内側からじわじわと、噴き出してくる熱
それは押しとどめてしまった方がいいのか、それとも放出してしまった方が良いのか……

病魔之源

「人間というのは、不便なものだな」
「うるさい……」
感染するぞ、と言うと「私は人の病には犯されん」とピシャリと跳ね返された。

慣れない環境の為なのか、調子が優れないな…と感じていた。
不調は直ぐに体調へと繋がり、どんどん悪化していった。
ここの主のセクハラ紛いの食事が追い打ちをかけた……と言っていい。

「人の所為にするのか?」
「間違いなく、お前の所為だろ……」
喉が痛くて、文句を言うのも億劫になる。
広いベッドを一人で占拠し、シーツと毛布にくるまって沈み込んだ俺、額にはどこからか運ばれて来た氷の入った水枕が吊るされている。
「人間は本当に弱い生き物だ」
そう言う城の主に、俺は溜息で返事をした。その溜息も浅く、気の所為かもしれないけれど…吐き出す息も普段より熱い。
そんな俺を見て、はぁ…と伝染した様に溜息を吐くと、そっとベッドに腰掛けて俺の頬に手で触れるマティウス。
「まだまだ熱いな」
「ぁ……気持ちいい」
吸血鬼であるマティウスは俺よりも体温が低い、熱のある俺からは、その冷たい手が酷く心地良く感じたのだ。
目を閉じていた所為で俺は見て居なかった、彼の驚きの表情とニヤリと口角を上げて微笑む意地悪な笑顔を。

「気持ちイイのか?」
「ぅん?…ひんやりして、いいなぁ…って」
「そうか」
そう言うと、マティウスは俺の熱い両頬を手で包み込んだ。
熱で滲む視界の先に、酷く楽しそうな笑みを浮かべる相手が居る。
俺の頬に触れていた手が、ゆっくりと下へと滑っていき衣服の前を寛げ始めたのだ。
抵抗しようにも、体が思う様に動かない。

「ぁの…マティウス?」
「汗で服が濡れているだろう、着替えたらどうだ?」
外気に晒され、汗で濡れた衣服が少しずつ冷たくなっていく。
張り着いたシャツは確かに気持ちが悪い。
「でも…着替え」
「ここに用意してある」
取りだしたのは新しいパジャマ。
なんだ、てっきり風邪を引いた俺をからかいに来ただけだと思っていた。
「お前が病に伏し、体の生命力が落ちていてはこちらも食事が出来んからな…早く治してもらわなければ」
そう言ってシャツを取り去ると、体に浮きあがった汗を布で拭いてくれる。
それくらい自分でするのに、そう進言していてもただ「寝ておけ」と返ってくるだけ。
この男も、病の時くらいは優しいのか……なんて思った俺は次の瞬間に自分は、後で後悔する。

汗を拭いてもらったので、着替えに手を伸ばした俺の手を抑えつけるマティウス。
「…マティウス、何して……?」
俺の質問に答えず、俺の胸の上へとその手が触れる。
熱を持った体とは違って冷たい手、胸の真ん中に置かれたそれに体が跳ねる。相手の体温に俺の体が反発しているのだ。
そんな俺の反応を楽しむ様に、胸の上をマティウスの手が撫でて行く。手つきが段々といやらしいものへと変化していくにつれ焦りを感じる。
撫でる手の先が胸の飾りを掠め、そこに触れられる事への怯えから強張った体を、相手は敏感に感じ取った。
グリッと先端を指で押し潰され、痛みに似た感覚が体に走る。止めろと言おうとしたが、その言葉が咳に変わってしまう。
何度も弄っている間に立ち上がり始めた飾りを見て、マティウスは笑う。
「ひぅ!」
容赦なく指先で摘まみ上げられ、喉を締め付けた様な悲鳴が上がる。
「喉をやられていたな……無理せず、声を上げない方がいい」
そう言うが、手の動きは全く止めてくれる気配はない。
それどころか、更に立ち上がらせようと強い力で摘まみあげる。反対側の手は俺の胸を下り、腰の際どいラインをなぞり続けている。

「はぁ…ぁ、はぁ……」
「凄い汗だな、また熱が上がったのではないか?」
「なら、も…止めてくれよ……」
表面からではない、体の奥からどんどんと熱が外に向けて噴き上げて来るのだ。
光る汗を見ても相手はニヤリと笑うだけ。
それを再び拭き取って、また熱を帯びた俺の体を撫でるを繰り返す……。
睨みつけたって畏怖を与える事もできず、ただ相手に翻弄されるだけだ。
ああ…グラグラする、頭が痛い。
「もう…いい加減にしてくれ、このままじゃ本当に熱でやらえる」
荒い息と掠れた声でそう訴えると、ようやくマティウスは手を止めた。
急いで新しいシャツを手繰り寄せて、震える指でボタンを留めているとマティウスがそっと俺の上から退いた。
もう諦めたのかと思ったが、そうではない。

「下も着替えた方がいいんじゃないか?」
「え?」
半分までボタンを留めた俺は、慌ててズボンにかかった相手の手を引き止める。
「いいから、自分で着替えられるし…」
「私が着替えさせたところで、支障はあるまい?」
いや…ある、大いに支障がある。
というよりも、今までのこの男の行動からどうして簡単に自分の体を明け渡せよう?
いくら体が弱っているからといって、そこまで危機感が低迷している訳ではない。
まあ、本当に危機管理能力があるのならば、最初からこの男を信じるべきではなかったのだろうが……。
離せと言わんばかりに睨みつけてくる相手、俺の体が病に冒されているのだから…まさか武力行使をする事などはあるまい。

「ふん、強情な奴め…」
そう言ってズボンから手を放す相手に、俺が安堵の溜息を吐いた次の瞬間だった。
ふわりと体が不思議な浮遊感に包まれる、もとから意識がグラグラしていたからその所為なのかと思ったが違う。
「…ふぇ、えっ!?」
急な事で何が起こったか理解するのに時間がかかったが、俺の体は本当に宙に座る様な形で浮いていた。
こんな非日常的な事を起こせるのは、目の前の城主だけだ。
「ちょっ、マティウ…ゴホッ」
咳き込む俺の背を摩ってくれるが、その心遣いがあるなら普通に寝かしてくれ。
そう言う前に、彼は俺のズボンに手をかけて脱がした。
人間相手にここまでするのか!
ベッドに座り込んだ相手を見下ろす、睨みつけるものの彼は余裕の笑みだ。

浮かび上がって逃げられない俺の足を取ると、布で汗を拭っていく。
「それにしても、綺麗な良い足だな」
「男の足に綺麗とか、虚しくないのか?」
「実際に良い足をしているだろう」
それはお前がおかしいからだ、本当にそう思うのだが……反論すると後が怖い上に、さっきから喋り続けて喉も限界に近いので止める。
視線を逸らす俺によそに、マティウスの手は徐々に上へと滑っていく。
膝の裏、太股の後ろ、そして内股へと手がかけられる。

「あの…マティウス」
「何だ?」
「も、汗いいから…早く着替えたいんだけど……」
出来るだけ見えない様にと、シャツの裾を引っ張って前を隠そうと試みるものの。両足を僅かでも開いた状態では、多分そんなに効果がないだろうし。そもそも、相手の方が俺よりも低い位置に居るのだから、見られているとは思うのだが……出来るならこの状況から早く脱却したい。
「もういいのか?」
すっと手が放れる。随分とあっさり引くのだな…と拍子抜けしたのだが、それは違った。
「ところで、下着も変えた方がいいのではないか?」
「ふぁっ!!」
下から伸びて来た手が俺の尻を掴み、撫で回す。
「相変わらず良い尻だな」
「ちょっ……も、本当にいい加減に…ゲホッ」
いい加減にしてくれないか、俺の体力はもう零に程近い。
このままだと、本当に死ぬんじゃないか……。
涙目なのは熱の所為だけでは無いハズだ。

「フン……少しやり過ぎか?」
そう言うと、マティウスはしぶしぶと手を放し傍らから新しいズボンを取り上げると、俺の静止を無視して着替えさせてくれる。
浮いたままだった体は、彼の腕の中で一度横抱きにされた後で再びベッドに帰り着いた。
体が熱い、本当に熱が上がったのかもしれない。

「熱は放出した方がいいだろう、上がりきってしまえば下がるしかない」
平気でそう言う相手は知っているだろうか?熱が上がり過ぎると、人間は死ぬんだという事を。
まあ、病原に言ったところできっと考慮してくれはしないんだろうけど。

「なぁ……何で俺の隣りで寝てるんだ?」
てっきり出て行くのかと思いきや、俺の隣りに陣取るとしっかりと寝る体勢に入って居る城主。
しかもさり気無く、俺の腰に手を回してきているのも気になる。
いい加減にそっとしておいて欲しい、それが回復への一番の近道だと思うのだが。
「フン、今の時間を考えろ…」
時間を考えろと言われても、この部屋の窓はカーテンで全て閉め切られている為に時間の感覚なんて無い。
しかし、この男がそんな事を言うのならば…おそらく、今は太陽が昇っている時間なのだろう。
「無理して起きてなくても、いいのに」
「私が休んだら、誰がお前を看病する?…あの居候共では役に立たんだろう」
いや、俺はマティウスと一緒の方が不安になるんだけど。
しかし……この男は素直じゃない。
心配してるなら、もう少しそれなりの態度で示したらどうなんだろう?
それとも、いつもみたいに…構ってくれる相手が居ないから、寂しくなったのか?
行動は全く可愛くないが、この男は信じられないくらいに子供っぽいと思う。

「私もしばらく休む…まあ、何かあったら起こせ」
そんな俺の考えも知らず、俺の額にキスするとそう宣言するマティウス。
「…………起こしていいのか?」
「キスで起こす場合のみ、だがな」
接触感染するぞと言おうと思ったが、そんな言葉をかける前に相手はしっかりと寝る体勢に入ってしまった。
俺よりも低い体温がすぐ側にある、触れた唇も今は少し冷たく感じられた。
一人残されてしまったが、どうしていいものか……。
ぎゅっと回された腕に力が入る、俺も体がダルイし身動きも出来ない。
なら…しばらく一緒に寝よう。

あとがき

フリリク小説、皇帝×フリオ吸血鬼パロで、風邪引きフリオに対してセクハラな看病をするマティウスさん…でした。
セクハラな看病と聞いて、一体どこまでこの人はやらかしていいのかをとても悩んだのです。
表ではどこまでがセーフなのですか?本当に、いつも書いていて迷うところなのです…。
完成まで大変遅くなりまして申し訳ございません。
匿名の某氏に捧げます、お気に召して頂ければ光栄です。

close
横書き 縦書き