許されないと分かっていても、好きなものは止められない
自分の感情なんて、抑えられない
それはまるで、優しすぎる麻薬。
一度罠に堕ちたら最後、どこまでも深みに嵌っていく。
『貴方が好き』
愛情依存
対峙する相手と、一瞬目が合った。
その瞳に今映っているのは、純粋な闘争本能のようなもの。
「当たれ」
急いで弓を引くも、放たれた矢は相手の少し上を掠めて飛んでいった。
相手の仕掛けたトラップに気を付けながら、フィールド内を失踪する。
「逃げ惑え」
そんな台詞と共に放たれるフレア。
追尾効果のある魔法攻撃は、跳ね返すより他に手立てはない。
シールドバッシュで跳ね返し、次いで派生技を繰り出す。
俺の魔法なんて、相手からすれば大したものではないのだろう。
だが、少しはダメージを与えられた。
「フリオ!無事ッスか!?」
仲間の声がすぐ近くで聞こえる、此方へ向かっているらしい。
その声を聞いて、俺の相手、皇帝は舌打ちする。
「フン、羽虫が何匹集まろうが大したものでもないわ」
そう言いながら、皇帝は踵を返す。
「オイ!どこへ行く」
「興が冷めた。邪魔な羽虫を払う労力等、使うだけ無駄な事…相手をしてほしくば、また一人の時にでも向かってくる事だ。
そうだな…羽虫ならば、羽虫らしく夜にでも這い出してくるんだな」
俺の方を一瞥して、皇帝はそう言うと、どこかへと魔法で移動してしまった。
追いかけようとしたものの、魔法は得意ではない。
アイツの行き先は、全く分からない。
「逃げられたんッスか?」
追いついた仲間がそう尋ねる。
「ああ、アイツも流石に2対1は分が悪いと思ったんだろう…それか、奴なりの策でも立てているのかもしれない」
武器を直しながらそう言うと、仲間も納得したように頷く。
(気付かれてはいないだろうか?)
毎回不安になるが、俺の不安が的中した事はまだない。
今日もティーダは、俺の言葉に何の疑いも抱いていない。
それに安心するも、言い知れない後ろめたさも同時に感じる。
(すまない)
心の中で、今日も俺は仲間に謝罪する。
暗闇に紛れて、俺はなるべく音を立てないように移動する。
仲間に気付かれるのはマズイ、自分の行動の不純さはよく分かっているつもりだ。
それでも、これは止められないんだ。
(すまない、皆)
毎回、心の中で謝る、何度も何度も。
どんなに後ろめたく思っていても、俺は進む足を止めない。
だって早く…早く、会いたいんだ。
そっと、深夜のパンデモニウムに足を踏み入れる。
静寂に沈んだ城に、俺の歩く足音が大きく響く。
「マティウス」
玉座に腰掛ける男の名を呼ぶ、頬杖をつき目を閉じている男はピクリとも動かない。
おかしいな…と思い、もう少し側にまで寄ってみる、もしかしたら居眠りでもしているのだろうか?
それならそれで面白い、こんな珍しい事なんてない。
もう少し相手の側へと近寄る、無防備に眠る彼の表情を見つめながら、どうやって起こしてやろうかと考えながら。
「マティウス?眠ってるのか?」
そう問いかけても返答はなし、これは完全に寝ているな…と思い、俺は内心ほくそ笑む。
何してやろうかな…でも、あんまりタチの悪い悪戯をすると、後で何されるか分かったものじゃない。
そっと、相手の特徴ある前髪を指で軽く梳く。
それでも、微動だにせずに相手は眠り続けている。
なんだか面白くなくて、俺は手を引くと、そっとその額に口付けた。
そっと相手から離れようとした瞬間、俺の体は寝ていたはずの男の腕によって拘束され、彼の膝の上に向かい合う形で座らされる。
「目覚めのキスならば、唇にするべきなんじゃないのか?」
何時の間にか、パッチリと開いた彼の紫色の瞳が、面白がるように俺を見つめ返す。
昼間に見せる、敵としての憎しみや殺気に満ちた瞳ではない。
それは、普通ならば抱く事のない感情を映した瞳。
きっと、自分も同じ目をしている事だろう。
「寝込みを襲うのは、あまりフェアではないな」
その意地悪な笑顔に、俺はようやく気付かされる。
俺は悪戯したんじゃない、相手の悪戯にまんまと嵌ったんだ。
「ずっと起きてたんだろ?」
「いや、起きたのは貴様がこのパンデモニウムに踏み入れてからだ、まったく…来るのが遅いぞ」
そう言いながら、マティウスは俺にキスをする。
拒むことなくそれを受け入れる、長い長いキスの合間に、お互いの視線が絡む。
どうして、俺は彼を受け入れられたのか?
自分の宿敵であるはずの男に、こんな甘い感情をどうして抱けるのか?
それは、この世界にきて元の世界の記憶が薄れているからなのか?
それとも、元々お互いの間に何か見えない共鳴できる部分を持ち合わせていたからなのか…それは分からない。
だけど、これを運命だと、俺は感じている。
彼も、俺の意見に同意してくれた。
そうでなければ、説明できない。
二人の中に芽生えたこの感情が、一体どこに機縁するものなのか。
そして、二人で影ながら築き上げてしまったこの関係は、決して終わらないものだろう…という、根拠のない自信も、きっと全て大いなる意思が決めていたからだ、としてしまえば説明がつく。
「何を考えている?」
長いキスから開放されて、恋人が俺のそう問いかける。
「俺達がどうしてこんな風に会っているのなか…て」
「そんなもの、私がお前をここに来るように誘ったからに決まっているだろう」
当たり前だ、とでも言うように彼は俺にそう言う。
確かにその通りだ、と俺は彼に同意する。
好きなんだ、この男が。
敵同士であろうと、心惹かれてしまったのだ。
愛してしまった、この気持ちはどうしたって抑えられない。
許されないって分かっていても、止められないんだ。
「それならば、いっその事溺れてしまえばいい」
恋人は、甘く囁く。
「自分の味方を裏切って、私の元へと来ればいい…まあ、貴様にはそんな度胸などないだろうが」
「何だよ、信じてくれないのか?」
俺がどれくらい、貴方を想っているのか。
「貴様が私を愛していることはよく知っている、だが、貴様の人への甘さも、私はよく知っている。
貴様には、仲間を裏切るような真似などできん。
感情に溺れ、我を見失い…私への想いだけに取り縋って生きるというのならば、話は別だが」
俺の頬を撫でていた手が、顎を固定する。
ゆっくりと交わされる口付け。
その甘さを堪能しながら、俺は恋人の言葉を考える。
もし…俺が仲間達を裏切って彼の元へやって来たなら…。
その時、マティウスはどうするだろう?
貴方への想いだけを信じて、ただ貴方の側に在る事だけを願って生きる俺を、貴方は受け入れてくれるだろうか?
そんな狂った執着心まで、愛ゆえならば、貴方は受け入れてくれるだろうか…。
もしも……貴方が喜んで、俺をその腕の中に招き入れてくれるというのなら…ありえない話ではない、かもしれない。
だけど、これはただの仮定の話で、恋人の言うように、俺には仲間を裏切るような真似はできない。
今の俺のままじゃ、到底そんな真似はできないだろう。
でも…例えば、貴方がそれを望んだのなら。
この思いが、抑えきれないくらいのに膨大なものになったならば、その時は。
狂ったように、貴方を愛する日が来るかもしれない。
例え狂っていようとも、例え許されぬ関係だと分かっていても。
どんなに悪い事だって、分かっていても、この幸せに勝るものなんてなくて。
俺の脳髄の中へ、深く深く根付いていく。
体の芯まで、この感情が染み入ってくる。
支配されてもいいと思えるくらいに、この男を愛してしまったが最後。
依存症はどんどん深く、この体を侵食していく。
「マティウス…大好きだ」
「知っておるわ、馬鹿者」
そんな風に小馬鹿にしながらも、俺の髪を撫でる優しい手の感覚に瞳を閉じる。
どんどん、どんどん、依存していく。
貴方の優しい愛情に。
自分の持つ全てを投げ打ってでも、貴方の愛情を手に入れたいと思えるようになったなら。
何時か本当に、俺は仲間を裏切ってしまうかもしれない。
その時、俺の中で今の自分は死んでしまうだろう。
それでも、手にできるものを幸せだと思えるのならば…。
貴方の愛情に依存する俺を、貴方だけは許して…。
20,000HITフリーリクエスト小説。
ヒロ様のみ、お持ち返りOKです。
皇帝×フリオで、お互い後ろめたい気持ちがあるけれど、逢瀬を止められない二人…という事でしたが……。
フリオ視点でお送りした為に、フリオの気持ちしか表されていないような…いや、皇帝だって後ろめたいんですよ。
だから、わざわざ深夜に会ってるんです。
しかし、フリオが予想以上に病んでるような気がするのは…気のせい、では…ないですね。
予想に反して多少暗くなりましたが、ヒロ様よろしければお持ち帰り下さい。
2009/8/8