ぐるりぐるりと巡る
この体の中を
巡っていく、巡っていく
真紅の血液


俺の体内を巡り、力となって…
捕食者の、力となていく…

血液循環

サラリと髪を撫でる感触に、僅かに身じろぐ。
柔らかい寝具に包まれて、心地よい眠りの淵を彷徨う俺の意識。
その手の主は俺が身じろぐのを感じて、僅かに動きを止めるが、俺がまだ目覚めないと分かると、頭を撫でていた手を頬へと滑らせる。

意識は薄く覚醒しつつある、だが…まだ起きるには体がダルイ。
目を覚まさない俺に、相手はとうとう痺れを切らしたようだ。


そっと唇に触れる、柔らかい感触。


「ぅ…ん……」
まだ覚醒しきっていない俺の咥内に、熱い舌が滑り込んでくる。

「んっ!!」
その瞬間に、パッチリと目が覚める。
覚醒した俺が見たのは、日の光のような色の髪をした色の白い男の顔。
目覚めた俺に気付いていながらも、男は俺の咥内を荒し回っていく。
男から離れようとするも、しっかりと俺の体に回された相手の腕がそれを許さない。
歯の裏をなぞり、逃げ回る俺の舌を捕らえる。
クチュ、クチャ…とイヤラしい水音が内側から響いてくる。

「ふぁ…ん」
酸欠で赤くなってきた頃、ようやく男は俺を解放してくれた。

「な…に、するんだよ!マティウス」
「目が覚めたか?眠り姫」
俺とは違って、余裕の表情で男は俺を見返す。
「誰が姫だよ、誰が…」
身を起こして、はぁ…と溜息混じりにそう言うも、男は余裕の笑みを止めやしない。
それどころか、俺の腕を取ると自分の元へと引き寄せる。

「ちょっ…何?」
再び男の腕の中へ捕らえられた俺は、相手の行動に不満を訴える。
「空腹なんだ」
分かっているな?と、俺の耳元で低く囁くマティウス。
自分の顔に熱が集まるのを感じるが、しかし、気付かないフリをして、そっと夜着として使っているシャツの前をくつろげる。
胸のボタンを外したところで見える、胸の上に赤々と刻まれた所有の印を男は満足ように見つめる。

「ほら…これで、いいんだろう?」
首筋を男の前に晒すと、彼はニイっと酷く楽しそうに笑みを深める。
「頂くぞ」
俺の耳元で低くそう呟いた後、男は俺の首筋に人間では持ち得ない、鋭く尖った牙を突き立てた。

「んっ!」
皮膚に食い込む牙の痛みの後、直ぐに全身に広がる快楽の波。
ジュルッという音と共に血を吸い上げられると、何とも言えない快感が全身を包み込む。


餌となる契約を交わし、この男の力によって生かされている体。
男は俺が居なければ、自分の生命活動が行えない。
捕食の関係にありながら、互いが互いを生かしているというオカシなサイクル。
人間の俺と、吸血鬼のこの男の間の関係。


俺の体を抱き寄せ、必死に俺の血液を求めるマティウス。
「ひぁっ!!……ん、ちょっ!待って…」
待てるわけがない、そう言うように男は更に強く俺の血を吸い上げる。

この行為は生命を繋ぐ行為だ、だから快楽が伴うのだ、と目の前で俺を捕食するこの男が教えてくれた。
生きる為に、苦痛にならないように。

「ぁ…ふぅ、ん……」
ぐしゃりと相手の頭を抱いてしまう、こんな俺にマティウスはッフと笑みを零す。

俺の中で巡る血液が、この男の体内で、この男の生命力へと変化していく。
そして、この男の力が俺を生かしている。
俺達の間で回る生命力の循環。


「ご馳走になった」
満足したのか男は首筋から牙を抜くと、俺の耳元でそう囁く。

「……はぁ、はっ…」
荒くなった息を整えようとする俺の首筋に付けられた牙の痕に、マティウスは舌を這わせる。
治癒させてくれるのは嬉しいけど、もっと他に方法はないんだろうか?
なんか、凄く恥ずかしいんだけど。
なんて……そんな事言っても、この男はニヤニヤと楽しそうに笑って、「何が恥ずかしいんだ?」と俺に尋ね返すんだろう。
「貴様が喘ぐ顔など、もうしっかりとこの目に焼き付けられているんだが」
なんて平気な顔で言いそうだ。

「今日一日も、これで生き延びれそうだ」
傷の癒えた俺の首に、チュッと軽い音を立てて口付けると、マティウスは俺の首筋から頭を退けた。
「そうか、良かったな」
つまり、俺も今日一日生き延びれるという事だ。


「それにしても、いい格好だな…誘ってるのか?」
未だに体に完全に力が入らず、マティウスの胸に軽くもたれかかる俺の聴覚に、ボーっとする自分の意識にマティウスの言葉が入り込んでくる。
何が、と問い返しそうになったが、そこではたと気付いた。
自分の今の格好が、どのようなものなのか……。

顔に一気に血液が集中してくるのを感じるのと同時、男の胸から離れ、急いで服の前を閉じる。

その様子を面白そうに眺めながら、「残念だな…」とマティウスは呟いた。
「そろそろ、私にその身を預けてもいいんじゃないか?」
俺に向かって、冗談とも本気ともつかない、が…恐らくは本気だろう言葉をかけるマティウス。

この男の前で、無防備にもこんな格好で…しかも、甘えるようにもたれかかるなんて……。
何やってるんだよ、俺。
これじゃあ、本当に誘ってるみたいだ。

「誰が、お前になんて預けるか」
食うものと食われるもの。
生きる為の糧、それ以上の関係になんてなりたいとは思ってない。
少なくとも、俺は。

男のセクシャルハラスメント的な台詞にそっぽを向いてそう言い返すと、クスリと笑う声が聞こえた。


こうして、俺の一日は今日も始まる。

歪んだ捕食関係の輪の中を廻りながら。
歪んだ日常も、廻っていく。
巡っていく…。


それはまるで、体を流れる血液のように…。


俺達は、今日も生きている。

あとがき

前回までの反省を生かして、今回は早めに用意をしていた…という15,000HITフリー小説。
前回までずっとWOL×フリオだったので、今回は相手を皇帝様にしようと思って、こうなりました。

地下室のみで連載しようと思っていたんですが、何故か引きが強くて、フリー小説にまで使ってしまった皇帝×フリオの吸血鬼パロ。
これは番外編で、一切本編には関係ないんですが。

今までの話が結構平和(?)だったので、微妙にエロイのをやってみたかった、という心理もあります。

実は、もうすぐ20,000HITに到達しそうなので、そろそろ企画を考えなければならないのです。
六月末から七月中旬にかけての自分の頑張りに、一番本人が驚きましたとも。
しかしながら、来てくださっている皆様これもここに来て下さっている皆様のお陰です。
では、15,000HITありがとうございました!!

close
横書き 縦書き