銀の髪、秩序の戦士の中にも混沌の戦士の中にもそんな容姿を持つ者は一人しかいない。
「フリオニール・・・」
小さく名前を呟く。

自然と相手に向かって動き出そうとした体に気付き、それを押し留める。
今、私はどんな意思を持ってあの青年に近付こうとした?
殺意か?
・・・いや、違う。
もと他の何かだ。

どうして、私はこの青年に執着するのか。
何故、この青年を求めるのか・・・。
認めたくは無い、あの魔女の言葉など。
だが、そうでなければ説明もできない。

「虫ケラが・・・」
相手を罵ってみても、ただ虚しいだけだ。
それに、執着しているのは自分なのだ。

ならば、手にしてしまおうか。
ここで全てを壊してしまえば、もう求める事もない・・・。

懐に仕舞っていたあの赤い石に手が伸びた。
熱情の模倣品を生み出す力を秘めた鉱石が、光の下で怪しくきらめいた。

「ここで何をしている?」
相手にそう問いかければ、「お前と決着を付けに来た」と威勢のいい声が返ってきた。
「虫ケラが、よくもそう大それた口を利く」
「何だと!」
私の言葉に、明らかに怒りを含んだ声でそう突っかかろうとする青年。

そうやて威勢良くいられるのも、一体何時までだ?

剣を構えた相手が走り寄る。
その剣技を杖で受け、反対の手に握っていた赤い石を相手の胸に押し当てた。
魔法を使ったわけではない、その為か、何をされたのか分からずに困惑した表情を見せるフリオニール。
手の中で、一瞬石が赤い光を放ったかと思うと、フリオニールは意識を失った。
力が抜け、崩れ落ちる体をしっかりと腕で支える。
手から離れた赤い剣が床に滑り落ち、大きな音を立てた。


パンデモニウムの地下で目を覚ました青年は、私に今まで見せた事もない笑顔を見せた。
その優しさと愛情の込められた笑顔に手を伸ばせば、くすぐったそうに身を捩る。

フリオニールは私の求めに頬を染めて応えた。

拒絶を見せず、ただ求められるだけ。
私が満足するまで、何度も・・・。

「ふぁっ!ああ!!・・・こう、てい・・・」
艶めいた声が部屋中に響く。
快楽によって赤く染まった肌に口を寄せれば、びくりと震える体。
今、この体の全ての支配権は私にある。
その事実に、満足する。
快楽に溺れた相手の体、貪欲にその熱を貪る。
全てを壊すつもりで、激しく。
これが偽りだなんて、忘却して。
欲望のままに求めた。


ぐったりとベッドの中に倒れこむ体。
もう、限界だったようだ。
そっと髪を梳いてやると、くすぐったそうに身を捩り、うっすらとその目を開けた。
「     」
小さな声で何か囁いた相手の口元に、そっと耳を近づける。

「殺してやる」

強い殺意を含んだ瞳で私を睨むと、糸が切れたように青年の意識は眠りに沈んだ。
その胸から、ゆっくりと力を失った鉱石が現れるとシーツの上に落ちた。
それを拾い上げ、ぐっと握り込む。

『満足できるでしょう』
そう言った魔女の声が脳内に反響する。

偽りでも手に入れてしまえば、それでもう満足だと思った。
なのに、どうしてだ?
今まで何度となく言われた短い台詞に、穴を開けられてしまった。
さっきまでの余韻が、全てただの虚しさへ変わる。

決して叶えられない望み。

叶えられぬ幻など、見なければ良かった。
そんな後悔が思考の端を掠め、苛立ちのあまり手の中の鉱石を投げ捨てた。

傍らで寝息を立てる青年の首に手を掛ける。
力を入れる代わりに、その唇を奪う。

全てを手にしたいと望む欲望と、殺してやりたいと願う憎悪の念。
双方が渦巻くので、心のざわめきは止まない。

「虫ケラが・・・」

赤い石は魔力の底に棘を隠し。
快楽の代償に、心の底に傷と虚無感を刻み込んだ。


あとがき
痛い系を目指そうとしてみました・・・。
現在、サイト内に甘い系の話が溢れているんで、少しでも糖度を下げようかと思いまして。
・・・・・・微妙・・・。

R指定の基準が、よく分かりません。
18ではないでしょうけども、普通に放置はマズイか・・・という事で、一応R15で。

・・・言われなくても分かってますよ、ぬるい事くらいは。
2009/3/5
close
横書き 縦書き