「あっ、スコール危ない!」
迂闊だった……
声をかけられて振り返った時には、もう遅い
俺の目の前に、大きな水柱が上がった

偶発的難

空いた時間に実戦訓練をする事は、悪い事ではない、むしろ戦いの中に身を置く以上は常日頃から意識して訓練は行うべきだ。
そんな中、魔法技を得意とするティナはジタンを相手に技の練習をしていた。
素早い動きをするジタンを狙ってフラットを放ったのは良いものの、瞬時にその軌道を読んだジタンは魔法技の発動範囲から離脱した。
結果、その近くを通りかかった俺に水柱がぶち当たった……それだけだ。

「スコール、無事か?」
「ごめんなさい、大丈夫?」
駆けよって来た仲間の問い掛けに、俺は黙って頷く。
幸いにも怪我はしていないが……秩序の聖域に満たされた水と、打ち上げられた水柱のお陰で、着ていた衣服はズブ濡れになってしまった。
「本当にごめんなさい」
しゅんと項垂れる少女、今にも泣きだしそうなその表情に俺は内心慌てる。
「大丈夫だ、怪我はない。あんな所を歩いていた俺も悪い」
「でも……」
「元はと言えば、オレがあそこであっちに避けなければ良かったんだし。ティナが悪いんじゃないよ、なぁ?」
項垂れるティナを慰めるジタンが、俺に向けてウィンクする。
こういう時、女性の扱いに慣れたジタンが居るのは心強いと思う。
「戻って着替えてくる」
二人にそう言って、野営地へと戻る道を行く。
そこでふと思い出したのだが、普段予備として置いているSeeDの制服はバッツが洗濯すると言って持って行ってしまった。
……どうにも、悪い事というのは立て続けに起こる様だ。


「スコール!どうしたんだ?」
野営地に戻ると、留守番を任されていたのだろうフリオニールが直ぐに俺の側へと駆け寄って来た。
事情を説明すると「災難だったな」と苦笑いし、乾いたタオルを持って来てくれた。
そういう心遣いに感謝し、図らずも二人だけの今の時間を内心で喜ぶ。

「とりあえず火を起こすけど、濡れた服そのままは良くないだろ?着替えた方がいいんじゃないか?」
「そのつもりだったが、制服の方は洗濯して今は無い」
「そうか……あっ、でも…この間、コスモスから三番目の衣装を支給されなかったか?」

言われてみれば、確かにそういう事もあった。
ジタンやバッツは直ぐに着替えて、お互いの事を見て笑っていたものの…その輪の中に加わりたくなたっかた自分は、さっさと衣装を片付けてしまったのだ。
その理由は簡単で、あまり着たくなかったからだ。


「そのままだと風邪引くだろ?折角だし、着替えて来たらどうだ?まだスコールの新しい服、見た事なかったし…ちょっとみてみたいんだけど……」
火を起こす為に薪の準備をしつつ、俺に向けそう言うフリオニール。
いくら着るのが嫌だとしても、今の状況を考えれば着替えた方が良いだろう。しかも、自分と恋中にある相手からの言葉に反論するなんて、誰がする?
「…………そうだな」
小さく答えて、自分の荷物のある天幕へと向かう。

戦場で着るなら、衣服としては体をより多く覆ってくれている方が都合がいい。
布一枚であろうとも、自分の体を外傷から守ってくれるからだ。
そんな言い訳をしなくとも、露出の高い服というのはあまり好きではない。
自分の体に自信が無いと言えばそれまでだが、この世界に戦士として召喚された仲間を見ていて、その自信が揺らぐのは仕方ない事だと思う。
光の戦士という名前の通り、戦士として完成された肉体を持つウォーリアに。騎士として訓練を受け、見た目のみならず所作にも優雅さがにじみ出ているセシル。そして、様々な武器を使いこなすだけの筋肉を持ち、自分よりもがたいの良い恋人……。
自分自身も傭兵として訓練を受けているハズなのだが、実際に戦場や軍隊で培われた体を持つ彼等には引けを感じてしまう。
故に、着たくなかった。

真っ黒なタンクトップ、そこから露出した自分の腕や肩を見て溜息。
恋人と並んだ時、せめてもう少し身長があれば……と何度思った事か。
無い物強請りだというのはよく分かっているが、現状はどうしようもない。
唯一の救いは、自分がまだ一応は成長期の過程に居るという事だ…残念ながら、それは相手も同じなのだが。
気乗りしないが、濡れた衣服を乾かさないといけないので外へ出る。

「あっ、スコール……着替え終ったんだな」
外に出ると、既に薪には赤々とした炎が昇っていた。側に行くと、少し冷えていた体に温かい空気が染み入ってきた。
「濡れた服貸してくれよ、向こうで干してくるから…あと、熱いコーヒー淹れておいたぞ」
「すまない」
そこまでしてくれる恋人に謝ると彼は何も言わずに首を横に振る、気にするなと言いたいのだろう。
濡れた衣服を受け取ると、外へ向けて走って行った。
そんな彼を見送り、淹れてくれたコーヒーを貰おうとマグカップを取る。
ブラックコーヒーが好きだと、彼はしっかりと覚えてくれている。
熱い液体を流し込むと、落ち着いた。


「もう少ししたら、洗濯物乾くからさ…しばらく寒いかもしれないけど。良かったら俺のマント使う?」
「いや、これで大丈夫だ」
確かに多少肌寒いものの、我慢できない程ではない。
「そうか……」
そう答える相手の自分へ向けられている視線に気付き、無言で見返すと、少し顔を赤らめて視線を逸らし俺の側へと来る。

「どうかしたのか」と尋ねると、「いや…」と言い澱む。
答えてくれない相手を、そのまま無言で見つめていると、小さな声で何か呟いた。
「どうした?」
「あっ……スコールって、意外と逞しかったんだな…って」
「は?」
俺の露出した腕を見つめ、フリオニールはそう言う。

「いや……スコールとはさ、今まで水浴びとか一緒に行った事ないし、着替えとかまじまじ見たりしないだろ。だから……以外だったんだよ。そんなに、なんていうか…逞しいんだな」
一応はこれでも傭兵としての訓練を受けている、まだまだ未熟かもしれないが鍛えてはいる。
水浴びには、確かにあまり一緒に行った事はなかった。
俺が誘う前にティーダや他の仲間に先を越されるというのと、裸の付き合いに自信が無いからなのだが。


「普段の服だと結構細身に見えるのに」
「お前に比べたら、大した事ないだろ?」
「いや……俺のは無駄な筋肉ばっかりだよ、戦い方なんて独学で学んだに近いから。でも、スコールの体はその武器を扱う為だけに鍛えてあるから、とっても綺麗だ」
褒められてどんな反応を返せば良いのか分からず、俺は無言で俯く。
普段からずっと袖無しの服を着ている恋人の、鍛えられた二の腕を見る。

俺よりも太く、ガッシリした陽に焼けた腕。
男から見ても男らしい相手、本人は女性にはモテなかったと言うが……それは気付いていないだけだろう。
この恋人のそういう方面への鈍さにはある意味では安心し、ある意味では苦労させられている。

隣りに座る彼からは、相変わらず真っ直ぐに射る様な視線を感じる。
そんなに、この格好が珍しいだろうか?
まさか…似合わないと言いたい訳がないだろう、と信じたい。

「なぁ…スコール」
「何だ?」
「その……ちょっと触ってもいいか?」
期待に満ちた目でそう尋ねられ、拒否はしない…寧ろこれは、何のご褒美だ?と俺が尋ねたい。
出来るだけ俺の中の焦りを表には出さない様に気をつけつつ、いつもの様に無言のまま頷くと、彼は「ありがとう」と言って俺の腕を取った。
一度指先に触れ、そっと肉の筋を辿って撫でる様に上へと登る相手の手。
肉の形を確かめる様に触れるその手の感触が心地よく、また嬉しい。
俺は、この恋人から見ても…ちゃんと一人の男として映っているのか……と。
胸に抱いていた疑問が、一つ溶けてなくなったような気がした。

「格好いい…」
「えっ?」
ぽつり、と相手が呟いた小さな言葉。
だがその声の小ささでも、残念ながら触れ合える距離では届いてしまった。

「あっ!……いや、何でもないんだ。気にしないでくれ」
驚いて相手を見つめると、フリオニールは真っ赤になって慌てた様に手を振り、その場から弾かれた様に立ち上がって「洗濯物見てくる!」と彼は走り去ってしまった。
一人残された俺は、その様子を呆然と見るより他ない。


「おーいスコール、大丈夫か?」
ティナと一緒に戻って来たジタンが、呆然としていた俺に声をかける。
「スコール、さっきフリオニールとすれ違ったんだけど…彼、どうしたの?凄く慌ててたみたいだけど?」
「ぁ……」
なんと説明すれば良いものか……。
まさか、本人を目の前にして惚気を発揮し、羞恥の余り走って逃げた…とは言えない。
「うーん、のばらを盗まれて追いかけて行った…とか?」
「えっ!それ大変なんじゃ…」
「冗談だって、軽装だったし…直ぐに帰って来るだろ?」
俺にそう尋ねるジタンに、無言で頷く。
「洗濯物を見てくる…と言ってた」
「ほら」
一応、彼の使用した言い訳を披露すると、ティナは安心した様に胸を撫でおろした。
人の間を取り持ってくれるこの盗賊には、本当に感謝している。

「それで、フリオニールは何で照れて走って行ったんだ?」
お前何て言って口説いたんだよ?……と、その後に影で尋ねられた時に、俺は溜息を吐くより他無かったけれど。

あとがき

フリリク小説で、サード衣装のスコールに惚れ直すフリオ…というものでしたが、いかがでしたでしょう?
書き出してから…フリオが惚れ直すんだから、スコール視点の話じゃなくて良いのでは…と気付きましたが、強行的に進めさせてみました。
フリオは、鍛えられた体に憧れを持ってそうだな…と思うんです。
自分は独学で学んでいるので、こう戦う為だけに鍛えた無駄の無い体には憧れがありそうだなと。
途中、管理人の趣味が乗り移ってフリオにスコールの腕触らせたりしてますけれど。結果的にはOKですよね?
リクエストをして下さった方のみお持ち帰りOKです。
イメージと違うかもしれませんけれども、よろしければお持ち帰りくださいまし。
2011/2/3

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