自分にとっての敵というのは、一体、何処に居るものなのか……
それは剣を持ち、戦場で自分に殺意を向けるモノ
……とは、限らない
日常茶飯
本日は晴天也……。
青い空は高く、高く…どこまでも抜けているようだ。
「良い朝だなぁ……」
木の枝に腰かけそう呟く、勿論独り言だ。
「おはようジタン、今日も早いな」
木の上に居るオレを見上げそう声をかける仲間に、オレも挨拶を返す。
「そうだ!コレ、さっき見つけて来たんだ」
手に抱えていた物を落とさない様に気をつけ、木の枝から下に居る彼の元へと下りる。
「桃?」
「さっき偶然見つけたんだ、熟れてて食べ頃だから、朝食にでも出してくれよ」
手の中の水蜜桃を一つ、彼に手渡してそう告げる。
「そうか、わざわざありがとう」
笑ってそう言うフリオニールの、普段よりも幾分か幼い表情を見て、小さく溜息。
そろそろ、仲間達は皆起き出してくる頃合いだろう。
と、いう事は…今日もそろそろ始まるんだろうな……。
「フリオ、おはようッス!!」
野営地に戻って来たオレとフリオニールの元へと走って来た仲間は、長身の仲間へと向けハグを交わす…。
「うわぁ!!」
…交わす、というよりは、タックルをかましたと言った方がいいか。
まあ、彼なりのスキンシップだ。
これはいつもの事、日常の風景としてはかなり慣れたかな。
「オイ、ティーダ!痛いから放せよ」
……まあ、やられている方はたまった物ではないみたいだけどさ。
「いいじゃないッスか、ところでジタンと何処に行ってたんッスか?」
「顔洗いに行った帰りに会っただけだよ」
相手にそう言うと、「フーン」と興味無さそうな声をあげるティーダ。
人懐っこさと明るさ、そして年下という自分のキャラを生かして、常に相手の側に居る。
好意を持って接してくる相手を無碍にはしない、そして世話好きなフリオニールの性格上、絶対に相手をしてくれる…。
まあ、そんな所まで計算している訳ではなく、ティーダの場合はこれが素の性格なんだろう。
「フリオニール、コレ向こう置いておくよ」
「あっ、ゴメン頼むよ」
取って来た水密桃を、炊事として使っている場所へ置きに向かう。
まだしばらくは、確実にティーダに掴まっているだろう。
「ティーダ、いい加減に放してあげなさい」
相手にひっついたままのティーダを見かね、彼をフリオニールから引き剥がしたのは、我らがリーダー。
「あ、ありがとうウォーリア」
相手を見上げて、そう礼を言うフリオニールの輝く表情。
戦士として威厳があり尊敬できる人だ…なんて、以前に目を輝かせながら言っていた事があるっけ?
大人らしい振る舞いと、己が尊敬を集めているという事実を盾に、なんだかんだでフリオニールに近付いている。
そんな事実を踏まえて考えると、ウォーリアは本当は策士なのではないか?という疑いを感じずにいられない。
「いや、おはようフリオニール」
「ああ、おはよう」
良い雰囲気な二人に対し、ティーダがムッとした表情を見せる。
その光景は、まるで…そう、母を父に取られた息子ってところか?
まあ、あの二人が以前から夫婦の様に見えるのも何時もの事なんだよな……まあ、ウォーリアのリーダー的立ち位置と、フリオニールの面倒見の良さからそんな錯覚が生まれるんだろうけどさ。
しかし、それが気に食わない人間は多い。
例えば、彼等の前でムクれているティーダ……あとは…。
「フリオニール、ちょっといいか?」
遠くから彼を呼んだのは、今日は彼と二人で探索に出かけるするハズの男であるクラウド。
その声に呼ばれて「どうしたクラウド?」と、彼の元へと向かう一瞬、ウォーリアとティーダに向けて挑戦的な視線が寄越されるのを、しっかりとオレは見た。
あっ、オレ達の探索をする時の班分けは、基本的にクジで決めてるんだ、公平な様に。
……何が公平って、誰か一人が重複してアイツとコンビを組むような事が無いように、って事。
因みに、クジを作成しているのはいつもオレ、だからオレだけは操作できるんだけどね…まあ、その辺は皆オレを信用してくれてるようだ。
オレが、彼に興味が無い…っていうか、そういう意味で男に興味が無いって事を知っているからかな?
「…これでいいか?」
「ああ。クラウドが一緒だと頼りになるよ」
ニッコリと邪気の無い顔でそう言うフリオニールに、普段ほとんど使わない表情筋を動かして微笑するクラウド。
常に冷静で大人でクールな性格、違和感なく女装が似合うくらいの美貌を兼ね備えた、理解のあるお兄さんという感じの立場か…。
だが、さっきティーダとウォーリアへ一瞬見せた勝ち誇った様な表情から推し量ると、クラウドの腹の中は黒いと思う。
クラウドがフリオニールを奪い合う二人に対して見せるアグレッシブな姿勢、それもよく見かける事なので、今更驚いたりはしない。
ただ、ウォーリアの絶対零度の瞳と、ティーダの嫉妬全開のオーラを前に、勇気があるな…とは毎回思うけどな。
「フリオ!腹減ったッス」
クラウドの牽制に怯まず、走って来て再び抱き付くティーダに、呆れた溜息を付きつつも、「今、準備してくるから待っとけよ」と言って朝食の準備を始めるフリオニール。
「おはようフリオニール!今日もいいお母さんっぷりだな」
「うわっ!!…こら、包丁持ってる時に危ないだろバッツ!!」
後ろから腕を回して来たバッツに、声を荒げて叱るフリオニール…その姿からはどちらが年上なのか不明だ。
何度同じ事をしても反省した様子を見せないバッツ、というのも毎度お馴染みになりつつある光景だ。
まあ、成人している事を思うと…毎度それでいいのかと思ってしまうわけなんだが……。
どういう訳かバッツはフリオニールにちょっかいをかける、別に彼に興味があるという訳では無いと思うのだが…それはオレにも不明だ。
多分、ちょかいをかけて反応を楽しんでいるだけだ、フリオニールと…彼を好きな奴等の反応を。
しかし…いい加減にしないと、本気で馬に蹴られるぞ…いや、アイツの場合はチョコボかな?
「…………」
天幕を片付けるオレの横へそっと近付いてきたスコールが、無言で作業を手伝い始める。
既に出立の準備は整っているんだろうか?まあ、そんな事はいいけどさ。
「ありがとうな、スコール」
「……いや」
何て事は無い、と言うスコールの視線の先にはフリオニールの姿がある。
この純情さは今日もしっかり発揮しているようだ、いつもだけど。
天幕の片付けが大体終わり、相変わらずバッツに絡まれているフリオニールに近付き、「程々にしておけ」と忠告する。
寡黙で人との関わりを避けている様に見えるものの…本心はただ照れているだけなのか、それとも人づき合いが苦手なのか。
見た目に反し寡黙で奥手という、思っていた以上の純情さを持ち合わせているスコールには、驚きを隠せなかった。
「今日も、皆元気そうだね」
「そうだな」
オレの隣りに来てそう声をかけるセシルに、ゆっくりと頷く。
元気ではあるが、平穏な空気と呼ぶには少々火花が散り過ぎている。
遠くではオニオンナイトとティナは、二人して朝食の席の準備をしている。
このパーティー唯一のレディを、他の男に狙われる事なく独占で来ている少年というのは、酷く恵まれた環境に居る事を自覚しているだろうか?
そんな少年しゃ少女の平和な触れ合いも、他のメンバーを穏やかな視線で見守る騎士の姿も、もう全部日常に溶け込んだ風景だ。
人は、連続したモノには慣れてくる。
オレも、こういう日々に慣れてしまった。
同性同士の恋愛というものが、理解できるような日が来る事は無い、と思っていたのに…それがある光景が、既に日常茶飯事になってしまっているのだ。
これには、自分でも驚いている。
確かにフリオニールは魅力的な男だと思うぞ、男としては羨ましいガタイの良さに、顔だって整っているし声も良いし、純情な性格は大人なレディ等にはウケそうだし。
だというのに…どういう訳か恋愛には奥手だし、性的な部分は言うに及ばず、色恋についても免疫が無い。
そういう純粋な人間っていうのは、どういう訳か男ウケしてしまうようだ。
まあ、女性が圧倒的に足りないという、今の異常な状況もそれに拍車をかけているんだろうとは思うけどさ。
そこを考慮に入れたとしても、これは異常だ。
ビックリする位に、男を惹きつける魅力を持った男……それが、フリオニール。
「まあ、面白いっちゃ面白いんだけどさ……」
溜息交じりにそう呟く、オレの視線の先には仲間に囲まれて楽しそうに笑う彼の姿がある。
仲間が大事だと言う彼の、仲間に対して何の疑いも抱いていない純粋な笑顔。
それも、オレ達の日常の光景だ。
「人を好きになるのは、良い事だと思うよ」
そんなオレにセシルは微笑んでそう返答する、その意見には確かにオレだって大賛成するさ。
人の恋路を、何も邪魔するつもりなんてない。
特にオレなんて完全な外野の人間な訳だし、彼等を見守るのが役割だとは思うよ……。
ただまあ、そんなオレから見てだけども…相手は強敵だ。
“鈍感”という名の最強の武器を兼ね備え、“純情”という名の厚い鎧に身を包んだ、あの年齢からすると有り得ないくらいにピュアな人間。
恋愛においては、こういう人間がかなり最強だ。
『アルテマ』並みに最強だ。
そんな相手の攻略を目指す男共は、本日もお互いに火花を散らしつつ…自分の境遇に溜息を吐いている訳だ。
「頑張れよ、青少年」
なぁんて、そんな事を言うオレの方が、当事者達よりも年下なんだけどさ……。
「ジタン、セシル、朝食の用意できたぞ」
そんな彼の声に呼ばれ、オレとセシルは彼を取り巻く喧騒の中へと向かっていく…。
朝食に出された水密桃の甘さに、頬を緩める彼を見て…見惚れる彼等には、オレから呆れの溜息をくれてやろう
本日は晴天也。
闘いばかりの毎日だけど、恋愛に現を抜かせない程にオレ達は追い詰められていない訳で。
目の前で繰り広げられるバトルに、オレは平和を感じられるわけなんですが…。
そんな中、いつまでもこの関係でいられるか…というと、そういう訳ではないだろうし。
これから先の日常が、一体どうなっていくのか…オレは少し、それを恐れてはいる。
だけど、何時かはそれにも慣れるんだろう。
付き抜けるような青空の下、先の日常を嘆くより…。
今の日常に、平穏と幸せを見つける事の方が、やっぱり大事だと思うんだ。
「今日の料理も美味いな」
「ありがとう、ジタン」
日常の飯が美味かったら、取りあえず、人は幸せになれるものだ。
今日も、オレは幸せを噛みしめてる。
50,000HIT御礼!!
黒い森〜花鳥風月の宴〜 管理人・忍冬葵