君の事を愛している
誰よりも君を…心の底から
何故、この想いは届かない?
何故……君は、あの男を愛している?

意中之人

ある日、誰にも行き先を告げずにフリオニールが姿を消した。
夕方、私が探索から戻ると、仲間達が怪訝そうにその事について話ていた所だった。
フリオニールと探索に出て居たのはティーダだったらしい。ある程度のアイテムが集まって、一度野営地に戻って来た二人だったが、留守を預かっていたセシルに呼ばれ、ティーダがその場を少し離れた間に、フリオニールはここから出て行ってしまったらしい。
最初は忘れ物でもしたのではないか、または、帰って来た誰かとまたどこへ、例えば鍛錬にでも付き合っているのではないか、等と話ていたそうだが、日没も近くなり一人また一人と仲間が戻ってくるにつれて、その可能性は消えていった。

「もしかしたら、ウォーリアと一緒なのかと思ってたんだけどね」
「すまない。今朝ここを出てから、彼の姿は見て居ない」
そう言うと、貴方が謝る事じゃないからとセシルは少し微笑んで言った。
「じゃあ、フリオニールの行方を知っている奴は、誰も居ないのか……」
「そういう事になるな」
「何でクラウドもスコールもそんなに冷静なんッスか!仲間が居なくなったのに!」
苛立ち混じりの声でティーダがそう怒鳴る、「落ちつけよティーダ」とジタンがその場を宥めた。
「この二人に怒ったって何もならないだろ?オレ達だって何も知らない訳だし……心配なのは皆、同じだって」
「やっぱり、もう一度探しに行った方がいいんじゃないかな?」
ティナが小さな声でそう提案するが、横に居るオニオンナイトが首を横に振る。
「でも誰も、何もフリオニールの行方について手がかりを見つけられなかったんでしょ?闇雲に探すだけじゃ駄目だよ」
「少し様子を見るしかないだろうな。大丈夫だって!アイツは強い…その内ひょっこり帰って来るかもしれないしさ」
な?とバッツが笑顔でそう言う、主に気が荒れているティーダに向けて。勿論、その笑顔にも言葉にも何の根拠も無かったが、我々はそれを信じて彼の帰りを待つしかなかった。

フリオニールは、戻って来なかった。
今朝一番に決まったのは、彼を探そうという事。そして、私は迷わずこの場所に足を運ぶ事に決めた。
何度来ても不気味だと思う。地獄より蘇りし男の居城を見上げて、私は溜息を吐く。
フリオニールの身に何があったのか、その詳細は不明だけれど…彼に執着するあの男の存在は見過ごせない。
気味の悪い城の中を進み、玉座のある場所へと出た。
「鼠が入り込んだかと思ったら、随分と大きな鼠だったようだな」
城の主は、玉座にしっかりと腰を下している。その腕の中、膝に座らされて抱かれているのは…間違いなく私達が探していた仲間だった。
「貴様、フリオニールに何をした!?」
思わず剣を抜いてそう叫ぶ、それでもかの男は微動だにしない。
「何をした、か?…フン、貴様とて別に、恋人の営みを覗き見る様な趣味は持っておらんだろう」
「何を……言ってる?」
そう尋ねると、皇帝はフッと鼻で笑った。
「この男は、私の事を恋しい存在だと、そう思っているという事だ」
勝ち誇ったかのようにそう言う、この忌むべき相手の言葉を、私は瞬時に理解できなかった。
愛しているだと…誰が、誰を?
そんな私の疑問は、この男には直ぐに読みとれたらしい「簡単な事だ」と笑って皇帝は言う。
「お前が考えているよりもずっと簡単だったぞ、あの男の心を私が支配するのは。ほんの少し、弱みを見せて…愛情が欲しいと言えば、それでイチコロだ」
雑作も無い、この男はそう言って笑う。
傲慢な高笑いが響く中、腕の中の仲間は微動だにしない…どうやら深く眠っているようだ。
「何故、フリオニールが貴様を…貴様はフリオニールが…」
「私か?暇潰しがてら攻略してみたが、中々に良い体をしているからな……気に入ってはいるぞ?
どうした?お前はこの男を好いていたのか?……ハッ!面白い…私に忠誠を誓うというなら、譲ってやってもいいぞ。さっきも言ったが、この男は同性相手でも中々に具合がいい、充分に満足させてくれるハズだ」
「黙れ!!」
怒り憎しみ、様々な負の感情を彼はこの男に抱いていたハズだ。
今、私も同じ感情をこの男に向けている。
私から愛する人を奪った、この苦しみを、胸を貫いた喪失感を、この男は理解できないだろう。
人の感情ですら道具だと考えるこの男を、私は何よりも憎いと思った。
「彼を返してもらおう!」
「返せと言うのならば返してやる、どうせ目が覚めれば帰すつもりだったのだ…丁度いい、連れて帰れ」
不機嫌そうにそう言うと、皇帝はそっと彼の頬に手をかけ…二人の顔が重なった。
離れる一瞬、私の方を見て厭らしく笑いかけると玉座に彼一人だけを残し、皇帝はその場からどこかへと消え去った。
手にしていた剣を仕舞い、彼の元へと急ぐ。
収まりの付かない私の心中を余所に、彼は酷く安らかな表情で眠って居た。


野営地にそのまま戻る事は躊躇われ、別の場所に湧く泉へと彼を連れて来た。
移動中、多少身動きはしたものの静かに眠り続ける彼を見て、私の中の不安は膨らんでいくばかりだ。
何かよからぬ事をされているのではないか、体に異常はないのか……。
泉に立ち寄ったのは彼が体を清められる様にだった。
布に水を浸し、彼の顔を拭いてやる…あの男に触れられたのであろう場所は特に、強く拭う。
「ん……ぅん?」
違和感を感じたのであろう、彼の腕が止めて欲しそうに私の手を取った。
「まてぃうす…も、少し寝かせて……」
「マティウス?」
それが誰の名前であるのか、考えなくとも答えは出た。
「フリオーニール、起きろ…フリオニール」
肩に手をかけ横に揺さぶってやると、もどかしそうに彼は薄らと目を開けた。目を開けて、そこに映った光景を見て、不思議そうに首を傾ける。
「ぇ……なっ!何でウォーリアがここに!?」
本格的に覚醒したフリオニールが勢いよく起き上がる、その様子を見て、私は溜息を吐いた。
「君が行き先も告げずに出て行ったから、皆心配して探していたんだ……見つかって…………良かった」
「あっ…………その、ごめん…心配かけちゃったな、でも俺は大丈夫だから」
彼が向けた笑顔は、いつもと同じ明るい彼独特の笑顔だ。
そうだ、彼は何があろうともフリオニールに他ならない、知りたくもない事実を知ったところで、私の知る彼は……。

「フリオニール……君にいくつか、聞きたい事がある」
思ったよりずっと低い私の声に、彼はビクリと肩を震わせその場で居住まいを正す。
「君を見つけた場所はパンデモニウムだった。昨晩は、皇帝と一緒だった…らしいな?」
そう尋ねて彼を伺い見るも、じっと地面を見つめるだけで肯定も否定もしない。
「皇帝が言っていたのだが。君とあの男が恋仲にある…というのは、本当なのか?」
私の言葉に彼は膝の上にあった自分の拳を強く握り締めた、そして、ゆっくりと息を吐き出すと顔を上げた。
覚悟はできている、そんな表情だ。
「敵方に通じている…と、疑われるだろうからずっと黙ってた。その通り、俺と皇帝は…恋人同士、だよ」
その言葉は、私の胸を貫いた。
グラリと揺れる世界、今この瞬間に世界が終ればいいと…そんな事を思う。

嘘だと言って欲しかった、それは違うんだと…脅されているんだとでも言って、泣いて欲しかった。
そうすれば……私は救われただろう。
溜息を吐く、混乱する思考回路と心臓を無理に抑えつけ、平常心を取り戻させる。
「フリオニール、あの男が君に何を言ったのかは知らない。だが、それは全て嘘だ」
「ウォーリア達は勘違いしているんだ、マティウス…皇帝は、本当は寂しいんだ。ずっと一人だったって、誰かに側に居て欲しかったんだって、そう望んでいただけで……少し、道を間違ってしまっただけなんだ」
「いいや、勘違いしているのは君の方だ。あの男は間違ってもそんな事を思ってたり等しない。君の事も…あの男は、愛してなどいない」
小さく彼が息を飲むのが分かった、その目の中には怒りと悲しみと落胆と……おそらく、諦めが混じって居る。
「貴方に分かる訳がない、あの人の事を何も分かろうとなんてしない…貴方に」
「分かるさ、あの男は君を愛していない事くらい、分かる」
「そんな訳ない!俺に向けてちゃんと……」
「君は騙されている!全ては巧妙な罠だ。君は弄ばれているだけだ、フリオニール…あの男は、気に入ったのであれば君を私にくれてやると、そう言ったんだ!」
目を見開き首を横に振る、「そんな訳ない」と呟く声は弱々しく力がない。
「本当の事だ、君がどちらの言葉を信じるのか……それは」
「嘘だ!何で貴方が、そんな事を言えるんだよ…俺は……本当に、マティウスが好き…で……」
ポロポロと涙を零す彼に、私の中で黒い感情がふつふつと湧きあがってくる。
何故、彼は泣いているのだろうか?あんな男の為に、あんな男を信じて、何故彼は、あの男の事を想っているのか……。
その相手は何故、私ではないのか?
「どうせ……貴方には、俺の気持ちなんて…分からないんだ」
「分かる」
痛い程にその気持ちは分かる。
何故ならば、それはさっき私があの男の前で味わったのと同じものであろうから。
手を伸ばした、「止めてくれ!慰めなんていらない」と払い退ける彼を無視して、この腕の中に抱き締める。
「フリオニール、私は……君を、愛しているんだ」

抱きしめた彼に口付け、そのまま押し倒した。
泣きじゃくる彼と無理に繋がった。
嫌だ、嫌だという声を無視して…私は彼に抱く気持ちをぶつけて。
二つが生んだ熱を、ただ貪欲に求める。
「ウォ、リア…ウォーリア……何で、こんな…ぁっ!やぁ…」
「愛してる、愛してるんだ…フリオニール」
熱くうねる彼の内部は、私を求めてくれている様に感じる。
愛してる…そう言う度に、ギュッと奥が締まる。
これが体質だなんて思えない、私だけだとそう思いたい。
「ちが…違う、俺は……貴方のこと、別に…」
「君が好きだから、だからお願いだ」
私を見て欲しい、私の言葉を聞いて欲しい。
そしてできるなら、このまま永遠に…私の腕の中に居て欲しい。
涙を零す相手に優しく微笑みかける。
痛む胸中を抑え込んだまま。

情事後の気だるい気分の中、泣き疲れて眠る彼の頭をそっと撫でた。
彼が小さく呟いた名、それは私のものではなかった。
分かっていた事だけれど、突きつけられた事実の前に落胆する。
私は君の幸せを願って、目を瞑っておけば良かったのか?
そうすれば君は、嘘でも誰かに愛されて生きていられたのか?
嘘だとしても、君にとってはそれが良かったのか?
いや、それは違う。
いつまでも甘い夢は見られないのだ、いつか…きっとそう遠く無い内に、君はあの男に裏切られる日が来るだろう。
だからその前に……悪魔の手から、意中の人を救い出さなければ。

あとがき

7万HIT&2周年記念フリーリクエスト小説で、皇フリ前提のWOLフリでした…。
大変遅くなり申し訳ございません…昨年末に募集かけて、気が付けばもう2月が終ろうとしてますよ……。
予想外に難産だったのです、構想段階までは上手く進んでいたというのに。
ただ、嫉妬する光の戦士を書くのがとっても楽しかったです。

銀薙様のみお持ち帰りOKです、お気に召して頂ければ嬉しいのです。

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