ああ…本当に困ったものだ……

頼むから、いい加減にしてくれ

三角関係

「それで…また、ケフカの実験に巻き込まれたのか?」
目の前に立つ我等がリーダーは、溜息混じりに俺達にそう尋ねる。

「…悪い、アイツが急に薬瓶を投げつけてきたものだから…」
溜息を吐きたいのは俺の方なのだが、しかし、起こってしまったものはどうしようもない。
「何だよ、悪いのはアイツの方だろ、お前は全然悪くないし。
それに、俺はこうしてお前に会えて嬉しい」
ニヤリと笑って、俺の腰へと手を伸ばす男。

彼は俺と同じ顔立ち、体つきをした俺のコピー。
名前はシャドウ。
ケフカの実験によって、前にも姿を現した。

「その手を離してもらおうか」
そんな男の手を払い除け、相手から俺を遠ざけるのは我等がリーダー。

「…なんだよ?別にコイツはお前のものじゃないだろ?」
そう言って、俺の手を取るシャドウ、その反対の手はしっかりとウォーリアが握っている。


あの…俺を挟んでのこの不穏な空気は、一体何でしょうか?


「フリオ、モテモテッスね!」
「本当だね」
「いい事だな」
ティーダ、セシル、クラウド…そう言いながら現場から遠ざかるの、止めてもらえるかな?
オニオンナイトとティナは既にこの場に居ないし、ジタン・バッツ・スコールはまだ帰って来ていない。

あの…俺の今の立ち位置って、凄く危ういものだよな?
凄く危ないよな、俺の身が。
でも、その原因にしっかりと拘束されている為に逃げられない。

「何だよアンタ、フリオニールの事好きなわけ?」
「困っている仲間を助けない者は、この中には居ないと思うぞ」
いや、残念だがウォーリア、俺は今「困っている仲間を助ける」はずの仲間達に、完全に見捨てられたよ。
そして、その主な原因は貴方達ですよ。


「アンタ、いい加減に俺のフリオ二ールから手、離してくれよ」
ライトを睨みつけながら、シャドウはそう言う、特に“俺の”の部分に重点を置いて。

「無理な相談だ、そしてフリオニールは君のものではない」
だから離す義理も道理もない、という事だろう。

「アンタのものでも、ないだろう?」
そんなシャドウの台詞に、ウォーリアの眉がピクリと動く。
きっと癪に障ったんだろうな、と俺は思った。
そして、シャドウもそれが分かってて、わざとウォーリアに喧嘩を吹っかけるような言葉を投げつけているんだろう。

「俺はさ、フリオニールの心の内は誰よりもよーく知ってるぜ。
だから、一つ言わせて貰うけどさ…俺はアンタが大嫌いだよ」
ウォーリアの目を見て、シャドウはそう言う。
フザケているようで、悪意が込められているのは間違いない。

「私は君の事を嫌ってはいない」
そんなシャドウに、ウォーリアは表情を変えずにそう言う。
そんな冷静な対応に、シャドウが苛立ちを感じているのを感じた。

元々、シャドウはウォーリアの事を好いていないのだ。
根は優しい奴なんだと思うが、なにぶん天邪鬼な性格だから、ウォーリアのような真面目な人間とは反りが合わないのだ。

「はっ!そういうアンタが大嫌いなんだ」
そういう、余裕な所とかさ…と、シャドウは憎々しげにそう言う。
一瞬、グイッと俺を引き寄せたかと思ったら、シャドウは俺の頬にキスを落とした。


それはほんの一瞬の出来事で、俺自身、その瞬間に何が起こったのか分からなかった。
それはきっと、ウォーリアも同じ。

「……貴様、何を…」
驚愕に目を見開いた後、シャドウに向けて彼の鋭い視線が光る。

中々見かけない、怒りを露にしたウォーリアの顔に、俺はもの珍しさよりも純粋に恐怖を感じた。

「おいおい、真面目でブレない光の戦士がそんな言葉使っていいのか?」
そんなウォーリアを、シャドウは全然恐れてはいない。
むしろ、勝ち誇ったようにウォーリアと向かい合っている。

「大体さ、さっき聞いたけど、アンタは別にフリオニールが好きなわけじゃないんだろう?なら、いいじゃんか、俺がフリオニールに何したってさ」
ニヤリと、勝ち誇ったようなシャドウの言葉に、ウォーリアは表情を歪める。

「君には、何を言ったって仕方がないようだな」
「俺にはって、他に誰に何を言うつもりなんだよ?」
「何も言わないさ、ただ…私も行動で示すだけだ」
そう言うが早い、ウォーリアはぐいっと俺を引き寄せる。
その力強さに、シャドウと繋いでいた手が離れる。


真剣な青い瞳が、一瞬俺を射抜くように見つめる。
軽く、顎に添えられた手。
ふわりと、柔らかい感触を感じたのは一瞬……ではなかった。

「んっ!!」
クチュっという水音が、自分と相手の間で響く。
その官能的な音に耳を塞ぎたくなるが、抵抗する力もない。
互いの舌が絡まり、歯列をなぞっていくその感覚に、自分の力が抜けていくのを感じる。
息もそろそろ限界だ…と感じ始めた頃、ようやく彼は俺を解放してくれた。

「な、に…するん、だよ?」
そこで思い至る、彼の「行動で示す」という言葉の意味。

だけど…いくらなんでも、ここまでしなくてもいいだろう……。

頬が赤く染まり、息が上がっている。
上手く力の入らない体は、ウォーリアに寄りかかったままだ。
「君が好きだよ」
そんな俺の耳元で、ウォーリアはそっとそう囁く。
俺の頬が、更に熱くなったような気がした。

「……って、なーに良い雰囲気作ってんだよ」
ムスゥとした顔で、シャドウは俺とウォーリアを見つめている。
「いい加減離れろ!!」
そう言って、ウォーリアから俺を引き剥がすシャドウ。
かなりお怒りのようだ。

「アンタな!人前でいきなりディープキスなんてするもんじゃないぞ!!
それとフリオニール!お前も、嫌なら抵抗しろよ!!」
ムキになってそう言うシャドウに、俺はなんと釈明していいか迷う。


別に、ウォーリアにキスされて、嫌なわけじゃなかったんだ。


「俺はアンタが大嫌いなんだ」
「まあ、確かにそうだろうな…」
怒りの含まれたシャドウの言葉を、ウォーリアはそうやって軽く受け流す。

違う。

ウォーリアはきっと、シャドウが自分の恋敵だから、自分を好きじゃないんだろう…その程度にしか思っていない。

シャドウは俺の中に生きてる、だから、俺の心の変化を隠す事ができない。
自分の心が、他の誰かに筒抜けだ…というのは、何ていうか、とても恐ろしい。
俺の心の僅かな変化だって、彼には通じてしまうんだから。

だが、それが彼を苦しめてる。

俺のウォーリアへの想いの変化を、シャドウは感じ取っている。
だから、シャドウはウォーリアが嫌いなのだ。


俺が他の仲間よりも、少しだけ彼を特別視しているから。


それだけではない、ウォーリアも薄々は俺の気持ちを知っているんだろう。
だから、あんな重いきった行動に出られる。
まあ…どちらにしても、俺にはまだまだ迷惑な事には違いない。

俺を挟んで、言い争いをする二人に、俺の我慢もそろそろ限界だ。
「二人共…いい加減にしてくれ!!」
冷静になって戻って来た俺の羞恥心を力に、二人をどこかへと飛ばす。

まったく…人の感情っていうのは、本当によく分からないものだ。
いい加減にしてくれないかな…俺の恋心に、誰か決着を付けてくれ。


三角関係は、まだ崩れない。

あとがき

20,000HIT記念、フリーリクエスト。
ラン様のみお持ち帰りOKです。

ウォーリアとアナザーフリオがノーマルフリオを取り合う話(オチはどちらでも可)でしたが…。
うーん、結局ウォーリア優勢っていう、微妙なところで終わってしまってすみません。
フリオが冷静になって二人の実況をしているのが、きっと悪いんですね…。
いや、ほら…自分の事で言い争っているのに自分が蚊帳の外だと、なんかその光景を冷静に見てしまいません?
なんて、同意を求めてどうするんでしょう…。

学パロで書こうか、それともケフカの実験に失敗してもらうか、物凄く悩みました。
満足いく仕上がりになっているのか、自信はありませんが、ラン様、良かったらお持ち帰り下さい!!
2009/8/6

close
横書き 縦書き