その笑顔は、私がどこかに置いてきてしまったものだった

破顔一笑

全てを奪い去る絶望にその身を飲まれても尚、その瞳は光を失わなかった。
自分の手の中にある一輪の花は、彼の純粋さの表れ。
幼い夢だ、と切り捨てる事なんて容易い。
しかし、この輝きは…何故か自分を酷く惹き付ける。

「夢、か……」
かつて、幼い自分も普通の子供と変わらず、稚拙な夢を描いたものだ。

そんな過去もあった。

この手の中にある、か細い夢を奪った時に私へ向けた、彼の殺気と闘争心。
何より、自分の夢を踏み躙られまいとする、その心意気。
その真剣な瞳が、彼がただ只管に進んでゆける理由だろう。

「そんな感情は、忘れたな」
そう、忘れてしまっていた。
本当はずっと、忘れたくなかったものだったのかもしれない。
ただ忘れるより他に、方法がなかっただけで…。


あの日以来、その男には会っていなかった。

「フリオニール、といったか?」
そうやって確信を持って尋ねてくるのは、嘗て別の世界で“英雄”と呼ばれた男。
「何の用だ?」
相手を警戒し、愛用の剣に手を掛けた時、腹部に負った傷が痛んだ。

さっきイミテーションと闘った時に受けた傷。
なんてタイミングが悪いんだ、と心の中で毒づく。

しかし俺の予想に反して、その男は剣を構えようとはせず、手じかにあった岩に腰かけて俺を見る。
「今日は闘いに来たわけじゃない、少し話でもしないか?」
獲物を置いて、そう尋ねる男に俺はどう反応したものか迷う。
これも何かの罠なのではないか、そう警戒しつつも、相手の近くへと寄る。
あの長い太刀の間合いに入らないように、相手と距離を取って俺も近場の岩に腰掛けた。

「警戒しているのか?」
「当たり前だろう?敵なんだから」
「さっきも言ったが、私は闘いに来たわけじゃない…それと、怪我人を甚振る趣味はない」
そう言うと、彼は自分のコートの中から青みがかった瓶を取り出して、栓を外すと中身を少し飲む。
しっかりと栓をして、セフィロスはそのポーションの瓶を俺に投げて寄越した。

「さっき見た通り、毒は入っていない」
疑うのならば捨ててもいい、と男は作り物めいた笑顔で言う。
「……ありがとう」
敵からの理由の分からない施しというのは、どこか怪しい気もするのだが、毒が入っていない事は、今確かにこの男が確かに証明してくれた。
ならば、人からの折角の心遣いだ、ありがたく使わせてもらおう。

「ところで、一体何の話をしに来たんだ?」
「……いや、お前はどうして純粋さを失わずに生きていられるのか、と不思議に思っただけだ」
しばらくの沈黙の後、セフィロスはそう言ってふっと笑った。
作り物めいた笑顔の端に、どこか寂しそうな、どこか悲しそうな…忘れた何かを思い出そうとしているような、そんな表情を一瞬見た気がした。

「アンタは、一体何を失ってそんな顔をするんだ?」
俺は相手の質問に答えずに、相手にそう尋ね返す。

自然と口から出た言葉だったのだが、俺だけじゃなく彼も驚いた表情を見せる。


きっと、彼は何か忘れたものを思い出したかったんだと思う。
それは後に彼が語ってくれた、幼い子供の頃に持っていた感情の欠片。
その断片を俺の中に見出して、彼は俺の元へとやって来た。

「見つかるといいな、アンタが失ったもの」
俺はそう言って、その男に笑いかけた。


敵に対して、どうしてそんなに綺麗な笑顔を向けられるのか、私にはとても不思議だった。
だが、その笑顔こそが…私が求めていたものだった。

陽の光のように暖かい、人の温かさ。
ただただ、それが欲しかった。


「あっ!…ふぁ、ぁあん!!」
私の下で組み敷かれ、生理的な涙で潤んだ瞳で私を見上げる青年。
挿入の時に、深くイイ所を突いたようで、ビクビクと快楽に震えるその体を抱き締めてやると、ぎゅっと私の首へとその腕を回した。

「ぅ…っあ……大き、よ…セフィロス」
上目遣いで私を見る、その彼の、扇情的なその表情に、自分の中の欲望が更に煽られるのを感じた。
「動くぞ」
「えっ!!ちょっ、待ってまだ……ひゃっ!あっ、ぁああ!!」
相手の言い分を聞かず、律動を開始する。
普段の自分からは考え付かない、獣染みた行動。
でも、止まらない。

温もりではなく、それはもう熱と呼ぶくらいの熱さと快楽。
どこまでも彼と繋がっていたい。
だが、その望みは何時までも続かない。
「ヤッぁ…もう、もうイッちゃ……」
涙ながらに限界を訴える愛しい存在の耳元に、私はそっと唇を寄せる。
「構わない、イけ」
その言葉の後、彼は一際高く鳴き声を上げ、熱を吐き出した。
イク瞬間、彼の内側は私の欲望をぎゅっと締め付ける。
その刺激に、私も彼の中で私も達する。

「…アツい……」
はぁ…と息を吐いたあと、彼はそう呟いた。
情事の後の気ダルイが、独特の甘さの残る時間。
彼の頭をそっと撫でると、彼は気持ち良さそうに目を閉じた。

彼とこんな風に体を繋ぐようになったのは、一体何時からだろうか?
そんな事はもう覚えていないほど、回数を重ねてきた行為。
情事の最中も、その後も残るこの甘さは、お互いがお互いを想っているからに他ならない。

愛している、このどこまでも純粋な青年を。
私の無くしたものを、取り戻させてくれるこの優しい青年を。
とても、とても愛している。

「もうしばらく休んでいろ。後で野営地まで送っていく」
額に張り付いた彼の髪を取り払いながら、そう言うと、伏せられていた目がゆっくりと開き、琥珀色が私を真っ直ぐ見つめる。
「そこまでしなくていいいよ、バレた時に言い訳できないし」
私の手を緩慢な動きで外し、ゆっくりと体を起き上がらせる。

「何故、お前がアイツに想われているんだ?」
ある日、彼の仲間からそう尋ねられた。
その質問は、むしろ私から彼に尋ねたいものだ。

「アイツを泣かせたら、絶対に許さないッスからね!」
「彼の幸せがお前にしか与えられるものでないのなら、それを認めるしかない…だが、お前が敵である事には変わりはない」
「お願いだから、幸せにしてあげてね」

思い出してみると、様々な言葉を掛けられたものだ。
これは私への警告であり、彼がいかに仲間達から慕われているかの表れだろう。
それだけ彼は、仲間達に愛されている。

お互いに想ってはいけない同士なのは分かってる、だが…手放して生きていけるとは思えない。

私を惹きつける輝き。
それは、幼い頃に無くしたと思っていた感情。
取り戻したその感情を、もう二度と無くさないように。
私はそっと手を伸ばし、抱き締める。

「ちょっ…どうしたんだよ?セフィロス?」
急に後ろから抱き締める私に、驚いたような声を上げるフリオニール。
だけど、その声もどこか優しい甘さを含んだもので…。
「もう少し居てほしいなら、そう言ったらいいだろ?」
そう言って彼は、困ったように、どこか呆れたように笑う。

「お前が好きだ」
「ああ、俺もセフィロスが好きだよ」
そう言って、ニッコリと微笑む彼の表情に満足する。


ああ、満たされていく…。

自分の心の隙間へと、彼の温かさが流れ込んでくる。
誰の言葉よりも深く、どんな思い出よりも鮮やかに。
絶望すらも拭い去る、そんなお前の輝く笑顔が。

何よりも、誰よりも、私を生かしている。

あとがき

20,000HITフリーリクエスト小説。
更紗様のみお持ち帰りOKです。

ひたすら甘いセフィロス×フリオニールで、できればR18…みたいなリクエストでしたが……。
いえ、確かに自分は言いましたよ、「フリオが受けならば、大概のCPは書ける」と、「よっぽどでなければ、無理なものはない」と…。
正直、本当に新境地を開拓する事になろうとは思ってもみませんでしたよ。

セフィロスさんのキャラが掴めません、だってFFⅦ未プレイですから(言い訳)。
何でやってないのかって…自分がゲームに嵌った時期の問題です。高校二年の後半になって、初めて本格的にゲームにハマリましたから。
なのでセフィロスさんの過去とか、殆ど知らないんです…今度、弟が持ってるクライシスコアでもやろうかな…。

キャラの捏造さが激しいんですが、こんなもので良かったのでしょうか…?
本当に、レベル低くて申し訳ないんですが…更紗様、このような物でよければお持ち帰り下さいませ。
2009/8/11

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